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番外編5話 エピローグ

 容疑者と思われる男を引きづって奈々はどこかへ行ってしまった。

 知らなかった……奈々ってこんなに体力有り余ってるような体育会系女子だったのね……


「行ってしまいましたね……でも、これでこの事件も無事解決ですね」


 私と一緒にこの場に取り残された杏がつぶやく。


 そうね……奈々の正体がイカレ女だと思い込んでいる杏からしたら、そう思うかもしれないわね。

 でも奈々が、ただイカレ女のコスプレをしているだけだ、と知っている私は全然安心できない。

 奈々は無事に戻って来てくれるだろうか?


「このままここにいても仕方ないですし……私達は先に帰りますか?」


「そうね……私は少しやる事があるから、それを片付けてから帰るから、杏は先に帰っていていいわよ」


 奈々の身を想うと、私はこの場から動く気はまったくなかった。

 ただ、奈々が無事に戻ってきた時、杏がいると色々と面倒臭いので、杏には先に帰るよう促しておく。


「お仕事ですか?私に出来る事があればお手伝い致しますけど?」


 そうだった……私もイカレ女側の関係者だと思われているんだったわね……本当、色々と面倒臭いわね。


「悪いわね杏。組織内での機密情報が含まれてるの……むしろ帰ってくれた方がありがたいのよ」


「あ!コチラこそ申し訳ありません。察するべきでした……では私は先に帰ります。また明日学校で、話せる範囲で構いませんので、報告聞かせてください」


 私の嘘を真に受けて杏はそそくさと帰っていく。

 意外と便利かもしれないわね、この設定。


 それからどれくらい待っただろうか?しばらくすると奈々は何事もなく戻って来た。


「あれ?莉々ちゃん、待っててくれたの?」


 そう言って近づいて来る奈々は、いつの通りの格好だった。


「奈々、コスプレ衣装はどうしたの?」


「え?あ、えっと……着替えてきたんだよ!さすがにあの格好で歩き回るわけにはいかないからね」


 なるほど、戻って来るのが少し遅かったのは着替えてたからなのかもしれないわね……それにしても、その着替えた衣装はどこに置いてきたのだろう?どこかのコインロッカー?


「まぁそれはそうよね……あんなふざけた格好でフラフラできるのはイカレ女くらいよね」


 私がそう言うと、奈々は若干悲しそうな表情になる。

 ……なんで?


「それはともかく奈々……大丈夫?どこもケガしてない?あの男はどうなったの?ここでの会話内容からしてイカレ女の関係者っぽかったけど、何かされなかった!?」


 とにかく処理すべき情報量が多すぎた。


「大丈夫大丈夫。ヤバイのはイカレ女だけで、あのお兄さんにはそんなに戦闘力なかったみたいだし。見た目通りな草食系男子?だったから、私の事を本物のイカレ女だって信じてたみたいだから、特にやり返したりはしてこなかったよ」


 え?本物のイカレ女の関係者なのに、奈々のコスプレに気が付かなかったの?


「奈々、偽物だって気付かれなかったの?あの男、関係者だったんじゃないの?」


「あ!えっと……あのお兄さんと話してみた感じ、イカレ女とはそんなに親しくないみたいだったよ。何か戦闘の時だけちょっと通信でやりとりする程度、とか……イカレ女の正体も知らないみたいだったし、本当にただの顔見知り程度の間柄みたいだったよ。だから今回の件も本物のイカレ女に確認取ったりとかは無いだろうから、私が偽物だったってバレずに済みそうだよ。私的にはイカレ女の正体知ってたら、莉々ちゃんのために無理矢理にでも聞きだしておいてあげようかとも思ったんだけど……いやぁ残念残念!」


 急に早口で話始める奈々。どうしたんだろう?


 それにしても、さすがは奈々ね。

 あの男との会話の中で、それだけの情報を引き出せるなんて……天賦の才なのだろうか?私の話術じゃ正直そこまでの情報を引き出せたとは思えない。


「まぁともかく……もう盗みはしないようにきつく言っておいたから、こんな事件は今後起きないと思うよ」


 ハッタリだけで、そこまでの約束まで取り付けるなんて……つくづく奈々が私の味方でいてくれてよかったと思い知らされる。


「ただ、今まで盗んだお金は使い込んじゃってたみたいで、取り返す事ができなかったんだ……クラス内での莉々ちゃんの疑いをはらしたかったんだけど……ゴメンね」


 そんな事を気にしてたなんて……ホントお人好しね。


「そんな事は気にしなくていいのよ。これ以上事件が起きないなら、自然と噂なんて沈静化していくわよ」


 私がそう言うと、奈々は「良かった……」と言ってにっこりと微笑む。

 それはこっちのセリフよ……奈々が私の友達で本当に良かった。


「それと、これは今後の莉々ちゃんに関わる大事な事なんだけどね……」


 改まったかのような表情で話始める奈々。


「あのお兄さんの研究資金調達がだいぶ滞る事になったから、イカレ女がこれ以上強化される事は無いと思うんだけど、莉々ちゃんが引き続き町に化物を放つと、イカレ女が現れる事には変わりはないんだ……」


 まぁ、それはそうよね。

 今回直接話したのはあの男だけで、イカレ女は今回の件はまったく知らないのだから。


「莉々ちゃんにとっては邪魔な存在だよね?……あのお兄さんとの交渉上、イカレ女が現れる事に関しては譲れない……?違う!妥協できない……?いや!と、とにかく、どうにもできなかったの」


 何やら奈々は申し訳なさそうに言っているが、別に奈々が悪いわけではないのだから気にする必要はないと思うのだけれど。


「これ以上強化されないって部分だけで十分よ奈々」


 だからこそ、私の素直な気持ちを奈々に聞かせる。


「私の組織の研究資金を舐めてもらっては困るわ。いずれはあのイカレ女の膝を地につけてやるわよ!」


 そう、それも奈々がいてくれれば、近いうちに実現できそうな目標だ。


「そうだよね!イカレ女も、普通の変身ヒロイン物の王道展開通り、ちょこちょこ追い詰められてピンチになったりするべきだよね!」


 私の言葉に呼応するようにして奈々もやる気に満ちた声をあげる。


 でもね奈々……

 私は王道展開とかじゃなくて、ソレをちょっと外れて、その変身ヒロインを倒したいんだけど……


 まぁいいわ。

 今はまず、奈々の言う『王道展開』までもっていく事を目標にしよう。



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