第27話 説得?脅迫?
どれくらいお兄さんを引きづっただろうか?
少し離れたくらいでは、莉々ちゃんと杏ちゃんに発見されてしまう恐れがあったので、そこそこ離れた人気のない場所までやってきた。
「し……死ぬかと思ったではないか!キミはまったく何て事をしてくれるんだ!」
引きづっていた手を放した瞬間にクレームが飛んできた。
気絶もしてないとか、お兄さん意外と丈夫な身体してるなぁ……
「そりゃコッチのセリフですよ……『正義の組織』とか言っておいて、何をシレっと犯罪行為してるんですか?」
「……バレなければ犯罪にはならない」
いや、バレてるから事件になってるんじゃん!?ホント最低だなこのお兄さん。
「っていうか本当にお兄さんがお金盗んだ犯人だとは思いませんでしたよ!ホント何やってんですか?」
とりあえず、今回の件で感じた事を素直に愚痴っておく。
「仕方なかろう?平和を守るためには金が必要なのだ」
いやいや!正義の味方を自称して犯罪行為を行ってたら本末転倒でしょ!?
「まったく……お兄さん、私の学校で実験行ったって言ってましたけど、そのせいで私の友達の莉々ちゃんがクラスメイトに疑われる事になったんですよ!少しは反省してください!」
「疑われた、という事はソレは普段の行いが悪いからだろう?私は関係ないだろう」
うわ……全然反省してないよこの人。
「はぁ……とにかく、莉々ちゃんの疑いを無くすために皆にお金返すんで、盗んだ分返してもらっていいですか?」
この人に何を言っても無駄そうなので、とりあえずコチラの要望だけは伝えておく。
「盗んだ疑いをかけれれている子が返金しては逆効果だろう。『盗んだからお金を持っていた』とさらに確信に近い疑いを持たれるのが関の山だぞ。それに、金は既に使ってしまっているので手元には残っていないぞ」
「はぁ!?使い込むの早くないですか!?」
「一回で手に入る金額は100万程度だ。そんな微々たる額など、あっという間になくなるに決まっているではないか」
もう完全にダメ人間じゃんこのお兄さん!?
「わかりました。じゃあ今回は返金しなくていいですけど、今後こんな事は二度としないでくださいね!」
とりあえず私にできるのは、これ以上の被害を無くすための説得をするくらいだろう。
変身した状態のままお兄さんにお仕置きとかしちゃったら、下手したら殺してしまう。
うっかりヤッちゃったとしても、莉々ちゃんの組織力を利用させてもらえば、何かもみ消してもらえそうな気がしなくもないけれど、そういうのは最後の手段にしておきたい。
「ではどうやって研究費用を捻出すればいいと言うのだ!」
「そういう自分の趣味にかける金銭は、素直にまっとうに働いて稼いでください!」
むしろ何でこのお兄さん、お金を稼ぐ手段が盗む以外に無いと思ってるんだろう?
「そんな時間のかかる事をしていては、敵が強化しだしたら対処できずにやられてしまうではないか!?」
いや、今の戦力差を考えたら、莉々ちゃんがちょっとやそっと強い個体を出してきても十分対処可能なんじゃないの?
「むしろ、ちょっとくらい苦戦する展開の方が望むところですよ!」
そっちの方がクッコロ展開も期待でき……いや、何でもない。
「何をそんな呑気な事を……!?奴等に負けるということは、死を意味するんだぞ!?」
あ、ソレに関しては大丈夫なんじゃないかな?莉々ちゃんに殺意はなさそうだったし……まぁそれをお兄さんに説明するとややこしくなりそうだから黙ってるけどね。
「負けた後の事は、負けた時に考えるんで気にしなくていいです……ともかく、もう二度と人様のお金を盗むとかするの辞めてくださいね」
話題が若干ズレかけていたので、すぐさま元の位置に修正しておく。
「し、しかしそれでは組織運営が……」
しつこいなぁ……
「はぁ~……『組織』とか言ってますけど、今回の件でその『組織』の構成員がお兄さん一人しかいないっていうのはバレてるんですから、いい加減諦めてください」
「キミを含めれば、構成員は2人だ」
何故、その組織から給料もらってない私を構成員に加える!?
「はいはい、わかりましたよ。じゃあ構成員として引き続き、化物が町を襲ったりしたら、変身して戦ってあげますから、盗みは辞めてください。むしろ盗みを続けるようなら私はもう戦いません!」
私が仕事放棄するのなら別の子を新たなエンジェルプリンセスに変身させれば、みたいな展開もあるかとも思ったのだけれど、恐らくはこの変身アイテムは量産化されていないのだろう。
もし量産化されているなら、王道展開好きなお兄さんなら、すぐさま、あと2・3人くらいはエンジェルプリンセス追加してきただろう。
たぶんだけど、これだけの機能を有している変身アイテムを作るには、まとまったお金が必要なんだと思う。
だからこそ、スポンサー料が無くなった今は作る事ができないんじゃないかと思う。
なので、その辺も考慮してお兄さんに脅しを入れておく。
「お兄さんが組織ぐるみじゃない、とわかった今だからこそ、私には力づくでお兄さんをどうにかできるって事を忘れないでくださいね……あまりやりたくはないですけど、最悪殺してでも止める覚悟はありますからね」
私なりに若干ドスを聞かせた声でお兄さんを睨みつける。
「……わかった。もう盗みは辞めよう……キミが今まで通り奴等と戦ってくれるというのなら、それで妥協しておこう」
よし!説得完了!!
お兄さんの顔が少しシュンとしちゃってる感じだけど気にしないようにしよう!
うん、コレは脅迫じゃなくて説得が成功したんだから問題ない……よね?




