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第2話 変身

 腕時計のような変身アイテムを右手首に装着する。


 「それで?どうすれば変身できるんですか?」


 年甲斐もなく、変身できるワクワク感を若干抑えられないまま質問する。


「難しい事は何もない。左右にあるボタンを同時に押しながら『プリンセスチェンジ!』と叫べばいいだけだ」


 え!?叫ばなきゃダメなの?ってか音声認識なのコレ?


「プ……プリンセスチェ…………」


 ダメだ。恥ずかしさが勝ってしまって、小声になってしまった上に、後半部分はほとんど聞き取れないような音量になってしまった。

 そのためか、容姿や格好に何の変化も起きていない。


「何を恥ずかしがっているんだ!もっと大きな声で『プリンセスチェンジ!!』と叫ぶんだ!」


 お兄さんから注意を受けたその瞬間に、目の前が光に包まれたかと思うと、気付いた時には、私はヒラヒラな衣装に身を包んで立っていた。


 ……え?これって、変身アイテムのボタンさえ押していれば、誰が言っても音声認識してくれるの?


「しまった!?これでは変身シーンの醍醐味が台無しじゃないか!!?これは改良の余地があるな……使用者本人の声紋登録機能も組み込む必要があるな」


 いや、別にそこまでこだわらなくてもいいんじゃない?


 使用者当人が、声を上げられないような状況になった場合だってあるだろうし、無駄に不利になるような機能なんて付ける必要なくない?

 まぁそれがどういう流れでそういう状況に陥ってるのかは謎だけど、可能性としては0じゃないだろうし。


「やり直しだ!変身の時と同じように、左右のボタンを押しっぱなしにして『変身解除』と言えば変身が解けるから、いったん元に戻るんだ!」


「……遠慮します」


 丁重に断っておく。

 何でそんな無駄にテイク2をやらされなくちゃならないの!?


「時間が無いんですよね?とにかく戦ってきます。何か武器とか必殺技とかあるんですか?」


 先立つものが無ければ戦えない。

 変身ヒロイン物のよくありがちな、武器とか必殺技がないかを確認してみる。


「奴等の侵攻が思ったよりも早かったので、武器はまだ用意していない。必殺技はあるにはあるが、それはフィニッシュ技なので、今は教える事はできない」


 いや、ホント何言ってるのこの人?トドメ刺すまでどうやって戦えばいいのよ?


「とにかく、敵が弱るまでは殴る蹴るで場を持たせるんだ。プリンセスリングは通信機にもなっているので、私の方でタイミングを見てフィニッシュ技を伝える」


 今はこれ以上伝える事は無い、と言わんばかりに、器物破損を繰り返している化物を指差しながら話をするお兄さん。


 もう行けって事!?変身だけさせて、丸腰の状態で行けって言うのこの人!?もう無茶苦茶だ。やっぱり変身ヒロインになれる誘惑に負けて、怪しい勧誘に引っかかるべきじゃなかったって今更ちょっと後悔してきた。


 とはいえ、変身までしてしまった現状、もう後には引けない状態だろう。

 何よりも、早くあの化物と戦わなくては、どんどん町が破壊されてしまう。


 仕方なく私は、破壊活動を行っている化物の方へと歩いて行く……

 …………

 ……


 で!?どうすればいいの!!?

 私せっかく近づいてきたっていうのにガン無視して町壊してるんですけどこの化物!?


『何をしているんだ!声が届く範囲まで来たのなら、口上を述べるんだ!』


 うわ!?この変身アイテム本当に通信機になってるよ!?っていうか、声が頭に直接聞こえるような感じになってて気持ち悪いなぁ……


「口上って……登場の決め台詞なんてすぐには思いつかないですよ……」


 変身アイテムに向かって小声で返答してみる。


『思いついた単語を適当に言ってみればいいではないか。何でもいいんだ……なんちゃらにかわってお仕置き~でも、とっととお家に~でも適当に言ってみろ』


 パクリじゃん!!!?思いついた単語言えとか言いつつオリジナリティが皆無じゃん!?っていうか何!?もしかして名作馬鹿にしてるの!?あと、モノマネしてる口調がスゴくキモイ!!

 ついでに言うと、そういうのなら個人的に好きなのは、主よ種も仕掛けも……いや違うか、それは変身シーンだから、この場合だとイッツアショー……って違う違う!!問題はそこじゃない!?

 何を考えてるんだ私は!このお兄さんのペースにはまって、だいぶ混乱してるのかもしれない。セルフで……

 好きな物を語る時饒舌になり出すとか、完全にオタク道まっしぐらね私。


 とにかく化物に気付いてもらえないと話にならない。

 ただ、登場の口上なんて、何も考えてもいないし咄嗟に思いつきもしない。なによりも恥ずかしくて言ってられない。


 というのも、改めて周りを見渡してみると、安全な位置から化物の様子をうかがっている野次馬がけっこういるのだ。

 しっかりと動画録画してる連中も多い中で、年甲斐もなくポーズ決めて決め台詞とか絶対無理だ。


 いや、まぁ気付かれてないうちに攻撃しちゃえ、ってのも考えたんだけど、さすがにそういう通り魔的な事はしたくなかった。

 いちおう変身ヒロイン物の一ファンとしては、その辺は譲れないこだわりがある。

 たぶん人目がまったくなければ、ノリノリで口上とか言ったかもしれない……ただ、さすがに大勢の人の目がある場所でやるには、ちょっと恥じらいが勝ってしまっているというだけである。

 まぁ口上なんて、まったく思いついてないんだけどね。

 もしかして今後のためにも、その辺諸々を色々と考えておいた方がいいのかな?


 うん、意外と私も、あのお兄さんの事を馬鹿にできない程度の馬鹿なのかもしれない。


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