第22話 三者会議
またまたやって来ました。
いや……『またまた』という表現はちょっと違うかな?
今回の場所は駅前広場ではなく、東町のショッピングモールになったので『また』という表現が正しいのかもしれない……まぁそんな事どうでもいいんだけどね。
何故いきなりこんな状況になっているのか、話せば長く……はならないか?
答えは単純に、杏ちゃんの捜査とやらが行き詰ったからである。
そりゃあそうだよね。『犯人は悪の組織である!』という決めつけで、悪の組織が犯人である証拠を探そうとしてるけど、実際のところは犯人が何者かすらわかっていない状態なんだからね。
杏ちゃんはどう思ってるのか知らないけれど『事件解決への達成度』とか可視化できたら、たぶんまだ10%にも満たないんじゃないだろうか?
まぁそんなわけで、杏ちゃんが「次の捜査段階に入るためには、実際に化物が暴れている現場に赴くしかないかもしれません!」とか言い出したのがきっかけである。
とはいえ、私がこの場で待機するまでにはちょっとしたひと悶着はあった。
「化物が出て来ないと、私は変身できないんだよ」と適当な設定を加えて、必要以上に変身したくない内心を隠しながら説明をする私。
「変身して『私はここにいる!』ってアピールすれば、化物がやってくるんじゃないですか?」と人の話を聞かないで、滅茶苦茶理論を飛ばしてくる杏ちゃん。
「勝算も無く、なおかつ、そんなくだらない事に私の可愛い機械人形を利用されたくないわ!」と駄々をこねる莉々ちゃん。
あ、もちろん、杏ちゃんの前で叫んじゃった莉々ちゃんの発言は、「えっと『機械人形』っていうのは変身後の私の愛称みたいなものだから気にしないでね」ときちんとフォロー済みである。
まぁともかく莉々ちゃんは『これなら勝てるかも!』って案が無いと、化物を投下したくないらしかった。
そこで杏ちゃんも含めて初の『イカレ女討伐案会議』が開かれる事になった。
もちろん杏ちゃんには、会議の正式名称は説明していない。ただ『私達負ける要素が無いと思ってるんだけど、敵にどんな事されたらピンチになると思う?』という議題だけを提示している。
そこで杏ちゃんに、変身後の私のスペックを尋ねられたので、とりあえず今までにわかっている事を説明してみた。
1,腕力は測定してないけど、色々とヤバイ。
2,体感時間の自動操作。
3,かなり離れた位置での音も任意で聞き取れる聴力。
4,生身で大気圏突入しても平気な耐久力。
5,遠距離攻撃無効。
6、原子破壊ビーム。
7,もしかしたら光速で動ける?
軽く思いついただけでもコレである。
説明していて、軽く引くくらいのチート性能だ。
一緒に聞いていた莉々ちゃんも「マジで!?」みたいな表情になっていた。ついでに「何でそんな詳しく知ってんの?」みたいな顔にもなっていたので、「私なりに色々と調べて分析とかしてみたんだよ」とコッソリと耳打ちしておいた。
小声で「さすが奈々ね……」と感心した声を出していたのが、凄い罪悪感を膨らませたのは内緒だ。
そして、そんな説明を聞いて杏ちゃんが出した答えは……
「負ける要素が無くないですか?」
だった。
うん、だよね……私もそう思う。
ただ、そこでめげたりせずに、『私達には生死がかかってるの!ピンチになりそうな芽は早目に摘んでおきたいの!何かない!?』と詰め寄った結果……
「漫画とかだと、倒せない敵は封印してしまう……みたいな展開があると思うんですけど……現実で『封印』っていうのはちょっと考えにくいんで、やっぱり負ける事はないんじゃないですか?」
というナイスな発言を頂いた。
すぐさま「莉々ちゃん!何かに閉じ込めて動けなくする方法何かある?」と話を振ったところ、莉々ちゃんから「人間サイズのカプセルに入れて、そこに液化窒素とか大量に入れれば……」みたいな案が飛び出した。
でも莉々ちゃん、それ大丈夫?私死んじゃったりしない?
マイナス190℃くらいの状態には、エンジェルプリンセス耐えちゃいそうだけど、気化した時酸素欠乏症とかになったりしない?
まぁともかく、そんなこんなで莉々ちゃんもその気になった事もあり、今に至っているわけである。
ちなみに莉々ちゃんと杏ちゃんは一緒に行動しており、私だけ別行動となっている。
杏ちゃんに対しては「準備できたら変身して敵をおびき寄せるね」という事にしている。そして莉々ちゃんには「杏ちゃんは、私がイカレ女だって信じてるみたいだから、杏ちゃんに見つからないような場所で見てるね」と言っている。
なんだろう……自分が、二股がバレないように必死になって両者に言い訳してるクソ女に思えてきて涙が出そうなんだけど……
まぁとにかく、もう少しすれば、莉々ちゃんが化物を投下する事になっている。
私はそれに合わせて変身して登場すればいいのだ。
化物が先か私が先か、その辺が曖昧になるくらいのタイミングがベストだろう。
そうすれば、莉々ちゃんの正体が杏ちゃんにバレる事もないだろうし、私の正体が莉々ちゃんにバレる事もないだろう。
そんな事を考えていると、すぐ近くで、いつものような爆音が響きわたる。
「……田島奈々いきま~~す!」
軽く気合を入れて、私は音がした方へと走り出した。




