第1話 変身アイテム
突然の出来事だった。
今まさに、アンケートの調査員が私に何かを言おうとした瞬間に、駅前のロータリーの中心に設置されていた噴水が爆発した。
その衝撃で、私は尻餅をつき、私よりも噴水に近い位置にいた調査員のお兄さんは、その場で倒れてしまっていた。
何!?何なの!?何が起きたの!?
突然の事に、周りにいる人達も混乱しているようで、悲鳴を上げながら、その場から逃げ出そうとしていた。
そんな状況を見て、私も逃げなきゃ!と考え、倒れた状態から起き上がろうと、地面に手をつく。
そして、何かが手の平にあたる感触があった。
「……腕時計?」
拾い上げたソレは、腕時計のような何かだった。
腕時計っぽい見た目ではあるのだが、時刻を表示する機能はまったくなさそうで、代わりに用途のよくわからない装飾品のような部品が色々とついている。そんなよくわからない品物だった。
誰かの落とし物だろか?
周りを見渡してみたが、この近辺には私と調査員のお兄さん。そして少し離れた位置に、機械なのか生物なのかよくわからない不気味な物体……おそらくは、この騒ぎを起こした張本人と思われる人物?がいるだけだった。
「くそ……まさか、このタイミングで奴等が動き出すとは思わなかった。予想よりも早いな」
何やらよくわからない事をつぶやきながらお兄さんが起き上がる。
けっこう豪快に転んでいたが、どうやらケガはないようだった。
お兄さんは周りをキョロキョロと見渡し、倒れこんでいる私と目が合う。
「このタイミングでこの場に居合わせたというのも、きっと運命的な物があるのだろう……非科学的ではあるが、キミにお願いする事にしよう」
訳が分からない事を言いながら近づいてくるお兄さん。
周りを見回してみても、お兄さんの近くには私しかいない……という事は、このお兄さんは私に話しかけているのだろう。
ただ、言っている意味がまったくわからない。
いったいどういう事なの?
「キミが今手にしている物は、簡単に言えば『変身アイテム』だ」
変身アイテム?それってアニメとかでよくあるアレ?え?本当に!?
「今は緊急事態なので、詳しい話は後で話す。今は、私が開発したそのアイテムを使って『エンジェルプリンセス』に変身して、あそこで暴れている化物と戦ってほしいんだ」
……エンジェルプリンセス?
「名前ダサっ!!!?」
思わずツッコミが口に出てしまう。
お兄さんは若干不機嫌そうな表情になる。
でもしょうがなくない!?名前が色々と何か安直すぎるというか何と言うか……もっとこう、もうちょっとマシな名前は付けられなかったの?
「もちろんキミにも拒否権はある。しかし、現状キミに断られてしまうと被害が拡大してしまうので、できれば引き受けてほしいんだ」
あ、名前のダサさに関してはスルーですか。
にしても、何で私?
「あの……お兄さんがコレ作ったんでしたら、お兄さんが直接使えばいいんじゃ?」
そう、わざわざ私に頼まなくても、使い方を理解しているお兄さんが変身して、あの化物と戦えば済む話なのだ。
「残念だが、その『プリンセスリング』は14歳~18歳までの女性しか使用できない仕様になっているのだ」
「何でっ!!!?」
再度思った事をそのまま口に出してしまう。ただ、変身アイテムの名前のダサさに関してはツッコまなかっただけマシだろう。
「何で?って……それが、お約束というやつだろう?」
え?何言ってるのこの人?馬鹿なの?いや、コレが本物の変身アイテムだったのなら、こんなアイテムを実際に作れちゃうんだから、頭は良いのかもしれない……紙一重というやつなのだろうか?
「それに、変身シーンで裸になる描写に、男の裸体に需要があるわけないだろ?」
「え!?コレ使うと裸になるんですか!?」
両手を使って胸と股を隠すようにして質問する。
何でそんないらない機能付けたの!?
「安心しろ。これもお約束だから付けただけで、変身はコンマ数秒で終わる。その変身シーンの裸体になる刹那を目視するなど不可能だ」
じゃあ、なおさら何でそんな機能付けたの!?
やっぱ馬鹿だ!紙一重とかじゃなくて、絶対馬鹿寄りの人だこのお兄さん。
「とにかく頼む!今はキミしかいないんだ!エンジェルプリンセスに変身して、あの化物を退治してくれ」
必死だなお兄さん……だったら、その変身アイテムの性別制限と年齢制限無くして作ればよかったのに。
とはいえ、私も年甲斐もなく変身ヒロインに憧れてはいるので、お兄さんのお願いを聞いてあげてもいいのだが、一つだけ懸念がある。
それは、これがアニメではなく現実だという事だ。
何だかんだで、最終的には勝利してハッピーエンドになる架空の物語ではなく、負けてしまってバットエンドになる可能性もあるのだ。
「あの……変身して戦って勝てればいいんですけど……負けた場合って私、どうなるんですか?」
ある程度は答えが予想できる質問をしてみる。
わかってる。質問はしてみたけれど、その答えは私だってわかってる。
きっと捕まって、エッチな拷問とか受けるんだ!それはもう公式では有り得ないようなエロ同人みたいな展開で!それで「クッ……!殺せ!!」的なやり取りが……
「もちろん負ければ、容赦なく殺されてしまうだろう……」
「本当に殺されたぁぁ!!?」
何で一足飛びしたの!?何でエッチな拷問すっ飛ばしちゃったの!?っていうか、そういうのって様式美であって、実際に殺されるような事はないもんなんじゃないの!?
「『本当に』って、負ければ殺されるに決まっているだろ。キミは何を言っているんだ?」
え!?それって変身ヒロイン物として普通なの!?何で、当たり前みたいに言ってるのこのお兄さん!?
「とはいえ、それは無用な心配だ。私が設定したエンジェルプリンセスは絶対に負ける事はない!それに、正義は負けないというのはお約束で決まっている」
ホントさっきから何言ってるのこのお兄さん!?科学者っぽい発言してるのに、最終的な根拠は何もない非科学的な結論しか出してなくない!?
「それで?引き受けてくれるのか?早く結論を出してくれ!でなければ被害が広がってしまう」
うう……確かにこのままだと、さっきから町を破壊している化物の被害が大きくなってしまう。
でもそれを私が救えるの?
負けて殺されるのは怖い……でも憧れの変身ヒロインになれる。
変身ヒロイン……?死……?変身ヒロイン……?死……?変身ヒロイン……?死……?変身ヒロイン……?死……?変身ヒロイン……?死……?変身ヒロイン……?死……?変身ヒロイン……?死……?変身ヒロイン……?死……?変身ヒロイン……?エロ拷問……?変身ヒロイン……?エロ拷問……?変身ヒロイン……?エロ拷問……?変身ヒロイン……?エロ拷問……?変身ヒロイン……?エロ拷問……?エロ拷問……?エロ拷問……?エロ拷問……?エロ拷問……?エロ拷問……?クッコロ……!
「どうなんだ?エンジェルプリンセスに変身してくれるか?」
「あ、はい、やります」
あれ?今、私何を考えて結論出した!?