第15話 シルエットミラージュ機能
私達の食事の時間は極めて短い。
別に昼休みの時間が短い、というわけではなく、お弁当を食べてる時間が短いのだ。
莉々ちゃんは、喉にご飯を流し込んでいるんじゃないかという様なスピードで食事をとるため、合わせるようにして私もできうる限り急いで食べるようにしている。
そんなわけで、食べてる間は二人とも無言である。
口を開いて言葉を発する余裕があるなら、その分飯を流し込め!というような状態である。
何でそこまでして必死にお弁当を食べるかって?
それは……
「お昼食べ終わったわね……さあ、作戦会議をするわよ!」
うん、どうやって私を倒すかの作戦会議に、より多くの時間をかけたいがための行動なんだ。
これに関しては莉々ちゃんの圧がすごいのよ……ゆっくり食事を取ろうものなら、刺されるんじゃないかっていうような眼光を向けられるのだ。
「あのイカレ女にレーザービームでの狙撃が通用しない事がわかったから、別の手を考えなくちゃならなくなったわけだけど……」
え?通用しない?狙撃手が2度も外しただけなんじゃ?
「ねぇ莉々ちゃん。効かなかったんじゃなくて当たらなかっただけだったんじゃないの?」
とりあえずノーコン狙撃手を馬鹿にしない程度に言葉を濁して質問してみる。
レーザービーム搭載機とか隠し持ってた莉々ちゃんの事だから、おそらくはもっと精度の高い機体とか出し惜しみしているだろう。
次はそういう出し惜しみ無しの狙撃手を登場させるように、話を持って行けばいいだろう。
「奈々……誰に何を聞いたのか知らないけれど、機械人形の放ったレーザービームはちゃんとイカレ女に命中していたわ……それも2回もね」
え?命中!?いや、でも当たった感覚なんてまったくなかったけど?っていうか、ハズレて地面に穴空けてたのしっかりと確認したよ私!?
「命中したレーザービームは、何故かイカレ女の身体をすり抜けて地面に穴を空けたのよ……」
は?すり抜けて……?
「ってソレどういう原理よ!!?」
「私が知りたいわよ!!」
そりゃそうだね。
ツッコまずにはいられずに思わず叫んじゃったけど、実際叫びたいのは莉々ちゃんだよね。
「ごめん莉々ちゃん。レーザービームが通用しないのは想定外だったんで思わず叫んじゃった……気にしないで話続けてもらっていいよ」
当たれば多少は痛いだろう、とか思っていたんで、そんな感覚というか衝撃が一切なかったんで、狙撃手が外したものだとばっかり思ってのに、まさかそんな事になっていたなんて……
「気にしなくていいわ。叫びたくなる気持ちはわかるもの……ともかく、次に試してみたい事がいちおうあるから、聞いてもらっていい?」
レーザービームが通じない相手に、他に何を試すつもりなんだろう莉々ちゃん?
「もしかしたらレーザービームだったから身体をすり抜けた可能性もあると思うのよ……だから、次は実弾で試してみようと思っているのだけど、どう思う?」
確かに莉々ちゃんの考えも一理あるかもしれない。
でも、あのお兄さんの事だ。そんな簡単に攻略できる抜け道を用意しているとは思えない。
というよりも、本来はレーザービームよりも実弾を使われる確率の方が高いだろう。
つまるところ、レーザービームの対策までしているのに、実弾での狙撃の対策をしていないとはまったく思えない。
こうなったら、莉々ちゃんが試して失敗したうえに心に傷を負う前に、事前にお兄さんに直接聞いて、エンジェルプリンセスにダメージが通る可能性の有無をはっきりさせてしまおう!
「あ、ごめん莉々ちゃん。私ちょっとだけ席を外していい?」
通信機にもなってる変身アイテムを使って会話するのに、それを莉々ちゃんの前でやるわけにはいかない。
「どうしたの奈々?トイレ?だったら私も付きあうわよ」
いや、変な誤解やめて莉々ちゃん。
ついでに言うと連れションの文化正直いらないと思う。
「え、あ……いや……えっと……」
うわ……咄嗟に良い言い訳が思い浮かばずに、若干しどろもどろになってしまった。
「あ!……えっと、ごめんなさい……一人でトイレ行きたい時もあるわよね」
ん?あれ?コレって莉々ちゃん、私がトイレで大きい方したいから言い淀んでると思ってない!?
やめて莉々ちゃん!そんな目で私を見ないで!違う!違うから!!お願いだから思考をトイレから離して!
「ち、違うよ莉々ちゃん!実家に電話する用事があるから、ちょっと掛けてくるだけだから!」
「そ……そう?じゃあ私はココで待ってるわ」
ああ……最初っから、こう言っておけばよかったよ……っていうか莉々ちゃん微妙にまだ信用してなくない!?何かそんな雰囲気がヒシヒシと伝わってくるんだけど!?
ま、まぁともかく、莉々ちゃんの疑惑がさらに大きくならないうちに、ちゃちゃっと本来の目的を済ませてこよう!
私は部室棟から少し離れ、誰もいないのを確認して、変身アイテムの左側に付いているボタンを長押しする。
どういう原理になっているのかわからないが、これがコチラからお兄さんと通信を繋ぐ方法となっている。
『どうした?何かあったのか?』
少し待つと、頭に響くようにお兄さんの声が聞こえてくる。
「あの、ちょっと聞きたい事があるんですけど、この前の戦いの時、私、敵のレーザーに当たってたんですか?」
まずは莉々ちゃんが言った事が正しかったのかを確認してみる。
『何だ?気付いていなかったのか?しっかりと眉間を撃ち抜かれていたぞ。しかも2回も』
莉々ちゃん……疑ってごめんなさい。
でも莉々ちゃん、眉間を2度も撃ち抜いてくるとか、殺す気満々だったんじゃ?
『だが私の開発したシルエットミラージュ機能を搭載したエンジェルプリンセスにはまったく通用しないがな』
ん?何機能?そういえば、この前の戦闘中もそんな事言ってたような気がしなくもないけど……
「あの……それってどんな機能なんですか?」
莉々ちゃんと、今後の対策を話し合う上でも、それがどんな効果なのかを聞いておくべきだろう。
『エンジェルプリンセスの手の届かない、範囲外からの攻撃は全て無効化する効果がある』
は?何そのチート機能?
「え?あの……それってどういう原理なんですか?」
『SRPGとかで、強敵とかがよく「間接攻撃無効」とかの能力を持っていたりするだろう?』
あ~……確かにそういうゲームもあるかもしれない……
『つまりはそういう事だ!』
どういう事!!?
いや、意味がわからないし!?どういう原理なのソレ!?
まぁ待て私!いったん落ち着こう……これ以上、理屈云々をお兄さんに問い詰めても、どうせこんな感じの意味不明な回答が返ってくるだけだ。
私が今確認しなくちゃならない事はたった一つだ!
「えっと……つまるところ、レーザービームだろうが実弾だろうが、狙撃に対しては完全に対策ができてる、って事でいいんですか?」
『ああ、その通りだ』
さあ莉々ちゃん!作戦練り直しだ!!




