第14話 莉々ちゃんとのお昼再開
さて、人の固定観念というものは根深いものであると私は常々思っている。
学校の様な小規模なコミュニティ内で何か事件が起きた際など、犯人がわからなくても、証拠など何もなくても個人の印象で犯人を決めつけてしまったりするものである。
莉々ちゃんが休み、私が「莉々ちゃんは良い子!」と啖呵を切ったその日、体育の授業の後で、クラス皆の財布の中から札だけが無くなる、という事件が起きた。
クラス皆が被害にあった事から、犯人は別のクラスの誰かなのではないか、という事でその日は決着していたのだが、困った事に、翌日も同じような事件が起こったのだ。
そして、さらに困った事に、その日も莉々ちゃんは休みだったのだ。
二日続けて起こった窃盗事件。そしてタイミング悪く二日続けて学校を欠席している莉々ちゃん。
クラス全体の疑いが莉々ちゃんへと向かうのに、さほど時間はかからなかった。
証拠や根拠なんてまったくないのに、容疑者を通り越して完全に犯罪者扱いになっており、私はいったいどうしたらいいのかわからない状態になっていた。
いや、もちろん私は莉々ちゃんを疑っているわけではないのだけれど、『莉々ちゃんが犯人』という空気になっている現状を、どう弁明したらいいのかわからなくなってしまっていた。
本来ならばクラス皆が、莉々ちゃんが犯人である証拠を提示してから疑うべきなのだが、今の空気は、莉々ちゃんがやってない明確な証拠を提示しなくてはならなくなってしまっている。
……何この魔女裁判?
あ、ちなみに、さっき『クラス皆が被害にあった』とか言ったけど、私は学校に来る時は小銭しか持ち歩いておらず、お札は最初っから無かったので被害にあってなかった。
でもそんな事を口に出そうものなら、私に変な疑惑をかけられそうだったので黙っていた。
何より、私が被害にあっていない事がわかったら、『仲の良い子のお金は盗らなかったんだ』とかいう変な理屈が成立してしまって、莉々ちゃんへの嫌疑がより深まりそうだったので、なおさら言うわけにはいかなかった。
どこから手を付けたらいいかはまったくわからないが、とりあえず今私がやるべき事は、莉々ちゃんからの証言以外の方法で、莉々ちゃんの潔白を証明する事……つまるところ真犯人を見つける事なのだ!
「そんな事はどうでもいいわよ。今は、あのイカレ女をどうするかを一緒に考えてほしいんだけど?」
三日目にして登校してきた莉々ちゃんと、いつも通り空き部室で昼食を取りながら、休んでた間の出来事を話したところ、こんな返答が返ってきたのだった……
「でも莉々ちゃん!変な事件が起きて、その時偶然休んでたってだけで犯人扱いされるのは悔しくないの?」
「そりゃあ良い気分はしないわよ。でも、もう慣れたわ。アイツ等の間じゃ、何かあった時架空の犯人に怯えるよりも、私っていう実像を犯人にする方が精神衛生上いいみたいなのよ、だからただそれだけの話よ……」
私の必死の問いかけにも、莉々ちゃんはさほど動じる事ない発言を返してくるだけだった。
「でもそうね……朝から変な視線を向けられてる理由がわかっただけでも良かったわ。ありがとう奈々」
ダメだ。莉々ちゃん完全に諦めモードに入っちゃって、この事に関してはどうでもよくなっちゃってるよ。
「じゃあ莉々ちゃん……確認だけさせて。莉々ちゃんは他人の財布からお金を盗んだりしてないよね?」
「当たり前じゃない!組織の運営資金にはちゃんとスポンサーが付いてるのよ。あんな連中のお金を盗むほどお金に困ってなんてないわよ!」
わお。スポンサー付きの悪の組織ってすげぇ!?
まぁともかく……
「うん。私の思った通り、莉々ちゃんが犯人じゃないっていうのがわかれば、私もそれでいいや」
莉々ちゃんが犯人じゃないって確信が取れたなら、私が勝手に犯人捜しに動けばいいだけだしね。
「でも莉々ちゃん。2日間も休んでどうしたの?風邪?それともこの前のイカレ女との戦いの時にちょっと巻き込まれてケガでもしちゃった?」
いきなり破壊光線ぶっ放しちゃったもんね私。
狙撃用の化物の近くにいて、壊された化物が倒れてきて……とかそういう事だってありえる。
私のせいで、可愛い莉々ちゃんにケガさせたなんて事になっていたら一大事だ。
「そんなんじゃないわ。ただ、何ていうの……えっと……」
何とも歯切れの悪い答えが返ってくる。
いつも自信満々な口調で喋っている莉々ちゃんにはしては珍しい感じだ。
「奈々に、イカレ女を倒すための良いアドバイスもらったでしょ?それなのに何もできずにやられちゃったから……その……合わせる顔がなくて……奈々と会う勇気が出るまで、ちょっと時間がかかっちゃった、っていうか……」
え!?莉々ちゃんそんな事気にして休んでたの?
その、私が言ったっていう良いアドバイスを潰したの、私自身なのに?
「そんなの気にしなくていいのに……でもよかったよ。莉々ちゃんがケガしちゃったんじゃないかって心配してたんだよ」
ホント、もう気が気じゃなかったよ。
下手したら、あの殺人光線に莉々ちゃんを巻き込んでたわけでしょ?そうなってたらどうしようかと、本気で肝が冷えたよ。
「奈々……」
あ、莉々ちゃん微妙に目が潤んでる?そりゃそうだよね。あんな殺人光線を目の前で見せられたら怖くてトラウマにもなるよね。
思い出して恐怖が蘇ってくるのも仕方がない事だよ、うん。
「怖かったでしょ?莉々ちゃん……ごめんね私のせいで……」
大丈夫だよ莉々ちゃん!もう二度と、あんな殺人光線いきなりぶっ放したりしないようにするから!
「そんな事ないわ!奈々のアドバイスは凄くありがたかったわ!……ありがとう奈々、心配してくれて。それと、心配かけてごめんなさい……」
ああ!?莉々ちゃん、私の胸に顔をうずめるようにして抱き着いてきたよ!?声が微妙に涙声だし!?
私の馬鹿!莉々ちゃんのトラウマになった事をさらに思い出させるような事言ってどうする!?
まぁでも、こんな莉々ちゃんも可愛いから、もうちょっとこのまま何も言わないで目の保養しておこうかな?




