第13話 莉々ちゃんのいない日
莉々ちゃんが差し向けて来た化物を退治した翌日、学校に行くと、ショックが大きかったのか莉々ちゃんは登校していなかった。
そりゃあそうだよね。あんな殺戮光線を平然とぶっ放すイカレ女を相手しなくちゃいけないなんてわかっちゃったら、やる気だって削がれちゃうってものだ。
それにしても、学校休んじゃうのは予想外だなぁ……というか、あんな事がなかったとしても、莉々ちゃんが学校休む事を想定していなかった……
「……お昼どうしよう?」
そう!いつでも莉々ちゃんがいてくれる、とか勝手に思い込んでて、莉々ちゃんがいないとボッチ飯になるって事をすっかり忘れてしまっており、何も対処法を考えていなかった。
そして、お昼をどうするかを朝からずっと考えていても、解決策を何一つ思いつかずに、あっという間にお昼になってしまっていた。
私は、大きくため息をつきつつ、観念してボッチ飯にしようと決め、自分の席に座ったままお弁当をカバンから取り出す。
「ねぇ田島さん……お弁当一緒に食べない?」
唐突に声をかけられ、私は声がした方へと視線を向ける。
そこには3人組の女子グループが立っていた。
神はいた!
声をかけてきてくれた3人組の名前すらまだ覚えてないような関係だけど、細かい事は気にしない事にして、神様が与えてくれたチャンスを最大限に活かさなければ!
「う、うん!ちょうど一人で寂しい思いをしてるとこだったんだ。誘ってくれてありがとう!」
やっぱりやめる。とか言われる前に急いで返事をする。
完璧だ!今の返答は完璧だっただろう!私はやる時はやる女なんだ!
私の返答を聞いて、3人は近くの机を寄せて、私を中心にするようにして着席する。
「ねぇ田島さん……今までお昼どこで食べてたの?」
席に座るなり、3人組の1人が話しかけてくる。
「えっと、ちょっと遠いけど部室棟の方へ行って、莉々ちゃ……田名網さんと一緒に食べてたんだ」
別に隠すような事でもないので素直に答えておく。
私が答えた途端に、3人は視線を合わせるようにして、何かを確認するような素振りをする。
え?何?アイコンタクト?私何かまずい事言った?
「田島さん、田名網とどんな話するの?」
何かを探るような口調で質問される。
あ!よく見たらこの3人、初日にクラス入って来て早々に、莉々ちゃんを嫌ってる感じな発言してた3人組だ!
って事は、莉々ちゃんと同じ中学出身?
「アイツって、電波受信しちゃってるかの様な発言しかしなくない?行動も意味不明な事しかしないし」
「田名網がまともな会話なんてできるわけないし……どんな事言われて一緒にいるの?」
1人が発言をした瞬間に、他の2人も堰をきったように言葉を発してくる。
これはアレかな?頭おかしい子と思われて、嫌われ者になってる莉々ちゃんと、私が仲良くしてたから、探りを入れられてる感じなのかな?
つまり、私も莉々ちゃんと同系統な『アッチ寄り』な人間なのか、それとも一般常識を兼ねそろえた『コッチ寄り』の人間なのかの品定めをされてる、って状況なのだろう。
これは返答をミスると、今後の高校生活に大きな影響が出るやつじゃないだろうか?
よし、いったん冷静になれ私……
今の私に求められているのは『コッチ寄りな常識人だけど、どんな残念な子とも平等に仲良く付き合える仏のような人間』と認識してもらえるような返答を返す事だ。
「えっと……莉々ちゃん、たまにぶっ飛んだ事言ったりはするけど、根は良い子なんじゃないかと思うよ」
どうだこの返答!満点は無理だけど及第点くらいは付けてもいいだろう。
「たぶん騙されてるよ田島さん。悪い事は言わないから、田名網と関わるのは辞めた方がいいよ」
あれぇ?ちょっと予想と違う答えが返ってきたなぁ……
いや、でも、いちおう私は『コッチ寄りな常識人』ポジションに置いてはもらえているのかな?
「私らアイツと同じ中学だったから色々知ってるんだけど、アイツって学校が終わった後とか家にも帰らないで、何か怪しい場所に出入りしてるんだよ」
ああ……いちおう『悪の組織』のボスっぽいからね……たぶんソレ関係なんだろうなぁ……
でもちょっと待って?『悪の組織』のアジトが中学生程度に突き止められちゃってるって事じゃない?そっちの方が問題じゃない!?
「しかも一か所じゃないんだよ!毎日毎日違う場所に消えていくのよ!問い詰めても何も答えようとしないし……絶対中でヤバイ事やってるんだよ」
あ、いちおう本拠地がどこかはわからないようにはダミーたくさん用意してあるのね。うん、問い詰められてあっさり秘密吐いちゃったら秘密組織としてはまずいもんね。
「それにね……あんまり大きな声で言う事じゃないかもしれないけど、よく大人の男の人と一緒にいるところを目撃されてるのよ。しかもとっかえひっかえ……アイツあんな顔して平気で援交してるって噂だよ」
えっと……たぶんソレ、組織の構成員か何かなんじゃないのかな?
中学の時の莉々ちゃんだから、今よりももっと幼い感じでしょ?とっかえひっかえするほど、この町にロリコンがあふれてたら一大事だよ?
「ね、田島さん!変な事に巻き込まれる前にアイツとは縁を切った方がいいよ!」
うん、言いたい事はわかる。
わかるんだけど……
「えっとね……私の事心配してくれてありがとう。でもね……」
私、友達たくさん欲しいとは思ってたけどさ……
「私まだ、莉々ちゃんに直接何かされたわけじゃないからさ……」
ボッチだった私に一番最初に声をかけてくれて、お昼一緒に食べてくれてた、私の一番大事な友達の事を悪く言う友達はちょっといらないかな?
「莉々ちゃんと縁を切るのは、莉々ちゃんに何か嫌な事された時でいいかな、って思うの」
何よりも、私の事を信用して色々と話してくれる莉々ちゃんの楽しそうな笑顔を裏切りたくない。
「だからね、せっかく忠告してくれたのに悪いんだけど、もうちょっと莉々ちゃんと友達でいてみるよ……まぁこれで私に何かあったら、忠告無視するからだよバーカ!とか笑ってくれてもいいよ」
大事な友達を裏切って、別の友達を作ったりなんてしない。
例え、その大事な友達が世間とズレていて変人の部類に入っている子で、別の友達が非常に一般的で変身ヒロインや悪の怪人とはまったく無関係な私の望んでいた理想の友達像だったとしても、私は後悔なんてしない!
たぶん、しないと思う……しない……よね?
んん~……もしかして判断ミスったかな私?




