番外編3話 チート機能
私が思った通り、奈々は優しくて良い子だった。
こんな私と友達になってくれたし、あのイカレ女を倒すための相談にものってくれた。
そういえば、誰かとお喋りしながら食べるお昼はいつぶりだろうか?
中学の時は、クラスで決められたグループで給食を食べてはいたが、割り当てられたどのグループでも私は会話に混ぜてはもらえていなかった。
というよりも、皆の話す内容についていけずに、会話に参加できなかったといった感じなのかもしれない……まぁ内容がわかったとしても私が口を開いたところで、ちゃんと相手にしてもらえたかどうかはわからないけれど。
とにかく、そんな私とちゃんと会話をしながらお弁当を一緒に食べてくれる奈々はすごく優しい子だ。
私のためにお弁当のおかずを多目に作ってきてくれたらしく「食べていいよ」と言われた時は嬉しくて涙が出そうにもなった。
でも仕方がないのよ!私、家族以外の人が作った物を貰うなんて経験一度もしたことなかったんだもの!ちょっとくらい感傷にひたってもいいじゃない!
あ、他にも、お弁当を食べながらイカレ女を倒す相談を持ち掛けた時、普通に返答がきて、それも凄く嬉しかった。
今までだったら、こんな内容の会話を誰かとしようものなら、馬鹿にされるか可哀想な人を見るような視線を向けられて無視されるかしかなかった。
だからこそ、こんな私と普通に話してくれる奈々は凄くありがたい。
しかも、凄く効果的だと思われる作戦まで考えてくれるしで、奈々には感謝の気持ち以外出てこない。
もうさっきから『凄い』しか言葉が出てこないくらい語彙力が低下してる気がするけど、とにかく凄い良い子が私の友達になってくれたのだ。
そんなわけで、私はさっそく奈々が考えてくれた作戦を実施する事にした。
結果は……まぁ思い出したくもないくらい酷い事になったのだけれどね……
最初のうちは順調に事を運んでいた。
狙撃用の機械人形を予め1km程離れたビルの屋上に配置し、囮用の機械人形を派手に登場させた。
すると予想通り、あのイカレ女は、囮に釣られるようにその場に現れた。
現れた時、エンジェルプリンセスとか何とか、と名乗りを上げていたので、おそらくソレがイカレ女の名前なのだろう……が、偽名なのかもしれないが、もう少しまともな名前を名乗れないのだろうか?エンジェルプリンセスとか人の事馬鹿にしてるとしか思えない名前に、私のイラ立ちはさらに高まったような気がする。
ただ、余裕をかまして登場のポーズなどとっていたため隙だらけになっていた。
「……今よ。撃ちなさい」
そんな隙だらけの馬鹿女を見逃すほど、私はお人好しではなかった。
すぐに、誰にも聞かれないよう小声で、狙撃用の機械人形へと通信で指示を飛ばす。
私の指示に従い、すぐに行動に移す機械人形。
しかし次の瞬間、信じられない事が起こった。
「……え?外したの?」
あまりに驚いてしまい、思わず声が漏れてしまっていた。
どんな気象状況でも瞬時に演算し、標的を外さないハズの機械人形が、狙撃をミスしたのだ。
さすがに狙撃されればイカレ女も気付いたようで、多少の動揺を見せる。
「まずい……気付かれたわ!風量と風向きを再演算して二射目!急いで!!」
動揺したのはイカレ女だけではなく私もだ。
焦りで早口になりながらも、機械人形に再度指示を送る。
機械人形もソレに従い、すぐに二射目を放つ。
……そして、私は有り得ない現象を目の当たりにした。
イカレ女を注視していたので気付いたのだが、機械人形の狙撃はやはり的確だった。
機械人形の放ったレーザービームは、ちゃんとイカレ女の眉間に命中していた。
ただ、命中したビームは、そのままイカレ女の身体をすり抜けていき、一射目と同じように地面へと着弾していたのだ。
「……嘘でしょ?」
絞り出すような呟きが私の口から漏れる。
思わず「弾が全部ヤツの体を突き抜けてしまうぞ!?」とかチートの代名詞みたいなセリフを言いそうになってしまったが、それは言うのを我慢した。
「弾を実弾に換装して三射目!急いで!!」
呆けていても現状は何も変わらない。
私は急いで次の指示を飛ばす。
今回使用した狙撃用の機械人形はレーザービームを内部エネルギーを利用して放っている。そのため連射してしまうと稼働時間が短くなってしまう。
なので、もしもの時用に小型のバックパックと、それ以上エネルギーを使用したくない時用に少量だが実弾を持ち運びしている。
ビームでダメだったので、効果はあるかどうかはわからないが、予備弾として携帯している実弾を利用してみる事にする。
しかし、イカレ女もただ突っ立っているではない。
2発の狙撃で、完全に1km先にいる機械人形の位置を特定してのか、ピンポイントでその方角へと手を伸ばしていた。
何をしようとしているのかはさっぱりわからないが、このままではマズイ気がする!?
「射角に割り込んで!効果は無いかもしれないけど、何かされる前にイカレ女に攻撃を加えなさい!!」
すぐに囮用の機械人形へと別の指示を飛ばす。
囮用の機械人形では、このイカレ女を対処する事が不可能な事は、過去2回で実証されている。まだ若干だが可能性が残っている狙撃用の個体に何かされてしまったら、イカレ女を倒す事ができなくなってしまう。
「マジカルビームっ!」
囮用の機械人形が動くのとほぼ同時だった。
わけのわからない単語をイカレ女が叫ぶ。そしてイカレ女が伸ばした手から放出される謎の光。
そして、崩れていく囮用の機械人形。
私はすぐに、狙撃用の機械人形がいるビルの屋上に設置してある防犯カメラの映像をスマホに映し出してみる。
そこには、囮用の機械人形と同じように、崩れていく狙撃用の機械人形が映っていた。
何コレ……?何が起きたの……?
「え?……ええ!?何で!?何が起きてるの!?」
直後にイカレ女の叫び声が聞こえてくる。
何言ってんの?ソレを叫びたいのは私の方よ!!?
もしかして……この場に機械人形を放った黒幕がいる、っていうのを察して『今こんな事考えてただろ?』みたいな事を口にしたの!?
……どれだけ……どれだけ私の事を馬鹿にしてるのよ!!?
ただ、また今回もイカレ女に負けた事には変わりはない。
悔しいけれど、その言葉を甘んじて受けなければならない立場ではある。
全てが終わり、皆が撤収していったが、私は一人その場を動く事ができなかった。
激しい悔しさもある。
だが一番は、私の力不足のせいで、奈々が考えてくれた作戦を台無しにしてしまった申し訳なさが、私から動く気力を奪っていっていた。
「……明日、奈々に何て言って報告すればいいのよ……?」
気が重い……明日、学校行きたくないなぁ……




