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第12話 マジカルビーム

 そんなわけでやってまいりました。場所は最初の時と同じく、駅前の広場。

 莉々ちゃんに作戦を授けてから3日ほど経過しており、本日学校で「今日決行するわよ!」と言ってきた莉々ちゃんに指定されたのが、この場所のこの時間なのである。


 この場所は既に買い取ってあるので、自由に使用できるから再利用する、との事で、まぁ私からしてみれば、別にどこでもいいので文句はなかった。

 時間を空けたのは、さすがに3日連続はちょっと飛ばし過ぎだから、とか言ってたけど、3日空けたくらいでそうそう印象が変わるとも思えなかったのだけれど、いちいちツッコミ入れるのも面倒臭いので、莉々ちゃんに従った。


 あ、もちろん莉々ちゃんから、一緒に様子見に来てほしい、と言われたけれど、正体バレる確率が格段に高くなるため、適当な理由をでっちあげて断っておいた。

 っていうか、そんな適当な理由で納得しちゃう莉々ちゃん、ホントお人好しだなぁ……騙してるみたいで凄い心が痛くなったよ。

 まぁ『騙してるみたい』じゃなくて、実際に騙してるんだけどね。


 そんなわけでして、私は今、変身した状態で隠れながら、莉々ちゃんが仕掛けてくるのを今か今かと待ち構えているのである。


『だから何故キミは、連中が現れる場所や時間がわかるんだ?』


 化物と戦う準備を着々としている私の邪魔をしてくるお兄さんの声が聞こえてくる。


「直感です!」


 お兄さんに詳しい話をする気は毛頭ないので、前回と同じように適当な事を言っておく。


『ふむ……エンジェルプリンセスにそんな機能は付けていないので、純粋なキミの直感なのだろうな……変身ヒロインの敵との遭遇率も、ある意味馬鹿にはできないものなのだな』


 うん、良い感じに勝手に納得しているんで問題はなさそうだ。


 と、そんなどうでもいいやり取りをお兄さんとしていると、すぐ近くで大きな音が響く。

 隠れていた物陰から、こっそりと覗き込んでみると、最初の時と同じような位置に、これまた同じような化物が立っていた。


『また同じタイプの兵器か。あの型の兵器ではエンジェルプリンセスには勝てないのをいい加減に悟ってもらいたいのだがな……それとも我々を馬鹿にしているのか?』


 お兄さんが、安全圏から偉そうな事を言っているようだが、その辺は無視する。

 というよりも、相手している余裕がない程度に緊張しているのである。


 目の前にいる化物が実は囮だとわかっちゃってるので、いかに知らないフリをして立ち回るか。とか、あえて狙撃させるタイミングを作って、どうやってピンチを演出するか。とか、その辺を考えると上手くできるかどうか不安になってくるのである。


 そして何よりも一番緊張するのは、このエンジェルプリンセスに変身した状態で、どの程度レーザービームの威力を軽減してくるのか未知数なところだ。


 物理防御力が異様に高いのは実証済みではあるものの、いかんせんレーザービームをまともにくらって、どの程度痛いのかがまったくわからない。

 身体を貫通するとか、手足がもげる程の痛みはヤダなぁ……

 できれば、転んで擦りむいた程度の痛みだといいなぁ……

 そうすれば、適度にダメージを受けつつ「くっそーあんなに遠い所から攻撃されたら反撃できないー」とか言いって、四苦八苦しつつもダメージの蓄積で倒れたところを捕まって、そして後は……クッコロ!!


 よし!やるぞ私!がんばれ私!

 まずは、あの化物の前に立って、狙撃してもらうためのスキをつくるんだ!


「エ……エンジェルプリンセスさんじょぉ……」


 私は化物の前に立ち、あえてスキをつくるため、考えていたわけでもないよくわからないポーズを取りながら名乗りを上げる。


『戦う前に口上を言うようになったのは良い心がけだが、もう少し大きい声で言えないのか?』


 うるさい!黙っててよお兄さん!今すっごい恥ずかしいんだから!!


 次の瞬間だった。空気を裂くような音……まるで耳鳴りがしたような音がしたかと思うと、私のすぐ隣の地面に小さな穴が開き、そこからうっすらと煙が立ち上る。


 え?狙撃来たの?しかも外したの!?私あんなに恥ずかしい思いしたのに、よりにもよって外したの!?


『むっ!?』


 あ、コレさすがにお兄さんも気付いた感じかな?

 ど……どうしよう!?いや!冷静になれ私!長距離からの狙撃なんだ、一発目は距離を測るための試し打ちに違いない!少し待てば本命の二撃目がきてくれるハズ!!


 そして、そんな私の予想通り再び聞こえてくる空気を裂くような音!そして再び私の隣の地面に開く小さな穴!


 また外しやがったぁぁぁ!!!?


『ふっ……シルエットミラージュ機能を搭載したエンジェルプリンセスには無駄な攻撃だ』


 え?何機能?お兄さん何言い出してるの?


『気付いているか?右30度傾斜35度の方角のビルから狙撃されているぞ』


 気付いてる、というか知ってました!


『良い機会だ。フィニッシュ技を教えてやろう』


「え!?今!?」


 今まで無視していたのだが、思わずお兄さんの発言に反応してしまう。


『やむを得んさ。現状でエンジェルプリンセスが使える遠距離攻撃はソレしかないのだからな』


 現状で、って事は今後増える予定があるの?これ以上武装強化して何と戦うのよ!?


『私が先程言った位置に向かって手を伸ばせ』


 とりあえず、お兄さんに言われた通り私は、だいたいこの辺かな?というあたりに向かって手を伸ばしてみる。


『まぁ角度はだいたい合っているから、あとは標的に自動補正かかるから問題ないだろう……あとは「マジカルビーム!」と叫べば発動する』


 雑!!?そんな簡単に出ちゃっていいのフィニッシュ技!?ただの音声入力で発動するの!?ネオゲッ〇ーみたいな感じなの!?


 ともかく、このままのポーズで固まっていても仕方がないので、恥ずかしいのを我慢して叫んでみるしかない。


「マジカルビームっ!」


 半分ヤケクソ気味になって叫ぶ。

 すると伸ばしていた右手が光だし、それが手の平へと集約され、濃縮されたところで、物凄い勢いで射出される。


 ってコレのどこが『マジカル』なの!?何か波動砲の発射みたいだったんだけど!?


 放たれた波動砲は、私の動きを妨害しようと動いていた目の前の化物の腕を吹き飛ばし、それでもブレる事なく目的の方角へと飛んでいく。


『終わったな。撤収するぞ』


 私がフィニッシュ技を放った直後にお兄さんがつぶやく。


「え?でも、まだ目の前の化物を倒しきってないですよ?」


『問題ない。よく見てみろ』


 言われて私は化物の方へと視線を向けてみる。

 片腕を失っただけの化物だったが、その失った腕を起点にして、ボロボロと身体が崩れていた。


「え?……ええ!?何で!?何が起きてるの!?」


 あまりにショッキングな場面を目にして思わず叫び声を上げる。


『マジカルビームに触れた部分から原子を結合できなるなる。つまりは触れた瞬間に物体としての形を維持できなくなるので、勝ちが確定するのだ』


 エグっ!!?なおさら何が『マジカル』よ!?何をサラッと大量殺戮ビーム放たせてんのよこのお兄さん!?

 いや、まぁ確かに『フィニッシュ技』だよ。文字通り「必ず殺す技」の『必殺技』だよ。でもさ、変身ヒロインにコレは無くない?


 ……うん、今後この技は使わないようにしよう。


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