第10話 二人の場所
一緒にお昼ご飯を食べる事になった莉々ちゃんだが、教室ではなく別の場所で食べるらしく、お弁当が入っているだろうバックを片手に、もう一方の手で私の手を引き席を立つ。
「ねぇ莉々ちゃん……どこ行くの?」
「余計な連中が来ない場所よ」
私の質問に対して、何とも曖昧な答えが返ってくる。
どこ行くんだろう?教室以外でお弁当食べられそうな場所なんてある程度限られるものなんだけど……中庭とか学食?でも、そのあたりだと『余計な連中が来ない場所』じゃないよね?むしろ大勢の人がいそうだし……屋上とか?いや、屋上へ行く扉はしっかりと施錠してあったハズ。それに、まだこの時期じゃ屋上は肌寒い。
とりあえず、あまり見当がつかないので、考える事を放棄して黙って莉々ちゃんについて行く事にする。
莉々ちゃんは無言で昇降口で靴を履き替え外に出ると、体育館の脇にある、小さなプレハブ小屋がいくつも連なっているような建物へと歩いて行く。
ここって確か……
「……部活棟?」
そう、確かここは、各運動部が用具置きや更衣室代わりに使用している場所だ。
「ええ、そうよ。一室空きがあるって聞いたから、私がもらったのよ」
ん?言ってる意味がよくわからないんだけど?
「えっと……何か新設の部活でも立ち上げたの?」
「私は小学校からずっと帰宅部よ。今更何かの部活組織に属するつもりはないわ……でも、そうね。奈々とだったら何か部活を新設してもいいかもね」
あ、初めて名前呼びされたかも。可愛らしい声で名前呼ばれと何か照れるなぁ……
って違う違う!そうじゃない!何の部活にも入ってないのに、部活棟の一室もらうとか余計に意味わからないし!?
「ここの学校の理事長は、おじい……私の組織に属してるのよ、だからちょっとお願いして、自由に使ってもいい許可をもらったのよ」
混乱している私に説明するように、とんでもない事を言いながら、ポケットから鍵を取り出し、開錠して部屋の扉を開ける莉々ちゃん。
いや、もうホント、さらに意味がわからないよ……
何?ここの理事長って悪の組織の人間なの?悪の組織なのに何で学校経営までやってるの?手広すぎじゃない?
「思ってたのより狭いわね。まぁ私と奈々だけで使う事を考えれば十分に広いかもしれないわね」
私の混乱をよそに、莉々ちゃんは既に部屋に入り込んで、ほとんど何も置かれていない室内を物色している。
「ほら、奈々もボーっとしてないで入ってきなさいよ。早くお昼食べないと昼休み終わっちゃうわよ」
催促されたし……
でも確かに、ここまで来て入り口前で待機していても無意味だし、覚悟を決めるかな。
私も莉々ちゃんに続き、室内へと入って行く。
壁の一面にロッカーが並んでいるのは、更衣室代わりの部屋なのでわかるのだが、学校の備品とは思えないような座椅子や小さいテーブルが置いてあるのは、この部屋の前任者の置き土産か何かなのだろうか?
「ちょっと埃っぽいから、後で掃除しないとダメね……とりあえず今回はコレで我慢して、お昼食べちゃいましょう」
そう言いながら莉々ちゃんは、バックからウェットティッシュを取り出して、部屋に置かれていたテーブルを軽く拭く。
莉々ちゃん意外と準備がいいなぁ……
私はただ莉々ちゃんに言われるがまま、部屋に入り腰を下ろし拭かれたテーブルの上にお弁当箱を置いて……
「随分とおかずの量が多いわね。奈々って見た目はスマートなのに、意外と食べるのね?」
って変なが誤解されてるしっ!!?
このお弁当の量は、友達とのおかず交換用だけではなく、初日でさっそくお弁当忘れちゃった子とかに「ちょっと作りすぎちゃったから分けてあげるよ」とかいうのを想定して持ってきてる、私のイタイ妄想を形にしてしまっただけの呪われたアイテムなんです!?
違う!違うの!!作ってる時は、そこからの「えー!?お弁当自分で作ってきてるの?」みたいな流れで会話をするための布石というか、仲良く会話するためのきっかけになれば、とか思っていただけで……あ、ソレ余計にイタイな私。
ふと莉々ちゃんに視線を向けると、莉々ちゃんが取り出していたのはコンビニの袋。そして袋の中に入っているのはおにぎりが一つ。
「こ、このお弁当ね、莉々ちゃんにも食べてもらおうと思って多く作って来たの!ほら、莉々ちゃんってお弁当とか簡単に済ませちゃうようなイメージあったからどうかなぁ、って思って、ね……」
って馬鹿ぁぁ!!?私の馬鹿ぁ!!咄嗟とはいえ、この言い訳は酷すぎでしょ!?
何を、昨日今日あったばかりの莉々ちゃんに勝手なイメージ図押し付けちゃってるの!?
いや、そもそもで、一緒にお弁当食べるってなったの、ついさっきよ?何で朝の時点で、莉々ちゃんと一緒に食べる想定でお弁当作ってるのよ!?
もう完全に気持ち悪い子じゃない私!?
動揺しすぎてたのもあるかもしれないけど、何で素直に「作りすぎちゃったの。少しどう?」って言えなかったの私!?
「ち、違う……違うの!えっと、私、莉々ちゃんと一緒にお昼食べようと思って……じゃない!?私のお弁当を莉々ちゃんにも食べてほしくて……」
ダメだ!口を開けば開くだけ墓穴を掘る事になってる!?
これ完全に、莉々ちゃんドン引きしちゃってるんじゃ……
「もらって……いいの?私も、奈々の作ったお弁当のおかず……奈々と一緒に食べてもいいの?……そんな、親友同士がやるような事……」
何かよくわからないけど、莉々ちゃんスゴイ嬉しそうな顔になってる。
私が適当にした言い訳を、全部信じてくれるなんて素直で純粋な子だなぁ莉々ちゃん……何で悪の組織のボスなんてやってるんだろう?実は詐欺に引っかかって変な契約書にサインしちゃったとか?
「と、とにかく早く食べよう!さっき莉々ちゃんが言ったみたいに、早くしないと昼休み終わっちゃうよ」
この場の空気を誤魔化す意味も含めて、何やら顔を赤らめてボーっとしている莉々ちゃんを急かす。
まぁ実際に早く食べないと昼休み終わっちゃうのは事実だし、ただでさえ教室から離れた場所に移動してきているので、その辺の移動時間を考えると、食後の小休止をするような時間は無くなってきているだろう。
「そういえば、何でこんな場所まで移動してきたの?」
ふと思った事をそのまま口に出す。
「そうだったわ!お昼食べながら、あのイカレ女が嫌いな者同士、どうやったらイカレ女に痛い目見せられるかを話し合おうと思ったのよ」
……藪蛇でした。
莉々ちゃんもそのまま忘れてくれてればよかったのに……




