第9話 友達
今回の騒動は、早めに対処したのが功を奏したのか、私が思っていたよりも意外と話題にはなっていなかった。
このクラスに目撃者は一人もいなかったようで、精々が「また現れたらしいよ」程度の噂話で終わっており、話が膨らむ事はなかった。
まぁ、その『また現れた』っていうのが、化物の事なのか変身した私の事なのかはわからないけれど、とりあえずは変に話が大きくならなくてよかった。
ちなみに、私が破壊した化物は『悪の組織』が迅速に回収しているらしい……お兄さん情報なんで本当かどうかは疑わしいけれど、すぐに回収してもらえているのなら何だってかまわない。
いやぁ~それにしても……今日は後ろの席からの圧がスゴイ。
昨日のようにまだ誰も来てないような時間帯には登校せずに、今日私は当たり障りない通常時間に登校しており、私が教室にやって来た時には、既に数人のクラスメイトが登校してきていた。
そのせいか、今日も朝早くから来ていたであろう莉々ちゃんは、周りに人がいるせいで、昨日の話の続きがしたくても出来ないようで、非常に禍々しいオーラを放ち続けている。
周りのクラスメイト達、別にそこまで他人の話に耳を傾けてるわけでもないから、気にしないで話してしまえばいいのではないかとも思うのだけれど、そこは莉々ちゃんなりのこだわりでもあるのかもしれないので、あえてコチラから話をふるような事はしていない。
というよりも、エンジェルプリンセスについての話題は極力したくないので、話しかけてこないなら、それはそれでかまわない。藪蛇してもいい事なんてないだろう。
そんな事よりも私には大事なイベントがある。
昨日告知のあった、クラス内での自己紹介イベントが本日行われるのだ。
コレを成功させる事で、クラス内での私の印象を大幅に向上させ、それによって多くの友達を作るきっかけになるのだ!
……そう思っていた時期が私にもありました。
いや、無理でしょコレ?
皆が皆「私の名前は〇〇です。よろしくお願いします」みたいな事しか言ってないのに、一人だけ奇抜な事言おうものなら悪目立ちしてしまい、その結果避けられるようになって、友達多く作るどころが逆にボッチ生活まっしぐらだろう。
奇抜な自己紹介して許されるのは、アニメや漫画のヒロインだけだ。
周りの人が唖然としてても「あれ?私何か変な事言っちゃった!?」とか言っとけば解決されて、次の休み時間に「あ~……いきなり失敗しちゃったぁ」とか言って机に突っ伏してるだけで「ねぇねぇ?さっきの自己紹介、アレ何?」とか笑いながら話けてもらえるとか……
無いよ!!!現実にそんな展開あるわけないよ!!!ただ白い目で見られて『関わりたくないヤツ』に認定されるだけだよ!!
私の後に自己紹介した、頭がちょっとアレな莉々ちゃんだって普通に自己紹介してたんだよ!?奇抜な自己紹介とかって、実際にやったらどんだけヤバイんだよって感じになっちゃうよ!
まぁ莉々ちゃんの自己紹介も「田名網莉々……」とか、ただ名前をつぶやいただけの、ある意味では奇抜な自己紹介になってたような気がしなくもないけれど、莉々ちゃんは……ほら、それやっても許される雰囲気持ってるから、ね。
ともかく、自己紹介イベントが終わっても何も変わらない日常が待っているのでした……
ねぇ……友達ってどうやって作ればいいの?
このままいくと、今日のお昼とかボッチ飯が確定しちゃうんだけど!?
夢にまで見ていた、友達たくさんの高校生活が程遠く、涙が出そうになってくる。
というか、そもそも友達の定義って何だろう?アレ?……トモダチッテナンダロウ?
おっと!?危ない危ない……思考が現実逃避するところだった!?
とにかく、もう一日の半分を友達作れずに過ごしてしまっている。
とりあえずは昼休みを、友達無しでどう乗り切るかが現在の課題だ。
せっかく気合入れてお弁当作って来たんだ!漫画やアニメでよくある「あ~ソレ美味しそう!少しちょうだい」「え~じゃあソレと交換ならいいよ」みたいな事まで想定して持ってきてるんだ!このままボッチ飯になったら悲しすぎる。
どうしよう?どっかのグループに混ぜてもらおうか?
でもどうやって?
同じクラスとはいっても、まったく喋った事もない奴がいきなり「お昼混ぜてもらっていい?」とか来たら気持ち悪がられるんじゃないの?
いや、私の状況をきちんと説明してからならいける?「高校通うために引っ越してきたばかりで、知り合いが一人もいなくて不安な状態だ」とか言って「私、アナタ達と友達になりたいの」みたいな感じな事言った後で「だから、お昼混ぜてもらってもいい?」って流れでいける?
あ、何かいけそうな気がしてきた。
……毎度の事ながら根拠は何もないけどね。
そうなると次の問題は、クラス内でのグループがやけに多い事だ。
私はどこのグループに突貫していけばいいのだろうか?
できれば優しい人がいる所……ダメだ。誰もかれも取り繕った表情してるようにしか見えなくて、内面まではまったくわからない。
っていうか考えれば考えるほど、皆同じようにしか見えなくなってきた。
もしかして私、けっこう末期症状になってる?
そんな感じで、弁当を持って固まっていると、ふと制服の裾を引っ張られる感覚を感じ現実に引き戻される。
視線を制服の裾へと移すと、昨日と同じような感じで私を見ている莉々ちゃんと目が合う。
「お弁当……一緒に食べない?」
莉々ちゃんの口からとんでもない発言が飛び出す。
え?今何て言ったの?お弁当?……え?私と?
「えっと……私と一緒に?」
思考が追いつかずに、思わず聞き返してしまう。
ああ!私の馬鹿!!「一緒に食べてくれるの!ありがとう!!」って言って、「さっきの発言やっぱ無し」とか言わせる前に即決するべきだったでしょ今!!
「あ、そうよね……順番ってものがあるわよね……」
あ、まずい!この発言、「じゃあまた今度ね」に繋がるつぶやきじゃ……
「あの……ね、私と……友達になってくれない?」
再度思考停止に陥りそうになる莉々ちゃんの発言。
え?『順番』って一緒にお昼食べる関係になる順番って事だったの?
何となく気付いてたけど、莉々ちゃんも私並に友達作るの苦手だよね。
「昨日言った事が嘘じゃないって証明はしたつもりよ……また、あのイカレ女に邪魔されたけど……とにかく、ちゃんと見てくれてたかどうかはわからないけど、私は嘘をついてない事を証明したわ!だから……あの……私の友達に……」
勢いよく何かを説明しだしたけど、最後の方は照れながらボソボソした喋りになりだす莉々ちゃん。
えっと……何だろう?この異様に可愛い生物は?
「ありがとう莉々ちゃん!お弁当、一緒に食べよう!」
友達出来なくて泣きそうになっていた私が、こんな可愛らしい仕草を見せられて断れるわけなくない?
莉々ちゃん超いい子だよ!可愛いし!!
そして、ふと「詐欺師は心が弱ったタイミングで声をかけてくる」とか「ハニートラップは常套手段」とかいう言葉が脳内に浮かんできたが、あえて無視する。
うん、だって莉々ちゃんは可愛いし良い子だから何も問題はないもんね。




