第8話 莉々ちゃん発言の真偽
文明の利器とは素晴らしいものである。
現代ではスマホ一つあれば、大抵はどこにでも行けるものである。
そう、例え目的地がどこにあるのかわからなかったとしても、ちょっと検索かければ、その場所へと案内してくれるのだから。
そんなわけで私は今、莉々ちゃんから指定のあった、東町のショッピングモールへとやってきたのである。
『本当にこんな場所に奴等が現れるというのか?』
腕時計に偽装してある変身アイテムから、お兄さんの声が聞こえてくる。
いや、変身アイテムから、というと語弊があるかもしれない。実際には、変身アイテムを介して私の脳内に直接響くような感じで声が聞こえてくる。
なので、お兄さんの声は私以外にはまったく聞こえていない。そう、例え真横に立っていても、だ。
まぁともかく、この変身アイテムを文明の利器に分類してもいいのかわからないが、これもまた便利なもので、有事の際お兄さんと直接会話ができる通信機にもなっていた。
「確率的には半々ですかね?」
私は携帯電話で通話しているフリをしながら、通信機越しのお兄さんへと返答する。
莉々ちゃんの事はお兄さんに話していない。
本当に化物が、この場に現れる確証があれば言ってもよかったのだけれど、まだ莉々ちゃんが重度の中二病患者だという可能性は極めて高い。
『何故この場所に奴等が現れると予想した?』
「直感です!」
莉々ちゃんの事から説明始めると色々とややこしい事になりそうだし、仮に話したとしても、莉々ちゃんがただの中二病患者だった場合、それはそれで後々面倒くさい事になりそうだったので、適当な事を言って誤魔化しておく……これで誤魔化せるかどうかは疑問だけどね。
『直感、か……まぁ変身ヒロインが行く場所には何故か敵キャラも現れるという法則は、統計的に出ているからな。変身ヒロインの言う「勘」というのは的中率が高くなるのかもしれんな』
ああ、お兄さん馬鹿でよかった。誤魔化すための口実を考えなくて済むから楽でいいなぁ。
っていうか、お兄さんの言う『統計』ってどっから取った統計よ?ひょっとして……いや、ひょっとしなくてもアニメ内での統計を現実に持ち込んできてない?
何か変な『法則』とか作っちゃって、科学者っぽいような発言してるけど、ソレ現実だと科学的根拠とか一切無いって理解して発言してる?
「とにかく私は、人気のない場所でいちおう変身はしとこうかと思うんですけど、今度こそ事前に必殺技とか教えてもらってもいいですか?」
『昨日も言ったが、フィニッシュ技は必要になった時に伝える。乱発されても困るので今教える事はできん』
っち!このお兄さん意外と頑固だな。どさくさに紛れて教えてもらおうと思ったのにダメだったか。
まぁともかく、私は人が居なさそうな場所に移動する。
「……プリンセスチェンジ」
私のつぶやきに反応して変身アイテムが光り、ついで私の体も光に包まれ、気が付くと私はヒラヒラな衣装に身を包んでいた。
『何だそのボソボソしたつぶやきは!?もっと大きな声で言え!』
直後にお兄さんからふざけたクレームが入る。
大きな声とか嫌に決まってるじゃない!恥ずかしいし!!万が一誰かに聞かれてたらどうするのよ!?
とりあえず私はお兄さんからのクレームをガン無視して、辺りをキョロキョロと見まわしてみる。
時間は既に15時をまわっている。
莉々ちゃんが言った事が正しかったのなら、そろそろ化物が現れてもいい時間だ。
っていうか、あの化物ってどうやって現れるんだろう?やっぱ何もない空間から転送みたいな感じで送られてくるのだろうか?
そんなことを考えていた次の瞬間、凄まじい轟音が辺りに響き渡り、直後に人々の悲鳴が聞こえてくる。
すぐに大きな音がした場所へと走っていくと、そこには砂煙をまとった化物が立っていた。
え?何?雰囲気からして、静かに転送されてきた感じじゃないけど、どっから来たのこの化物?
周りを見渡してみても、そこは開けた空間。どこからかこっそりと出て来たわけではなさそうだった。
私は化物が現れたであろう場所を探して色々と視線を動かしていき、何気なしに空を見上げてみた。
「まさか……」
空には輸送機のような物体が浮かんでおり、今まさにどこかへと去って行こうとしていた。
「……パラシュート無しでの空挺作戦!?」
ファンタジーの欠片もねぇ!!?ってか莉々ちゃんどんだけ金持ちなの!?親友になりたい!
「グオオオオオオォォ!!」
さっそく暴れ出そうと咆哮を上げる化物。
ああ、はいはい。今回は被害が拡大する前に対処しますよ。
莉々ちゃんが指定していた時間と場所に本当に化物が出て来た事を考えると、莉々ちゃんは手の施しようがない中二病患者ではなく、真実を言っていた可能性が極めて高い。
で、あるなら莉々ちゃんは確か『今日の15時に今度は東町のショッピングモールに昨日と同型の機械人形を放ってあげるわ!』と言っていた。
つまりは、本気で殴ると昨日のようなエグイ結果になる、という事である。
もうこれ以上、周りの方達からドン引きされるのゴメン被りたい。
そんなわけで、化物に気付かれないように、そそくさと足音をころすように走り寄る。
そして、何か反応される前にと、そのままの勢いで、化物の頬に軽くビンタを……
「もげたぁぁぁ!!!?」
軽くビンタしたつもりだった私の手に、一緒になってついてくる化物の顔。もちろん胴体はその場に置き去りになっている。
『すれ違いざまに首をもぎ取るとか、暗殺者かキミは?さすがに今のはドン引きしたぞ……』
「お前は引くなあぁぁ!!!?」
私の心の叫びに合わせるようにして、首の無くなった化物の胴体がワンテンポ遅れて地面に倒れこむ。
私は、そんな倒れた化物の胴体の隣に、そっと頭部を置いて、一目散にその場を退散するのだった。
これ……また色々と話題になって、結果ドン引きされる流れのやつだよね?




