プロローグ
疑問に思う事がある。
田舎と都会の定義とは何なのだろう?
どこまでが『田舎』で、どこからが『都会』と分類されるのだろう?
畑や田んぼがあれば『田舎』?高層ビルがあれば『都会』?
ただ、それだけの定義で分類されるのだったら、『田舎』は『田舎』で差ができるだろう。見渡す限り畑・田んぼと山ばかりで数える程度しか民家がない場所と、住宅街で趣味用の畑とかが併設されている場所。
まぁそのあたりは『ド田舎』という別定義が出現する事で解決するのかもしれないが、逆パターンで考えてみると『ド都会』という単語は聞いた事ない。
いや、そこは『大都会』とか表現されるのかな?
でもそうなると、さらに分類される区分が増えてしまい、余計にややこしくなる。
いったい、何をもって、どのような定義によって所属を分類されるのだろう?
では、駅回りにビジネスホテル等の高層ビルが少々ある程度で、ちょっとした買い物行くには足がないと不便であり、パッと見た感じは畑や田んぼはない……そんな町はどこに分類されますか?
私が本日引っ越してきたこの町は、いったいどこに所属しているのですか?
私が元々住んでいた場所は、間違いなく『ド田舎』に分類されると思う。
見渡す限り、山・畑・田んぼ。最寄りのコンビニまでは20㎞近くあり、その間、駄菓子屋が一件あるだけで、それ以外の店はまったくなかった。通っていた学校は、人数の少なさから複式学級になっていた。
そして一番の問題は、義務教育が終了した後に通うべく高校が、通える範囲内に無い事だった。
いや、『無い』と言うには語弊があるかもしれない。
ある事はある。それでも、コンビニの近くなので20㎞程の距離ではあるが、まぁ通えない範囲ではない。……え?『公共交通機関』?何それおいしいの?
バスは1日2往復するくらいしか通ってないし、電車の最寄り駅は、その高校のさらに先にある。
それなら、もうこの高校に通えばいいじゃないかと思うかもしれないが、如何せんこの学校……超低レベルで有名なのだ。
どこの高校にも合格できなかった連中の最後の砦。自分の名前を記入できれば合格できる。噂は様々だ。
まぁ所詮は噂の域を出ないのだが、あながち間違いではなさそうな風貌な人達が出入りしているのは目撃しているので、正直その高校に通いたくはなかった。
その結果、私が選んだのは、遠く離れた場所での心機一転一人暮らしでの高校生活!
とはいっても、何かあった時すぐに駆け付けられるように、という事で、親戚の家が近くにあるこの町限定で、っていう条件で通う高校を選ばされたんだけどね。
でもまぁソレはいい。今まで私が住んでいた場所に比べれば、どんな場所でも利便性は向上してる。
私にとっては、都会に移り住んだような感覚だ。
ただ問題なのは、世間一般的に見ての、この町の評価だ。
『都会』なのか『田舎』なのか……私はどちらの対応で、この町の人達と接すればいいのだろうか?
町の人達は、田舎だと思っているのに、都会のようにふるまってしまうと「は?こんな田舎が都会なわけないじゃん?ケンカ売ってんの?」となるし、逆だと「この程度じゃ田舎ですかぁ?へぇへぇそうですか?馬鹿にしてんの?」となる。
対応を間違えると、私の印象はすこぶる悪いものになってしまうだろう。
それだけは避けたい!何としても……
私には目標がある。
それは『友達をたくさん作る事』と『親友と呼べるような人を見つける事』だ。
いや、もちろん一人暮らししてまで通う学校で、学業を疎かにするわけではない。
あくまでも勉学以外の目標だ。
というのにも理由がある。
私には同級生の友達が一人もいない……というよりも、小・中学校と同級生がいなかった。
他の学年には友達はいたが、それは友達というよりも兄弟・姉妹といった感覚に近いかもしれない。
だからかもしれない。私は、たくさんの同学年の友達というものに憧れているのだ。
そして、それには重大な問題が存在する。
今まで同じ学校に通っていた別学年の子達は、物心ついた時から友達だったりした。
人の少ない集落なだけあって、ご近所皆知り合い、というよりも家族の延長線のような感じだったので、気付いた時には親しく話せる間柄になっていたのだ。
まぁつまるところ私は、友達の作り方というものがサッパリわからないのだ。
私の、友達作りのお手本になるのは、小さい頃から見ていた、変身ヒロイン物アニメの主人公くらいだ。
彼女達は、持ち前の明るさや人懐っこさで、新しい学校に行けばあっという間にたくさんの友達を作り、逆に転校してくるような子がいれば、一番にその子の友達になってしまったりしていた。
まさに今の私には憧れの存在ともいえた。
私は……ちゃんと友達を作る事ができるだろうか?
「すみません。少しお時間よろしいですか?」
新たにやってきた町の駅前で物思いにふけっていた私だったが、突然声をかけられて現実へと引き戻される。
「あ、はい!大丈夫ですよ」
咄嗟に応えてしまって、すぐに後悔する。
都会の駅前等では、田舎者を狙って、宗教の勧誘や詐欺などを行ってくる人達がいる、という事を事前に教えられていたのに、すっかり忘れてしまっていた。
……ん?という事は、やっぱりこの町は『都会』に分類されるのかな?
「ありがとうございます。今、若者を対象にちょっとしたアンケートを行っているのですが……」
若者を対象に、と言ってはいるが、この声をかけてきた人も、見た目若そうに見える……大学生?もしくは社会人1・2年目?とにかくそんな感じの容姿の男性だった。
まぁともかくアンケート。うん、アンケートね。それくらいなら犯罪に巻き込まれる事も、宗教にはまる事もないよね。
「まず、年齢と職業を教えてもらってもいいですか?」
ありきたりな質問がとんでくる。
これくらいなら答えても問題ないよね?
「田島奈々15歳!高校1年生です!」
そう!私の名前は田島奈々。
今日この新しい町に引っ越してきたばかりであり、明日から始まる高校生活に胸膨らませ、期待と不安でいっぱいになっている。そんな女の子です!
「あ、名前は言わなくて結構ですよ」
……期待よりも、不安の割合の方が高いかもしれない。




