2.私は『札泥棒』
目が覚めて早々に奇声をあげた私を心配し、駆けつけできた侍女。彼女の名前はネトル、菫色の髪と瞳を持つ長命種の女性であり、前世の私がプレイしていたゲーム『そして巡り会う、あの時を超えて』のヒロインである。
「ゼン様どうされました?お体に障りますのでどうか安静になさって下さい。」
丁寧な物言いではあるが、彼女の表情から察するに、まだ目の前の主人は錯乱しているのだろうという考えが読み取れる。私そんな彼女をどう誤魔化そうかと一瞬思考を巡らせたのだが、1週間ほど食事をとっていない我が肉体は空腹を訴え考えが纏まらない。
「すまないネトル、私はまだ少し混乱していたようだ。大人しく寝ているから何か食べる物を持ってきてくれないだろうか?空腹のあまりそれこそどうにかなってしまいそうだ。」
「ゼン様っ、私の名前を!ソブン様からは一時的な記憶喪失と伺っておりましたが、回復なされたのですか!?」
先程安静にしろと言ったはずの彼女は、病み上がりの私に勢いよく詰め寄ってきた。
「あ、ああ、昨日は何が何だか理解出来ずただ頭痛に悩まされていたのだが、こうして目覚めたら意識も記憶もしっかり戻ったようだ。」
「それでは奥様にご報告を!」
「いやいい、それよりも何か食べるものを頼む。」
部屋のドアに早足で向かい、母に報告しに向かあ彼女の言葉を遮って再度食事の催促をする。
「失礼いたしました。それでは何か消化の良いものを持ってまいります。」
私の責める声に平静を取り戻したのだろう、少しばつの悪そうな表情を浮かべたあと、彼女は部屋から退出していった。
ネトルが持ってきてくれた食事はサイドテーブル(入院した時にベットで食事を取るときのあれだ)に配膳された、消化に良いものとは言っていたが、出てきたものは一杯の重湯だけだった、少し物足りなさを感じたが空腹も落ち着き、ネトルが空いた皿を片付け退出したところを見届けてから現状の確認をする。
まず、『そして巡り会う、あの時を超えて』通称『そりあて』は学園を舞台にしたローグライクRPGだ。主人公が在学中の3年間にわたり一部の固定階層を除きランダムに自動生成されるダンジョンを探索しながらイベントをこなすことで物語が進行する。
また、恋愛要素の絡んだマルチエンディングのゲームであり、物語の終盤時点での主人公のダンジョン進行度と攻略したキャラクターによってどのエンディングになるかが決定する。
ストーリー上で私、つまりゼン・ディエゴ・マルタン・ブランドールの役割は、入学後最初に仲間になるキャラクターで、全操作キャラトップの攻撃力と高い敏捷ステータス、優秀な攻撃モーションを有しており、多くのユーザーが初プレイ時パーティーのメインアタッカーとして使用していた。
しかし物語の中盤ラストでパーティーを離脱、その後敵キャラクターとして主人公達の前に立ちはだかり、いずれのルートを進んだとしても死亡することになる。
『そりあて』のゲーム内には、ステータスを向上する『護符』というアイテムが存在する。多くの初見ユーザー達を使用していたが、当然強化されたゼンはパーティーから離脱する、しかも有志の解析班が検証したところ、ご丁寧に強化されたステータスは敵対後にも上乗せされておりその悪辣さから『札泥棒』という不名誉な称号を与えられていた。
今私が対策するべきは主人公達と敵対する根本的な原因を防がことだ、幸いストーリー開始まだ時間もあり、『そりあて』をやり込んだ私には離脱原因も検討がついている。
「よしっ、やるぞ、絶対に生き延びてやる。」
まずやるべきことが決まった私は一人ベットの上で呟くのであった。
稚拙な文章を読んでいただきありがとうございます。
今回は自分が悪役キャラに転生したゼン君が説明口調で現状確認をするお話でした。
作品を気に入ってくれた、続きが気になると思った方はよろしければ、評価をお願いします。
モチベーションが上がり次の話を早めに投稿できるかもです。