Scene7【初めては、ちゃんと同意の上で】
見つめ合いの均衡を破ったのは、下の心咲ちゃんでした。
「さっそく……なんだって?」
先手を取った心咲ちゃんが、楓花ちゃんに問いかけます。
その問いに対して、恥ずかしそうにして答えようとせずに、はにかむ楓花ちゃんは天使のようでした。
しかし、心咲ちゃんはそれを見て、なぜか不安になります。
「ちょっと、いいから放せって」
心咲ちゃんが身体――発育の希望のない幼児な――をよじりますが、楓花ちゃんは放してくれません。
それどころか、心咲ちゃんの顔に自分の顔をゆっくりと近づけていきます。
きゃー、いったい、なにをするつもりなのでしょうか?
「心咲……」
小さく心咲ちゃんの名前をつぶやいて、楓花ちゃんは目をつむりました。
その様子を見て、心咲ちゃんはようやく、これからキッスの催しが開かれることに気付きます。
「えっ、ちょっ……! 待て待てっ、待て!」
慌てて、どんどん声がうわずっていく心咲ちゃん。
楓花ちゃんは、いったん近づけた顔を離して、心咲ちゃんを睨みました。
「なに……?」
邪魔されて、ちょっと不機嫌そうな楓花ちゃんもずいぶんと可愛らしいですねー。
心咲ちゃんは可愛そうに、たじたじになっていますけれど。
「いや……なに、じゃないだろ。なにしようとしてるんだ?」
「お友達のしるし、だけど?」
なにを当たり前のことを、とでも言いたげな楓花ちゃんに、心咲ちゃんは二の句が継げなくなりました。
「私ね、友人とお友達の間には、簡単には越えられない壁があると思うの」
心咲ちゃんの頬に空いている方の手を這わせながら、楓花ちゃんは言いました。
その滑らかな感触に、心咲ちゃんは一瞬だけ絆されそうになります。
いや、もう陥落寸前です。
がんばって、心咲ちゃん! このままだと楓花ちゃんに、あんなことやこんなことされちゃうよ?
「その壁を、一撃で壊す方法が……これ」
艶やかに言葉を紡ぎながら、楓花ちゃんは、もう一度心咲ちゃんに顔を近づけます。
二人の顔が重なって――と思ったら、心咲ちゃんが寸前で顔を横に向けてしまったようです。
楓花ちゃんのキスは、心咲ちゃんの頬へのキスになっていました。それでも、きゃー。
「……私に、そんな趣味は、ないぞ?」
頬に口づけをされたまま、心咲ちゃんが楓花ちゃんに告げます。
拒絶の言葉、そんなものを楓花ちゃんに投げつけたら、はたしてなにが返ってくるのか心配です!
と、そう思ったのですが、顔を離した楓花ちゃんは動じずに、にやりと口角を上げました。
「あら、私も――嫌がる相手を無理やりに手に入れようなんて、趣味はないのよ?」
幾ばくの後、心咲ちゃんは楓花ちゃんの言葉の意味に気付いたようで、悔しそうな表情を浮かべました。
そうなんですよね、いくら体格に差があるとはいえ、楓花ちゃんはムキムキマッチョな女子レスラーというわけではありません。
そんな楓花ちゃんが、片方の手で心咲ちゃんの両手を押さえ込めるかというと、少し疑問に思いますね。
まあ、心咲ちゃんが、襲われそうになったショックで力が出ないという可能性もあるにはありますが、いまの表情を見る限り、それもないでしょう。
つまり、心咲ちゃんは逃げられるような状況だけど、なんかこのままでもいいかもしれないと流されちゃってる系女子なのです。
「……なにも言わないってことは、そういうことでしょ?」
楓花ちゃんの言葉に、心咲ちゃんは睨みつけるを返すことしかできません。
その可愛らしい抵抗を見て、楓花ちゃんは本当に愉しそうに、こらえられない笑いを洩らします。
そして、ゆっくりと、二人は重なるのでした。
星花女子学園では、不純異性交遊は禁止ですね。風紀が乱れますのでー。
でも、不純な同性交友は、どうなのでしょうね? ダメなんですかね?




