Scene4【突撃、隣の菊花な園】
楓花ちゃんは、心咲ちゃんの顔をじっと覗きこみます。
また心の中が読まれるのではないだろうか。
そう思った心咲ちゃんが目線を逃がしましたが、時すでに遅かったようです。
愉しさを隠さないように、楓花ちゃんは微笑みました。
「ふふ、仲良しなのね」
「なっ! べ……別に、そんなんじゃ……」
皮肉の中に隠した親愛に気付かれて、心咲ちゃんはテンプレートなツンデレをかましました。
もし季節が冬だったら、もう夕方の時間帯になります。
夕焼けの帳が、心咲ちゃんの赤くなった頬を隠してくれたかもしれません。
しかし、現在は六月で梅雨時、それなのに晴天。
まだまだ明るいので、お天道様のもと、心咲ちゃんが耳まで赤くなっているのがはっきりとわかるのでした。
「誰にでも同じように接するってのが、私には信じられないだけだ……猫被ってるんじゃないかって」
恥ずかしさを覆い隠すように、心咲ちゃんは早口で言葉を紡ぎます。
しかし、そうして紡いだ言葉が、自分の恥ずかしい本心だってことに気付いていないみたいですねー。
初々しくて、可愛いです。
「ふぅん、百合ちゃんのこと、よくわかってるんだ……」
「ん? なんて言った?」
心咲ちゃんは取り繕うのに必死で、楓花ちゃんのつぶやきがよく聞こえなかったみたいでした。
まあ、聞こえたところで、心咲ちゃんはお子ちゃま。
そのつぶやきに込められた複雑な感情を読み取るなんてこと、できないんですけどね。
「ううん、なんでもないよ? それより、菊花に着いたよ!」
じゃーん、と心咲ちゃんの腕に絡ませているのと逆の腕をばっと広げて、楓花ちゃんは菊花寮を示しました。
意外な子どもっぽいしぐさに、心咲ちゃんはドキッとさせられてしまいます。
「いや、知ってるよ……」
いままで歩いてきた道をもう少し進めば、桜花寮があります。
心咲ちゃんは、毎朝の遅刻との戦いにおいて、もし菊花だったら、と何度考えたのかわかりません。
ちょっとだけ学校に近いというのも、成績優秀者の菊花寮の特権のようですね。
「ほらっ、入って入って!」
「えっ……部屋まで送らないといけないのかよ?」
楓花ちゃんにぐいぐいと腕を引っ張られながら、心咲ちゃんは微かに抵抗します。
しかし、心咲ちゃんはちんちくりんな体格のために抵抗も虚しく、菊花寮の門に吸い込まれていきました。
ちなみに、門限前であれば、特に許可を取る必要もなく自由に出入りができます。
もちろん、女の子に限っては、ですよ?
彼氏を連れてくる、なんていうことは菊花でも桜花でも、いついかなる時でも許されていませんからね?




