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心に百合の花が咲く明日  作者: あおば
Third Sequence
31/51

Scene31【好きが溢れて、壊れゆく】



 心咲(みさき)ちゃんと楓花(ふうか)ちゃんは三十分ぐらい電車に乗って、ここ空の宮市で一番大きいショッピングモールにやって来ました。

 空の宮市の中で遊ぶところといったら他にも水族館などがあって、隣の海谷(うみがや)市や夕月(ゆうづき)市にまで足を伸ばせば、もっと選択肢は増えます。

 でも、お買い物がしたいという楓花ちゃんの希望で、ショッピングモールが選ばれたのです。


「すげー、初めて来たよ」


 駅の改札を出た心咲ちゃんは開口一番に、そう言いました。

 確かに、すごいですね。

 駅前の広場は現代アートのような意匠が凝らされていて、そこから広がる多くの商業施設も、なんだかアーティスティックに見えます。

 というか、心咲ちゃん、ここに来るの初めてなのですか?


「えっ? 初めてなの?」


 楓花ちゃんも、驚きの声を上げていますね。

 星花女子学園の生徒たちが放課後や休日に遊びに行く際に、一番に頭に思い浮かぶのは、ここだと思うのですが。


「なんだよ、別にいいだろ」


 心咲ちゃんはちょっとした不満を表明するために、繋いでいた楓花ちゃんの手をぺしっと払いました。

 すると、手を払われた楓花ちゃんが、焦ったような顔を浮かべます。


 あれ? なんか立場が逆転……というか、楓花ちゃんが持っていた余裕が、どこかに行ってしまったみたいですね。

 楓花ちゃん、心咲ちゃんは、おそらく本気で不満に思っているわけではないですよ?

 そんな、この世の終わりみたいな顔をする必要はないと思います。


「ご、ごめんね? つい……」


 楓花ちゃんは、俯きがちに謝罪をしました。

 それを(いぶか)しげに見てから、心咲ちゃんは、もう一度楓花ちゃんと手を繋ぎます。

 手が繋がれたことによって、楓花ちゃんの不安な表情が、ほっと安堵の表情に変わりました。


「楓花、さっきから変にしおらしいな。どうした? なんか(たくら)んでるのか?」


 心咲ちゃんの言うとおりに、楓花ちゃんは菊花寮を出てからここに着くまで、妙にアンニュイなのでした。

 部屋でのやり取りで心咲ちゃんにしてやられたことが、よっぽどショックだったのでしょうか。

 うーん……確かに、変態どえすロリコン色欲者からしてみれば、醜態だったのかもしれませんが。


「いや、なんでも……」


 なんでもなくないような顔で、楓花ちゃんは言い淀みました。

 心咲ちゃんは繋いだ手をぎゅっと握ることで、ちゃんと聞いてやるから早く言って楽になれ、と伝えます。

 ふふ、以心伝心ですね。


「うぅ、えっとね……あの、話すから、あれ、乗ってもいい……?」


 躊躇いながら、楓花ちゃんが心咲ちゃんと繋いでいない方の手で指したのは、ショッピングモールに併設された巨大観覧車でした。



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