Scene31【好きが溢れて、壊れゆく】
心咲ちゃんと楓花ちゃんは三十分ぐらい電車に乗って、ここ空の宮市で一番大きいショッピングモールにやって来ました。
空の宮市の中で遊ぶところといったら他にも水族館などがあって、隣の海谷市や夕月市にまで足を伸ばせば、もっと選択肢は増えます。
でも、お買い物がしたいという楓花ちゃんの希望で、ショッピングモールが選ばれたのです。
「すげー、初めて来たよ」
駅の改札を出た心咲ちゃんは開口一番に、そう言いました。
確かに、すごいですね。
駅前の広場は現代アートのような意匠が凝らされていて、そこから広がる多くの商業施設も、なんだかアーティスティックに見えます。
というか、心咲ちゃん、ここに来るの初めてなのですか?
「えっ? 初めてなの?」
楓花ちゃんも、驚きの声を上げていますね。
星花女子学園の生徒たちが放課後や休日に遊びに行く際に、一番に頭に思い浮かぶのは、ここだと思うのですが。
「なんだよ、別にいいだろ」
心咲ちゃんはちょっとした不満を表明するために、繋いでいた楓花ちゃんの手をぺしっと払いました。
すると、手を払われた楓花ちゃんが、焦ったような顔を浮かべます。
あれ? なんか立場が逆転……というか、楓花ちゃんが持っていた余裕が、どこかに行ってしまったみたいですね。
楓花ちゃん、心咲ちゃんは、おそらく本気で不満に思っているわけではないですよ?
そんな、この世の終わりみたいな顔をする必要はないと思います。
「ご、ごめんね? つい……」
楓花ちゃんは、俯きがちに謝罪をしました。
それを訝しげに見てから、心咲ちゃんは、もう一度楓花ちゃんと手を繋ぎます。
手が繋がれたことによって、楓花ちゃんの不安な表情が、ほっと安堵の表情に変わりました。
「楓花、さっきから変にしおらしいな。どうした? なんか企んでるのか?」
心咲ちゃんの言うとおりに、楓花ちゃんは菊花寮を出てからここに着くまで、妙にアンニュイなのでした。
部屋でのやり取りで心咲ちゃんにしてやられたことが、よっぽどショックだったのでしょうか。
うーん……確かに、変態どえすロリコン色欲者からしてみれば、醜態だったのかもしれませんが。
「いや、なんでも……」
なんでもなくないような顔で、楓花ちゃんは言い淀みました。
心咲ちゃんは繋いだ手をぎゅっと握ることで、ちゃんと聞いてやるから早く言って楽になれ、と伝えます。
ふふ、以心伝心ですね。
「うぅ、えっとね……あの、話すから、あれ、乗ってもいい……?」
躊躇いながら、楓花ちゃんが心咲ちゃんと繋いでいない方の手で指したのは、ショッピングモールに併設された巨大観覧車でした。




