Scene2【綺麗なバラの腹の内】
チラチラとなにを見ようとしていたのか、変態さんだった心咲ちゃんは、けっきょく楓花ちゃんを起こしてあげるみたいです。
確かに、教室の扉は開け閉めがけっこううるさく。
それにも関わらず起きないというのは、もしかしたら体調が悪いのかもしれないですからね。
「西園寺さん、大丈夫か?」
楓花ちゃんの隣まで来た心咲ちゃんが、声をかけます。
しかし、楓花ちゃんが起きる気配はありません。
うーん、よく寝ているのか、それとも。
しばらくの後、心咲ちゃんはきょろきょろと周りを確認してから、楓花ちゃんの肩に手をかけるようです。
やっぱり不審ではありますが、心咲ちゃんの心にやましい気持ちはなくて。
「さ、西園寺さん?」
おそるおそるかけられた小さな手が、楓花ちゃんをぎこちなく揺らします。
「ぅん……?」
なんだか可愛い声を上げてから、楓花ちゃんは身体を起こしました。
心咲ちゃんが焦ったように手を引っ込める様子も、なかなかに可愛いですね。
まだ完全に覚醒していないのか、楓花ちゃんは少し潤んだ瞳で、机の横に立つ心咲ちゃんをぼんやりと見上げます。
「東堂さん……?」
楓花ちゃんが、心咲ちゃんの名前をつぶやきました。
花のように美しい唇のすき間から自分の名前が出てきて、心咲ちゃんは、知ってくれていたんだという嬉しさと、よくわからない謎の背徳感を覚えているようです。
「ごめんね、寝ちゃってたみたい」
両手を組んで、それを頭上に伸ばして、楓花ちゃんは大きく伸びをしました。
さらさらと、ミディアムの黒髪が背中に流れます。
そして、ブレザー越しでもわかるぐらいの、大きなお胸が強調されます。
その様子を見てはいけないもののように、心咲ちゃんは目を逸らしていました。
「いや、具合が悪いとかじゃなければ、いいんだけど……」
ふにゃふにゃと、なぜか言い訳するように、心咲ちゃんは言いました。
いつもの横柄な態度はどこかに消え去り、まるで借りてきた猫のようです。
「ふふ……東堂さん、ありがとう。心配してくれたのね」
くしゃっと微笑む楓花ちゃんの顔は、それを視界の端で捉えただけの心咲ちゃんでも心奪われるもので。
心咲ちゃんは、あいまいに頷くことしかできませんでした。
「じゃあ、帰りましょうか?」
そう言って、楓花ちゃんが鞄を手に立ち上がったときに、ふらっとよろめいてしまって。
隣に立っていた心咲ちゃんが、慌てて支えます。
不意に楓花ちゃんの柔らかさを感じてしまった心咲ちゃんは、頬をぽっと赤らめました。
「ぁっ、えっと……おい、ホントに平気か?」
立った状態では、心咲ちゃんの頭のけっこう上に楓花ちゃんの頭があるので、心咲ちゃんは首をぐわーっと上げて話しています。うん、可愛らしいですね。
「ちょっと、寝過ぎちゃったのかも……」
心咲ちゃんに軽くもたれかかりながら、楓花ちゃんは目をしぱしぱと瞬かせました。
そのアンニュイな雰囲気は、場のえっちレベルを数段引き上げます。
そして、続けざまに。
「東堂さん、もしよければ、送っていってくれない?」
おーっと、出ましたっ!
楓花ちゃんの、絶対に断れないおねだり攻撃ですっ!
これには心咲ちゃんも、とりあえず頷くディフェンスを繰り出すことしかできないっ!
終始、楓花ちゃんペースで試合が続いていくぅ!
「ふふ……ありがとう、よろしくね」
楓花ちゃんは嬉しそうに、心咲ちゃんの腕を取りました。
豊満な包容力を発揮されて、考える力がどこかに囚われてしまったようですね。
「う、うん……?」
よくわからないままに、心咲ちゃんは歩きはじめました。
どうやら心咲ちゃんは、流されやすい女の子みたいですね。
もし心咲ちゃんを狙っている子がいるならば、とりあえず、がつんとアタックしてみてはいかがでしょうか?
【後書き】
流されて楓花ちゃんを送ることになった心咲ちゃん。
ちょっと妖しい楓花ちゃんの思惑はいったい?
もしよろしければ、ブックマークをした上で続きをお待ちいただけると嬉しいです。




