Scene10【ケアレスミスのケアレスってホント?】
「東堂……まあ、なんだ。少し可哀想な気もするが、明日も補習だ」
補習担当の先生の、哀れみを多分に含んだ宣告を受けて、心咲ちゃんは項垂れながら教室を出てきます。
確かに、心咲ちゃんは勉強をサボっていた時期もありました。
しかし現在は、わりと一生懸命にがんばって、補習をクリアしようとしています。
ただ、星花女子学園は中高一貫のお嬢様学校なだけあって、授業のレベルはそれなりに高く、進度も速いです。
それでいて、なるべく脱落者を出さないように、定期考査で赤点を取った生徒の補習は合格ラインが厳しめに設定されています。
定期考査と同等レベルの試験問題で、八十点以上。
平均点がおよそ六十点の定期考査において、どの教科も三十点とかを取っていた心咲ちゃんからすると、簡単にクリアできるものではありません。
それでも心咲ちゃんは、一教科を除いて、すべてクリアしてきました。
補習にひぃひぃ言っている間にも、他のみんなと同じように、普段の授業の勉強もしなければいけません。
補習担当の先生たち、そして百合ちゃん、多くの人に助けてもらいながら、心咲ちゃんはがんばりました。
しかし、数学だけが、ぜんぜんできなかったのです。
今日の再々再々再試験でも、六十二点しか取れませんでした。
そろそろ、ほとんどの問題のパターンが出尽くしたので、あとは計算ミスなどを減らしていくだけなのですが。
「違うわね」
突然に、廊下をとぼとぼと歩く心咲ちゃんに、声がかけられました。
その声は凜としていて、思わずに心咲ちゃんの背筋がぴんと伸びました。
それでも小っこいことには変わりないんですけどねー。
「違うって、どういうことだよ……楓花」
心咲ちゃんに声をかけたのは、西園寺楓花ちゃん、私立星花女子学園きっての秀才です。
わずかに微笑んだまま、楓花ちゃんは心咲ちゃんの隣までゆっくりと歩いてきます。
なんとなく、心咲ちゃんは距離を取るために後退りましたが、その分だけ楓花ちゃんは距離を詰めてきました。
「心咲が補習をクリアできていないのは、計算ミスが原因じゃないってこと」
楓花ちゃんは、発言の終わりとともに、心咲ちゃんの鼻を指でピンッと弾きます。
別に痛かったわけではないでしょうけれど、心咲ちゃんは鼻をぐしぐしとさすりました。
「……先生には、計算ミスに気をつけなきゃねって言われたぞ?」
確かに、心咲ちゃんの数学の答案はある程度埋められていて、なにも書かれていない欄はありません。
解くことができているとすれば、間違いの原因は計算途中のミスだと考えられそうですけど。
「ふふ、先生はね――」
楓花ちゃんは、心咲ちゃんの貧相な哀れみの詰まった――いや、なにも詰まっていない?――胸元に手を伸ばして。
ドキドキしている心咲ちゃんの心臓の辺りを、人差し指でトントンとたたきました。
楓花ちゃんのような豊満な胸であれば、トントンではなくプニプニ、という擬音だったかもしれませんが。
心咲ちゃんは壁なのでトントンです。
「なっ……!」
数瞬遅れて、心咲ちゃんは胸を守るように自分の身体を抱きます。
しかし、触られるような胸がないのに――いや、さっきから言い過ぎでしたね。
慎ましやかな胸でも、心咲ちゃんにとっては大切な花。
簡単に触られていいわけではないですよね、うん。
「――心咲の、心の奥まで、見られていない」
妖艶な微笑みをもって、楓花ちゃんは心咲ちゃんに言いました。
真っ赤にした顔で、楓花ちゃんを睨む心咲ちゃん。
はてさて、楓花ちゃんのアドバイスには、胸を触られるだけの価値があったのか。
後半に続くぅ。




