6-6 「お願いだ、彼女の看病を僕にさせてくれ」
ひとまずこちらまで。
キリが悪いので、なるべく早めに続きを持ってこれるように頑張ります。
話が長くなって申し訳ないが、話をユーフェミアが倒れた直後に戻そう。
オパーリアの背に乗って、アレクシオの街を眺めながら、エミールはこの時もう一度ユーフェミアに求婚するつもりでいた。
「お兄様、一般的に多くの女性にとって求婚というものは印象深いものです。
それを、婚約が撤回された場で思い付きでの求婚など、ユーフェミアにひっぱたかれてもしょうがありません。
ユーフェミアに本気だというなら、ちゃんとやり直してください」
と、鈴の鳴るような声音で妹のエミリアに叱られたのがきっかけだが、アレクシオの一番好きな景色を眺めながらの求婚は大丈夫なのかと、花祭りの前にカインに頭を下げて確認するくらいだった。
このことにカインは数秒フリーズし、「……君本物?」と確認する有様だった。
仕方がない。カインにとってエミールは性格破綻サイコパス竜野郎なのだから。
そんなわけで、空気を読んでカインはオパーリアの背に乗らず、少し離れた場所でトパリアズと一緒に2人をそっと見守っていたのだが、その場の誰もがユーフェミアが知恵熱を出してぶっ倒れると思わなかった。
誰よりも驚いたのはエミールである。
気を失ったユーフェミアを慌てて抱きとめ、何度も声をかけながら回復魔法をかけるが回復の兆しはまるで見えない。
それもそのはずだ。
ユーフェミアの症状はあくまで恋に気がついた知恵熱なのだから、回復魔法が効果的に働くわけがない。
既にユーフェミアを番と見定めているエミールにとって、これは絶望だった。
カインが見たことないほど、その表情を青くさせたエミールはオパーリアに呼び掛けて慌てて城へと戻った。
城へ着くなり、怒鳴るように侍医を呼び、何度も何度もユーフェミアに呼び掛ける様子は鬼気迫るものだったと、アレクシオの使用人達は後に語る。
髭を蓄えたアレクシオ城の侍医、ロナルドは慌ててユーフェミアを診察したのだが、目だった異常は見受けられない。
だって初恋による知恵熱なのだ。
優秀な侍医であるロナウドも、原因を知らなければお手上げである。
うんうん唸るロナウドの隣で、今にも潰れてしまいそうになっているエミールを見ながらカインは察した。
(……これ、知恵熱では?)
カインは恐る恐る、気が狂ってる様子のエミールにユーフェミアが倒れる直前の様子を聞いた。
エミールからユーフェミアが倒れる直前の語る様子を聞いて、確信する。
なるほど、容量超過だ。
恋愛偏差値ゼロのユーフェミアには恋心を自覚した瞬間のエミールの本気を受け止めきれなかったのだろう。
カインはユーフェミアに許可を取らずにそれを説明することはとてもできず、それでも侍医ロナルドに可能性の1つとして話した。
侍医ロナルドは少しだけぽかんとした後、それを踏まえてあらためて診察し、うんうんと頷いた後、エミールに「おそらく過労ですね。心の負荷と、体の疲労が弾けたのでしょう」と診断を下した。
ユーフェミアの心を最大限慮った言い方である。
エミールはその診断にかなり怪訝な顔をしたが、疲労回復の薬湯を飲ませると多少回復したのを見てその留飲を下げた。
問題はその直後に起こった。
ユーフェミアの体が冷たく冷えて、魘され始めたのだ。
ここで、侍女シルヴィアがユーフェミアの体質の事を侍医とエミールに伝えた。
エミールは、ユーフェミアが昼間に広場を凍らせるほどの魔法を展開したのを覚えているため、理解は早かった。
体質を知らなかったとはいえ、愛しい最愛にそんな目に合わせたという事を悔しさで唇をかみ、カタカタと震えるユーフェミアを抱きしめながら「僕が温める」と熱の魔法でずっと温め続けた。
早い話が添い寝であるが、本人は必死である。
後に、「あんなに必死なエミール様を見たのは初めてだった」とその場の誰もが思ったと言う。
婚約すらしていない貴族の男女が抱き合って眠るなど、本来なら許されるわけもなかった。
当初はイリアが「私が一緒に眠ります」と言ったが、ユーフェミアと同じ氷属性の魔法の使い手であるイリアは適さない。
かといって、この場にエミール以上に熱の魔法を操れる適任者がいるわけもなかった。
「絶対に変なことはしないから。
あくまで治療行為だ。
なんなら見張ってくれていい。
お願いだ、彼女の看病を僕にさせてくれ」
と、真剣な顔で言い切ったエミールの名誉のためにも、侍女シルヴィアとカインは、ユーフェミアを温めるエミールをずっと見守り続けることになった。
これが、ユーフェミアが目を覚ますまでの話だ。
この時点で、ユーフェミアが知ったら、発狂確定の大惨事である。
医療行為と言えど、未婚の淑女が衆人環視の中初恋の相手に添い寝されるなどとんでもない話であるので、イリアと侍女シルヴィア。それから侍医ロナウドとカインはユーフェミアの名誉と精神のために口を噤んだ。
なお、添い寝の事は知られていないが、エミールが献身的にユーフェミアに付き添って看病したというのが城中に広まって、「やっぱりリブレット家の男性は愛妻家ね」「ご結婚はいつになるかしら」と今までの微笑ましさに加速がかかっているらしく、ユーフェミアは既に「次代のリブレット公爵夫人のお嬢様」というのが公認になっていた。
ユーフェミアがそれらを知る日はそのうち来るのだが、全部知った後に「えみーるをころしてわたしもしぬ」と真っ赤になってプルプル震えながら、エミールの頬をつまんで泣きながら引っ張っることになることを教えておこう。




