5-19 「今日は貴方が私をお連れくださるのでは?」
エミールは分かり切ったように上機嫌だった。
ユーフェミアから手を繋いでくれるなどと、夢にも思ってなかったのだ。
柔らかな小さな手が、エミールの大きな手を必死に握って歩いてくれるという事実に、死にそうなほどに喜びを感じていた。
一方ユーフェミアは、早くあそこから離れたくて仕方がなかった。
ひっぱたいてやろうとも思ったが、ひっぱたいたらエミールは喜んでしまうし、人目が多い。
このあたりで有名人だと言うエミールの頬を、あんな公衆の面前でひっぱたくわけにはいかないと、ユーフェミアの理性が諸々の衝動を押しとどめたのだ。
正直、そこでひっぱたいたところで余り状況は変わらなかったが。
なんせまだカレーを食べてないのだ。
ここまできたら、カレーを食べるまでは帰れない。
勢いと衝動に任せてユーフェミアが歩いていると、エミールはその小さな手を握り返して「ねぇ、ユーフェミア」と名を呼んだ。
「ねぇ、どこまで行くの? ユーフェミア」
「その名で呼ばないでください!」
「ん、ごめん。そうだね、今日の君はユフィだ」
言いながら、エミールはちゃっかりと手を握りなおす。
ユーフェミアはむっつりとしながらも抵抗しなかった。
恋人同士のように指を絡めなおされても、ユーフェミアは最早うんざりとした表情をするだけである。
はっきり言って、ユーフェミアは諦めた。
変に抵抗したら余計に酷いことになるだけだと学習したのだ。
じと目でもエミールを睨んでも、浮かれているエミールはにこにこと花を飛ばしているだけである。
ユーフェミアの手に負えない。負えるわけがない。
それなら今は諦めて、後程絶対にぎゃふんと言わせてやるのだと、ユーフェミアは虎視眈々と狙うことにしたのだ。虎だけに。
それでも舐められた手が不快だったので、エミールには魔法で水を出すことを要求した。
「何故?」と問われて、はっきりと「貴方に舐められた手が不衛生で不快だからです」と告げれば、エミールはきょとんとした顔をしてから、しょんぼりと眉根を下げる。
そんな顔をするくらいなら最初からやらなければいいのにと思うが、わざわざ少し温めて水を出して、それから風の魔法で乾燥までしてくれたのでそれ以上文句は言うまい。
「で、ユフィ。行きたいところでもあるの?」
「カレー以外は分かりかねます。そもそも、今日は貴方が私をお連れくださるのでは?」
つっけんどんにそう言えば、エミールは「そうだったそうだった」と嬉しそうに笑う。
「それじゃぁ、カレーを食べる前にこっちに来てもらっていい? このあたりは商業ギルドの管轄なんだよ。君の好きそうな雑貨がいっぱいあるから紹介したいな」
コテンと首を傾げたエミールを見て、ユーフェミアはムッとしながら絡めなおされた手を握る。
聡い皆様はお気づきだろうが、エミールは先ほどと同じ手法を使って、今度は商業ギルド長の所にユーフェミアを連れて行くつもりだった。
まんまと連れていかれたユーフェミアが、その髪に求婚の際に贈る品と気がつかずに魔力花の結晶花の髪飾りを飾ることになるのは、これからわずか30分後の事である。




