5-14 「お姉様は騎竜士なのですか?」
エミールにつれられて、ユーフェミアが続いて訪れたのは、山盛りのフルーツの屋台だった。
色とりどりの旬のフルーツを乗せた屋台は、遠目に見ても花売りの屋台と同じくらい華やかだ。
メロンのような瓜に、リンゴに桃。ベリー系の木の実にたくさんの柑橘類が積まれていて、ユーフェミアは感嘆の声をあげそうになる。
「やぁ、エミールじゃないか」
「こんにちは、今年も美味しそうな果物をたくさん仕入れてきたんだね」
「あぁ、春祭りは稼ぎ時だからね。……そちらのお嬢さんは……なるほどね」
店頭にいた妙齢の女性は、ユーフェミアを見ると優しく目を細めた。
細身でありながら、出ることころはしっかりと出ているが、決してか弱いという女性ではない。少し日焼けした肌は健康的で、切れ長の瞳からは芯の強さを思わせる素敵な女性だとユーフェミアは認識する。
ユーフェミアは全く気がつかないことだが、女性もまた、ユーフェミアを不躾にならないように観察しているようだった。もう既に花売りのおじさんの前でのやり取りを見た人から噂が広がっているのだろう。
あのエミールが女連れというだけで、アレクシオの民にとってはトップニュースなのだろうから仕方ないが、ユーフェミアにとっては災難でしかないのかもしれない。
そんなのはどうでもいいとばかりに、エミールは果物売りの女性に「今回のおすすめは?」と尋ねた。果物売りの女性は「そうさね」と言いながら小さな籠に果物をいくつか選んで乗せてくれる。
「今年もやっぱり、うちのキングスベリーがおすすめだよ。今が一番新鮮さ。もうじき、今朝の摘みたてが来るからね」
「摘みたてを? キングスベリーは内陸のキングス地方の名産のはず……王都でさえ馬車で5日はかかると思いますが?」
「おや、お嬢さんは博識だね! そりゃ、本当ならそうなんだけどねぇ、アレクシオには騎竜様がいるだろう? だから騎竜様にお願いしてばびゅっとね! 騎竜様なら空飛んでくれるから早いさね!」
「騎竜様に?! お姉様は騎竜士なのですか?」
騎竜士、というのは騎竜を扱う者たちの総称だと、ユーフェミアはアレクシオに訪れて学んだ。
エミールの弟のブライアンは騎竜隊の竜騎士だが、それはあくまで名誉あるディシャール王国近衛騎士団の騎竜隊の騎士に与えられる称号で、騎竜士は騎士に限らず騎竜と心を通わせた者を一様にそう呼ぶとアレクシオではされているらしい。
ユーフェミアがそう尋ねると、果物売りの女性は「はははは」と豪快に歯を見せて笑った。
社交界では絶対に見られないその笑顔に、ユーフェミアが面を食らったような顔をさせると「お嬢さん、勉強はしてくれているみたいだがアレクシオは初めてだね?」と、さっきとは打って変わった意地悪な瞳でユーフェミアを見つめてくる。
「騎竜士なんて大層なもんじゃないさ。この街の人間はね、大抵騎竜様の友人なんだよ」
「友人?」
「あぁ、噂をしてたらトパリアズ様が帰ってきたみたいだね」
果物売りの女性はそう言ってにこりと微笑みながら空を見上げた。
すると、ユーフェミアが空を見上げるよりも早く、大きな影が市場に現れる。
ゆっくりと見上げた先には、黄玉色の騎竜が一頭、翼をはためかせて様子を窺っていた。首から大きな箱のようなものを下げている他は、鞍も何もつけていない野生の騎竜に見えた。




