5-11 「僕、その辺の商家の息子って思われてるんだよ」
帽子に花飾りをつけてもらったユーフェミアはとても上機嫌だった。
耳元で揺れる藤の花と、その他にもつけてもらった花の香りがユーフェミアの心を落ち着かせてくれているのか、祭りの喧騒がもう少しも怖いと思わない。
「帽子って、こういう用途だったんですね」
「そう、この国では異性の髪に触れるのは禁忌でしょう? だからこうやって帽子に花を飾るのさ」
春の花祭りに限らず、アレクシオの花祭りではこうして帽子に花を飾るのが、祭り参加者の証らしい。季節によってそれぞれの旬の花を飾り、花竜に食べてもらうと縁起がよいとされているので、花祭りのマストアイテムらしく、よくよく見れば屋台にはそう言った帽子を扱う帽子屋も数多く出店しているのが見える。
なるほどとユーフェミアは色々なことに納得する。
どうりで、頼んだ次の日に帽子が出来上がってくるわけだ。最初からこれを見越してエミールは帽子を発注していたのだろう。
「それで、エミール様はどういう設定になってるんですか? 仮の名とかは使ってないようですけど」
花売りのおじさんは、エミールの事を普通にエミールと呼んだ。
偽名を一切使ってないその様子に疑問をもったユーフェミアが問うと、エミールはさも当然のように「あぁ、あれね。僕、その辺の商家の息子って思われてるんだよ」と言い出す。
「エミールなんて、ありきたりな名前だからね。その辺にいっぱいいるから、無理に偽名を使うことないんだよ。あ、でもユフィ。僕の事を様付けはしないでほしいな、ぼくそんなに高貴な商家の子って思われたい訳じゃないから」
という、エミールの言葉にユーフェミアは納得したように頷いた。
先ほど、エミールをエミールと呼んだのはファインプレーだったようだと、心の中でそっと自分を褒める。
と、ユーフェミアが思ってる後ろで、カインは「こいつほんとすげぇな」と、ドン引きチベスナ顔になっていた。
キリの問題で短いですが、次をすぐあげてます。




