幕間 37回目の生存戦略にまつわる話
*残酷な表現があります
予告通りの幕間なります。
幕間は別連載(完結済み)していた、36回目の生存戦略のその後、どうなったかについてがっつり触れています。
前話あとがきから、重ねて記載しますが、36回目の生存戦略を読む予定がある方は、ネタバレでしかないので回避していただければと思いますし、冗談じゃありませんわの本編にはそこまで拘わらない部分なので、興味が無ければスルーで大丈夫です。
また、こちらは36回目の生存戦略をハッピーエンドで終わらせたい方にはお勧めしない鬱展開です。
「他に何か聞きたいことない?
今なら何でも答えちゃうよ!」
カインは尻尾をパタパタと振ってそう言った。
ユーフェミアは目を瞑って考えるが、気になることは一つしか思い浮かばない。
「なんでも?
……うーん、貴方が言う100年後に何が待っているのかは気になりますけど、それはさすがに教えてはくれないでしょう?」
「あ、気になる? うーん……まぁ、信じなくてもいいんだけどね。
いいよ、教えてあげる」
そう言ってカインは意地悪そうに微笑んだ。
ほんの少しだけ、ぞくりとした感触がユーフェミアの背を撫でる。
「僕、人生3回目って言ったでしょう?
最初の人生は日本で80年生きて大往生したパティシエ経験のあるオタクのおばあちゃんだったんだけど、2回目の人生はね、今のこの世界とは別の……パラレルワールド的なとこで宰相の息子してたの。
親友は王子様でね、仲よくなった先輩は絵にかいたような筋肉馬鹿だったんだけど騎士団長の息子で、王子様にはとても美しい……けれど生まれにちょっと曰くがあった婚約者がいたんだ。
僕の知るその婚約者さんは、すごく綺麗で、次期王太子妃になるために凄く一杯努力してた。
でもがんばりすぎて、笑顔を無くしてしまって、王子様はそれに気が付かず、むしろ笑ってくれないことを不満に思って……、そんな時に婚約者さんの美しい異父妹に惹かれてしまって、結局婚約破棄しちゃったんだ。
まぁ、平たく言って最低だよね。
僕もあいつも。それは十分わかってる。
婚約者さんはそれを悲しそうに受け入れて、パーティーに出ずに帰ったんだけどね、帰り道に事故に遭って……そのまま亡くなったと聞かされた。
王子様も、先輩も、妹も、……僕も、みんなショックを受けた。
そりゃあさ、昨日まで会ってた人だし、当時僕らは学生だったんだもの。ショックに決まってるさ。
酷いことをした罰が当たったんだ……って思った。
加害者の僕らを罰してくれたらいいのに、なんで彼女をって。
それすらも傲慢だったけど……、当時の僕らは本当にそう思ったんだ。
でも真実はもっと非情だった。
1年経って、死体も見つからなかった婚約者さんの死体がね……。
出てきたんだ……。
どこからだと思う?
彼女の実家の公爵家の隠し塔から、1年前に死んだ姿じゃなくて、もっといっぱい酷いことをされて……つい昨日惨殺されたような姿でね。
彼女は生きていたんだよ。
1年間ずっと、酷い理由から実家に捕らえられて、酷いことをいっぱいされた末に死んじゃった。
その頃には、王子様は婚約者さんが頑張ってたことを全部知っててね、妹も婚約者さんの事大好きだったって気が付いて後悔してたから、余計にショックは計り知れなくて……、「1年前のあの日に戻れたら」って願ったんだ。
ユーフェミアは、きっと……馬鹿なことをって思うでしょう?
うん、僕だって思うよ。
一方的に婚約を破棄して、失ってから気が付いたって遅いってね。
失う覚悟も何もなかったくせに、傷つけた末に失って、悲観にくれるなんて自業自得。
都合がいいまやかしだって。
でも、王子様と妹は、僕の先代の創造主代理から、チャンスを貰ったんだ。
死んだ彼女の為だなんて言わない、言えやしない。
元の関係に戻れなくたって構わない、ただひたすら拒絶されてもいいから、失った彼女が生きる未来がこの手につかめるならって。
その創造主代理はね、僕にはない力を持っていたんだよ。
時間を巻き戻してやり直す力を。
王子様と妹は、婚約者さんを救うために何度も頑張った。
何度も何度も失って、死なせて、辛くて、苦しくて、それでも諦めたくなくて。
僕がそれに巻き込まれたのは、結局35回目だった。
35回繰り返すまで、僕は2人が頑張ってることを知らずにいたんだ。
何度も何度も失い続けて、2人はもう限界だった。
そんな限界だった2人に、僕は「35回目は諦めて、36回目に救おう」って言ったんだ。
とても残酷だったのは分かってる。
分かってたけど、それしか方法が無かった。
僕たちには、情報が必要だったから。
35回目の婚約者さんを見殺しにして、僕らは36回目に辿り着いた。
辿り着いた先で僕らはようやく、ようやく彼女を救ったんだよ。
いや、救ったって思ってた。
救えたはずだった。
世界が、運命が、あんなに残酷だったなんて思わなかった。
彼女を狙う色々なものと戦って、35回目を捨ててようやく辿り着いた世界で、婚約者さんが何度も死んだ運命のあの日……、あの日を乗り越えてようやく幸せになれるって思ったあの日に、婚約者さんは……
婚約者さんは魔女になった。
災厄と絶望の魔女に。
僕達は……僕達ね、騙されていたんだ。
あのうさぎのような姿をした創造主代理に。
元々ね、婚約者さんは聖女だったんだ。
世界の幸福度を測る標という名の聖女。
なんか、創造主たちの間にそういうシステムがあるんだって。
だから、聖女である彼女は幸福に生きて、幸福に死ぬ義務があった。
でもそれは果たされなかった。
だからあいつは、巻き戻した。
ただ淡々と、それが義務であるかのように。
……普通に考えてさ、創造主代理が一番最初に王子と妹を時間遡行させると思う?
王子と妹が1年分時間遡行した36回。
それよりも前に、婚約者さん自身が運命を変えようと100回、17年っていう自分の人生を繰りかえしてたんだ。
そもそもね、最初から間違ってたんだ。
僕達はあの畜生に「聖女が生きて、子孫を残さないと、100年後に世界が滅亡する。魔王となった創造主が世界を壊すから、聖女の運命を変えてほしい」て言われた。
それは確かに間違ってなかった。
でも、前段階が違ったんだよ。
そもそも、創造主が聖女に代理を遣わせて、本来の運命を捻じ曲げたんだ。
王子の妹に生まれて王女として生きる、最初にあったはずの運命を。
そもそも、最初の1回目の王女の運命がクソ過ぎたんだけどさ、創造主はそこをやり直すために「王女は死産した」っていう運命に変えてしまった。
そのせいで、聖女の魂には死ぬはずだった王女の人格と、次の生で王子の婚約者となった婚約者さんの人格の二つが混在してしまった。
そうして、婚約者さんが自分の人生を何度も何度もやり直すうちに、王女の人格は時限爆弾に火薬をストックしていくように、負の感情を増やしていったんだ……。
婚約者さんが、100度繰り返して、結局どうにもならない人生に絶望して心折れたその時、爆弾は爆発した。
魔女の絶望は強くて、それまでずっと正気だった創造主を狂わせて、100年後の魔王に仕立て上げてから、魔女は自分の心臓を魔王に捧げた。
その時の畜生……創造主の代理は、もっとこう合理主義というか機械みたいに物を考えるやつだった。
そもそも創造主の代理には心がないって言ったでしょ。あいつは僕みたいに演技をしようって思ってないから、もっと機械みたいに考えてたんだよ。
でね、このままじゃ運命を変えられないって思った畜生は、そこではじめて王子様と妹を巻き込んだんだ。
真実を巧妙に隠してね。
婚約者さんは、36回目の世界で幸せになれるはずだった。
でも、135回繰り返した分の婚約者さんが作り上げた負の感情と、王子様たちが35回繰り返した負の感情に勝てなかった。
魔女に覚醒した婚約者さんの中にいた王女の……魔女の人格は、稀代の悪役令嬢として世界を滅ぼそうとしたんだ。
そんな僕らを救ったのもまた彼女だった。
最後の力を振り絞って、自分の中で暴れる魔女を止めた婚約者さんは、僕らの目の前でね、全部止めるために自害した。
ボロボロに泣きながら、この1年、ずっと守り続けたいと願っていた笑顔を浮かべて「うまれてきてごめんなさい」って言って、自分の心臓を剣で一刺ししてね。
気が狂えたらどんなに楽だったかってくらい、辛くて、悲しくて、苦しかった。
助けたかった、守りたかった、これが絶望なんだって思い知らされた。
それでも立ち上がったのは、あんな言葉をもう2度と言わせないためだった。
こんな思いをするのは、36度目の僕達で十分だって思ったから。
1年なんて短い時間じゃ何も変わらなかった。
だから、もっとずっと……最初の運命がねじ曲がった先、せめて王子様が婚約者さんと出会ったあの日まで時間を遡るために、僕達は後始末と下準備をした。
36回目の世界で狂わずにいた創造主をこちら側に引き込んでいたからね……、割とうまくいったんだよ。
彼女の妹は、いずれ生まれ来る狂った魔王を止める楔になるために、その魂に魔女が残した負の感情をまとわせて「100年後に会いましょう」って、100年後の魔王の素がいる狭間の世界に行っちゃった。
僕は異世界の記憶と、今まで培ってきた情報という記憶を全部未来に届けるために、創造主の代理になるために魂を創造主に渡した。
人間であることをやめてね。
王子様は、畜生の力を全て使って37回目の世界に、たった一人で、今度こそ婚約者さんを救うために旅立っていった。
後のことは分かんない。
僕は、ずっと、ずうっと眠っていたからね。
あっ、でもね
僕がエミールに召喚された20年前。
この世界の歴史をすぐに調べたんだよ。
本の記録でしか知ることができなかったけど、37回目の世界の2人の顛末をね。
37回目の世界で、王子様は婚約者と末永く仲良く暮らしたそうだよ。
災厄の魔女が覚醒したなんて記述はどこにもなかった。国も、公爵家も何もかも、あのころと変わらずここにあったから歴史の闇に葬られたりなんてしてない。
この世界は平和そのものだった!
37回目の僕も凄く、……凄く幸せそうだった。
とんでもない黒歴史本いっぱい残してたのはとても腹が立つけど、僕は……37回目の俺が、好きな人と結婚して幸せになって、おじいちゃんになるまで生きてくれたのが、本当に嬉しい……嬉しいんだ。
だからね、だからね。
僕はね、だいぶ早く召還されてしまったけれど、なんとしてもこの37回目の世界を守り切って、ディアナに……魔王のとこにいる僕が愛した彼女に会いたいんだ。
それまで死ぬわけにはいかないし、消えてしまうわけにもいかない。
あともうちょっとだからね……眠るのも面倒だからエミールに付き合って、ここで司書してるの」
「なんてね」と、カインは笑った。
それを聞いて、ユーフェミアはとんだホラーを聞いてしまったような気がして肩をすくめる。
「それ、どこまで真実なのかしら」
「さぁ? フェイクが入ってるかもしれないし、全部本当かもしれない。
僕には心がないからね。平気で騙すかもしれないよ」
ニヤリと笑うカインに、ユーフェミアもニヤリと笑う。
結局、それが真実かどうかはユーフェミアにとってはどうでもよかった。
ただ、新しくできた小さな友人が、もし自分の力を必要とするなら、その時は友人として力を貸そうと思うことにした。




