第六話 入国
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午前6時半。
季節で言えば、春なのだがこの世界の朝は冬も夏も関係なく朝日が昇るのが早い。
太陽が昇る方向と同じ東にある門から入ると早朝だとは思えないほど真上まで登り、ほとんど影が真下に映っている。そうであれば、夜が長いのかと思うかもしれないがそうでもない。
時間軸は前世の時にいた地球とさほど変わらず二十四時間だ。
しかし、この世界の星は時間帯によって回るスピードが違うのだ。
時間で表すなら朝が一時間、夜が八時間、そして昼と呼ばれる太陽が真上にある時間はなんと十五時間である。
よって、今だから言うがジャックが「いい朝」と言って日の出を見ていたのは四時である。
これは、人間界より東にある鬼とオークの国だからこそ見られる現象なわけだが。
どのような法則でこうなっているのかは知らないが、この時間のブレに慣れるにはかなりの時間がかかった。
ちなみにこの世界の朝は約5時から6時の一時間で太陽が上り、20時から21時の一時間で沈む。
面倒な入国手続きも終え、やっとの思いで入ることのできたこのルノアール王国は、さっき遠くから見えた通り外壁に守られている円型の王国だ。
東西南北に門が設置されていて方向一つ一つに都市がある。
西にある『フィルファン』
南にある『エゴ・ルカ』
北にある『ルノアール学院都市』
東にある『クルンコーン』
そして、高らかと盛られた山の中央にある大きな城の周りを一周するように位置づけられている『クロツェフ王都』の五つでこの国は出来ている。
国自体を自分の足で一周するには一日では足りない位に広いらしい。故に、国の中でも鉄道は更に枝分かれして、全ての都市に行けるようになっていた。
この国のことはこれぐらいにして、私が今いるのはこの国の東にある『クルンコーン』の更に東にある門の前だ。
国の端だからそれほど混んでいないだろうと思っていたが、予想は外れ、入り口から見渡せるまでの奥の方まで人が闊歩していた。人目を心配した私は一度グラルを目立たない空にいてくれと頼んだ。
いや、よく見てみると人だけじゃない、頭に耳の生えたウルフに耳の長いエルフ、大きな体に豚の顔のオークもいた。
「これはこれは。異世界とはいえ、驚きを隠せませんねぇ。」
前の世界ではこのような存在達の事をUMA、または亜人と言って伝説上の生き物だと思っていたが、こう目の前に現れるとやはり唖然とする。
だが、それ以前に私自身がそれらの存在の一人だと思うと意外と受け入れられるものだ。
しかし、それ以外は何ら変わらない魚屋に肉屋、服屋に居酒屋、公園などの広場などといった『街』という名前に似合った風景が視界に映っている。
この世界で初めての都会や他種族、人間というものを目にし呆気に取られている私の背中に重たらしい二つの感触と耳元に生暖かい風が襲った。
「やぁやぁ、可愛い私の甥っ子や。そんなにも無防備なんて頬にキスをしてくれと言っているようなものよ?」
『ちゅ』っと私の頬からふしだらな音を鳴らし離れていくのは柔らかな唇だった。
「お久しぶりです。おば様。」
「おっひさ~!」
髪を一本にまとめ、目元はパッチリと、多くの男の目を釘付けさせること間違いなしに大きく開かれた胸元、何より見た目が、二十歳代と言っても頷けるこの美貌と小悪魔的魅力を醸し出している歯。最早この人の存在自体が詐欺というものだ。
カトレア・ピーターという名前のこの女性は私の母の姉であり、私の叔母にあたる人物だ。一応言うが、この人も鬼人である。
私と同じで、人間界に興味のある鬼達は人間に気付かれないように目立たずひっそりと人間たちと共存しているらしい。その数は定かではないが、おば様もその一人である。
「本当に小さい頃に会ったぶりだね。あれは君が三歳の時だったかな?」
「はい、あの時は母様の誕生日だったか何かで。」
「あーそうだった、そうだった。あん時の君はこんっなに!小さくて可愛かったのに今ではもう立派な大人のおっ、じゃなくて人間だね!」
人間界に住むことがほとんどになっているおば様は私の事をあと少しで鬼と言ってしまう大失態を犯すところだったが、何とか言葉を飲み込み耐えきった。
更にそれを隠すようにおば様は「ま、まぁ」と続けた。
「そんなことよりも学校があるんだったね。今からルノアール学院都市の中にある私の寮へ連れてってやるからついておいで。」
ジト目で見る私の目線から逃げるように体を方向転換させたおば様は、ルノアール王国内に枝分かれしている鉄道の駅に向かって歩き出した。
「あ、そうそう。」
何かを思い出したおば様は私の方に体を『クルリ』と回して。
「ようこそ、ジャック・ピーター。ルノアール王国へ!」
太陽に負けないくらいの笑顔がそこにはあった。
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