第五話 妖精女王と鬼人。ついでに鳥
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とある森の中。
人のいない森ほど神秘的な場合は無く、危険に思える熊がそこにいたとしても、優しい動物に見えてしまう。
鳥のさえずり、川のせせらぎ、風の声。その森はいつも変わらなず、落ち着いた空間を作り上げていた。
そこに鳥の家族はいた。
母鳥は飛べぬ小鳥にいつものようにミミズや木の実といった物を咀嚼し小鳥の喉に流し込む。今日も平和だと思った瞬間。
『ドォォン!』
巣を作っていた木が大きく揺れ、落ちないように翼で巣を抑えた母鳥は、一瞬にして通り過ぎた影に鳴き声で威嚇するのだった。
「ん?何か聞こえたような。まぁ、気のせいでしょう。」
鬼の里を出て二時間ほどのこと。鍛え続けた体は伊達ではなく、常に出しているトップスピードも維持し続けていた。
約時速80キロといった車とほぼ同じくらいのスピードで森を駆け抜けていく。
(んー、それにしてもやはり遠いいですねぇ。)
本来、人間界の国に行くにはいくつかの方法はあった。一つは電車。
鬼の里から少し離れた場所にオークの王国が存在している。
人間たちとの『お手繋いで仲良し同盟』を今もなお健在な国には人間界に繋がっている鉄道が敷かれていて、鬼の力に戻ればそこまで行くのにさほど時間はかからない。
けれど、そこには大きな問題があった。
それは、国に入る時にいる入国許可証だ。
さっきも言ったが、オークの王国と鬼の里はそれほど離れていない。
里が近い分、警戒心の強い彼らは常に鬼の存在を警戒している。
だからこそオークの王国には入る時同種以外の者には鬼でない事と鬼を敵として見ているという証拠が必要だった。
勿論、そんな物は無いので諦めたが。
『止まりなさい。』
「ん?」
突然かけられた声に反応した私は、かかとで地面を削りながら止まる。
「誰ですか?」
『それはこちらのセリフです。鳥達がとても速いスピードで森を滑走しながら荒らしている者がいると聞いて見てみれば、鬼の子供ではありませんか。』
恥ずかしいことに自分が鬼の姿のままだと分かったのは、女性のような声が森全体を通して耳に入ってからだった。
そして、それと同時に脳裏を過ったのはこの世界での鬼の扱いだった。
「私が鬼でも何とも思わないのですか?」
私は、自分が鬼であることを再確認するように生えている蒼い角をそっと撫でる。
『私達をあまり人間と一緒にしないでください。それに私達は人間と共存こそしてはいますが、人類他種族共存政策に入っている訳ではありません。』
「そうですか。まぁ、それはそれとして、人と話す時は最低限のマナーとして姿を見せなさい。」
マナーのなっていない謎の存在に私は説教をするように森全体に言う。
すると、少し間が空いたと思ったら、『ふふ。』っと笑った。
『鬼にもあなたのような変わった者もいるのですね。』
「変わっているとは失礼な。それで?姿を見せるのですか?見せないのですか?」
『失礼しました。今からそちらに行きます。』
その瞬間、突然静かだった森が騒ぎだし、木々が風で揺れ動いて、地面に落ちている葉が柱を作るように回転しながら舞い上がる。
回転しながら舞い上がる落ち葉は、上から次第に落ちていきカーテンを開けるように姿を現した。
「ごきげんよう。私は森の妖精女王レイラというものです。」
「やっと姿を現しましたか。知っての通り私は鬼種族の青鬼。名前をジャック・ピーターといいます。以後お見知りおきを。」
「やっぱり、あなた変わっているわ。」
人の挨拶に失礼極まりなく笑う妖精女王のレイラさんは、森にとても合った緑の長い髪に、白いドレスと茶色いブーツ。
青く澄んだ瞳には川のせせらぎの様なものを連想させる。
そんなとても綺麗な女性だった。
『妖精』
森や海、空にも存在していると言われている幻の存在。
その姿を現すことは滅多になく、その領域の守護者や管理人などとも言われている。
存在自体を確認されたのは昔鬼達が人間の世界を滅ぼそうとした時に森を燃やそうとした。
そんな鬼達に激怒した妖精達は鬼を容赦なく殺し、人間側に味方をしたと勘違いした人間たちが勝手に拝み始めたのが始まりなのだとか。
「里にあった本にもあなた達、妖精のことは記録されていますが、本来敵同士ということでは?」
「もう、何千年も前の事ですよ。しかも、私達が怒っていたのは今の鬼ではなく、昔の鬼ですしね。それよりも、そんな昔のことを知っているのなら、あなたこそ私に殺意なるものを向けないのですか?私はこう見えてあの時の鬼達を殺した妖精の一人ですよ?」
「歴史に興味はありますが、その時の当事者はどうでもいいですねぇ。特に殺しに関しては私の先祖も多くの命を奪ったわけですし?その人達が誰に殺されようと知ったことではありませんよ。」
「冷たいのか、立派な考え方なのか分からない考え方ですね。」
前世が人殺しだったこともあってか、そう言った感情は私にはよく分からない。
戦争で殺すことがあれば、殺されるなど当たり前の 出来事だ。私の場合、罪の無い人を快楽のために殺したのだから死刑になるのは小さなお子さまにも分かる。
その私の考えをレイラさんは苦笑いした。
「ところで、ジャックさんはこれから何処に向かわれるのですか?」
「人間界のルノアール王国にあるルノアール学院都市に。新入生として。」
「まぁ!それはそれは!」
人間界に向かっていることを知らせた途端レイラさんは嬉しそうに顔を光らせて手を顔の横で「パン」と叩いた。
「私の娘もルノアール学院の生徒なのですよ!?なんという運命のイタズラでしょうか!もし、あの子と学院で会うことがあれば是非とも仲良くしてあげてくださいね!」
「はぁ。」
目を血走させながら顔を近くまで寄せてくるレイラさんに若干引きながら私は思わず承諾してしまった。
「でしたら!早く行きませんと遅刻してしまいますよ!」
「では、ここからどのように行けば最短なのか教えてもらってもいいですか?」
「この筋を真っ直ぐに向かって走って下さい。そうすれば、いずれルノアール王国が見えるはずです。それでも分からなければ困るのでこの子を同伴させましょう。」
「パチン」と指を鳴らすと何処から音もなく、一匹の小鳥がレイラさんの指に止まりチチチと鳴いた。
小鳥の額におでこを付けて「この人を頼みます。」と一言かけると何もかもを理解したように小鳥はレイラさんが指差した方向に勢いよく飛んでいった。
「これでいいでしょう。あと、行く前に。スピードを出すのはいいのですが、出来るだけあの子達を驚かせない程度で頼みます。」
最後に忠告をしたレイラさんと別れを告げて、忠告通りトップスピードよりも少し手を抜いた走りで飛んでいる小鳥をおった。
それからのことだ、大きな森を抜けたある道である音が響いた。
『ブォォォォォォン!』
小さく見える遥かに私より速い鉄の塊が走っていた。鬼や加盟国でない者達では乗れないと言う列車だ。
そういうことならば、と私は好奇心に満ち溢れ輝いた目を列車の行く前の方へ動かすとそこには外壁で囲まれた大きな都市があった。
何年も待ち焦がれていた世界がもう目と鼻の先に。
(あれが、あれが!)
「あれが人間界だ。」
私が心の中で言おうとしていたことを誰かに取られ、驚いた私はその声の主を首を捻って探すが見当たらない。
「誰ですか!?また、レイラさんですか!?」
走りながら声を張ると返答はすぐに返ってきた。
「俺だ。」
横を見てみると、そこには一匹の鳥がいた。大きさ的に言えば小鳥だが。
「あ、あなた喋られたのですか!?」
「ん?ああ、俺の名前はグラル。これから、よろしくなジャック。」
私の横を平行移動しながら衝撃的発表をした小鳥のグラルは、何食わぬ顔で元いた高さまで上がっていきルノアール王国に向かって再び飛び出す。
(この世界にはまだまだ知らないことで一杯ですねぇ。)
と、期待に満ちた顔の私はグラルさんを追うようにルノアール王国に入国していくのだった。
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