第35話「閉幕。そして開幕を待つ」
進藤心が目を覚ましたは、DDとの対決の決着がついて3時間後のことだった。気を失っている間に打撃を受けた頭の精密検査が行われ、気づいたときには入院服を着せられていた。
「あ…よう。」
気づいたときアクツ、サユリ、サキ、葛西、火口、曽我の安心した顔がそこにあった。アクツは頭に包帯が巻かれていたが無事のようだ。サユリとサキは変わった様子はない。葛西は相変わらずアロハシャツ、葛西と火口は疲れ切った顔をしている。
「よう、じゃねーよ!」
気の抜けた挨拶をしたココロにアクツが突っ込む。
「みんな無事だったんだ。よかった。」
「ココロよりずっと無事だよ!」
サキも思わず声を張った。サキの目にはうっすらと涙が浮かぶ。
「ココロ。よくやってくれた。
新見加奈子がDDだったのは驚きだが…逮捕できたのはお前のおかげだ。」
という火口に曽我も頷いた。しかし2人の表情にどこか曇りが隠れていたのはココロは分かった。
「新見さんは…?」
ココロがもう一つ気がかりだったことは、新見が乗っていた車を運転していたのが安嶋だったことだった。
「そのことなんだが…。さっき屑丘警察署から連絡があってな。」
そういうと火口が俯いたまま
「死んだよ。自殺だそうだ。
彼女も救急車でこの病院に運ばれたんだが…検査を受ける前に持っていた薬を飲んで自殺したそうだ…。」
火口は悔しそうに拳を握りしめた。刑事として自分を責めているのだろう。
「違う…。新見さんは殺されたんだ…」
ココロは呟いた。シーツをぎゅっと握りしめる。
「和田さんから聞いたよ。安嶋が車に乗っていたんだろ?
しかし車のハンドルからは彼の指紋はでなかったそうだ。」
「安嶋だけじゃない。あいつだ。」
「犬養か…しかし証拠が…」
曽我が表情を曇らせた。
「新見さんは俺を殺す前にサユリを誘拐しようした。これは絶対に犬養の指示だ。探せば絶対に犬養と新見さんのつながりを示す証拠が出てくるはずなんだ。」
ココロは火口と曽我の刑事二人に頼み込むように言った。
「なるほどなぁ。しかし今、犬養への捜査は不動さんを含む上層部が担当しててね。今は手出しし辛い状況なんだよ。」
ココロは黙って悔しそうに拳を握りしめた。
「あ…そうだ!」
突然ココロの表情が明るくなる。
「300万!!」
そもそもの目的を今になって思い出したココロが叫んだ。
「あ!」
葛西や曽我、火口も察したようでお互いの顔を見合わせていた。
「被疑者は死亡したけど、逮捕に貢献したんだから、300万もらえるんだろ?」
「それが目的だったのか。」
火口が呆れたような声を漏らした。
「それも目的だっただよ。今の俺たちにはどうしてもその金が必要なのさ。」
落ち込んだ空気が少し柔らかくなったのがそこにいた全員がわかった。
「ありがとう。ココロ。」
サユリは目の前で笑う彼に聞こえないほどの声でつぶやいた。
「ただいま。」
不気味な笑みを浮かべなら犬養が入ったのは、屑丘警察署の副署長室、つまり不動夕子の部屋であった。
「お帰り。一。」
「ただいま。お母さん。」
そう言って犬養は不動をそっと抱きしめた。
「ありがとうね。ぼくを自由にしてくれて。」
「母が息子の願いをかなえるのは当然のことよ。とくに、あなたのような優秀な子ならね。」
不動の表情はまるで母親のようなものでなく、まるで恋人のそれであった。
「もう一つお願いがあるんだけど…聞いてくれる?」
犬養がまるで不動の瞳を飲み込むように間近で見つめた。
「なんでも言ってごらんなさい?」
屑丘警察署の正門からでかい態度で大きな男二人組がのろりと現れた。安嶋と紙袋だ。
「ハジメはママのところか?」
紙袋が被った袋を揺らしながらしゃべった。
「その言い方気持ち悪ぃからやめてくれ。ママだなんて。犬養に聞かれたら何されるかわからねぇ。」
「犬養の母親だろう。」
「あいつのことだから本物の母親かもわからねぇぞ?」
「その通りだな。」
二人は同時に苦笑いした。
「さて。安嶋。ハジメからの指示だ。
黒壁の変 第二幕を開幕する…GATEの大量確保及び撃鉄君に声をかけろ、だそうだ。」
「あいつも人使いが荒いねぇ…それに撃鉄君とはノリが合わねぇんだよなぁ。」
頭をぼりぼりと掻きながら、かったるそうな安嶋。しかしその目は今から始まるであろう何か楽しそうに爛々と輝いていた。
「第二幕が始まるとどうなる?」
紙袋は立ち止って尋ねた。
「屑丘がぶっ壊れる…ってよ。犬養が言ってた。」