第30話「真実」
和久井からのメールは意外なものだった。
そのメールによれば、堂島は「黒壁の変」の半年後に自殺したらしい。
黒壁の変の後、GATEと呼ばれるドラッグに溺れた堂島を彼の姉が引き取ったが、薬物による幻覚症状により、住んでいたアパートの最上階から飛び降りて死んだそうだ。
ココロにとって、それは意外なものだったが、衝撃はそれほどない。人の命が段々に軽くなる、嫌な感覚を覚えた。
「堂島が自殺!?」
アクツが取調べ室で大声を出した。周囲にいた火口以外の刑事が彼を睨みつける。
「あ…すいません。」
それに気づいて、すぐに謝るアクツ。
「火口さん、堂島の自殺の件、知ってましたよね?」
ココロは静かに尋ねた。
「ああ。池田が殺された後にすぐに調べた。」
「これで振り出しか…」
ココロの精神は、自分でも恐ろしくなるほどに静かだった。ただ池田が殺されたことに対し、静かな怒りが湧き上がっているのは感じた。大好きな屑丘が汚されていく感覚だった。この怒りは、犬養に対するそれに似ていた。しかしDDは奴じゃない。ココロはすぐに否定できた。
「あいつじゃない。」
思わず口にだした。
「あいつって…あいつ?」
アクツはそれに察し、返答した。
「あいつは、自分の手は汚さない。ただ…あいつの臭いがする。」
刑事たちもココロの言うあいつが誰かは検討がついていたが、無反応だった。
そしてココロは、犬養の発言を思い返していた。
「君の死んじゃったお友達に似ている。」
犬養が柊咲江を評した言葉だ。あいつは、サキを狙ってくる。ココロの中で確信があった。DDが誰だかはわからないが、犬養が裏で操っているとすると、必ず仲間を狙ってくる。だから犯行予告の写真の中にサキを混ぜた。
屑丘警察署を出るころは、すっかり日が暮れていた。警察署から延びる長い坂から、今日も元気なヘブンズドアの7色のネオンが輝く。この品のないネオンがこの町の象徴だ。
「堂島が死んでたってのは、ちょっとびびったよな。」
アクツは煙草をふかしながらつぶやいた。
「うんー。」
サキが素直に答える。
「珍しくココロの直感が外れたよな。
DDイコール堂島道理の音読みのイニシャルってのは面白いけどよ。」
アクツが発言したとき。ココロは、嫌な悪寒を覚えた。犬養一が裏で糸を引いているならば、DDという名前は堂島から来ているに違いない。しかし堂島は既に死んでいる。そして池田を殺すほどに憎んでいる人物…全くもって心当たりがない。しかし直感がココロを動かしていた。
「おい。どうしたんだよ。」
アクツがココロを不思議そうに見て言った。ココロは和久井に電話していた。
「和久さん!俺だ!」
「おー。ココロかぁ。どうした。俺の情報は…」
「堂島の姉さんの名前って分かりますか?」
和久井が何かを言う前に、遮るように心が尋ねた。
「姉?…たしか…堂島加奈子って言ったかな。あれ? おーい。 切れてる。」
和久井がそれを伝えたとき、ココロは思わず電話を切った。もう十分だったからだ。そして何も言えずに、その場で呆然としてしまった。
「どうしたの?」
といつも通りなサキ。
「サユリはどこだ…?」
震える声で尋ねるココロ。
数メートル先を歩くサユリの後ろに黒いバンが止まったところだった。
「サユリ!逃げろ!!」
ココロは叫んだ。バンの後部座席が開くと、そこには真黒なフードを被り、鉄バットを握った不気味な存在が現れる。それは堂島道理ではない。女だった。数日前に屑丘温泉大学で会った新見加奈子がそこにいた。
新見の瞳は真っ赤に充血し、口からは涎が垂れ、握りしめる鉄バットにはいくつもの血痕があった。新見はサユリの後ろでそれを振り上げた。