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第26話「情報屋・和久井」

和久井はいつもの場所、屑丘のボーリング場「ヘブンズドア」でサークルの仲間たちとともに後輩の誕生日会を開いていた。

「和久井さん、もっと飲んでくださいよ。」

後輩が注ぐ酒を気持ちよく呑んでいたが、先ほど、ココロが犬養と再会したということを聞いた時、それが少し冷めた。彼の因縁は和久井の因縁でもある。高島清助とは彼らほどではないが、ずいぶん仲良くした。彼の恋路の相談に乗ったこともある。その高島の死の真相に近づけるのならばと…様々な情報を探し出すうち自分の下には雑多な情報が集まるようになり、今じゃ屑丘ではちょっとした情報屋となっている。

情報の仕入れなんて簡単だ。自分の疑問に思った事を誰かに話してみればいい。数日後にはなんらかの情報が耳に届く。要するに大切なのは人脈だ。

そしてそんな和久井を頼ってココロたちだけでなく色んな人間がここに来る。昔好きだった女性の住所を聞きに来る者から借金取立て中のヤクザが来たことがある。ただ和久井は金は受け取らない。誰にも媚びたくはないからだ。そして情報は時に新たな情報を生む、それが高島に繋がればいいと思っている。

そして今夜、新たな情報を求めてまた人が集まってくる。

「こんばんは。」

和久井はボーリング場の端に設けられた小さな休憩場にその女性をエスコートする。美しい黒髪に切れ長の瞳、すらりと伸びた四肢が嫌でも辺りの注目を集める。

「林八千代さんですね?」

和久井はその女性を知っていた。同じ大学に通っているし…まず何より、つい先ほど彼女の話を進藤心としたばかりなのだ。

「やっぱり、私を知っているんですね?」

彼女は全てを悟ってここに来たことを和久井は気づいていたし、また彼女も和久井に気づかれていると知っていた。ココロが林八千代をDDの事で訪ねた事がきっかけで彼女は行動に出たのだろう。行動の内容も和久井には大方予想がついた。

「えぇ。まぁ…同じ大学ですし。知っていても不思議はない。あなたのような美人は特に。」

とりあえず和久井は誤魔化した。いきなり本題に入るのは苦手だった。

「いいんです。誤魔化さなくて。あなたとココロ君、そして池田直人との関係も知っています。」

しかし彼女はそんな和久井の気遣いすらも突っぱねて本題を持ち込んだ。

「ははは…。やっぱりあいつらがあなたを訪ねた事に気付いてたんですね。」

和久井は彼女の前にそっとコーヒーを差し出す。

「えぇ。元々和田さんがココロ君と仲がいいということは知ってましたし。もちろんココロ君のことも知っていました。2年前、私の元彼池田直人を殴り飛ばした人物です。」

「そして池田は逮捕された。」

和久井がそれに付け足す。林八千代が和久井を睨みつける。

「えぇ。ただ私はココロ君を恨んではいない。池田だってそのはずです…彼によって改心する道を与えられた。ただ…」

林は言葉を詰まらせた。

「ただ…?」

和久井が優しい口調で尋ねる。

「ただ彼が今どこで…何をしているのか…私には知る権利がある。

私だってあの事件の被害者です。

あの事件で私は池田のせいで逮捕されて、取調べを受けた…。」

人が一人死んだ上でまだ被害者面とは…和久井は文句の一つも言いたかったがそこは堪えた。和久井自身、彼女が逮捕された理由を知っていた。彼女は池田と一緒に薬物をやっていた。

「いいでしょう。私の手元には池田直人の住所と仕事先がある。行ってみますか?」

和久井が一枚の紙を彼女の前に差し出す。先ほどココロたちにメールしたものの原型だ。確かな筋から手に入れた情報である。

「林さん。…池田がDDだと思いますか?」

和久井は包み隠さずに林の考えの確信を突く。林は言葉に詰まったように視線を泳がせていた。しばらくの沈黙の後、

「いいえ…。彼はきっと違います。ただ…私は彼に会って確かめたい。」

林の目には不安が滲み出ていた。今にも崩れそうな、今にも泣き出しそうな表情だ。何に怯えているのか…。

直後、林の携帯が鳴る。流行の音楽が流れた。和久井に何も言わずにそれに出る。

「加奈子ちゃん?…うん。大丈夫だよ。」

友達だろうか、林八千代の眼に漂っていた不安は消えていた。

「今?…うん。わかった。」

林八千代は和久井に目を合わせることもなく、その場から消えた。


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