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第25話「ざわめき。」

鳴り響く着信音。

「どうしたの?出ないの?」

サキがどこか神妙なココロに心配そうに声をかける。

「あぁ…。」

ケータイの画面には和久井清張の文字。

「もしもし。」

どこか…心の中で何かが引っかかっている。

「よぉ!!」

そんなココロをよそに予想外に明るい和久井の声だった。

「和久さん。…どうしたんですか?」

ふだん物静かな男がこんな電話珍しい。電話の背後で何やら賑やかな騒ぎの音が聞こえる。

「あぁ悪い悪い。ちょうどお前の噂を聞いてな。

お前、犬養とやりあったらしいな。」

ココロは和久井の情報の早さに驚いた。

「もう知ってるんですか!?」

「あぁ。たまたま近くを遠いかかってたサークルの人間に聞いたんだ。

ココロ君が紙袋被った奴に投げ飛ばされてましたぁってな。

大丈夫か?」

和久井は明らかに酔っ払ったトーンだったが、声は優しかった。珍しく自分の感が外れたのだと、ココロは思わずほっとした。

「あぁ…何とかなってます。怪我とかはとくにしてません。」

「そうか。それならよかったが…お前、ちょっと明るいな。犬養にあったばかりなのに。」

和久井もココロの声でその変化を見抜いた。ココロはそれにも驚いた。

「そうですか?…それは当たってるかもしれません。」

ココロは嬉しそうにそう答えた。

「あ…ちょうどいいや。和久井さんに聞きたいことがあったんですよ。」

そして誤魔化すように和久井に話を切り出す。

「池田直人のことです。」

電話口で向こう側の音が静まる。和久井が部屋の外へ出たようだ。

「池田かぁ…懐かしいな。薬の売人ごっこやって捕まった馬鹿だろう?」

「はい。その池田が今回の事件に絡んでるかもってことがわかって…。」

ココロは話を続けた。

「まず池田が刑務所から出てるのかどうか…ということと、林八千代って女と今もつながっているか…その二つが知りたいことです。」

ココロのこの言葉にココロの周囲も笑い話をやめて静かに耳を傾ける。

「林八千代って池田の昔の彼女か…つながっているかは知らないが…あいつはもう出てきてる。大体半年前だ…DDが現れ始めたのも…大体半年前。」

和久井の情報は大いに役立ちそうだった。ココロは思わず拳を強く握った。まずは池田を探す必要がある。

「あいつの行きそうな場所わかりますか?」

「犬養とはもう会わなくなってるらしいからな…刑務所で心を入れ替えて、今は真面目に働いているって聞いたが…職場に行ってみるか?」

「はい。」

ココロは和久井の問いに即答した。和久井はココロのケータイに池田の職場の詳細をメールする事を約束してくれた。

「順調じゃないか…。ココロ。林八千代は温泉大学だろう?ってことは火口さんかアンコウさんにでも(そそのか)されたのか?」

和久井の情報量がまたココロを驚かせる。そして最後の言葉…

「唆された…俺がですか?」

唆されるという言葉が気になった。

「いや…気のせいだといいんだけどね…。思わないか?ココロ。

うまくいき過ぎている…と。」

和久井に別れを告げて電話が切れた後…ココロは思わず言葉を詰まらせた。和久井に指摘されるまで気付かなかったのが不思議だ…DDに狙われていたのは林八千代だ。なぜか屑丘警察署は彼女の写真から彼女の名前を割り当てていた。顔写真からその人物の名前を割り当てるなど、元からその人物を知っている人間でないと不可能だ。つまり火口さんたちは気づいていたんだ…彼女が林八千代であり…池田直人とつながりがあった人物であることに。そして初めから彼らは池田がDDと関係があることに気づいていたんだ。

その事をアクツ、サキ、サユリにどんどん話していく。彼らもまた言葉を詰まらせた。そもそも火口さんたちがなぜそんな行動をとったのか理由が不可解だったし…

「そもそも林さんはお前が選んだ写真にいたんだろ?

お前が選ばなかったら俺たちは林八千代にたどりつく事はなかったはずだ。」

アクツの指摘はその通りだった。あの50枚の写真からココロが選んだ写真は10枚、ココロが林八千代を選ぶ確率は10/50だ。

「それにあれは私がココロに好きな女の子のタイプを選んでって言ったから始めたんだよね?」

サキがさらに付け足す。確率以前にあのサキの言葉で始まった。あれが始まらなければ…

「あれが始まらなければ…どうなってたんだろうな…?

あの時、俺は火口さんにDDの事が知りたくて送り付けられた写真を見せてもらった…たまたまサキの言葉が林八千代に繋がったが、もし写真を選ばなくても、ココロを林に結びつける手段はいくらでもあったはずだ。」

4人とも混乱していた。真実から遠ざかっているのか近づいているのかが分からないからだ。

「それから…もし仮に池田がDDだったとして…」

アクツの疑問はすでにココロの中でも生まれていた…彼が言おうとしていることは分かっていた。

「もし仮にDDだったとして…写真の中に林八千代のものを混ぜる意味ってあるのか…?池田は当時、薬物の使用で逮捕された。その時に調べられて林って子が火口さんらに知られているとしたら、当然、写真からすぐに身元がばれちまう。そしてそこから池田が疑われる…そりゃそうだ、出所の時期とDDの出現の時期が被ってるんだからよ。」

ココロはゆっくり頷いた。

「そうだ…そもそも池田じゃ林さんに顔知られているのに顔盗撮写真ってのはおかしな話だ。」

とココロが付け足す。ココロのケータイが短く鳴った。和久井からのメールだ。そこにいた4人がその内容に注視する。

メールの中身はこうだ。

「池田直人は現在、屑丘の隣町の工場で働いているらしい。

刑務所で心を入れ替えて真面目に働いているらしいから、そんなにグイグイ取り調べしてやるなよ?

P.S 

堂島道理については目下調べ中。

行方も全くわからない。

噂では黒壁の変の後から余計に気が狂って家から一歩も出てないらしい。」


「堂島についてはわからずか…。池田は事件と関係なさそうだなぁ…。」

ココロが肩をすくめる。様々な情報を得ながらも直接DDに繋がらない。

「確かに…池田からしたら俺らが来たらいい迷惑だろうな。」

アクツも和久井のメールには同意だった。

「今日は遅いし…いろいろ疲れた。また明日にしようぜ。」

と言ってココロは立ち上がる。

妙なざわめきが収まらない。


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