地上の話し2
ライノの迷宮があるナザ市の市長の家、市長の自室で二人の男が話しをしている。
一人は市長である、トム。
もう一人はAランク冒険者のゼノである。
『断る、何故俺がそんな面倒な事をしなくてはならん』
ゼノは何かしらトムに頼まれたらしいが、にべもなく断る。
『そう言わず頼むよ、他に頼める冒険者がいないんだ』
縋りつく様にトムは頼み込む、普段は市長としての振る舞いに気を使うが今はそんな事は気にしていない、ゼノとトムはお互い駆け出しの若造の頃からの顔見知りなのだ。
『Aランクなら他にもいるだろう、わざわざ引退間際の俺を駆り出すな』
トムから頼まれたのは、噂のリッチ、それを教会所属のSランクが討伐する際の道案内だ。
報酬は高いし、基本的に道案内だけと、話しを聞くだけなら美味しい話しだが、 もちろんそんな上手い話しではない事くらいゼノには分かっていた。
『依頼は道案内だ、ライノの迷宮に一番詳しいのはお前だろう、他のAランクはライノの迷宮に来たばかりの新参が多い、Bランクなら、詳しくてやる気のある奴もいるだろうが......』
トムは言葉を濁す。
『死ぬ...... か、サリアとアスクいい噂をあまり聞かない奴らだが、そんなに不味いのか』
『ああ、あんまり大きい声じゃ言えないがな、奴らとダンジョンに潜ったやつに死者が多いって情報がある、それもあって他のAランクの奴らは乗り気じゃないお前も含めてな、やろうてのは何も知らないBランク以下の若い奴らさ』
『教会の奴らがダンジョンで何かしてるってのか』
『そこまでは言わんが、何もないとも言えん』
苦々しく表情をトムが歪める。
ゼノの脳裏に先日話した若い冒険者の顔が浮かぶ、奴ならこの話しにすぐ飛びつくだろうな。
しかし俺には関係ない話しだ、が気分の言い話しでもない。
『つまり俺に死ねとお前は言うのか』
険しい視線でトムを睨みつける
『違う、お前の実力を信頼してるんだ無事に帰ってこれると』
トムは視線を逸らさず真っ直ぐにゼノの視線を受け止める。
トムの目は嘘をついている様には見えない、長い付き合いだ、ゼノにはそれくらいは分かった。
トムの真剣な目に古い記憶が蘇る、トムがゼノをSランクに推薦した時の事だ、あの時もトムは本気でゼノがSランクで戦える冒険者だと信じていた。
つまり全くあてにならないって事だ、俺を過大評価しすぎだ。
俺がここで危険をおかす義理も義務もない、が若者がつまらない事で命を失うのを見るのは、歳を重ねるにつれ辛く感じる様になった、俺が断れば誰かが代わりに死ぬかもしれない。
その事実を関係ないと割り切れない甘さがゼノにはあった。
『分かった、今回が最後だこれで引退するからもう二度と呼ぶなよ』
渋々ゼノは了承する。
『ああ、分かった報酬にも色をつける、引退後の仕事もゼノさえよければ紹介しよう』
『太っ腹だな』
『それほどの依頼だからな当然だ、それにお前に適任に仕事があるんだよ』
自信満々の笑みでトムは言う。
『それは楽しみだな』
あまり期待してはいないが。
『本当に恩にきる、お前の優しさにつけこむような形になってしまい、すまないが』
とむは頭が机に当たるまで下げる。
『もういい、決めたの俺だ』
その後、多少話しを詰めゼノは市長宅を後にした。
数日後
ゼノは又市長の家に向かっていた、教会の冒険者が到着したらしい、今から顔合わせに向かうのだ。
『ゼノさん!』
途中呼び止められ声のする方を向くと先日話した若者がいた。
『なんだ』
ぶっきらぼうにゼノは言葉を返す。
『聞いたぜ、リッチの討伐にいくんだろ興味ないと言っといてズルイぜ俺も行きたかったのによ』
相変わらず無駄に元気な声で若者が喚く。
『討伐するのは教会の冒険者、俺はただの道案内だ』
『そうなんか、へー道なら俺も詳しいぜ、一緒に行ける様ゼノさんから頼んじゃもらえねえか』
と馬鹿な事を若者は言い出す、一体だれの為にこんな面倒な事をしてると思ってるんだ、ゼノの内心等知るわけもないので仕方ないとはいえ、多少ムカついてしまい思わず若者の頭を叩く。
『何すんだよ』
若者は驚き不満を口にする。
『このアホめ』
ゼノは答えず悪態だけ吐いて、若者を睨みつけた。
ゼノの視線に若者はシュンとなり、それ以上何も言えなくなる。
ゼノは若者を残し歩き去る。
帰ったら、あのアホを鍛えてやるか。
トムから提示された引退後の仕事は若手の冒険者の指導と育成だ、冒険者は危険がつきものだが、それでもリスクを減らす術はある、それをゼノに教えてほしいと言う事だった。
ゼノはその仕事を受けた、現在下位ランクの怪我人、死者が多いのだ、しっかりとした知識があればそれも減るだろう、やりがいのある仕事に思えた金や栄光を追い求めるよりずっと。
市長宅に着き、部屋に通されるとトムと五人の神官がいた。
『よく来てくれたゼノ、皆様こちらが今回依頼を引き受けたAランク冒険者のゼノです』
トムが俺を教会の者共に紹介する。
ざっと五人を見る、三人は俺と同じか少し下くらいの歳の男達、落ち着いた雰囲気もありベテランだろう。
残り二人は、まだ若い男女、20歳かそこらに見える、三人より豪華な神官服に身を包み不遜な態度が傍目にもすぐ分かった、こいつらがSランクのサリアとアスクだろう。
Aランクてのは大体ベテランが多い、がSランクになるやつは大抵一気に上がる、地道にSに上がるなんての殆んどない話しだ、凡人の努力を嘲笑うかの如く簡単に上に上がっていくのがSランクの奴等だ。
そのせいもあり、力に対して精神が未熟なものも中にはいる、こいつらもそうだ強いだけのクソ餓鬼ただのクソ餓鬼なら可愛いものだか、噂が本当ならそんな可愛い気のある奴等ではないだろう。
『なんかパッとしないおっさんね、もうちょい増しなのいなかったの』
生意気そうな赤毛の女が、見下した視線を向けてくる。
こいつがサリアだろ、ムカつく発言をされるが、この程度の事は聞き流せるくらいにはゼノは歳を重ねている、若いころならそうもいかなかったろう。
『サリア様、ゼノは優秀な冒険者です、必ずやお役にたつでしょう』
トムがへり下る様にサリアを諭す。
トムも大変だ、立場があるものは大変だな、と他人事の様に思う。
『ふん、まあいいけど使えなかったら承知しないわよ』
『サリア期待なんてするだけ無駄だ弾除けになればいい方だ、サッサと終わらせてこんな辺鄙な場所から帰るぞ』
恐らくアスクだろう、サリアに負けず生意気なクソ餓鬼、俺を見る視線は見下すどころか、まるでゴミでも見るかの様だ。
『道案内が俺の様な者ですまないが、できる限りのことはする、よろしく頼む』
ゼノは一応と、挨拶をする。
こちらこそと答えてくれたのはベテランの三人でサリアとアスクは目を向けることもなかった。
まあ、こんなもんだろう、噂に違わず不愉快な奴等だ
気分が重くなりため息がでそうになるのを何とか抑えた。




