番外 チーズな女子会 in 獣人の国 4
「茜様、お料理ありがとうございます。とっても美味しそうですわね」
私が女子会の会場に入ると、柔らかな笑みを浮かべたサリィさんが出迎えてくれた。
女子会会場は、この屋敷の中の部屋にしてはこぢんまりとした広さの部屋で、女性らしい可愛らしい色合いの壁紙に、これまた小動物や妖精など、メルヘンチックな装飾の彫られた薄いピンクの家具で揃えられた部屋だった。
「ここは、わたくし個人に与えられた部屋ですのよ。どうぞ、お寛ぎになってね」
「はい。ありがとうございます。可愛らしいお部屋ですね! 家具の装飾も凝っていて……素敵!」
「ありがとう、わたくしの実家から持ってきた家具なのよ。浄化が終わらないうちは、暫くテスラに滞在する予定だから、使い慣れた物を持ってきたの」
「へえ! そうなんですかー。サリィさんはここに住んでいるんですね。というか、サリィさんってご結婚……」
私が言葉の続きを喋ろうとした瞬間、サリィさんの笑顔が固まった。
そして固まった笑顔のまま、更には瞬きもせずにゆっくりと首を傾げると「コケッコー?鶏が、何か?」と、こちらをじぃっとみつめてきた。……どうやら、この話題は触れてはいけないものだったらしい。
やってしまった……! 私は、心のなかでその話題を振ったことを後悔した。
「あ、あははははは! なんでもありませんよ! ほら、お料理ここに置きますね〜」
私は厨房から運んできた料理を、レースのクロスが引かれたテーブルへと置いた。
「まあ! お鍋のなかのそれは……チーズかしら!」
「はい。そうなんですよ。先に運んでおいた、この具材をこのチーズにつけて食べるんです」
「素敵……! とろとろのチーズに具材をつけるなんて、夢みたいね」
サリィさんはそういうと、頬を染めてうっとりと瞳を閉じた。その様子はなんとも可愛らしくて、私は思わず見惚れてしまった。きっと、さっきのサリィさんの様子は見間違いかなにかに違いない。いつもお淑やかな印象のサリィさんは、単純に女性として魅力的だと思う。
……私も、いつかはサリィさんみたいに、まあ素敵! 女性らしい! 淑女! とか思われるようになりたいものだ。お淑やかな女性になる秘訣は、仕草もだけれど、やっぱり口調だろうなあなんて考えていると、マルタが私の方にやってきた。
「茜?準備できたよ……ってどうしたの?」
「なんでもありませんわ、マルタ。うふふふふ」
「どうしたのその口調、気持ち悪い……」
「酷い」
早速淑女っぽさを発揮してみた私の言葉遣いは、どうやら違和感たっぷりだったらしく、マルタは顔を顰めたあと私を心配そうな顔で見た。……なんでも形から入ろうとするのは駄目だと実感した。
料理の支度が終わったので、三人で椅子に腰掛ける。
すると、サリィさんはテーブルの上に置いてあったボトルを、オープナーで開けた。
……しゅぽん! といい音がして、しゅわしゅわ……と泡が弾ける音がする。炭酸入りのお酒なのだろうか。
「今日用意したのは、わたくしの最近のお気に入りのお酒なんですのよ」
そういって、サリィさんがグラスに注いでくれたのは――ロゼスパークリングワインだった。
それを見た瞬間、マルタと私は、わあ! と歓声を上げた。
細かい気泡を立ち上らせているピンク色の液体は、細めのシャンパングラスに注がれて、なんとも乙女心をくすぐる可愛さだ。
「綺麗!」
「可愛い……!」
「テスラ産のお酒でも良かったのですけれど、女同士で飲むんですもの、可愛らしいお酒が良いかと思ったので、ジルベルタ王国のおすすめのお酒にしてみましたの」
サリィさんはそういうと、茶目っ気たっぷりに笑って、片目を瞑った。
そしてお酒を配ると、グラスを持ち上げて、私達を見回した。
「では、初めての女子会に。……乾杯」
「「乾杯!」」
チン、とグラス同士が触れ合って、軽く軽快な音が部屋の中に響いた。
グラスを傾けて、そのお酒を飲むと、しゅわしゅわと炭酸が口の中で弾けた。
すると次の瞬間、鼻を甘酸っぱい香りが抜けた。
「うわあ……! すっごい、果実感。……葡萄ですよね?」
「そうですわ。これは白の葡萄酒に、赤の葡萄酒をほんの少しだけ混ぜて作られたものなのです。だから、この綺麗な色は赤ワイン由来ですわ」
「ですよね?なのに、ベリーみたいな香りがする! 甘口だし、ものすごく飲みやすいですね……!」
「ほんとうだね、茜」
私はマルタと顔を見合わせて笑った。
しゅわしゅわの炭酸が収まると、舌に広がるやさしい甘さ。フルーティな香り。その繊細な味わいは、女性が好きそうな軽やかな飲みくちで、どんどん飲み進んでしまいそうな危険をはらんでいる。
「気に入っていただけたようで、良かったですわ……! さて、お酒も入ったところで」
そのとき、サリィさんのモノクルがキラリと光った。
サリィさんの視線は、カセットコンロの上に置かれた、今もふつふつと沸いているチーズフォンデュに注がれていた。専用の鍋がない今回は、苦肉の策でカセットコンロでチーズを温めることにした。少し焦げやすいけれど、カセットコンロでもチーズフォンデュは充分に出来る。
マルタのほうもみると、彼女もわくわくと嬉しそうに鍋の中を覗き込んでいた。
私はそれに気がつくと、持ってきた金串をふたりに渡した。そして、食べ方を実演するために、串にパンを刺した。
「これはですね、こうやって串に刺したものを、こう……」
私はどろどろとしたチーズの海に、パンを沈めた。
何度か串をチーズの中で往復させて、そっと持ち上げる。すると、とろん、とチーズがパンに纏わりついて、糸を引いた。それをくるくると串を回してパンに巻き付かせる。そして、それをふうふうと息をかけて冷ましてから――ぱくり、と食べた。
「うん。……美味しい!」
とろっとした熱々のチーズは、まったりクリーミィ。
チーズまみれになったパンには、じんわりと表面にチーズが染みていた。
パンと、チーズ。これが合わないわけがないのだ。約束されたベストカップル。まさにそんな感じだ。
とろとろチーズの中には、黒胡椒とナツメグが入っているから、ただ単に濃厚なだけではなくて、若干の刺激がある、これもいい。
ごくり、と飲み込むとふわりと白ワインの余韻が残った。
――ああ。なんて幸せな味……!
「まああああああ!」
「うわあ……チーズ……! チーズ! チーズ!」
ふと顔を上げると、ふたりも食べ始めていたらしい。
サリィさんは両手を頬に当ててうっとりしているし、マルタはチーズをこれでもかと、パンに纏わりつかせては、ぱくりと口にして、うーん! と嬉しそうな悲鳴を上げていた。
「お口に合いましたか?」
「「もう、最っ高!」」
私が声をかけると、二人は同時にそういった。
そのことに気づくと、マルタとサリィさんは顔を見合わせて、クスクスと楽しそうに笑った。
そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。
サリィさんが立ち上がると、誰かを部屋の中に招き入れた。
その人を見た瞬間、私とマルタは固まってしまった。
「皆様! ごきげんよう。トルリアと申します!」
軽い調子で、私たちに片手を上げて挨拶をしたのは、体長2メートルもあるかという大きな熊だった。
全身黒い毛で覆われ、にっこりと笑った口角からは、鋭い牙が顔を覗かせている。
それだけならば、今まで見てきた獣人と然程違いはない。
熊の獣人だってみたことはある。けれども、それよりもなによりも、目を引くのはその熊の獣人が纏っている衣服だった。
ひらひらのひだがたっぷりあしらわれた、ふりふりのロリータ。……そう、ロリータだ。
ふんわり膨らんだスカートには、可愛らしいいちご柄があしらわれていて、それ自体はとても可愛らしいのだれど。
編み上げのブーツはうっすらピンク色で、それ自体はとても可愛らしいのだけど。
大きなリボンがついたカチューシャ(……これで合っているのだろうか)もとても可愛らしいのだけど。
なにせ、中身が野性味溢れる獰猛な熊だった。
――くまああああああああ!
きっと、私とマルタの心の叫びは共通していたに違いない。
衝撃的なトルリアさんの姿に私達が固まっていると、サリィさんが笑顔で私たちに彼女を紹介してくれた。
「この方、トルリアさん。見ての通り、熊の獣人ですわ。テスラ国の貴族のかたで、良くしてもらっていますの。この国では、社交界の華と呼ばれていらっしゃるのよ」
「まあ、サリィさん。そんな……お恥ずかしいですわ、わたくしごときが華だなんて」
「あらいやだ、トルリアさん。あなたが社交界に与える影響というのは大きいですわ。いまも、新しい流行を広めていらっしゃるのでしょう?」
「ええ、今日のこれもそうなのよ。如何かしら」
「まあ! そうだったのね、わたくしてっきりクローゼットから間違って着てきたのかと思ったわ!」
「あら?何か言ったかしら?」
「いいえ、何も。トッテモ、ステキネ!」
「ありがとう!」
……うふふふふふふ。とサリィさんとトルリアさんは笑顔で見つめ合っている。
私とマルタはその様子を、はらはらしながらみていた。
このふたりは、本当に仲がいいのだろうか。……正直、今見ている分には、そういう風に見えない。
そう思っていると、トルリアさんは使用人のひとりに声をかけた。
すると、何人かの使用人が部屋の中へと入ってきて、荷物を運び込んできた。
――どん、どんどんどんどんッ!
「今宵は女性だけの集まりだとききましたわ! 思う存分、飲んで騒ぎましょうね。これは、わたくしの手土産ですの」
トルリアさんはそういって、使用人に運ばせた大量の酒樽をぽん、と手で叩いた。
私とマルタはそれをみて青ざめ、サリィさんは素敵ね! と、手を叩いて喜んだ。
**********
「まず、男は強くなくちゃ駄目ね」
「そうねえ」
チーズフォンデュや生ハム巻きを粗方食べ終わった私たちは、チーズを摘みながら色々と話しをしていた。
お酒をぐいぐいと勧められるままに飲みながら、女四人で気ままに話していると、お酒も進むけれど、みんな口が止まらない。酔いも手伝って、口が軽くなった私たちは、随分と砕けた雰囲気で色々と話していた。そのうち、気が付くと会話の内容が理想の男性像へと移行していた。
因みに会話の中心はトルリアさんだ。
トルリアさんは自分の傍らに5つほど酒樽を積み上げて、直接そこからお酒を飲みつつ、楽しそうに話していた。
「まず、マーキングね! これ重要よね」
「はあ」
「木の幹に綺麗に爪痕が残せるような雄でないと! 下手くそなやつは、だいたい気の利かない馬鹿ばっかりなの! それに、美味しい魚が取れる狩場を、スマートに案内できる人でないとね! デートでとれたての生魚プレゼントは当たり前じゃない?」
トルリアさんは、酔っ払ってきたのか、最初の丁寧な言葉づかいから崩れた口調へと変わってしまっていた。そんなトルリアさんを、サリィさんは横目で見ながら、ふん、と鼻で笑った。
「そうなのね〜。トルリア、わたくし人間だから全く共感も同意も出来ないけれど」
正直言って、サリィさんも随分と砕けてきている。なんだか、普段よりかなり気が強そうな印象だ。
「ははん! これがわからないなんて、人間ってしょうもないわね! ……ごくっ、ぷはぁ!」
「うふふふ。熊の良し悪しなんて、知らなくていいわあ。ごくごくごく……」
……なんだか、ふたりの目つきが怪しい。
ふたりは、お互いに嫌味をいいながら、次から次へと杯を開けた。終いにはトルリアさんはまどろっこしくなったのか、酒樽を抱えて飲み始めた。
明らかに暴走している。酔っぱらい特有の座った目つきになってきた二人をみて、私の背中を冷たいものが伝った。
これは止めるべきかと迷って、マルタに意見を聞こうとそちらのほうをみると、「ダージルさん……」なんて、むにゃむにゃいいながら気持ちよく眠っていた。
……マルタ……! あんた、ひとりだけ気持ちよさそうに……!
酔えない自分を恨みながら、改めてそっとふたりを見ると、私は息を飲んだ。
話は理想の男性像から、結婚の話へといつの間にか移行し、二人は鼻をすすりながら涙を流し始めていたのだ。
「う、うう……。でも、こんなことを言っていてもね!?正直なところ、私を貰ってくれるなら誰でもいいのよおおおお!」
急にトルリアさんが、どこからか取り出したレースのハンカチを噛みながら、鋭い歯を剥き出しにして叫びだした。その顔は、恐ろしいほど迫力があり、何故か私は遠い昔に見た、熊の剥製の顔を思い出してしまった。
そして、トルリアさんの叫びに呼応するように、サリィさんは席から立ち上がると、つかつかとトルリアさんに近づき、ガッ! と彼女の肩を掴んで、鬼のような形相で言った。
「何を言っているのよ、トルリア! わたくしたちは貰ってもらえない、のではないのよ……! 嫁に行っていない! 敢えていうならね、独りの時間を満喫しているの……!」
「サリィ……!」
「わたくしだって、嫁に行けるチャンスはあったわ!
お見合いだってしたのよ!?でもね、お相手との初顔合わせのとき、お相手の鼻から、物凄い長い鼻毛が出ているのを見た瞬間、迷いが生まれたの。その方、それこそ紳士で知られた方だったから、鼻毛への対処で私のことを試しているのだと、その時何故か思ってしまったのよ!……きっと、初めてのお見合いでどこか緊張していたのね。
その人の隙をついて、思い切り抜いてやったら、お相手鼻血を噴射してしまって! その鼻血の勢いたるやまるで滝のよう! 返り血で真っ赤に染まったのよ、わたくし!」
サリィさんはまるで劇団の女優のように気取って片手を前方に伸ばすと、涙を浮かべながら目を瞑って、当時のことに思いを馳せているようだった。
「――勿論、そのお見合いは破談よ! しかも、「鮮血の淑女」とか変なあだ名がついて、それ以来さっぱりよ! だから、独りを満喫しているのよ! でも、うっかり結婚できたらいいなとか思って、ジルベルタ王国じゃあ話にならないから、テスラまではるばる来たわよ! 来てみて、この国の人間の少なさに愕然としたわよ! でも決して負け犬ではないわ……! ええ、そうよ!」
「血まみれのお見合い事件……! 聞いたことがあるわ! まさか、貴女のことだったなんて」
「ちょっと、トルリア。それ、誰が言っていたか覚えていらっしゃるかしら。息の根を止めてくるわ」
サリィさんはそういうと、ナイフを手に持って、ぺろりと舐めた。
……あれ〜? 憧れの淑女は何処に行ったんだろう……!
サリィさんのあまりの変わりように、私が慄いていると、サリィさんは私の方を見た。
その菫色の瞳は、限界まで見開かれていて、なんの感情も読み取れない。
サリィさんは、首をゆっくりと傾げると、徐に口を開いた。
「そういえば茜様は、護衛騎士と仲がよろしいようですわね……」
「ひぃ……!」
「あら、この子。彼氏持ちなの?ふうん」
終いにはトルリアさんまで私の近くへ寄ってきて、ブハア、と酒臭い息を私に浴びせてきた。
椅子に座って二人の視線に堪えている私は、まさに生贄のようだ。
トルリアさんに至っては、お顔は獰猛な熊そのもの。時折、異様に長い舌で、ぺろりと口の周りを舐めるものだから、しないと解っていても齧られそうで恐ろしい。私は顔を引き攣らせながら、「ははは……」と愛想笑いをするだけで精一杯だ。
――そんなときだった。私の心の友、マルタが目覚めたのは。
マルタはぱちりと目を開けると、潤んだ瞳でこちらを見て、へらへらと笑った。……まだ、酔っ払っているらしい。
「そうなんですよお! 茜ったら、ジェイドさんといると、イチャイチャイチャイチャ……一緒にいるこっちが恥ずかしくなるくらい、べったりでねえ〜もうね、なんというかね。ちょっとは自重して欲しいよね」
「ま、マルタアアアアア!」
「こっちは、絶賛片思い中だっていうのにね! ああ、でもたまに自分と団長様に置き換えて、うへへ、って妄想はしています!」
「そ、そんなことを……!」
知らなかったマルタの心の内を知って、私は動揺してしまった。
「ご、ごめんね……? 謝っていいのかわからないけど、なんだかごめん!」
「いいんだあ、たまに美味しいシチュエーションを見せつけられて、しょっぱい思いはするけれど、妄想の糧にはしてるから……」
「ああ、わたくしも見ましたわ。厨房でふたりで壁際で」
「……壁際で?」
「こうやって、こう……」
「キャアアアアア! なにそれ、なにそれえええ!」
「ちょ、まって、やめて! 皆、冷静になって!」
サリィさんはトルリアさんを壁際に追い詰めると、トルリアさんに壁ドンをした。
……白髪の美女が、ロリータな熊に壁ドンを仕掛ける図は、かなりおかしな光景だ。けれども、当の本人たちは、お酒の入ったテンションのまま至極真面目に壁ドンを再現していて、更にはきゃあきゃあとはしゃぎながら、あーでもない、こうでもないと楽しそうにしている。
――それにしたって、自分のやられたことを他人に再現されるって、これどんな地獄よ!?
私は堪らずに、皆を止めようとしたけれども、軽くあしらわれるだけでどうにも止まらない。
終いには、実力行使で止めようとしたけれども、私はサリィさんがどこからか持ち出した縄で椅子に縛られ、トルリアさんに口を塞がれてしまった。……肉球が、口に当たって凄く気持ちいい……ってちがうわああああ!
一生懸命暴れたけれども、マルタまで加わった私とジェイドさんのあれこれ再現劇が終わった頃には、私は心も身体も疲れ切ってぐったりとしてしまった。
そんな私を、三人はじとっとした目で見てきた。
「……なんでしょう。大変、キュンキュンするシチュエーションなのですけれど、この場にそれを実体験した人間が居ると思うと、非情に腹立たしいですわね」
「ええ。人間の恋愛には興味はありませんけれど。その気持ち、わかりますわあ」
「この気持ちをうまく表現する言葉があればいいんですけどねえ」
そのとき、サリィさんが何かを思い出したように、ぽん、と手を打った。
「そういえば、聖女様が滞在された折に、異界のことを色々とお聞きしたのですが」
「へえ」
「そのときに、異界ではお相手がいる方のことを「リア充」という、と聞き及びまして」
「なるほど」
「しかも、そういう方へのうっぷんがたまったときに言う台詞があるらしく、教えていただいたのです」
サリィさんはそう言うと、マルタとトルリアさんの耳に小さな声でなにやらゴニョゴニョと囁いた。
そして、三人でにんまりと笑うと(若干名表情がわかりにくい熊がいるけれど)私を見下ろすようにして取り囲んだ。
――そして、
「「「リア充は爆発しろ!!!」」」
と言って、三人で軽やかにハイタッチをしたのだった。
……ひよりいいいいいいいい!!!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、マルタは昨晩の記憶をさっぱりと忘れ、更に二日酔いを抱えて出発した。大鷲が揺れる度に真っ青になるマルタは、ダージルさんに酷く心配され、そのせいで更に泣きそうな顔になっていた。
サリィさんに関しては、なぜだか会う度に微妙な顔で微笑まれるようになってしまい、なんだか居心地が悪い。トルリアさんは、酒樽を持って行けと私にいくつか届けてくれた。そのせいで、またリリが重い! と、ブーブー言っていた。
……さあ、今日からまた旅だ。
妹と落ち合う予定の街を目指して、私たちはテスラを後にしたのだった。
……最後の一言を言わせたかった。それだけだ!