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【書籍化】異世界おもてなしご飯〜巻き込まれおさんどんライフ〜  作者: 忍丸
秋編

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ひより視点 君と共にある旅路と、あったかうどん 後編

 村の広場に行くと、騎士たちが食事ができるように場を整えてくれていた。

 村自体、深い森に囲まれている。そのせいか、濃い緑の匂いが辺りに立ち込めていた。きっと、マイナスイオンがびしばしと出ているのだろう。こんな状況でなければ、森林浴と洒落込みたいくらいだ。

 用意してくれた椅子は、元々地面に転がっていた丸太だ。

 しっとりと濡れているその丸太に、布を敷いてくれたので、ありがたく腰掛けた。



「聖女様、今日の昼食はいつものですよ」

「わ! やったね!」



 私の護衛騎士がそう言って、ほかほかと湯気の上がっている丼を渡してくれた。

 最近は、浄化のあとのご飯は、いつもこれと決まっている。



「相変わらず、美味そうだな」

「僕達もご一緒させてくださいね。……正直、浄化の後はこれでないと喉を通らないんですよね」

「全くだな。つるつるしていて食べやすいし、それに疲れた身体に、これほど染みる食べ物はない」



 カインとセシルも一緒に丸太に座ると、丼の中身を眺めて、頬を緩めた。

 今日の昼食は、卵うどんだ。

 正直言って、浄化のあと、普通の食事は喉を通らない。

 疲れもあるけれども、生死の掛かった緊迫した状況に長らく身を置いていると、精神的なダメージで中々食が進まないのだ。

 けれども、食べなければ疲れは取れない。そんなときにいいのが、これ。うどんだ。

 おねえちゃんが、日本に帰ったときに、大量に買ってきてくれたのが、乾麺のさぬきうどんだった。

 水とお鍋と火さえあれば、どこでも簡単に作れるだろうって。なんて、おねえちゃんらしい気遣いだろうと思う。

 そして、旅に同行する女性の護衛騎士に、うどんの茹で方とつゆの作り方を教えておいてくれた。

 出汁なんてとる余裕はないから、めんつゆを使っているけれども、それでも優しいうどんの味は、厳しい戦いのあとの一時の安らぎとなっている。


 手元の丼を覗き込むと、ふわふわの卵がおつゆの中に浮いていた。

 小口切りになっている青いネギ。真っ白なうどん。鰹節と醤油の香りが、とても食欲をそそる。



「さあ! 食べよう〜! いただきます!」



 ぱん! と手を叩いて、いつもの挨拶をした。カインとセシルも、一緒に言ってくれる。

 ……こうしていると、本当にカインもセシルも、日本流になれたなあ、と思う。お箸も使っているしね。


 秋の森の中は、空気がひんやりと冷えている。

 それだけに、手の中の湯気を上げている丼の中身に期待が募る。

 まずは、おつゆ。丼を持ち上げて、直接飲む。レンゲなんて、まどろっこしいものは旅先には持ってきていない。

 ふう、ふうと息を吹きかけると、旨みたっぷりの黄金色のおつゆの表面にさざ波が起こった。

 慎重に、ずず、とおつゆを啜ると、とても優しい味が私の口へと流れ込んできた。

 たっぷり効いた鰹節の風味。そこに香ばしい醤油の風味。ちょっぴり甘さを含んだ、しょっぱいおつゆは、疲れた身体に染みて、全身を温めてくれる。疲れた身体と心には丁度いい塩梅だ。


 次は箸でうどんを掴んだ。

 つやつやしていて、真っ白なうどんが、おつゆから上がってくる。

 ほかほかと湯気を立ち昇らせているうどんは、なんともつややかで美味しそうだ。

 それにも、ふう、と息を吹きかけると、息でうどんが暖簾のように靡いた。

 充分に冷めたところで、うどんを口に運ぶ。


 ……ず、ずるっ、ずるるるるるるるっ!


 ……ちゅるん。と、最後までうどんを啜る。乾麺だからか、独特のしこしこ加減が堪らない。

 表面はもちもちしているのに、芯の部分は生麺と違ってどこか歯ごたえがある。つるつる、しこしこなその麺は、つるりと喉を滑って胃へと落ちていった。


 ……やっぱり、食欲がない時はうどんだね!


 そう思って、もう一口うどんをすする。しっかりと噛み締めて、小麦の旨みを感じながら飲み込んで……またおつゆを飲んだ。

 今度はお箸で、卵とネギを手前に寄せておいたので、口に具材も入ってきた。

 ふわふわの卵は、優しい甘み。ネギの風味も、出汁にぴったり合って、とてもいい具合だ。



「…………はあ……美味しいね。温まるなあ」



 私が思わずそんなことを呟くと、カインも「そうだな」と頷いてくれた。



 そのあとは、夢中になってうどんを食べた。

 食べ終わると、頭の天辺から足先まで温まったような気がして、身体が生き返ったような気がする。

 空になった丼を置いて、足を投げ出した。

 そして、空を見上げると、曇っていた昨日とは打って変わって綺麗な青空だ。



「……おねえちゃん、もうテスラに入ったかなあ」

「もう入っているはずですよ。……きっと、茜様のことです。テスラの街並みを、目をまんまるにして眺めてますよ」

「確かに! きっと、びっくりしてるね。私も驚いたもの。……早く、会いたいなあ……」



 おねえちゃんの顔を思い出すと、旅立つときに見た、心配そうな顔が浮かんできた。

 早く会って、安心させてやりたい。そんな気持ちが募ってくる。



「テスラに帰ったら、一日は休みが取れるだろう。茜とゆっくりすればいい」

「……いいの?」



 各地の被害状況を考えると、あまりゆっくりしている暇はない筈だ。



「休息も必要だ。……急いては事を仕損じる。休むことも仕事だと思えばいい」

「ははは、そうなのかなあ。……まあ、お言葉に甘えようかな。実際、かなり疲れているし。うーん、何しようかなあ……」



 あの、不思議な街をおねえちゃんと歩くだけで楽しそうだ。

 そんなとき、ふと、テスラの街中にある、黒焦げになってしまった大樹の事を思い出した。

 ……飛翔型の穢れた魔物に襲われて、邪気に染められてしまったがために、燃やされてしまった大樹のことを。

 途端に、私の胸に不安がよぎった。



「ねえ……カイン」

「何だ? ひより」



 私は、カインの方を向いて、真剣な眼差しで見つめた。

 カインも、まっすぐと私を見返してくる。



「おねえちゃんの、旅の行程って――……ちゃんと、被害が多いところは、避けるようにしてくれたよね?」

「……ああ。ジェイドには、くれぐれもそういったところには近づかないように、言い含めてある。――テスラの街中のあれ(・・)は、仕方がないだろう。あの街に入れば、嫌でも目に入る」

「うん。あれ(・・)は……本当は、嫌だけど。仕方ない、よね。おねえちゃんに、本当に酷いところ(・・・・・・・・)が見られなければ、いいよ」



 私はそう言うと、カインは何故か悲しそうな顔をした。



「……ひより。君は、本当にそれでいいのか」

「……ん。いいの。いいんだよ」



 おねえちゃんには、余計な心配はかけたくない。

 ……ただ、それだけだ。

 酷いものをみるのは、私だけでいい。私の力が及ばなかった、間に合わなかったものなんて、おねえちゃんは知らなくていいのだ。これは、私の見栄。そう、ただの見栄だ。

 ……そこまで考えが及ぶと、きゅう、と胸が苦しくなった。

 後ろめたい。そんなことは考えてはいけない。



「ひより」

「ん? なあに、カイン」



 カインは私を心配そうに見つめている。

 私は、カインのそんな顔がなんだか気に入らなくて、カインのほっぺを思い切り引っ張った。

 ぐいーん、とひっぱると、さすが王子様! 結構伸びる。



「にゃ、急に、にゃにをすりゅ」

「いやあ、イケメンが曇った表情をしていると、こっちまで沈みそうになるからね! 矯正してるの〜」

「にゃめりょ!」

「あははは!何を言っているのか、全然わかりません!」



 ぐにぐに引っ張って遊んでいると、カインが私の手を力づくで外した。

 ……そのせいで、更に強く引っ張られて、カインの頬が真っ赤になってしまった。

 カインは両手で頬を擦ると、恨みがましい顔でこちらを見ている。

 ごめんごめん、と謝ると、むくれてはいたけれども、なんとか許してくれた。



「カインは、優しいね!」

「まったく! それは褒め言葉ではないだろう!」

「あはは。バレた?」



 私は笑って、カインをみた。

 すると、カインの綺麗な碧眼と目が合って、なんとなくだけれど、意味もなく見つめ合ってしまった。

 ……綺麗な、碧だなあ。

 本当にそう思う。おねえちゃんが、たまにジェイドさんの蜂蜜色の目が〜なんて、惚気けることがあるけれど。私はカインの碧眼のほうが、綺麗だと思う。

 さっきとは違う意味で、胸が苦しくなる。

 ……カイン。

 私を守る、といつも言ってくれる、頼りになる男の子。

 王子としての使命感なのだろうけれど、その言葉は、聖女としての役割に潰されそうになっていた私を、何度も助けてくれた。


 ――惹かれない、わけがないじゃないか。


 一体、いつ頃からだろう。

 カインのことが気になってしまって、話す度に、一緒にいる度に心が弾むようになったのは。

 少なくとも、夏頃はそんなに気になっていなかったから、その後なんだろうけれど。

 ああ、この気持ちが伝わらないかな、なんて思ってカインと見つめ合っていると、次の瞬間、ふっと視線をそらされてしまった。


 ……あーあ。片思いは辛いね!


 不躾に見つめちゃったから、なんだこいつなんて思われてたりして。少し失敗したなあと思いながら、私も視線をカインから外した。

 すると、一人の獣人の兵士が、セシルに何かを報告していた。

 何事かと思って、そのふたりを眺めていると、セシルが引きつった笑みを浮かべてこちらを見た。



「殿下、聖女様。……シロエ王子が……」



 シロエ王子とは、テスラ王国の第一王子だ。

 派手好きで、豪胆で、がはは! と大きな口で笑う、獅子の獣人だ。

 そして、凄く押しが強くって、迷惑なやつだ。

 ――なんだか、嫌な予感がする。



「シロエ王子が、テスラの街へ帰る際の「凱旋パレード」について、相談を、と」

「へ!?」

「聖女様には、特別な衣裳も用意してあるので、試着をと」



 そういって、セシルさんは獣人の兵士から渡されたのだろう、衣裳を一着差し出してきた。

 ――それは布地が異様に少ない、南方の踊り子を彷彿とさせる、きらきらしい衣裳だった。



「……ビ、ビキニぃぃぃぃぃ!?」

「ちょ、なんだ! これは!?」

「シロエ王子いわく、聖女に最も相応しい衣裳らしいです」

「「はああああああああ!?」」



 私とカインは、あまりの酷い押し付けに怒りを覚えて、同時に叫んだ。

 カインなんかは、真っ赤になってしまっている。



「ふざけるな! ひよりに、こんな衣裳を着せられるわけないだろう!」

「そうよ! 私、この寒いのに、こんなの着てられないわよ! しかもパレードってなに!? 野球選手か!」

「やきゅう?」

「ああもう! そんなの、どうでもいいわよ! ……カイン!」

「ああ!」



 私とカインは、決意の篭った視線を交わした。


 ――絶対っっっ!阻止する!


 私たちは、ガッチリと握手を交わし、シロエ王子に断固抗議することに決めた。

ちょっとお話がぶつ切りになってますが、次回更新分に続きます。

次回は茜視点に戻って、テスラ王国とカレーライスのお話です。

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