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幼き精霊の帰る場所3

 日本の夏は、どこへ行ってもまるで雨のように蝉の声が降り注いでくる。

 蝉の声は夏の空に圧倒的に響き渡り、草花のさざめく声、風の吹く音さえもかき消し、飲み込み――すべて塗り替えてしまうほどだ。


 初夏の辺りは好ましく思えたその声も、延々と続くように思われる残暑の中ではいい加減辟易としてくるものだ。

 それは、とある田舎道を歩いている少年たちにとっても同じだったらしい。



「うるさいんだよ!!」



 少年――麦わら帽にタンクトップの少年は、真っ黒に日焼けした顔を不愉快そうに歪めて、道端に落ちている枝を蝉に向かって投げた。



「ジジッ」



 木に停まっていた蝉は濁った声をあげると、慌てて木から飛び去っていった。けれども、蝉一匹どうしたところで、辺りに鳴り響く蝉の声が止むはずもない。しかも、蝉が飛び立つ時に飛ばしていった「置き土産」が腕にかかり、少年は顔を盛大にしかめた。



「……うぇぇ、おしっこかかった。最悪……」

「蝉にとっては、理不尽な暴力に対する正当な復讐行為だと思うよ、八尋」



 ため息混じりに言った眼鏡の少年の発言に、麦わら帽子を被った少年は怪訝そうな顔で首を傾げた。



「りふ……? せいと……?」

「……わからないならいい。もう、出歩いてないでさっさと宿題しなよ。もうすぐ夏休みも終わるってのに。僕はとっくの昔に宿題はやっちゃったんだけど」

「うるせーなぁ。いつ宿題やるかは俺の自由だろ」



 少年たちは過疎気味のこの村に住む、数少ない小学生だ。

 5人いる小学生のうち、男は2人。なので、自然といつもつるんでいる。


 ――年頃らしいやんちゃっぷりで、周囲を呆れさせる八尋(やひろ)

 ――黒く見えるほど日焼けしている八尋に比べると色白で、眼鏡のせいかどこか真面目な印象を受ける友樹(ともき)


 常にお互いに軽口を叩きあうので、傍から見ると仲が悪そうに見えるらしいのだが、至って仲が良い。腐れ縁の幼馴染……そんな関係のふたりだった。


 友樹の冷たい視線を受けた八尋は、不貞腐れたのか頬をぷくりと膨らませた。



「宿題する気分じゃないんだよ」

「そうだよな。宿題どころじゃないんだよな」

「そうだよ。宿題なんて、最後の2日くらいで仕上げればいいし」



 何故か自信満々に言い放った幼馴染を、友樹はじとりと睨みつけた。

 毎年、宿題が終わらない幼馴染に泣きつかれるまでが夏休みの定番だ。それに、今年に限っては、加えて別の理由があるから笑えない。



「まあなあ。八尋は宿題なんてしている暇ないよなあ。茜ねぇちゃんに彼氏ができちゃったから」

「……うっ!?」

「僕はひよりねぇちゃんの方が好きだけどな。遊んでくれるし」

「ばーーか! ひよりねぇちゃんは確かに遊んでくれるけどさ、胸が小さいだろ!?」

「うわあ。おっぱいしか見てないのかよ」

「男として、おっぱいの大きさは重要だろ……?」



 手をワキワキと動かし高ぶる感情を友樹にぶちまけていた八尋は、しかし次の瞬間には、ほんのりと頬を染めて「それに優しいし、美味いお菓子を作ってくれるし」だのと初な一面を見せた。そんな友人に、友樹は大きくため息を吐いた。


 ――幼馴染である八尋の初恋相手。それが小鳥遊 茜なのは、実は周知の事実である。

 良く言えば純朴。悪く言えば単細胞な幼馴染の好意は、誰が見ても丸わかりだった。茜自身は子どものことだと気にもとめていないようだったが。


 ある日突然、両親の事故死にともなって田舎に移り住んだ年頃の姉妹。

 都会の香りがするふたりに、田舎の少年が魅せられてしまうのは、致し方ないことだろう。


 これまでは、本人たちはちっとも色恋に興味はなさそうで浮いた話はひとつも聞いたことはなかった。けれども、その状況は一変した。ある日突然、小鳥遊家に新しい住民がやってきたのだ。それは少なからず、この田舎の住民たちに衝撃を与えた。

 なぜならば――。



「なんてったって、イケメンの外国人だもんなぁ。あーあ……やっぱり初恋は実らないものだよな……」

「うっせ!!」



 八尋は不愉快そうに顔を顰めると、ぺしんと友樹の頭を叩いてそっぽを向いてしまった。

 思いの外強い痛みに、友樹は顔を顰めるものの怒ることはない。親友の気持ちは真剣なものだったことは知っているし、八尋の初恋相手に特定の相手が出来たことは、友樹にとっても少なからずショックだったからだ。



「……あの外人、いいヤツなのがまたムカつくんだよな」

「隣のばあちゃん、腰を悪くして倒れていたところを助けてもらったらしいね」

「村長なんて、壊れた雨戸を直して貰ったらしいぞ。ここは田舎だろ!? 普通はよそもんに厳しいもんだろ!? なんで普通に溶け込んでんだ、アイツ」



 八尋は足元の石を思い切り蹴飛ばすと、拗ねたように唇を尖らせた。

 そうなのだ。茜の恋人――ジェイドという男は、思いの外田舎に馴染んでいた。いつもにこにこ整った顔に笑顔を浮かべて、誰にでも丁寧な物腰で対応するその男は、一躍オバちゃんたちのアイドルとなっている。オバちゃん曰く――どんなときも、茜を大事に扱う態度が物語の中の「騎士」のようで堪らないらしい。



「なぁにが騎士さまだ。ばっかじゃねえの!」



 初恋相手を奪った男の完璧な評判に、まさか本当に騎士だとは思いもしない八尋は悪態をついた。そんな親友を生ぬるい瞳で見つめていた友樹が、算数のドリルくらいなら写させてやってもいいか――と仏心を見せようとした、その時だ。



「――なんだあれ」



 蝉が泣き叫ぶ夏の只中に、八尋の素っ頓狂な声が響いた。

 友樹は、変な反応を見せた幼馴染にどうかしたのかと声をかけようとして――自身も異様な何か(・・・・・)を見つけてしまい、動きを止めた。



「……あ、とも……き」

「うん。……とにかく、しゃべるな。気づかれる」



 ふたりはギクシャクした動きで互いに顔を見合わせると、そろそろとその場から移動を始めた。そして、近くにあった茂みに飛び込んで顔だけを出す。ぷうん、と耳元を蚊が飛ぶ音がする。もしかして刺されるかもしれない。いや、十中八九刺されるだろうけれど――そんなものにかまっている余裕はなかった。


 ――彼らの視線の先にあったのは、全身を木の皮で覆われた化物。


 一見すると、小さな子どものような体型だ。けれども、明らかに人間ではない。その肌は茶色く木肌のようなもので覆われている。更には頭からはふさふさと葉を茂らせており、目元までを覆い隠している。体の所々が苔むしており、まるで長い年月を過ごした切り株のような趣があった。


 ……その姿は、光溢れる夏の世界で、明らかに異様で異物で――。


 ふたりは、恐怖のせいでともすれば停止してしまいそうな脳を必死にフル回転させて、得体の知れないそれの正体を考えた。けれども、答えが出るはずもない。ふたりは異物や妖怪の専門家でもなんでもない。一介の小学生なのだから、あっという間に行き詰まって、頭を抱えてしまった。



「うううう……全然わかんねぇ。あれ、なんなんだよ。オイ、友樹ならわかるだろ?」

「ぼ、僕だって知らないよ……」

「いつも小難しいこと言っているくせに。こういう時に役立てよ。バカ」

「分かるはずないだろ……。アレがわかったら、僕はきっと将来ノーベル賞を獲れるね」



 いつものように軽口を叩きながら、しかしボソボソと互いに囁き合う。

 あれは宇宙人? 妖怪? はたまた、某ヒーロー番組に出てくる怪物か――。

 何にせよ、この世界に普通にいてもいい存在であるとは思えない。それくらい普通じゃない生き物だった。


 そうこうしているうちに、その異形が動き出した。


 それは道の端にしゃがみ込み、何やら覗き込んでいる。きっとそこに何かがあるのだろう。けれど、少年ふたりが隠れている場所からは何があるのか見えない。



「……」

「……」



 二人は互いにうなずき合うと、そろそろと茂みの中を移動した。

 そして、なんとか異形の視線の先が見える場所まで移動すると――揃って首を傾げた。


 移動中、実はふたりは今までにないくらい緊張していたのだ。きっと、その異形の視線の先には、とんでもない恐ろしい物体か、もしくは素晴らしい宝物があるのだろうと考えていたからだ。


 けれども、実際に見てみるとどうだろう。

 そこにあったのは、道端の細い水路に嵌まるようにして鎮座している大きなウシガエルだった。



「モー……」

「ほおおお……」



 異形は、水しぶきを浴びてテラテラと濡れる蛙が鳴くたびに、感心したような声をあげる。蛙が吸盤付きの足を動かし、コンクリートの淵を移動するたびにのそのそと後を追う。そして、蛙がぴょんと飛ぶたびに大げさに尻もちを着き、楽しそうに左右に揺れるのだ。


 それはまるで幼稚園児かなにかのよう。ふたりは拍子抜けしてしまった。



「なあ、友樹。アレって、学校で飼っている蛙じゃね?」

「そうだな。リボンを着けている野生のウシガエルなんていないだろ。……妹がせっせと世話しているエリザベス(カエル)で間違いないと思う……」

「なんであんなとこにいるんだよ」

「どうせまた、逃げ出したんだろ」

「お前の妹また大泣きするぞ」

「う。正直、勘弁してほしい」



 ウシガエルと異形の怪しすぎる取り合わせ。けれども、真夏の太陽の下で見ると、なんとも平和な光景に見えるから不思議なものだ。



「……地球に遊びに来た宇宙人説」

「あー……それっぽい」



 どうやら、その異形はふたりの人生を劇的に変えるものではなかったらしい。

 どこまでもマイペースなそれに、二人は落胆しつつもほっと胸を撫で下ろし、声を顰めつつもいつもの調子を取り戻しつつあった。



「はあ……しゃぁねぇなあ。あの変なのがいなくなったら、エリザベス連れて帰ってやるか」

「うん。頼んだ」

「お前の妹の蛙だろ?」

「僕、蛙は触れな――」



 けれど、そんな少年たちの胸のうちを、それは簡単に裏切った。


 ――ひゅごっ!!

「ンモォォォォッ!」



 蛙の悲鳴のような鳴き声と同時に、()のような何かが異形から発射されたのがみえたのだ。それは、まるで鞭のようにしなり、蛙の小さな体を絡め取って頭に生えた葉の中に引きずり込んだ。「ンモッ、グッ、ゲコォ……」と蛙の苦しむような声が聞こえ、頭の葉がガサガサと揺れる。必死に抵抗しているらしい蛙。けれども、徐々にその声は小さくなっていき――そして、静かになった。


 ――ミィンミンミンミン……。


 いつものように、蝉の声が鼓膜を震わせている。

 けれどその時、ふたりは自分がまるで北極にでもいるような気分でいた。体は芯から冷え、手足の感覚がない。


 ――アレはヤバイ。


 それがふたりの共通認識だ。一見、無害そうにみえる生き物に捕食されるなんて、ホラーものであれば定番の展開だ。きっと、このままここにいたら、いつかあの異形に頭のてっぺんから齧られてしまうに違いない――そんな考えは、少年をパニックに陥らせた。



「お、俺は……」

「八尋?」

「大人になっておっぱいを思う存分揉めるまで、絶対に死なねぇぞお!!」

「それって今言うことかよ!?」

「無事に帰ったら、茜ねぇちゃんにおっぱい触らせてもらうんだ!!」

「死亡フラグにも程がある!!」



 いきなり大声で叫んだ八尋は、近くに落ちていた枝を手に勢いよく立ち上がった。

 そして、蛙を捕食した目の前にいる異形に襲いかかった。



「エリザベスの敵ぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「やめ……っ!」



 友樹は、異形に飛びかかった幼馴染の後ろ姿を悲痛な思いで見つめながら、届かないと知りながら手を伸ばした。


 ――その時だ。



「ンモォ」



 異形の青々とした葉っぱの髪の間から、どぎついピンクのリボンを付けたガマガエルが顔を出したのだ。更には、「ゲコ」「ゲコゲコゲコ……」と沢山の蛙が一斉に顔を覗かせた。

 驚いた八尋は、「へっ!?」なんて間抜けな声を上げて思い切り足をもつれさせた。



「うぎゃっ」



 よろめいた八尋は、何歩かたたらを踏んだ。そして豪快に体勢を崩した。友樹は見ていられなくておもわず顔を逸らす。どう見ても、顔面で地面にキスをするコースにしか見えなかったからだ。



「…………あれっ?」



 しかし、待てど暮らせど何も聞こえてこない。いや、正確には蝉の声はうざったいほど聞こえてくるのだが。もしや、地面につく間もなく異形に食われでもしたのかと恐る恐る目を開ける。

 すると――目に飛び込んできた光景に、友樹はぽかんと口を開けたまま固まってしまった。



「んんー……!!」

「な、わっ……なんだこれー! 友樹、助けっ……」

「モウー」



 足をもつれさせ、あわや母なる大地に接吻するところだった八尋は、全身を植物の蔓(・・・・)で支えられていた。その蔓は異形の体から伸びてきており、ふさふさと青葉を茂らせている。それは決して八尋を捕らえているというわけではなく、まるで落下防止ネットのように優しく受け止めていた。


 八尋は状況が理解できないのか、ジタバタと暴れている。

 蔓を伸ばしている異形は、そんな八尋を支えようとしているのか、「ぐむむ」なんて唸りながら四苦八苦している。更には、暴れる八尋の腹の上にウシガエルのエリザベスが鎮座し、モーモーと低い声で鳴いているものだから、なんともシュールな光景だ。



「むんっ!」



 やがて、異形が力むような声を上げると、するすると蔓が動き出して、地面に八尋を下ろした。それも、まるで宝物を取り扱うようにゆっくりと、優しくだ。

 地面に降ろされた八尋は、呆けた様子で滑らかな動きで戻っていく蔓を眺めている。



「んー……だい? ……だいー……ぶー?」



 異形はと言うと、八尋に近づき、歪な手で服についている葉やホコリを払ってやっていた。

 それはまるで、小さな子どもの世話を甲斐甲斐しく焼く母親のようだ。

 ……実は、その行為はかつて茜が異形――精霊にしてやっていたことを模倣しただけなのだけれど。少年たちがそんな事情を知る由もない。



「……お前、助けてくれたのか?」



 ほんのり頬を染めた八尋は、熱の籠もった瞳を精霊に向けた。

 精霊は特に理由もなく、頭を左右に揺らしている。どうも、八尋はそれを「肯定」の意味だと受け取ったらしい。


 へへ、と鼻の下を指で擦ると、照れくさそうに笑った。



「お前いいヤツだな……」

「どうしてそういう思考になるんだよ」



 あっという間に絆されてしまった幼馴染に、友樹は呆れた声を上げた。

 それはまるで漫画や映画にあるような、人間と人外との邂逅シーン。この先に壮大な物語が待っていそうで、友樹にとっても悪い気はしなかったけれど。



「お、そうだ」



 すると、八尋はポケットをガサガサと探り始めた。すると出るわ出るわ。短パンのポケットとは思えないほどの量の使用済みのティッシュやら、消しゴムの欠片なんかが溢れてくる。精霊は「ほう……」なんて吐息を漏らして、地面に落ちた消しゴムを指で突いている。やっとのことで目的の物を見つけ出した八尋は、得意げにニンマリと笑った。



「ほら――助けてくれたお礼にこれやるよ。おやつにしようと持ってきたんだ」

「……う?」



 目の前に差し出されたそれを、精霊は不思議そうに見つめている。

 それは透明なビニール袋に入っている種だった。縞模様があり、涙のような形をしている。



「向日葵の種。割って、中の柔らかい部分を食べるんだ」

「お前、そんなもん持ち歩いてたのかよ……」

「別にいいだろ。菓子は、一日一袋までだって母ちゃんうるさいんだ。これなら、枯れた向日葵からいっぱいとれるし」



 ふたりが言い争っていると、目の前にぶら下げられた袋をしげしげと見つめていた精霊は、八尋に向かって一歩前に踏み出した。そして、袋の真下に立つと――。



 ――がぶり。

「へっ? う、わああああああああ!!」



 子どもが丸呑みできそうなほどの大口を開けた精霊は、八尋の手ごとその袋を食べてしまった。慌てた八尋は、自らの手に齧りついている精霊を離そうと、精霊ごと手をブンブンと振りまわした。


 ――もぐもぐ、ぺっ。


 やがて、精霊は八尋の手から口を離した。口元を咀嚼するように蠢かせて、小さく揺れている。八尋と言えば、素早く友樹の後ろへと逃げ込み、何かの粘液がべったりと着いてしまった手を信じられないという風に見つめている。



「だ、大丈夫か。八尋」

「痛みはないから平気。それにしても助けろよ、お前……」

「ごめん、びっくりしすぎて頭が真っ白で」

「まあ、わかるけど」



 ふたりコソコソと話し合い、得体の知れないものに何かを差し出すときは細心の注意が必要だ――なんて、今度の人生で役に立ちそうにない教訓を小学生ふたりが得たその時だ。

 口元に手を当てて、満足げに揺れていた精霊が「ううん」と体を縮こませて唸った。

 そして――。



「まめ!!」



 ぽん、ぽんぽんぽんっ! と、その頭から何本もの向日葵の花を咲かせた。



「「……」」



 ふたりが絶句したのはもう何度目だろう。

 いい加減状況に慣れて来た八尋と友樹は、精霊の頭上で揺れている向日葵――それも、蛙が沢山着いているそれをぼうっと眺めた。


 精霊はいそいそと頭上に手を伸ばすと、その中の一本を手折った。そして、目の前でひまわりの花をしげしげと眺めて――それを頭上高く掲げた。



「ひぁまいっ!!」



 そして、小学生ふたりからすると意味不明の叫びを上げて、その場をくるくると走り出した。更には何本かの向日葵を手折って、八尋と友樹に押し付ける。どうやら、感謝の気持ちを表しているらしい。更にはウシガエルと、蛙までふたりの頭に乗せる。どうも、これはおすそ分けらしい。


 そして「ひいまい」だの「ひぁぁまい」だの叫びながら、怒涛の勢いでどこかへ向かって走り去ってしまった。


 その場に取り残されたのは、一本ずつ手に向日葵を持った小学生ふたり。



「……何だったんだ」

「……さあ」



 ふたりは顔を見合わせ、手の中の立派な向日葵を見つめた。



「……帰るか」

「これ、絵日記に描いても、嘘をつくなって言われるんだろうなあ……」

「うん。多分」

「……」



 ――ミィン、ミンミンミン……。


 今日も変わらず、蝉の鳴き声が雨のように降り注いでくる。

 しかし、今日この日は田舎の小学生ふたりにとって、特別な日となったのだった。

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