表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/229

三巻発売記念SS:彼と彼女の初めてのデート(ダージル・マルタ)

本日「異世界おもてなしご飯3〜思わぬ帰還と真夏の肉祭り〜」の発売日です。

書き下ろし50ページ以上、カラーにはマルタやセシル、ルヴァンも登場。泣いて笑ってニヨニヨほっこり出来る一冊となっております。Webとは随分と内容が違いますので、三巻だけでも是非ともご覧になってみてくださいね。


連続更新ラストの今日は、ツイッターでのSS希望アンケートの1位。ダージルとマルタのお話です。

甘酸っぱいふたりをニヨニヨご覧下さい。

時系列は……三巻時点でも、本編後でもどっちでもいいですよ〜

 ――心臓が、今にも破裂しそう。


 あたしは、胸のあたりに手を当てて、王都の中心にある噴水前で彼を待つ。


 ……髪は大丈夫かな。

 いつもは適当に三つ編みにしている髪を、今日は思い切ってポニーテイルにしてみた。茜に頼んで、ふわふわにウェーブをつけて……昨日は、念入りに香油で手入れをしたのよ?


 服も、巷で流行しているものを。

 ショートパンツを好まれている聖女様の影響で、庶民の女子では脚を大胆に出すのが流行っている。少し前なら、恥ずかしくて出歩けないような格好。でも、今日はチャレンジしてみた。

 ……はしゃぎすぎかな。


 今日は日差しが強いから、大人っぽい色のリボンが着いた、鍔が広めの帽子を被ってきたの。日差しを遮れるだけじゃなくて、これなら、恥ずかしくて顔が真っ赤になっても、彼の視線から逃げられる。



「それにしても、今日は暑いな……」



 もう夏は終わった筈なのに、今日に限ってこれだもの。どうなっているのかしら。


 ――ああ、汗を沢山かいたらどうしよう。ハンカチは換えも含めて持ってきたけれど、服に汗じみなんて着いたら……あああっ! 汗で化粧が崩れたら目も当てられない。今日ばっかりは、毛穴が閉じていればいいのに、と心底思う。


 ――うっ、もう汗を掻いている気がする!


 慌てて、茜から借りた小さな手鏡を取り出して、化粧が崩れていないか確認をする。この世界の庶民では手の届かないような、綺麗に顔を写してくれる鏡。茜の世界だと安価で手に入るんだって。羨ましいなあ。


 手鏡を仕舞って、また溜息を吐く。


 ――今日のあたしは、ちゃんと綺麗だろうか。可愛くなっている? 自分の顔を見つめて、小さくため息を吐く。頬に散らばった、消えないそばかす。思春期が過ぎたら消えるわよ、なんて母親は言っていたのに、いつまで経ってもそこに居座っている頑固なやつ。子供じみて見えて、正直なところ大嫌い。……でも。



「精一杯おしゃれしたんだもの。頑張ったもの。大丈夫」



 あたしは、自信満々で送り出してくれた親友(あかね)の姿を思い出して、小さく微笑んだ。


 ぐっと顔を上げて彼が来るのを待つ。少し離れたところで、男の人が数人集まっているのが見える。あの人たちも待ち合わせかな、ここって待ち合わせの定番だもんねえ、なんて思いながら足元に落ちていた小石を蹴る。


 今日の日差しはかなりキツイ。いろんな形の丸石が敷き詰められた石畳に、あたしの濃い影が落ちている――すると、視界に誰かの足が入り込んできた。


 ふと顔を上げると、そこには見知らぬ男性の顔。

 ……ああ、あの人じゃなかったと落胆して、また視線を落とそうとしたら――やけに耳に心地よく響く声が聞こえて、あたしの心臓が跳ねた。



「待ったか?」



 勢いよく顔を上げると、そこには青灰色の鋭い眼差し。彼はあたしの傍に立っていた男性を押しのけて、額に軽く汗を浮かべてにこりと微笑んだ。


 そして、ぐいとあたしの手を引くと、大股で歩き出す。あたしは、慌てて小走りで後ろをついていく。帽子が風に飛ばされそうになって、大股の彼の後を追うのがやっとで――思わず、「待って」と声を上げた。


 すると、やっと足を止めた彼が、驚いたような表情で振り返った。あたしと彼の身長差は、かなりある。自然と見下されるような格好になって、彼の存在感に息を飲んだ。



「あ〜……悪ィ。急ぎすぎたな」



 でも、次の瞬間には笑い皺を目元にいっぱい作って、まるで太陽みたいに笑ったものだから、あたしも釣られて笑ってしまった。

 すると、彼は一瞬驚いたような表情になって、あたしの頭を帽子の上からぽんと叩いた。



「……? どうしたんです?」

「いや。ええと。なんつうか」



 すると、彼はもごもごと言い淀んだ後、照れくさそうに言った。



「いつものもいいけどよ、今日のも似合ってる」

「……ッ!!」



 彼の爆弾発言に、思わず帽子の鍔を両手で引っ張って、顔を隠す。あたしはこんななのに、彼は「よし!」と拳を握って満足そうだ。



「いや〜。会ったらまず服装を褒めろって、部下に言われてたんだよな。忘れなかった。うん! これで完璧だな!」

「…………ぷっ!!」



 あたしは、彼の言葉に思わず噴き出す。相変わらずの朴念仁。こんなこと、本人の目の前で言うことじゃないでしょうに……ああもう、この人は!


 クスクスと笑っていると、彼はボリボリと恥ずかしそうに頭を掻いて、あたしの手を取った。

 手から伝わる彼の体温に、一瞬頭の中が混乱する。けれど、その混乱は直ぐに去った。


 ――どうせ、これも部下の人から言われた行動なのだろうし。


 そう思ったから、笑い混じりに言ったのだ。……その後にカウンターを喰らうなんて、ひとつも予想しないで。



「手を繋ぐのも、部下の人に言われたんですか? 随分と世話焼きな人ですね」

「ん? それは言われていないぞ? 俺が繋ぎたいだけだ」

「……へっ?」

「また、変な虫が近づいて来たらあぶねえからな。騎士は可愛い子を守るもんだろ?」



 あたしは呆然と彼の顔を見つめた。よくよく見ると、彼の目元がほんのり赤い気がする。あたしは、その瞬間、顔から火が出るんじゃないかってくらい、熱くなってしまった。



「よっしゃ! 今日は昼から飲むぞ〜! 美味い串焼き屋があるんだ!」

「……はい」

「若い娘となんて、何処に行けばいいかわからんからな。取り敢えず、今日はいっぱい美味いもんを食おう。なっ!」

「……はい」

「別のところは、また今度行けばいい。時間はたっぷりあるんだしな」

「……はい」



 彼の陽気な声が聞こえる。けれども、あたしの頭はオーバーヒートしたままだ。

 彼はそんなあたしに、ニッカリと白い歯を見せて笑うと、「行くぞー」と一歩踏み出した。


 ――今日一日、あたしの心臓、保つかしら。


 そんな風に思って、あたしは彼の体温を感じながら、夏の町に繰り出したのだった。

時系列を、三巻で出会った時点だと思って読むのと、本編後だと思って読むのだと、受ける印象が結構違うのではないでしょうか……ww


ダージルは上級貴族ですが下町びいき。きっと、楽しいデートになったでしょうね〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ