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希望の未来をその手に 後編

 その日から、日に日に「北海の貴婦人」の数は増えていき、次第に手に負えなくなっていった。

 弓兵たちが昼夜問わずに貴婦人を撃退するも、みるみるうちに流氷の間は凍り付いていき――数日後。とうとう、穢れ島は大陸と陸続きになってしまった。


 それを一番最初に発見したのは、ひとりの斥候だったそうだ。

 早朝。穢れ島の様子を探っていた彼は、吹雪の切れ間に巨大な島影を目にしたのだという。けれど、それが島影ではないと気がついた途端、彼は震えた。


 そこにいたのは、常闇から這い出してきたような凶悪な魔物の群れ。

 島影だと思っていたものが、長い触手をうねらせた異形や、鋭い角を生やした凶悪そうな獣であったことを知ると、彼は恐怖のあまり暫く動けなくなってしまったのだという。

 そして、別の斥候が彼の異常に気がついたときには、黒山のような魔物の群れが直ぐ側まで迫ってきていた。


 叩き起こされた私たちは、テントを片付ける間もないまま、用意していた氷上船に乗り込んだ。

 吹雪は弱まったものの、末端が痺れるほどの寒さのなか――結局、この時点で集結出来たのは、ジルベルタ王国軍、ツェーブル騎士団、吹雪のなか彷徨い歩いた末に到着した、二カ国の小部隊のみ。


 その他の援軍は未だ到着しておらず、更には頼りにしていた竜たちも、あまりの寒さに本調子ではないようだった。それでも竜たちは、戦闘に出ると申し出てくれた。けれども、カインたち人間側はそれを断った。たとえ最強の力を持つ竜といえど、戦力の差が埋められるとは思えなかったのだ。


 穢れ島から溢れ出した魔物――その数、数万。

 自軍――およそ、三千。

 ――私たちは、予想よりも遥かに上回る魔物の数の前に、撤退を選択するほかなかった。


 穢れ島から溢れ出した黒々とした魔物の群れは、まるで火山の噴煙のように大陸に向かって進行していく。船は、魔物の進行方向から大きく逸れるように、氷上を滑るようにして移動していく。

 私は群れを為した魔物たちが大陸目掛けて進む様を、船上からただ見ていた。

 悔しさのあまりに、唇を噛みしめる。口内に広がる鉄の味を感じながら、堪らず叫んだ。



「ツェーブルの街のひとたちは! ちいさな村も、いくつもあったわ! そのひとたちはどうなるの……!! どうして、私たちは魔物から逃げているの!!」



 私の叫びは、風と雪に散らされて、虚しく消えていくだけだ。

 あの魔物が撒き散らすのは、邪気だけではない。沢山の命を散らし、絶望を、悲しみを、苦しみを撒き散らすのだ。脳裏に、今まで見てきた凄惨な光景がフラッシュバックしてきて、思わず頭を抱える。カインはそんな私を慰めつつも、静かな口調で諭した。



「まずは邪気の大元を祓ねば。今はあれらの魔物よりも、噴出地の浄化を優先する。それに、ツェーブル騎士団の一部は国元に帰した。彼らが、上手く住民を避難誘導してくれることを祈るばかりだ」

「……でも!!」

「戦力の差は明らかだ。正攻法で挑んで、やられてしまっては元も子もない」



 正面からぶつかっても、到底勝ち目はない。だから、一旦退避をした後に魔物が出払った島(・・・・・・・・)に乗り込むのだという。

 頭では理解している。でも、どうしても認めたくなかった。大陸には、沢山の命が今も息づいているのだ。

 納得できずに(かぶり)を振る私を、カインは根気よく宥め続けた。



「耐えてくれ。どうか。頼む。ひより、頼む……!!」



 そう言いながら、私を強く抱きしめる。

 カインの温もりを感じながらも、体の震えが止まらない。

 ふと、カイン越しにユエと視線が合うと、彼は顔を歪めて俯いてしまった。

 次に、甲板に集まっている皆をゆっくりと見回す。この氷上船に同乗しているのは、この日のために訓練を重ねた騎士たち。そして、氷上船をいちから作り上げたドワーフたちと、浄化に同行すると協力を申し出てくれた船乗りたちだ。ここにいるのは、誰も彼もが最後の浄化の為に準備を重ねてきた人たちだ。



「聖女様、すまねえ……。俺らの力が足りねえばっかりに」



 騎士団長であるダージルさんがそう言うと、騎士たちの間からすすり泣く声が漏れた。


 皆も辛いのだと理解すると、途端に涙が溢れてきて視界が歪んだ。おねえちゃんと泣かないって約束したのに。次に流す涙は、嬉し涙にしようって言ったのに、なんて情けない。


 ――なんで、何もかもが上手く行かないんだろう。……ううん。上手く行くどころか、テオが予言した未来よりも、ずっとずっと悪い状況になっているじゃないか!! もしかして、未来を変えることに失敗した? そうなのだとしたら、私に待っているのは――。



「私……死ぬのかな」

「ひより、やめろ」

「……きっと、私は死ぬんだ」

「ひより!!」



 カインの怒声に、身を竦ませる。怒っているのかと様子を伺うと、カインも微かに震えているのに気がついた。



「……そんなこと、言わないでくれ……頼む……すまない……ほんとうに、すまない……」

「ごめ……ごめん。カイン、ごめんね」

「すまない……」



 カインは、小さな声で謝り続けている。何に謝っているのだろう。私を聖女として召喚して、この場に連れてきたこと? それとも、魔物の群れを相手に為す術もないことだろうか。

 言葉を発しようと口を開きかける。けれども、その瞬間にぞわぞわと背筋に悪寒が走り、全身に鳥肌が立った。顔から血の気が引き、思わず周囲を見回す。


 

「ひより?」



 ひたりひたりと、「死」の不気味な足音が聞こえる。幻聴だ――そう思うのに、全身が震え、歯の根が合わなくなる。今まで堪えてきたものが、絶妙なバランスでギリギリ保たれていたものが――ガラガラと崩れ落ちていった気がした。



「やっぱり、嫌だよう。怖い。怖いよ、カイン。死にたくないよ……もう、嫌だ……!!」



 堪らず、絶叫する。「死」の予感と恐怖で、聖女としてするべきではないと頭では理解しつつも、叫ばずにはいられなかったのだ。



「……助けて、お母さん。……助けて、おねえちゃああん!!」



 その時、どうして姉を呼んだのだろう。

 自分でもよくわからない。

 もしかしたら、困った時はおねえちゃんに頼っていた癖が出ただけかも知れない。


 けれど、その声に呼応するように、確かに聞こえたのだ。

 ゆらりと、吹雪の向こうに巨大な黒い影が見えたと思った瞬間に、聞こえたのだ。



「ひよりいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」



 それは紛れもなく、おねえちゃんの声。

 ここには絶対にいるはずのない、大好きな、大切な――かけがえのない「家族」の声だった。


 同時に、青白い炎――竜の息(ドラゴンブレス)が、氷上を進む魔物たちに襲いかかった。

 炎に取り巻かれた魔物たちは、苦痛の声を上げて動きを止める。けれど、それはほんの一部だ。後からやってきた魔物たちは、仲間の屍を蹴散らしながらも大陸に向かうのを止めない。



『――ほう。止まらぬか。魔物と成り果て、正気を失っているとはいえ、中々に根性がある』



 すると大地に染み渡るような、鼓膜を心地よく震えさせるような――そんな威厳のある声が聞こえた。

 次の瞬間、凄まじい風が吹き荒れ、巨大な影が氷上船を掠めるようにして飛んでいく。その姿を見たユエは、船の縁へ駆け寄ると、目をまんまるにして叫んだ。



「ど、どうして!? 古龍が――!!」



 そう、それは竜族の長、古龍だった。

 浄化には関わらないと、ユエの誘いを断ったはずの古龍。山ほどある巨体が、空中を旋回して魔物の群れに青い炎を吹きかけている。その背中には、何人かの人間が乗っていた。そこに見慣れた姿を見つけて、思わずその場にへたりこんだ。

 


「お、おねえちゃん……」

 ――援軍? いや、まさか。なんでおねえちゃんが。

 


 混乱のあまり、頭が回らない。後ろで、ダージルさんが「マルタァ!?」なんて、素っ頓狂な声を上げているのが聞こえる。確かに、ジェイドさんと治癒術師であるマルタさんまでいる。ジェイドさんは兎も角、マルタさんがいるということは、王様も知っているということだろうか……。



「あ! 見つけたー!!」



 こちとら状況が理解出来なさすぎて頭を抱えているっていうのに、おねえちゃんはいつもと変わらない。

 場にそぐわない満面の笑顔を浮かべて、こちらに向かってブンブンと手を振っている。



「ひより! 良かった、無事だったのね。もう、大丈夫よ! おねえちゃんに任せなさい!」

「な、なにを……」

「妹が大変なときに、なんとかするのがおねえちゃんだもの!!」

「はいー!?」



 それは例えば、お弁当を忘れたときに届けてあげる、くらいの気軽さ。おねえちゃんは事態を分かっているのだろうかなんて、場違いな心配をしてしまう。けれど、私の心配をよそに、白い歯を見せて笑ったおねえちゃんは、古龍に声を掛けた。

 すると古龍は天高く向かって上昇し、空中で停まった。おねえちゃんはひとり立ち上がると、天に向かって手を掲げた。



「さあ! 精霊王よ!!」

「せ、せいれいおう……!?」



 おねえちゃんの口から飛び出した大物の名前に、カインが間抜けな声を上げる。周囲を見ると、誰も彼もがおねえちゃんを見上げている。それはまるで、中世の絵画にある救世主を見上げる群衆のようだと、朧気に思う。



「――いまこそ、助力を願います!!」

《――待っていたわ》



 すると、おねえちゃんの声に応えて、鈴が転がるような、涼やかで美しい声が周囲一帯に響き渡った。

 途端、不思議な現象が起こった。

 その女性らしき声が聞こえた瞬間、周囲が静まり返ったのだ。

 先程まで、怪物の唸り声のような音をさせていた風は収まり、氷上を地響きを上げて走っていた魔物たちは立ち止まり、私たち人間は息をすることすら遠慮して沈黙を守っている。


 それはまるで、誰もが皆、本能でその声を聞かなければならないと理解しているようだった。

 すると、おねえちゃんは親しげに精霊王に声を掛けた。



「私の願いを聞いてくれますか。精霊王」

《勿論だわ。人間の娘》



 すると、鈍色の雲に覆われた空一面に、巨大な女性の姿が映し出された。



《美味しいご飯の、お礼をしなくちゃね?》



 その人は、首をやや傾げると、ニコリと笑った。

 ふわりと、金糸のような柔らかな髪が靡く。慈愛に溢れた瞳は虹色に輝き、抜けるように白い肌は、ほんのりと薔薇色に上気している。純白のドレスを纏い、全身に蔦のような美しい紋様が彫られている。紋様は胸の中心に近づくほどに複雑さを増し、乳房の間に大輪の花を咲かせていた。

 


「――せ、精霊王様!!」



 そのとき、ひとりの騎士が涙を流しながら崩折れた。両手をがっちりと組み、祈りの言葉を呟いている。すると、同じように次々と皆が祈りのポーズをとった。敬虔な精霊信仰の信者であればあるほど、多くの涙を流している。

 正直なところ、私も涙を堪えるのにいっぱいいっぱいだった。精霊なんて信仰していないのに、なぜだか胸の奥から温かな気持ちが溢れて堪らない。あの精霊王の姿を見れたことが、嬉しくて堪らない。

 感情が強制的に刺激される感覚に戸惑っていると、おねえちゃんが精霊王に語りかけた。


 

「精霊王、吹雪に困っているのです」

《まあ、それは大変だわ。では、雪雲を蹴散らしてしまいましょう》



 すると、びゅおうと強烈な風が吹き荒れた。その風は空を覆っていた雲を、あっという間に吹き飛ばしてしまった。久しぶりに見る青空の色と、太陽の光が眩しくて目を細める。やがて周囲が良く見えるようになると、視界に巨大な影が入り込んできた。



「――あ、あれは……!!」

「おうい! おうい!!」



 影に気がついた騎士や船乗りたちが、興奮気味に騒ぎ出す。それが持つ立派な()が、太陽の光を反射してキラキラ輝いている。唸るような恐ろしい鳴き声は、今日ばかりは頼もしく感じて仕方がない。

 そう、それは巨大な竜だった。古龍ではない、名も知らぬ――けれども、永い時を生きてきたことが伺える巨竜たちが空を舞っている。そして、その背には待ち望んでいた援軍の姿があった。


 各国の援軍を背に乗せた巨竜たちは、魔物の群れにブレスを吹きかける。同時に、背に乗った軍隊から無数の矢が放たれ、魔物を襲う。精霊王の出現に足を止めていた魔物たちは、悲鳴を上げて地面に伏した。


 ――わああああああ!!


 一斉に歓声が上がる。誰も彼もが、巨竜と援軍の姿に喜びを隠せなかった。

 皆が沸き立つ中、おねえちゃんが次の願い事を言った。



「精霊王、寒さに困っているのです」

《まあ、それは困ったわね。では、春を呼び込みましょう》

「でも、氷が溶けても困るのです」

《ならば、足下だけは冬のままにしておきましょう》



 すると、ふわりと心地よい風が吹き込んできた。

 それはまるで、陽だまりのなかのような、春を感じさせる優しい風だ。風に乗ってやってきた温かさは、指先からじんわりと体を温め、寒さで凍っていた体を解していく。

 ユエはその風が吹いた途端、笑みを浮かべ、いける、と小さな声で呟くと、自身を黒竜の姿に変えて飛び立った。同時に、他の氷上船に乗っていた竜たちも飛び立ち、巨竜たちに続くようにして魔物の群れへと襲いかかっていく。


 ――おねえちゃん、凄い!


 私は興奮が押さえきれなかった。

 堂々と龍の背で精霊王に対峙しているおねえちゃんが、やたら眩しく感じる。

 次は一体何が飛び出すのだろうかと、期待を込めて見ていると、次におねえちゃんが口にした言葉は、とても意外なものだった。



「精霊王、私の友人は夜が好きなのです」

《まあ、そうなの? ならば、太陽を隠してしまいましょう》



 ――ふ、と辺りが暗くなる。空を見上げると、皆既日食のように太陽が隠れてしまっている!

 何事かと周囲を見回す。すると、遠くの空からなにかの一団がこちらにやってくるのが見えた。



「ほ。漸く到着じゃ。妾は長旅で疲れたぞ」

「あっはっは! それは大変だ。妖精女王が飽きて帰ると言い出さないうちに、決着を着けねばね!」

「帰ったら宴ぞ! 酒につまみに……チータラをたらふく食べるのじゃ……! ほれ、お前たち早う進め!」



 それは、ティターニアやテオを始めとした、人外たちの群れだ。

 おどろおどろしい見た目のものから、ふわふわもこもこのよくわからない生き物まで様々だ。

 ――がしゃがしゃ、ぎゃあぎゃあ。竜に比べると、非常に賑やかな彼らは、星が瞬き始めた夜空を悠々と飛んできた。それはまるで、百鬼夜行のよう。人外たちは、到着するなり散開し、思い思いに魔物に襲いかかり始めた。


 恐ろしい見た目の人外が、魔物をぺろりと飲み込んだり、踏み潰したりする光景に、悲鳴を上げる人も大勢いた。けれど、ティターニアがおねえちゃんに親しげに声を掛け、抱き合っている姿を見ると、困惑気味に囁きあい始めた。



「あの聖女様の姉というのは、一体何者なんだ……」

「竜を招き、人外を従え、精霊王様と親しげに話している」

「聖女様と違って、魔力すら碌にないと聞いたことがある。なのに、これは……」



 どうも雲行きが怪しい。このままでは、おねえちゃんが化物扱いされかねないと、私の妹心がうずいた。

 私はくるりと彼らに向き合うと、胸を張って言った。



「おねえちゃんは凄いのよ! 魔力が無くたって、私よりももっともっと凄いんだからね! そこのところ、誤解しないでくれる!?」



 すると、彼らは顔を見合わせ、頬を上気させて歓声を上げた。



「聖女の姉もまた、聖女だったのだ……!」

「聖女様、万歳! 聖女様と精霊王様の呼び込んだ奇跡によって、我らは勝利を掴み取るに違いない!」

「聖女様、万歳! 精霊王様、万歳……!!」



 ……あ。やっちゃった。

 人々は大興奮でおねえちゃんを讃え始めている。当の本人が気づいていないのが救いだけれど、おねえちゃんが知ったら卒倒しそうな状況に、冷たい汗が背中を伝った。

 すると、誰かが私の肩に手を置いた。ふと見上げると、それは口元を引き攣らせたカインだった。



「士気を上げるという点では、最高だが。……あとで、茜に謝ろうな」

「おねえちゃん、物凄く怒るよね!? ど、どどどどうしようか」

「どうにもならないな……。まあ、一過性のものだろうから……」

「絶対?」

「後世に残りそうな予感はひしひしとする」

「ひええ」



 カインと顔を見合わせる。そして、互いに噴き出して笑ってしまった。

 辺りには、騎士たちの歓声が響いている。そして、ケラケラと笑う私たち。

 なんだろう、この状況。さっきまで酷い有りさまだったのに、今は心が晴れ晴れとしている。


 ――ああ、やっぱりおねえちゃんってすごいや。


 私は笑いが収まると、カインに向かって頭を下げた。



「さっきは本当にごめん!! なんか、心に余裕がなくなってた」

「謝られるいわれはない。そもそも、私たちが巻き込んだことなのだ。責められても、拒否されても仕方のないことだ」

「でも、一度やると決めたことだもの。あんなこと、言うべきじゃなかった。……ごめんね」



 私はカインの手を握ると、碧い瞳を見つめて笑った。

 カインも、そんな私に柔らかな笑みを返してくれ、ふたりで上空にいるおねえちゃんを見上げる。

 人外と竜、精霊王に囲まれて笑みを浮かべているおねえちゃん。


 聖女召喚に巻き込まれただけの、何も力を持たないはずのおねえちゃんは、こんなに凄いことをやり遂げた。

 

 ――なら、私もやらなくちゃ。もう一息なのだもの。やってやろう!!


 隣にはカインも居る。傍に居てくれている。だから、きっと大丈夫。

 繋いだ手に力を込める。手から伝わる温かな体温。肌を優しく撫でる春の風のお蔭で、凍りついていた私の心は、あっという間に溶かされてしまった。



「カイン。未来を手に入れよう」

「そうだな。私たちの未来を」



 ふたりで船上の仲間たちに向き合う。そして、希望を胸に声を掛けた。



「さあ、皆。私たちも行こう!」

「援軍ばかりに手柄を立てさせてなるものか。我らの力を、他国に見せてやれ。最後の浄化だ!」

「なにもかも、綺麗さっぱり浄化してやるよ! 行くよー!!」

「「「応!!」」」



 すると、皆はやる気の満ち溢れた顔で、天に向かって拳を突き上げた。

 氷上船はゆっくりと進路を変え、魔物の群れに向かい始める。

 こうして、最後の戦いの幕は明けた。

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