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精霊王とおもてなしご飯3

今日は、カインの護衛騎士セシルとふたご姫のキャラデザを公開です!

いよいよ、2巻発売が10日に迫っております。どうぞよろしくお願いしますー!

 ――高く。


 高く高く高く――!


 私は、空に向かって駆け上っていく。まるで、何かに引っ張られるかのように、翼なんてないのにぐんぐんと上昇していく。

 離宮の天井も、空に浮かぶ雲も――地上を狙う空飛ぶ魔物の体さえも突き抜けて、気がつくと私は遥か上空に居た。



「……ふわっ!?」



 あまりの高度に空気が薄いのではと思い、慌てて息を吸う。……けれど、呼吸は特に問題がなかった。そのことに安心して、ほっと胸を撫で下ろす。というか、そもそも霊体に呼吸は必要なのだろうか……。



「ここはどこだろう」



 気がつけば、フォレの姿も、あれほど居た精霊たちの姿もない。

 少し心細く思いながら、そっと空を見上げる。すると、空が随分と暗いことに気がついた。まだ暗くなるには早い時間のはずなのに、頭上には煌めく星々が数多見える。更には足下から青色の光が放たれていて、空の昏い色と綺麗なグラデーションを描いている。

 そのとき、強烈な既視感が私を襲った。この光景……理科の授業でみたことがあるような。


 ――う、宇宙……?


 脳裏にガガーリンの名言が駆け巡る。いやいやいや、そんなまさか。


 心のなかでひとりツッコミをしつつも、頭をふるふると振って冷静さを取り戻す。兎にも角にも、今自分が置かれている状況を知りたい。

 胸に手を当てて、深呼吸。そして、恐怖のあまり見られなかった眼下に、恐る恐る視線を向ける。

 するとそこには、恐怖を忘れるほどの美しい光景が広がっていた。


 それは星だった。

 けれど、地球のような球体の星ではない。

 精霊王が作った、あの星の種。その面影を残しつつも、ひとつの惑星として立派に成長を遂げた――花の形をした星だった。


 花びらの部分は、切り立った山々だ。それらが幾重にも重なり、連なり――真ん中にある海を取り囲んでいる。幾つもの大陸が浮かぶ真ん中の海は、澄んだ碧い輝きを宇宙に向かって放ち、山々の合間からは、海の水が宇宙空間に向かって、まるで滝のように溢れ落ちている。そして、その水は燐光に変わって闇の中に溶けて消えていく。


 成長した星の種……その姿は、まるで星の海に揺蕩う大輪の蓮の花のようだった。

 自分が宇宙に居ることの衝撃よりも、目の前に広がる風景があまりにも美しくて、私は息をするのも忘れて見惚れていた。すると、誰かが私の傍にやってきた。



「母上が、創世のときより手をかけて作り上げたのがこの星だ。美しいだろう。俺は、これよりも美しいものを知らない」



 そう言って私の傍に立ったのは、東洋風の顔立ちで、長い黒髪を朱色の髪紐でゆるく結っている男性だった。つり目気味の瞳も、髪と同じ漆黒。眼下の星と似た、蓮の花の文様が縫いとられた白い装束を着ている。

 一瞬、誰かわからず混乱しそうになったけれど、彼の着ている装束の袖が、布地ではなく鳥の羽が何重にも重なった作りをしているのが見えて、とある精霊が思い浮かんだ。

 ……それにしたって、見た目が違いすぎるけど。でも、その人だとしか思えない。

 私は勇気を出して、男性に声を掛けた。



「もしかして、ヴィント……?」

「ああ」



 恐る恐る名前を呼ぶと、彼――ヴィントは黒目がちな瞳を私に向けた。その眼差しは、シルフであったときと寸分変わらなかった。

 ヴィントは暫く眼下に広がる星を眺めていたかと思うと、徐に顔を上に向け、天を指差した。

 釣られて私も顔を上げる。すると、そこにはつるりとした真っ白い球体が浮かんでいた。



「あそこが、母上のおわす場所。精霊界だ」

「……え」

「フォレは先に行ってしまったようだ。アレは色々と抜けていて駄目だな」



 ヴィントは、そう言うと少し笑った。

 私はそんな彼の横顔を見ながら、ずっと引っかかっていた疑問をぶつけた。



「ねえ、フォレはともかく、あなたたち精霊の『核』は、どうして私に協力してくれるの? 最悪な未来から、人間を救うため?」

「何を言う」



 すると、ヴィントは私を意外そうな顔で見た。

 そしてその後、ヴィントが口にした言葉は、私の予想通りのものだった。



「人間が滅ぼうが我らには関係ない。逆に、邪気が減って都合がいいくらいだ」

「……そう。なら、どうして?」



 ヴィントは、ふと眼下の星に視線を向けた。



「この星は、母上が長い年月をかけて慈しみ育てたものだ。母上はこの星の成長を楽しみにしていた。けれど、ほんの少し前から母上は変わってしまった」



 精霊王は、ある日を境に塞ぎ込んでしまったのだという。

 心配した「核」たちは、なんとか精霊王を慰めようとした。

 けれど「核」たちの呼びかけも、慰めすらも精霊王に届くことはなく、彼らが途方にくれていたところ、フォレが私の料理を持ってきたのだそうだ。



「母上は、お前の作った料理をぺろりと平らげてしまった。それだけではない。人間に無茶を要求したフォレを叱ったのだ。それまで、無気力だった母上が……あんな母上を見たのは久しぶりだった」



 だから私を精霊界に連れていき、精霊王のために食事を作らせようと思ったのだという。そのために、人外なんぞの誘いに乗ったのだとヴィントは自嘲気味に笑った。


 因みに、ほんの少し前とは、人間で言うと千年ほど前のことなのだそうだ。精霊と人間の時間感覚の違いを感じながらも、本心を隠したままのヴィントを見つめる。

 ヴィントは私の視線に気がつくと、じっと黒目がちな瞳で私を見返してきた。私は精霊の「核」である彼を刺激しないように、慎重に言葉を選びながら口を開いた。



「――だったら、精霊王の歴史を教えるなんてまどろっこしいことをしないで、問答無用で私を連れていけば良かったのに。人間の都合なんて、精霊には関係ないのでしょう?」

「…………」

「あなたたちにとって、精霊王は最優先すべき相手で、すべてじゃないの?」



 すると、ヴィントは非常に気まずそうに頬を指で掻くと、複雑そうな表情を浮かべて言った。



「我らが末子であるフォレは、どの『核』よりも母上に似ている」



 そして、徐に私の肩にそっと触れた。



「お前を勝手に連れてきたら、フォレが泣いてしまう。我らはフォレの泣き顔は見たくない」



 その瞬間、視界がブレた。そして、エレベーターに乗ったときのような、僅かな浮遊感を感じたかと思うと……私は、どことも知れぬ小島に転移していた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「衝撃の連続すぎて、心労で死ぬかも……」


 私は、柔らかな芝生の上に座り込んで、そんなことを呟いた。


 先程まで宇宙空間にいたというのに、今は小さな……きっと、二、三十分も歩けば一周できるほどの小島にいる。空はどんよりと曇り、鈍色の雲が風に流れている。周囲は、荒れた海が取り囲み、絶え間なく大きな波が押し寄せ白波が立つ様子は、まるで冬の日本海のようだ。



「茜!」



 なんとなく疲れを感じて、波の音を聞きながらぼうっとしていると、フォレがやってきて私に思い切り抱きついた。どうやら、あちこち探し回っていたらしい。フォレは、息を弾ませ酷く焦った様子だった。そして、精霊界に移動する途中で私を見失ってしまったと、涙ながらに謝り始めた。



「すまぬ、すまぬのだ。茜……! あちきは、どうしてこうも駄目なのじゃろう」

「大丈夫よ、ヴィントがここに送ってくれたもの」

「ううう……」



 ごわごわした頭の葉っぱを撫でてやりながら、まるで幼い子どものようなフォレを慰める。そう言えば、ヴィントはフォレが精霊王に一番似ていると言っていた。こんなフォレに似ているなんて、一体精霊王というのはどういう人なのだろうか。

 私は泣いているフォレをなんとか落ち着かせ、手を繋いで歩き始めた。

 目的地は精霊王の下だ。その途中、私たちはフォレ以外の精霊の「核」たちとも合流した。


 ひとりは火の精霊の「核」フレア。

 白いワンピースを着た、紅い瞳が印象的な3歳くらいの小さな女の子。

 もうひとりは水の精霊の「核」アクア。

 水面のように揺らめく、不思議な水色の長い髪と豊満な肉体を持った、絶世の美女。

 そして、大地の精霊の「核」ボーデン。

 筋肉隆々、それでいてごわごわの黄土色の髪で顔面が隠れていて、表情が見えない。見上げるほどの大男だ。

 ――そして、風の精霊の「核」ヴィント。彼らは無言で私たちの後を着いてきた。


 柔らかい感触の、時折燐光を発する芝を踏みしめながら進む。無言で歩き続けて、小島を一望できる丘の上までやってくると――地面に横になって眠る人の姿があった。



「こちらにおわすのが、精霊王……我らが母じゃ」



 眠る精霊王は夢でみたときと変わらず、全身白一色だった。長い髪も、眉も伏せられた睫毛も……肌の色すら透けるように白い。そして、夢のなかで見たときよりも大きく成長していた。


 見た目は、20代前半くらいの若さだ。けれど、どうにも性別が判断つかなかった。夢のなかでは小さな子どもだったから、男女の区別がつかなくとも仕方がないとも思ったけれど……。


 精霊王の顔立ちは、色素の薄い美青年と言った風だった。眉はキリリとしていて、睫毛は長いものの唇は薄く、鼻筋は通っていて……見惚れるほどの美形だ。

 けれどその下の体に目を遣ると、ほっそりとした首には喉仏はあるものの――胸部には、小さいながらもふっくらとした乳房が存在していた。腰まわりや脚には女性らしい丸みがあり、手の小ささや繊細さは女性のものとしか思えない。

 もしかしたら、両性具有というやつなのだろうか。精霊王は、神のようなものなのだと聞いたことがある。元の世界でも、両性具有の神はいくつもの神話に登場している。もしかしたら、精霊王もその類なのかもしれない。



「さあ、茜。こちらへ」

「……うん」



 フォレに促されて、精霊王に近づく。すると、精霊王との距離が縮まるに連れて、何故か泣きたい気分になってきた。


 ――会いたかった、大好き、愛してる、傍にいたい、傍にいて欲しい。


 不思議なことに、心の底から自然とそういう気持ちが沸き上がってくる。

 夢のなかで彼の幼少期をみたけれど、実際に会ったことも話したこともない。なのに、どうしようもなく心が震える。すやすやと芝の上で眠るその人から目を離せなくなる。まるで、はぐれた子どもが母親に巡り合ったときのような――。



「――あ……」



 早鐘を打つ心臓に、戸惑いを隠せない。自分の両頬に手を当てると、かなりの熱を持っていた。

 頭では冷静なつもりなのに、体はまるで当然のように精霊王に会えたことに歓喜している。これは一体、なんなのだろう。

 すると、私の様子を見守っていたフォレが口を開いた。



「母上は、すべてのものの生みの親じゃ。喜びに溢れるのは当然じゃ。この世のあらゆるものは、母上に惹かれる。母上を愛さずには居られないのだ。ささ、ここへ座れ」



 フォレの手を取り、眠る精霊王のすぐ横に座る。

 その間も、温かい気持ちが次から次へと溢れてきて止まらない。

 ……ああ、精霊王が愛おしく思えて仕方がない。これが、神という存在なのだろうか。



「母上が起きたら、茜の料理を捧げよう。きっと、元気になってくださるだろう」

「……こうなってしまった理由に、何か思い当たる節は?」

「さあ……あちきには皆目検討もつかぬ。おお、茜。母上が起きるようだぞ」



 見ると、精霊王の白い睫毛が僅かに震えている。


 ――とうとう、精霊王との対面だ……!


 私を息をするのも忘れて、精霊王が身じろぎするのを見ていた。

 やがて精霊王の瞳が完全に開くと、オパールのような虹色の輝きを持つ眼差しが姿を現した。



「――だあれ?」



 精霊王の声は、声変わり前の男性にも、低めの声の女性にもとれるような声質だった。


 精霊王は、私を見るとぼんやりとした様子で目を擦り、体を起こした。

 そして何度か瞬きをした後に、すう、と虹色の眼差しを細めた。



「フォレ」

「……あ、あい。母上」



 そして、フォレに向かって手招きをする。フォレは緊張した面持ちで、ゆっくりと精霊王の傍に寄る。すると、精霊王は無表情のまま、その手でフォレの頭を鷲掴みにした。



「にんげんとかかわっちゃだめだって、いったでしょ?」



 精霊王の口ぶりは、まるで舌っ足らずな小さな子どものようだった。

 体が成人しているようにみえるだけに、そのチグハグさに酷く違和感を覚える。

 フォレは大きな瞳にみるみるうちに涙を貯めると、怯えた様子で謝りだした。



「あ、あ、あ……。母上、ごめんなさい。ごめ……」

「こんなところにまでつれてくるなんて。もしかして、こわれちゃった(・・・・・・・)かなあ? とりかえようかな(・・・・・・・・)



 精霊王は謝り続けるフォレに、容赦なく冷たい言葉を投げかけた。

 それはまるで、壊れた部品や玩具に対するような態度だった。

 意志を持つ精霊……それも自分を母と慕う相手にとる態度ではない。


 先程まで感じていた、精霊王に対する温かな気持ちはあっという間に吹き飛んで、目の前のやたら幼い挙動をする精霊王が、得体の知れない生き物のように思えて怖気がする。



「もう、これ(・・)、いらないかなあ。すてちゃおう」



 仕舞いには、精霊王は色のない人間味の薄い顔に、無邪気な笑みを浮かべてそう言った。



「フォレ!」



 その瞬間、私は精霊王の手からフォレを奪い返す。そして、腕の中にしっかりと抱きしめる。フォレはぶるぶると震え、小声で謝り続けている。精霊王はこの子にとってすべてだ。そんな相手に「いらない」だなんて……! なんてことだろう!

 私は、フォレを抱きしめる腕に益々力を込めた。



「フォレは壊れてもいませんし、取り替える必要もありません。私が、フォレに無理言って頼み込んだんです。愚かな人間がしたことです。――この子はなにも悪くない!!」

「ふうん」 

「だから、罰するなら私にしてください」



 必死になって精霊王に訴える。妹を救うために来たのに馬鹿なことをしていると思うけれど、フォレに危害を加えそうな相手を放ってはおけない。


 そんな私を、精霊王はぼんやりとした眼差しで見つめていた。

 緊張で喉がカラカラだ。もしかしたら、次の瞬間には私は死んでいるのかもしれない。そんなことを朧気に考える。けれども、次に精霊王が紡いだ言葉は、予想外のものだった。



「ばっするってなあに?」

「え?」

「なんだろう……しらないことば」



 精霊王は小首を傾げると、うんうんと悩み始めた。どうやら、本当に「罰する」という意味がわからないらしい。そして数分ほど悩んでいたかと思うと、何か思いついたのか、ぽんと両手を打った。



「うーん。わからないや。よし! けしちゃ……」

「母上。起きたばかりで、喉が乾いてはおりませんか」

「そうね、果物があるわ。ねえ、お母様。私が剥きますから食べて下さる?」

「母上! 僕の話を聞いて! 面白いことがあったんだ!」



 その瞬間、「核」たちが一斉に精霊王に話しかけた。精霊王は、必死で気を引こうとしている「核」たちを見回すと、気が削がれたのかそっぽを向いてしまった。


 精霊王の意識が私から逸れた瞬間、私は全身の力が抜けてその場に座り込んだ。

 いつの間にか全身が汗にまみれている。息も上手く吸えないし、なんだか心臓が痛い……。

「核」と精霊王が穏やかに話している声が聞こえるなか、フォレは私の腕の中でさめざめと泣いていた。



「フォレ……」

「茜、すまぬ。すまなんだ……」



 フォレはひたすら謝り続けている。フォレにこんな思いをさせてしまったのは私だ。あまりのことに胸が痛む。フォレに大丈夫だと声を掛ける。けれど、それはちっとも慰めにはならず、フォレの涙はどうにも止まりそうになかった。精霊王は、そんな私たちを不機嫌そうに見つめていた。


 すると精霊王と話していた「核」のなかのひとり、フレアが急に話題を変えた。



「ねえ、母上。そこの人間の娘は、料理がとても上手なのだそうだよ」

「あらあら、そうねえ。私も聞いたことがあるわ。精霊たちが、美味しいって噂していたわね」



 すかさず、水の精霊の「核」アクアが話を合わせる。それから彼らは、やたらと私の料理を褒め始めた。どうやら、精霊王をその気にさせて料理を食べさせる算段のようだ。その様子は、まるで子どものご機嫌取りのようで滑稽だった。


 まあ、そうは言っても、精霊王に料理を提供して、気に入られれば未来を変える手助けをしてくれるかもしれない。私は固唾を呑んで、その様子を見守っていた。


 けれど、その目論見は失敗した。

 精霊王は、「核」たちの話を一通り聞くと、「だから?」と冷めた視線で彼らを一瞥したのだ。



「にんげんのりょうりなんて、きょうみないよ。うるさいなあ」

「……でも、以前は美味しそうに召し上がっていたではありませんか!」

「うっ」



 精霊王は図星を突かれたのか、一瞬気まずそうな顔をした。

 けれど、ふるふると顔を振ると、私を虹色の瞳で見据える。

 そして敵愾心を露わにして、私を憎々しげに睨みつけた。



「……にんげんはきらいなんだ!! ここから、され! にんげん!!」



 そして、その場に寝転ぶと、目を瞑って眠り始めた。その瞬間、周囲に生えていた芝からするすると蔦のようなものが何本も伸びてきて、精霊王の周囲を覆い始めた。やがてそれは、繭のような形になって、精霊王の姿を隠してしまった。



「お母様、私たちはあなた様に元気になってもらいたいだけなのです!」

「母上!」

「ああ……あの娘の料理すら駄目だった……我々はどうすれば……」



「核」の悲痛な声が周囲に響き渡る。

 そんななか、私はフォレを抱きしめながら、呆然としていた。

 戻れないかもしれないと覚悟して精霊界にまで来たと言うのに、まさか当の精霊王に拒否されるなんて!


 頭が真っ白になる。もう、どうすればいいかわからない。

 私は知らず知らずのうちに、すべてがうまくいくと自分の都合の良いように考えていたのかもしれない。なにもかも甘かったのだ。だから精霊王に拒否されたらどうするかなんて、ちっとも考えていなかった。



「……ひより、ジェイドさん」



 大切な人の名前を口にしても、答えが返ってくることはない。その事実が、恐ろしいほどの寂寥感を呼び起こし、私を責め立てた。



「私、どうすればいいの……!?」



 頭の中が真っ白になってしまった私は、ただそう呟くことしか出来なかった。


 ――そんなときだ。


 私の耳に、もう二度と聞くことはないと思っていた声が届いたのは。



「あらあら。どうして元気がないのかしら」



 その声はどこまでも優しく、穏やかで――温かかった。

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