雪虫と冬のお昼ごはん 後編
「おー! ゆきふわだ!」
それは昔、祖父が着ていたちゃんちゃんこを着て、首元に私のお下がりのマフラーを何重にも巻いたユエだった。ユエは空から舞い落ちる雪虫を嬉しそうに眺めると、裸足のまま縁側に飛び出し、裏庭に降りる。
「ユエ、靴!」
「えええ、そんなことどうでもいいよー! ほら、茜。ゆきふわだよ。見た? こいつら、面白いよねえ」
「ゆきふわ? 雪虫じゃあないの?」
私がそう言うと、ユエは首を傾げて「人間がどういうかなんて知らない! 雪っぽくてふわふわだから、ゆきふわ! ぴったりでしょ」と無邪気に笑った。
――そうか、人間にとっては『精霊の王』からの試練の使者という意味合いがあっても、竜であり人外であるユエにとっては、そんなの関係ない。ただの自然現象のうちのひとつだ。
『ゆきふわ』……『冬の使者』なんかより、よっぽど可愛らしくてわかりやすい。なんともユエらしい感性から出た呼び名に、頬が緩んだ。
「なあに、茜。『ゆきふわ』知らなかったの? まったく、茜は物を知らないね!」
「……ふ、あはは。そうですね、今日初めて知りました」
「ふふん。仕方ないなあ」
ユエは悪戯っぽい笑みを浮かべて、くるりとその場で回転した。ふわりとユエの黒い髪が、白い雪虫があちらこちらで舞う世界に広がる。そして――。
「じゃあ、この竜の次期長である僕が、何も知らない茜にこいつのことを教えてあげよう。見ててよ――」
そう言って、着ていたちゃんちゃんことマフラーを私に押し付けた。……なんだか、嫌な予感がする。ユエがこういうことを言い出す時は――。
思わず一歩後ずさる。予想通り、私の嫌な予感は見事に的中した。
ボキ、ボキボキボキボキッ
辺りに骨が変形する嫌な音が響いたかと思うと、ユエの体中に彫られていた青い入れ墨が、まるで沸騰するかのように沸き立ち、白かった肌がみるみるうちに黒く変色していった。背中からは巨大な翼が突き出し、歪な形で背中から膨れ上がっていく。小さな手からは黒々とした鋭い爪が生えてきて、細かった腕には隆々とした筋肉が内部から纏わりつき、腕を太く強く頑丈に作り変えていった。始めは二足歩行だったユエも、次第に体が重くなったのか、両手を地面に着き、いつの間にか生えていた太い尻尾でバランスを取って、体をふるり、と震わせた。艶々とした黒い鱗が全身を覆い終わると、つい先程までは少年の姿だったユエは、圧倒的な力と存在感を持つ黒竜へと変貌を遂げた。
辺りにいた雪虫たちは一斉に空に向かって飛び上がり、逃げ惑って、空中で密集している。それを長い首を巡らした漆黒の鱗を持つユエが睨みつけると、怯えたように雪虫たちは身を縮ませたように見えた。
「こいつらはね、こうやって遊ぶと、とっても楽しいんだ!」
黒竜の姿になっても変わらぬボーイソプラノで、ユエは得意気にそう言うと、一瞬にして上空に舞い上がった。そして、その長く艶やかな黒い鱗で覆われた尻尾を、ぶうん、と大きく振り回した。
ユエの尻尾が振り回されると、空中の其処此処を漂っていた雪虫が尻尾に潰され、まるで風船が割れたときの様な破裂音をさせながら、その身を白い粉にして散らしていく。それはまるで爆竹が連鎖して爆発するように、空中に爆音を響かせて地上に大量の白い粉を降り注いだ。
「ユエ、やめ……っ、うわっ」
ユエを止めようと声をかけようとした瞬間、あっという間に私の視界が白く染まり、その粉のあまりの冷たさに驚く。羽織っていたコートの表面に付着したその白い粉に触れてみると――指先の熱であっという間に溶けて消えた。どうやら、極めて微細な氷が宙を舞っているようだ。まるで氷の霧だ!
氷の霧で覆われた辺りは、一気に気温が下がり、吐き出す息の色が白く濃く染まる。
上空では、ユエの楽しそうな声と、雪虫たちの破裂音が続いていた。
「なんだなんだ! 突然竜が現れたかと思ったら、視界が――!」
「各自、警戒しろ! 団長に報告だ!」
白く染まった視界の向こうで、いつも家の周囲を警備してくれている兵士さんたちの慌てた声が聞こえる。
――あ。と思ってももう遅い。何やら複数の足音が聞こえ、段々と人が集まってきたのがわかった。
それはそうだ、爆音とともに辺り一面が白くもなれば、何事かと警戒もするだろう。
氷の霧のせいで辺りは酷く冷え込んで、肌がチリチリ痛むくらいだというのに、私の背中に汗が一筋伝ったのがわかった。
ジェイドさんや妹やカイン王子の声も氷の霧の向こうでするものの、視界が全く見えないお陰で、身動きがとれないようだ。ユエが調子に乗って雪虫を大量に潰したお陰で、空から降り注ぐ氷の霧はすぐには晴れそうにない。
――これは、霧が晴れたら、各方面にお詫びして回らなきゃ。
ユエの保護者であると自負している私は、霧が晴れるまでの間、お詫びの言葉を考えておこう――そう思った瞬間……誰かが私の腰に後ろから抱きついてきた。
「……さ、さむうい……」
振り向くとそれは人間の姿に戻ったユエだった。ユエはぐったりと体を私に預け、ぶるぶると震えて、顔色も悪い。慌てて持っていたちゃんちゃんこを着せて、マフラーでぐるぐる巻きにする。けれども、ユエの体の震えは止まりそうにない。ユエは紫色に変色した唇で、ぼそりぼそりと小さく呟いている。
「ちょ、調子に乗っちゃった……お腹すいた……このままだと――冬眠しちゃうかも……」
「と、冬眠――!? 冬眠するとどうなるの?」
「知らない……したこと、ないもん」
「ええええ!?」
「茜!? どうしたんだ!?」
私の叫び声を聞きつけたジェイドさんの焦った声が聞こえる。
けれども、今はそれどころではなかった。
と、冬眠……!? 冬眠って、どうなるんだろう!?
その時、私の頭の中に浮かんでいたのは、穴蔵で春まで懇懇と眠り続けるユエの姿。眠り続けるユエは、春になって暖かくなってもちっとも目が覚めなくて……。
――だ、駄目!!
不吉な妄想が頭に過ぎってしまい、どうしようもなく不安になった私は、ジェイドさんに向かって叫んだ。
「じぇ、ジェイドさん、ユエが! ユエが冬眠してしまう――!!」
「はあ!?」
「朝から何も食べてないのに、変身したから……ひもじい……眠い……」
「ぎゃああああ! ユエ、しっかりーーー!!」
「茜!? 取り敢えず、落ち着けーー!!」
私の焦る声と、ユエの段々と小さくなっていく声、ジェイドさんの怒鳴り声で、雪虫の白い氷に閉ざされたその場所は、あっという間に混沌に包まれ――暫く経って、氷の霧が晴れた時、ぐったりとしたユエを抱えてあわあわしている私の姿を発見した周囲は、大層焦ったらしい。
その後、皆でユエを家の中に担ぎ込み、急いで沸かしたお風呂で温めて、お腹いっぱいご飯を無理矢理にでも食べさせた。
「うんまい!」
ユエはそのお陰か、あっという間に完全復活し、ニコニコしながらこたつでご飯を頬張っていた。
そんなユエの姿に、一同脱力したのは言うまでもない。
お騒がせなやつめ――!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ユエの騒ぎで集まってしまった皆さんに丁寧に頭を下げて回り、我が家の周囲がいつもどおりの静けさを取り戻した頃。
氷の霧のせいでぐっしょりと濡れてしまったコートを片付けようと、自室へと足を運んだ。
何処に干そうかなんて考え事をしながら入ったから、中に誰かが居るなんてこれっぽっちも考えて居なかった。だから、突然視界に白金の髪が飛び込んできて、思わず飛び上がりそうになってしまった。
「な、なんだ……ティターニア。来ていたんですか」
ドキドキ激しく鼓動している胸を宥め、ほっと胸を撫で下ろす。
そこに居たのはもちろん、妖精の女王ティターニア。
ティターニアは、お酒とおつまみが乗ったテーブルの前に立ち尽くし、こちらに背中を向けて立っていた。
驚きはしたものの、見慣れた妖精女王の姿にほっとする。
そして、立ち尽くしたままこちらを見もしないティターニアに声を掛けた。
「待っていたんですよ……いつまで経っても現れないから、心配しました」
「……」
「話したいことがあるんですよ、それに居間のことも――……ティターニア?」
いつもなら「ヒトの雌はなんとも煩いことじゃの」なんて言い出しそうなものなのに、ティターニアは黙り込んだままだった。お酒とおつまみを目の前にして、反応がないのもおかしい。私は不思議に思って、ティターニアの顔が見える場所まで移動すると――思わず息を飲んだ。
私が知るティターニアは、白金の髪を波打たせ、生きているとは思えないくらい美しい少女の姿をしている。そして、余裕たっぷりの笑みを浮かべて、時には人間とは全く違う価値観を発揮して、ゾッとするくらい恐ろしい雰囲気を纏う、酒を愛する誇り高き妖精の女王。
――なのに、今、私の眼の前にいるティターニアは、目の下に濃い隈をつくり、どこかやつれていて、美しい白金の髪も乱れ――そして、その顔を歪めて、ポロポロと涙を零していた。それは、いつものティターニアの姿とはかけ離れたものだった。
その空色の瞳はただ一点、手の中のチコの花の髪留めに注がれていて、こちらに気づく様子はなかった。
「――ぁ」
声をかけようとして、やめる。上げた手を下ろして、この状態のティターニアに話しかけていいものかと悩んでいると、ふとティターニアが視線を上げて、私を視界に収めると、その空色の瞳を僅かに見開いた。
漸く私の存在に気がついてくれたらしいティターニアに声をかけようとすると、信じられないほどのスピードで詰め寄ってきたティターニアが、私の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。
壁に押し付けられた瞬間、どん、と鈍い音がして背中に痛みが走る。
襟元が首に食い込み、うまく息が出来ない。胸ぐらを掴んでいる手を引き剥がそうとしても、華奢なその手は恐ろしいほどの力で私の服を掴んでいて、びくともしない。必死で息を吸おうとするけれど、あまりに強い締め付けに中々空気が肺に入ってこず、頭がクラクラしてきた。
「――がっ……は……っ……」
「お主。聞きたいことがある」
ティターニアは、空色の瞳を最大限に見開き、私を凝視している。
相変わらず、ティターニアの容姿は美しい。胸ぐらを掴まれ締め上げられているこんな状態なのに、その澄み切った空色の瞳に、瞳を縁取る金糸の睫毛に、整った鼻筋に、薔薇色の唇に、視線が奪われる。
空気を求めて喘ぎながらも、ティターニアから視線を外すことはしてはいけない……本能がそう告げている。
なぜならば、ティターニアのその美しい瞳から読み取れる感情は――焦り、怒り、悲しみ……そう言う、痛々しい感情だったからだ。
彼女の事情を知る私は、ティターニアの友人である私は、ここで逃げてはいけない。
「――駄目だよ。女王様。ヒトは脆いものなのだから、そんなことをしたら死んでしまうよ」
その時、落ち着いた低い声がして、誰かが間に割って入り、私とティターニアを引き剥がした。
「……げほ、げほっ……」
「大丈夫かい? お嬢さん。僕の愛しい女王様が失礼なことをしたね。どうも、女王様はいつもの余裕がないようだよ」
「うるさい。……下僕は黙っておれ」
ティターニアを引き剥がしてくれたのは、綺羅びやかな宝石が沢山付いた道化の様な衣裳を着込み、泣き顔が描かれた仮面を着けている人外――テオだった。
テオはティターニアに睨みつけられると、肩を竦めて一歩下がる。
「ああ、悲しいなあ。女王様にそう言われたら、この愚かな下僕はそうせざるを得ないね」
そしてテオは大仰な仕草で、顔を両手で覆って悲しむようなポーズをすると、「愛しの女王のご命令とあれば」と適当な節をつけて歌いつつ、くるりくるりと回りながらその場を離れ、部屋の隅に控えた。
漸く息が整った私は、真っ直ぐにティターニアを見据えた。
ティターニアは相変わらず、私をじっと凝視している。その片手にはチコの花の髪留めをしっかりと握りしめていて、異様な威圧感を放っていた。いや、実際ティターニアの体から、魔力が迸っているのが見える。感情に振り回され、魔力の制御が出来なくなっているのかもしれない。
――ビリビリと肌に感じるほどの存在感。
私はじっとティターニアを見つめ返す。心臓が激しく鼓動している。今、私の眼の前に居るのは、強大な力を持つ、妖精女王ティターニア。ときには呪いを振りまく、恐ろしい人外だ。――油断するな。ここで選択肢を間違えると、大変なことになる。震える脚を意思で抑えつけて、そう、自分を奮い立たせた。
お互い見つめ合っていたのは、数瞬のことだ。
その場を支配していた緊張感は、ティターニアの瞳から零れた、一粒の涙によって打ち破られた。
「……茜。いくら探してもおらなんだ」
ティターニアの声は震えていた。すると、体から立ち昇っていた魔力は霧散して、人外らしい雰囲気が一気に減り、人間に近いものへと変化した。
ぐしゃりと顔を歪ませ、口をへの字にして、泣くのを我慢しているちいさな子供のような、そんな表情。
ぽろり、ぽろぽろと透明な雫が零れ落ち、空色の瞳を伏せがちにして涙する姿は、一枚の絵画のようで思わず見惚れてしまいそうだ。
「手下の妖精を総動員しても、どこにもおらぬ。……なあ、茜。このチコの花の髪飾りは、誰から貰った? これは、妾とあやつが若い頃に一緒に作ったものとよく似ておる。……もしかして、愛の証としてこれをお前はあやつから――」
子供のような表情だったティターニアは、話しているうちに表情が段々と消えていき、また、ゆらりと魔力を体から漏れ出させ始めた。そして、同時にティターニアは黒く大きな蝶の羽を広げた。途端、羽の周りを燐光が舞い飛び始める。存在感を増したティターニアの姿は、美しさよりも先に私の恐怖心を煽った。
何故ならば、ティターニアの瞳には、チラチラと怒りの炎が燃えているのがみてとれたからだ。
――これって、私がケルカさんの浮気相手だと勘違いされている!?
そのことに気がついた私は、ゾッとして、慌てて口を開いた。
「違います! これは、ケルカさんの弟のティルカさんから預かったものなんですよ。ティターニアに渡してほしいって」
「妾に……?」
私がそう言うと、ティターニアの纏っていた雰囲気が一変した。
女王に相応しい、息苦しいまでの威圧感を放っていた彼女は、あっという間に泣きそうな子供に戻った。
「どういうことなのじゃ、茜。ティルカに会ったのか?」
「はい。そうです。……ケルカさんにも」
すると、ティターニアは大きく目を見開いて、また私に詰め寄ってきた。
一瞬、また胸ぐらを掴まれるのかと身構えたけれど、私の袖を小さく華奢な手で掴んだティターニアは、潤んだ瞳で私を見上げた。空色の大きな瞳は、既に涙でいっぱいで、今にも零れ落ちそうだ。
「――どこで。どこで会ったのじゃ。教えておくれ。どうか、茜。頼む」
――弱々しい妖精女王の声。初めて聞いたその声には、ケルカさんへの深い愛情が含まれていた。
その時、私はどこかほっとしていた。
ケルカさんへのティターニアの愛を疑っていたわけではないけれど、心の何処かでケルカさんのことを聞いた時に、妖精女王がどう反応するのか、不安に思っていたのだ。
自分でも気まぐれと自称するくらいの彼女だ。知らぬうちに心変わりしていたらどうしようと、勝手に危惧していた。これが杞憂に終わってホッとしたのだ。……私って、なんて勝手な人間なのだろうと思う。
私の両袖を掴んで不安そうにしているティターニアの手を取って、優しく握る。
安心させるように、ゆっくりとした口調を心がけて、ティターニアの瞳を見ながら言った。
「――古の森。嘗てのエルフの里で、ケルカさんは待っています」
「……!」
「寂しそうに、窓の外をじっと眺めているそうですよ。……早く行ってあげてください」
私がそう言うと、透き通るような白い肌がぱっと薔薇色に染まった。
「……古の森……そうか、古龍。あやつ……!」
涙で潤んだ瞳を、キラキラと煌めかせて、ティターニアは私に御礼を言うと、どこからか湧いてきた光の粒が、ティターニアに纏わりつき始めた。
そして、急に顔を顰めて、私を申し訳無さそうな顔で見た。
「すまぬ。茜。勝手に思い込み、お主に苦しい思いをさせてしまった。なんと詫びればいいか――」
私はそんなティターニアに、ひらひらと手を振って、大丈夫! と笑った。
「私もね、最近は噛まれたりタックルされたり……色々あったんです。ちょっと締められたくらいじゃあ、屁でもありませんから!」
そう言って、腕を曲げて力こぶを見せつけた。……ぷよっとした二の腕が揺れただけだけど。
すると、ティターニアは少し目を見開いて――そして、花が綻ぶような笑みを浮かべて、私に向かって手を振った。途端、沢山の光の粒が寄り集まり、大きな光の渦となってティターニアを取り巻く。おそらくこの光の粒は妖精たちだ。恐ろしい数の妖精が、私の狭い自室へと集まり、眩しすぎて目を開けていられない。
ぎゅっと目を瞑り、光が収まるのを待つ。そして、次に私が目を開けたときには、そこにはティターニアの姿はなかった。
「異界からのお客人に感謝を。最愛の主に成り代わって御礼を申し上げる――」
唯一、部屋に残っていたテオは、そう言うと私に深く深く礼をした。
そして、次の瞬間、ふっとその場から掻き消えた。
私は脱力して、床に座り込む。
はあ、と息を吐くと、実は自分が結構緊張していたことに気がついた。
久しぶりにみたティターニアの人外らしい姿に、内心酷く動揺していたらしい。
ちらりと、テーブルの上をみると、ティターニアの為に用意していたお酒もつまみもそのまま残っていた。
時計に目を遣ると、まだ二時頃。お酒を飲むにはまだ早いけど――。
「ふたりの再会を祝して、飲みますか」
私はそう呟くと、ジェイドさんに呆れられるのを覚悟して、昼飲みへ誘おうと階下へと降りていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
春は始まりの季節。すべてを包み込み、生まれたばかりの命を優しく見守ってくれる。
夏は成長の季節。ギラギラ太陽の眩しい夏は、あらゆる命を育む。
秋は実りの季節。夏に培ったものが実を結ぶ、成果を感じられる季節だ。
そして冬は終わりの季節。
一年を締めくくる、大切な季節。
この世のすべての生き物は、始まりの暖かな春を夢見て、冷え切った世界で身を縮ませて。
残り少なくなった一年を指折り数えて――時折り、雲の合間に垣間見える太陽に癒やされて。
終わる、終わる。すべてが終わる。
命も使命も――物語も。
邪気に苦しむ人々の嘆きも。聖女としての使命も。大切な人と過ごす時間も。胸に秘めた想いも。
すべてすべて、すべてが終わる。終わったらまた巡り巡って始まりの季節。
優しくて暖かな始まりを迎えるために、私たちは終わらざるを得ない。変わらざるを得ない。――進まざるを得ない。
――さあ、冷たい冬の、冷たい雪の向こうに、何が私たちを待っているんだろう。
この先の道行きは、まだ誰にもわからない。
さあ、終わりの始まりだ。空から舞い落ちる雪が降り積もり、世界が白く染まるほど、決断の時は刻一刻と近づいている。
なんだか、いきなりクライマックス★みたいな感じになってますが、暫くはほのぼの日常回とイベントをこなしていきますよー! やりたいことが沢山あるので、冬編もどうぞ宜しくお願いします!