54話 土の封印施設
「ちょっとハヤテ!答えて貰うわよ!」
「ちょっと皆!聞いてくれよ!」
「「………」」
何故かサイオウさんと雪羊姉弟がついて来る中、私達は最下層でシキさんとハヤテさんを発見できました。
二人とも、ある意味恐ろしい事に怪我一つしてないようです。
私達も垂直ではありませんが、どれくらい下へと進んだのか、ある程度把握しているつもりなので、あの高さで怪我一つ無いのは凄いとしか言いようがありません。
しかも、彼等の後ろには、どう見ても人工的な入口が。土の封印施設ですね。判ります。
そしてアイさんがハヤテさんに詰め寄るのと同時に、彼の方も何かあったのか、アイさんの言葉と被って大声を上げてきました。
出来上がったのは、無言で見つめ合う二人。
相思相愛なだけあって、本当に息が合いますね。
「…先に聞くわ。封印施設に何か問題あったの?」
周囲が二人を見守る中、初めに口を開いたのは、姉を自称するアイさんの方でした。
ハヤテさんの体の事が気になるとはいえ、世界が関係してくる方を放ってはおけなかったのでしょう。
「報告は封印の後にして欲しいのだが」
ところがアイさんの言葉に応えたのは、ハヤテさんではありませんでした。
私達が発見した時に壁へ寄りかかっていた背を離しただけで、人工的な入口の横から動かないシキさんです。
…え、場所的に考えて、封印が解けた場所から、ひっきりなしに鬼系魔族が現れるって事ですか?
「シキさん、邪魔しないでくれる?あたしはハヤ―――」
「ではハヤテとここに残っていろ。……ゼーレ、頼む。次は軍隊規模で来ると宣言された」
「せ、宣言って、え?逃がしたんですか?」
「三人程、聖剣の影響で消滅したがな。元々、奴等を纏め上げている者に話を聞くまでは、殲滅の予定など無い」
…え、シキさんの中で「逃がさない」は、「殺す」と同意義ですか?
私の質問、そんな物騒な意味では無かったのですが…。
けれど、聞きたかった事は何となく把握できました。シキさんもハヤテさんも、鬼系魔族を全く捕縛していないという事ですね。
言葉でバッサリと斬り落とされ、呆然とするアイさんを放置し、シキさんは封印施設の中へ入って行きます。
ハヤテさんが「えっオレも!?」と少々慌てていましたが、まあ、アイさんの用はハヤテさんがいれば取りあえず済みますし、私はシキさんを追いましょう。
結果は後でアイさんに聞いても良いですしね!
ユーリさんが追って来ないのが少々気になりましたが、私達についてきた吸血鬼化している四人、鳥系魔族の青年と、雪羊姉弟もいたので、万が一を考えてあっちに残っているのかもしれません。
施設の中に入ってみると、やはりここも急な下り坂の通路になっていました。
下り坂の通路が唯一無かったのは、風の封印施設だけですね。
…ところで、ここに来るまでかなり地下へと下りたと思っていたのですが、ここでも下るなんて、どれだけ地面にめり込めば気が済むのでしょう?
少々呆れつつもシキさんに追い付いたのですが、そんな私の目に入って来たのは、坂を下り終わった終点にある、材質が壁の物と同じような感じで、観音開きに見える重そうな扉でした。
重そうな、扉でした。
そう、扉ですよ!
今まで、封印の間への扉なんてどの施設も無かったのに、です。
あえてあったと言うのであれば、あの水の封印施設にあった、隠し扉…。ですが、果たして落とし穴的部分を隠してあったあの壁は、扉と言うのでしょうか?どちらかと言うと、蓋ですよね。
あ、でも、もしかして…。
「シキさん、あの扉らしき物、実は偽物で扉の装飾がされた壁だったりは…」
「…我も疑ったのだが、あれは紛れもなく普通の扉だ。内と外、どちらからでも押す事で開く。ただし、人間の筋力では無理だろう」
まさかの本物でしたよ!え、何故それぞれの封印施設でやり方がバラバラなのでしょう?
とりあえず、私が押しても開かない事は確定ですね。
…と、まだ扉に辿り着いていないのに、何故かシキさんが立ち止まりました。
これは私にも、判ります。それなりの時間、一緒に行動してきましたからね!シキさんが中途半端な位置で止まる場合、大抵は敵が出現しています。
そしてここは、土の封印施設の中。つまり、封印の間に敵が出現している可能性が高いという事です!
「シキさん、敵ですか?」
「魔力の気配を消していない者以外は数える事ができないが…、今のところ十人だな」
ふっふっふ。当たりましたよ!
水の施設で、鬼系魔族はシキさんの魔力吸収が最も有効だと確認できていますし、きっと今回も私は補助ですね。
とりあえず、中級神術の術名無し発動の練習として、『与賜光速』をシキさんと私に掛けてみました。…うん、あっさりと無言で発動できましたよ。あの地図に無い村での凶器男消失事件、本当に私が『消影閃』で消していた可能性が高いですね。
これから一生、ずっと気を引き締めておかないと、何かのはずみに知り合いを消滅させる事になりかねないです。何故月の御方は、こんな危険な神術を私に教えたのでしょう?もしかして、私が術名無しで発動できるようになるとは、思っていなかったのでしょうか。
私は思わず、苦労しそうな未来予想へ溜息を吐きかけました。
「…ゼーレ、お前、術の腕が飛躍的に伸びていないか?」
「え、そうですか?」
けれど私の溜息の前に、シキさんから感情の読み辛い目でチラリ、と横目に見られたのです。
で、私が咄嗟に返した返答は疑問形。
いえ、私も技量の成長が突然すぎるな~とは思ってましたよ?ですがまさか、自分以外の人が気付くなんて、思ってもみなかったんです。
やっぱり翼のせいでしょうか。いきなり能力が変化したのは、羽が白金の色になってからですし。他人の目から見てもわかりやすいですよね?
「メディス王国では補助系の術を使う際、術名を口にしていただろう?」
「……そこまで覚えていたんですね」
「だが…、そうだな。ちょうど良い」
まさかの過去との比較で気付いた発言に驚きを覚えていると、何故かシキさんが大きく頷きます。
しかも、一体どんな思考回路からそうなったのか、シキさんが黒くて重い物体を私に渡してきました。重さは…そうですね、生後一ヶ月の赤ん坊二人分くらいでしょうか?
大きさは………。私は、両腕に収まった黒い物体に目をやりました。
平均的な成人女性の腰ほどもある太さの短い筒、そして大槌のような太い柄がある形状。
「ってこれ、シキさんの武器じゃないですか!?」
「物は試しだ。使ってみろ」
「シキさん、もう少し説明してください!いきなり人の武器を使う意味が解らないのですが!」
確かに、水の封印施設での戦いで、シキさんに武器が必要無い事くらいは判っていましたよ?ですが、シキさん自身が武器を使わず戦う事と、私がシキさんの武器を使って戦う事は、全く別問題だと思います。
私は理由を求めて、すぐ傍にいるシキさんに詰め寄りました。
けれど、再度口を開きかけた途端、大きな音が響いたのです。
ドンッ!と響いたその音は、確実にあの封印の間へと続くと思われる扉からのものでした。
反射的に体をそちらへ向けたのですが……、開いてませんね。
あんな大きな音がする力を持ってしても開かない扉って、扉じゃないですよね?完全に壁ですよね?
シキさん、一体どんな力を持ってしてあの中に入ったのでしょうか…。
私の物言いたげな眼差しに気付いたのでしょう。シキさんがちゃんと説明してくれました。
「『地乾固無変』で固定化している。平均的な讃犠程度の力が無ければ、開かないはずだ」
「えっと、讃犠とは、魔王のすぐ下の位でした、よね?」
シキさんが、軽く頷きました。確か、彼の部下、宰相であるヒガンさんがその位だったはずです。
「現時点では大した脅威ではないだろう。そこで、だ。今の内に、ゼーレに試して貰いたい」
「いえ、だから意味が解らないのですが…」
「太陽の属性の魔術砲は撃てるのか。そして成功した場合、吸血鬼は倒せるのか、だ」
ようやく意味がわかりました。
魔砲筒は、魔力が無い人が魔術砲を撃つと、何も変換されていない魔力の塊が飛出すという特殊な武器です。
そして武器を使う人が魔術を使える場合、状態異常や属性を付加できます。
もちろん、その付加行為は、魔砲筒を使う本人が使用できるもの以外は付加できません。
そして鬼系魔族の吸血鬼の天敵は、太陽の光とハヤテさんの聖剣。
しかもハヤテさんの予測では、聖剣は太陽の属性を持っているのではないか、との事。
ここまで情報があれば考えてしまいますよね?吸血鬼は太陽の属性の何かで攻撃すれば、致命傷を与えられるのでは、と。
「…でも、敵とはいえ、会話ができる相手を攻撃の実験台にするのは、ちょっと気が引けます」
「魔物も魔族も大して差は無い。双方とも、攻撃力的な意味での弱肉強食の中で生きている。弱い者は、服従か死を選ぶだけだ」
これからやろうとしている実験は、問答無用な気がしますけどね。
服従する気だったとしても、意味が無い気がしますけどね。
ですが、一国の王であり、国民には魔族どころか人間までいるシキさんの言葉とは思えない内容でした。
だって私は短時間とはいえ、見たんです。ネム王国が襲撃される前、竜の籠の駅がある村の人々はイキイキとした表情で生活していたんです。
とても服従しているようには見えませんでした。それとも、人間は別だとでも言うのでしょうか?
「シキさんは、何故国をつくったんですか?」
「………」
返される、沈黙。
ですが、彼の軽く伏せられた目で、何も考えずに行った事ではないと、それだけは判りました。
そしてこのまま沈黙が続きそうな気配に、やはり答えなくていい、と口を開きかけた時でした。シキさんが無言の空気を裂いたのは。
「人間は弱く、儚い。…だが、時として素晴らしい物を作り出す。我はそれを理解しない奴等の手から、保護しようとしただけだ」
ふと、シキさんの真剣な目が、あの夕の月の御方の眼差しと重なります。
何かを、固く決意しているかのような、それ。あの時、月の御方は何を決意していたのでしょうか。
「ゼーレ、情けは無用だ。我は一度奴らに忠告した。それでもまた来たのならば、問答無用で問題無い。太陽の属性を込めて、引き金を引け」
「ひきがね…?」
「持ち手にある、この部分だ。人差し指で引くのが一般的だな」
シキさんが、魔砲筒の太い柄の付け根にある部分を指差してきます。
「設計の段階でかなり抑えてあるらしいが、撃つとそれなりに反動がある。こけないよう気を付けろ」
「は、反動!?」
シキさん、全く何も無いかのようにバンバン撃っていましたが、何かの反動に耐え続けていたんですか!?
え、私にそんな物騒な物を扱えと!?
ただでさえ、太陽の属性を付加させる、という行為から難しそうなのに、反動にまで耐える必要があるとか、無茶言わないでくださいっ!
こころの中で反論していた私の声は、もちろんシキさんには届きません。シキさんはそのまま、私に指示を出してきました。
「まずは魔砲筒を振って武器の形状にしろ」
「えっと……」
こう、でしょうか?
シキさんがいつもやっているように太い柄を持ち、勢いを付ける為に頭上から足元へ向けて思い切り振り下ろしました。シキさんはいつも軽く腕を捻るように振っているだけでしたが、私が真似しても、きっとこの重さでは同じ速さで振る事は不可能でしょう。
そして、ガシャガシャンッと聞き覚えのある音と共に、初めて手に伝わる振動。
同時に、重たい物を振り下ろした反動まで掛かってきて、私は思わず前につんのめりかけます。
危ないです。うっかり地面に落とすところでした。
「今のゼーレが受けた反動が、魔術砲を発射させた時の反動に近い」
「え、でもそれだと、振った人によって威力が変わる事になりませんか?」
「確かに変動する。だが、そう設計したのはヒガンだ。我ではどんな構造になっているのか、詳しい事は解らん」
…ヒガンさん、一体どれだけ謎の物を作りだしているんですか?この勢いですと、きっと他にも設計してますよね?
私の疑問は口には出ず、もちろん気付かないシキさんは説明を続けました。
「属性変換した魔力は、この柄が付いている辺りの砲身の中に集めると良い。集めた状態で引き金を引くと、属性が付与された魔術砲が発射される」
しかもそう言いながら、シキさんは扉の方へと歩き始めます。
えっ、もう術解くんですか?まだ私、練習してませんよ?それとも魔砲筒での攻撃は、弓とかと違って練習せずとも当たるという事ですか!?
「とりあえず、我が足止めをする。ゼーレは当たるまで撃ち続けろ。我の事は気にしなくて良い。」
「え、し、シキさんっ!?」
彼が場違いなふんわりとした笑みを見せた直後、観音開きの扉が弾け飛びそうな勢いで開きました。




