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4話 グレア村の夜

「早かったな」


 昼間は曇っているのに、星が輝く夜空の下、嫌味なのか本気なのか判らない言葉が投げかけられました。

 こんばんは。私、天士(てんし)ゼーレです。

 今、目の前にいる黒目黒髪の貴族風な青年に、つい八時間程前、道や多少の木があるとはいえ見渡す限り草むらな平原に、七人の冒険者さん達と揃って置いてけぼりにされました。


 もちろん追いかけましたとも!


 ひたすら飛んで、速さを二倍にする補助神術を効果が切れそうになったら掛け直して、を何度も何度も何度も繰り返し、しっかり辿り着きましたよ!

 途中で疲労から泣きそうになりましたけど、根性で耐えました。誰か褒めてくださいっ!


 …おかげで羽の付け根が痛いです。明日は絶対に筋肉痛です。

 歩いて丸三日(ただし休憩時間含まず)な距離は伊達じゃありません。


「早くないですよ…。もう退治終わってるじゃないですか。それより、こんな所でどうしたんですか?」


 そう。こんな所なのです。

 シキさんがいる場所は、村の柵と堀の外。

 夜空の下、平時は村の入り口になるであろう場所の前に、焚き火をしながら座っていたのです。


「あれ?天使?…こんなイベントあったっけ?」

「ちょっと、何々?何が起きてるの?二人とも説明しなさいよ」


 初めて見る男女の二人組と一緒に。


 新緑の芽のような黄緑色の髪の少年と、紅茶色の髪の少女は、どうやら同年代のようで、十五歳前後に見えます。

 少年は手にある一振りの鞘入りの剣からして剣士だと思われますが、少女は武器らしきものは持っていません。

 代わりに、丈の長いフンワリとした外套にびっしりとポケットが着いていて、ほとんどのソレが膨らんでいる事から何かの小道具を専門に扱っているのかもしれません。


 先程の会話からして少女は普通の人間と同じく私の事が見えないようですが、少年には見えるようです。

 魔術の素質が高いんですね。


 とりあえずは自己紹介です。

 自分に人化の神術を掛けましょう。


人身化(リンシー)


「人が現れた!?」

「何か変身した!?」


 もちろん、シキさんは無言ですが、少年少女の二人は非常に驚かれてしまいました。

 少年はともかく、少女には悪い事をしたよう、な?


「はじめまして。私は天士(てんし)ゼーレ。ゼーレ・サンハと申します」

「は、はじめまして!あたしはアイ。三級薬師です!」

「オレはハヤテ・ヒロガイア。アイの幼馴染みで勇者やってまーす」


 …ん?

 私に合わせて、二人とも自己紹介をしてくれたのですが、何だか変な単語が聞こえたような気がします。


「ちょっとハヤテ、ゼーレちゃん反応に困ってるじゃないの。ここは剣士だって自己紹介するとこよ!」

「いやだって、この聖剣抜けるヤツは勇者だって、どこの国でも認める事実だぜ?」

「でも聖剣の形を知ってる人は少ないし、だいたい実力が伴ってないじゃない」

「ぐはぁ!……もうやめて。オレのガラスハートはヒビだらけだぜ」


 幼馴染み…ですか。

 そういえば地上世界に降りてから、一度も天上世界と連絡を取っていません。

 天照(あまてらす)議事堂の職員を目指して、小さい頃から一緒に頑張っていた彼女は、今どうしているでしょうか。


「ところで、アイさんとハヤテさんは、シキさんと一緒にここで何をしているんですか?」

「あ、シキさんの連れって、やっぱりあなただったのね!これからよろしく!」

「え?」


 アイさん曰く、狼型の魔物、岩狼(いわおおかみ)に柵の一部を破壊され、ハヤテさんが必死に岩狼(いわおおかみ)の侵入を防いでいたところへシキさんが到着したらしく、そこから十分程度で魔物を駆逐し終えたそうです。

 ただ、群れを全滅させたかどうかは不明で、暗い間にまた襲撃されたら大変とかで、シキさんが今晩だけ村の警護を引き受けたのだとか。


「で、あたし達はおまけね。シキさん一人に任せるのは申し訳ないし、あたし達も旅してる分、それなりに戦えるつもりだから」

「あ、いえ、あの…。今晩はよろしく、ではなく、これからよろしく、というのは…」


 そこでアイさんとハヤテさんの目が、丸く見開かれました。

 さらには、同じタイミングで二人とも首を傾げます。

 息、ピッタリですね。


「あれ、まだ言ってなかったっけ?オレは聖剣持ってるから勇者で、勇者だから魔王を倒さないといけないんだけど」

「実を言うとあたし達、何処に魔王がいるか知らなかったのよね。で、シキさんが魔王の城に殴り込むって話だから同行させてもらおうって事になったんだけど…」

「ゼーレ知ってるか?魔王って何人も存在してるらしいぜ?………ゲームではなかったのに、どうなってんだ…」

「え!?」


 ハヤテさんが最後に何かをぼそぼそと呟いていましたが、それどころじゃありません。


「シキさん、魔王って一人じゃないんですか!?」

「座れ。その事を二人に説明しようとしたところでお前が来た。まとめて話す」


 どうやら二人は、シキさんの詳しい説明も無しに同行を決定していたようです。

 …大丈夫なのでしょうか。

 とりあえず、私も焚き火を囲う位置に座りました。


「まず、説明の為にもお前達の考える“魔王”とはどの様な存在か、聞こう」

「え、悪逆非道で人間を奴隷にするか滅ぼすかして、世界征服を目論むヤツじゃねーの?」

「あたしは、人間を唆して戦争させて、同志討ちしているのを見て楽しむような存在かと思ってたわ」

「私は…ハヤテさんの想像と似ていますね。世界征服の為には天上世界にまで手を出せるような、策略家な感じでしょうか」


 どの想像にしても魔王という言葉の通り、諸悪の根源的なイメージです。

 …こんな魔王が何人もいるなんて、私一人地上世界に来ただけでは何も解決しない気がしてきました。


「ふむ。まあ、間違いではない。これから殴り込みに行く魔王は、お前達の想像通りである可能性が高いからな」

「「「可能性?」」」


 シキさん曰く、“魔王”とは、一定数以上の魔族を従えた魔族の王の総称であり、ほとんどの“魔王”は他の魔族からの侵略に備えたり、逆に他の魔族の領土を侵略する為に計画したりと忙しく、人間の国にはあまり興味が無いのだとか。


「そもそも魔族にも、肉食・草食動物系、無機物・植物系等、摂取できるものの違いでも種類を分ける事ができるのだが、自力で体内に魔力を生成できるのは、植物系の魔族だけだ」

「あー、つまり、草系の魔物を草食系の魔物が喰って、草食系の魔物を肉食系の魔物が喰うっていう食物連鎖があるワケね」


 ふむふむとハヤテさんが頷いていますが、何がなんだかサッパリです。

 食物連鎖という言葉は、地上世界の動物史の授業で習ったような気がしますが、その記憶は遠い彼方といいますか…。


「そうだ。そして魔族は、魔力が尽きた場合も生命活動が停止する」

「マジか!ようやく設定が判ったぜ!自分達の食い物の為に活動する魔族からしたら、魔力が無いヤツが大半な人間には基本的に干渉しないって事で、ゲームでは一人しか魔王が出なかったって事だな!」

「………。アイ、このハヤテという男は…」

「シキさん、そっとしておいてあげて。この子、時々よくわからない妄想を語り始めるのよ…」


 同年代の男子をまるで我が子のように語るアイさん。

 シキさんは呆れているような口調ですが、ハヤテさんの言葉のおかげで、私にもなんとなく理解できました。


「つまり、魔王は多すぎて全員を倒すのは大変なので、人間に害がある行動をする事が判っている魔王だけ倒しに行くという事ですね!」

「まだ確定はしていない。我が国の情報を扱う省で、その可能性が高いと判断されただけだ」

「え、でもシキさんはお城に殴り込みに行くって言ってましたよね?」

「…可能性ではなく事実であった場合、双方共に武力行使へ発展する事が確実だからな」


 へえ、地上世界の国のお偉いさんって大変ですね…と納得しかけて、私は、はた、と思い当りました。

 もしかして、シキさんの出身国以外の国からも、例の魔王の城へ向けて誰か派遣されているんじゃないでしょうか、と。


「あの、最終的に何人になりそうなのでしょう?」

「「「何人?」」」


 あれ、何故アイさんやハヤテさんだけでなく、シキさんまで首を傾げているのでしょうか。

 地上世界には、二桁は確実な数の国が存在しています。

 それら全てから、調査員もしくは討伐員が派遣されていたら、きっと例の魔王城の前には恐ろしい人数が集結する気がするのですが。


「えっとですね。各国からシキさんのような役目の人が選出されていた場合、最終的にかなりの人数が例の魔王城に集まると思うのですが」

「………」

「だーい丈夫!そんな事にはならないって。オレが言ってんだから問題無し!」

「言われてみればゼーレちゃんの言う通りよね。そんな所に聖剣を持ったハヤテが行こうもんなら、あっという間に前線に押し出されて、下手したら一人で魔王と戦う事になりかねないわ」

「ちょっ、アイ!?幼馴染みのオレよりこのモブの味方すんのかよ!?」


 シキさんは無言です。

 まあ、そうですね。何ヶ国からから何人ずつ選出されるか知っていなければ、人数なんて答えられないのも道理です。

 何となく口にしただけですが、結果的に意地悪な事を言ってしまったみたいですみません。


 それよりも勇者様、私の名前はゼーレです。モブとかいう、名前のどこから取って来たのかがサッパリな愛称(いえ、私本人が不快に感じている時点でアダ名ですね)なんて付けないでください。

 せっかくお名前教えて貰ったのに、対抗して呼びたくなくなるじゃないですか!


「ま、とりあえず、見張り番の順決めしましょ。明日も歩かないといけないんだし、何かあったら他の人を叩き起こすので良いわよね?」

「んじゃ、女子は男子より戦闘力が低めって事で、アイとゼーレはセット…違った。一緒な!」

「では、初めを引き受けよう」

「オレは二番で!」

「今の時間からなら、三時間交代ですね」

「ハヤテ、シキさんに起こされたらちゃんと起きるのよ?」


 ハヤテさんの戦闘力が不明な為若干不安ですが、ここは信用するしかありません。

 それに私は眠らなくても…あ、神力の回復は眠らないとダメでした。

 有り難く寝させて頂きます。


 それにしても、アイさんすごいですね。

 野宿用に毛布を二人分、収縮袋に入れて持ち歩いていたらしいです。

 アイさんの実家は高名な医者だそうで、収縮袋は三級の薬師免許を取得できたときにご両親から貰った贈り物なのだとか。

 で、二人分の食料と飲料も、アイさんが収縮袋に入れてるみたいです。


 ハヤテさんは?と聞いたところ、魔物との戦闘での主力なので身軽にさせているのだとか。




 …思ったのですが、色々入って重たい収縮袋を持ち歩けるアイさんって、私どころか、ハヤテさんより体力あるのでは……。

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