10話 地下の魔法陣
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「さて、ここで一つ問題がある」
「え、何、ゼーレが魔術使ったら終了じゃねーの?」
ここは“命の泉”の水中から繋がる何かの施設……の隠し穴の中。
私の油断により落下した先です。
運良くシキさんとハヤテさんと合流できましたが、何と二人ともカビの様な絡まり方をするおぞましい黒色のドロッとした何かに捕まってその場から動く事ができないそうです
一応、私の光属性の神術にある、解放と神力譲渡の術で何とかなる、とシキさんが言っていたハズなのですが…。
「魔力吸収と魔力譲渡の魔術は、一般的に相反するものだとされているが、実際に逆の性質と認められるのは、同一人物を起点として二つの術を発動させた場合だ」
「意味不明なんですケド」
「…今回はマホージンで発動しているので、マホージンで逆の性質の術を使うべき、という事でしょうか?」
それでしたら私、できませんよ?
そもそもマホージンの仕組みからして知らないので、根本的に無理です。
え、これ、結局はシキさんが三日かけてマホージンをどうにかする、という話ですか?
いえ、一応、私が来たからそんなに時間をかける必要は無いと言っていたので、違いますよね。
「必ずしも魔法陣である必要は無い。……解らないのであれば、問わせてもらおう。この魔法陣で吸収した魔力は、どこに行っている?」
「へ?何、この魔法陣、何かにオレ等の魔力供給してんの?吸い取ってるだけだと思ってた…」
「なるほど。つまり、この魔法陣が魔力を供給している先の対象から、魔力譲渡を行うような術にしなければならないんですね…」
そんなのできるんですか?私、やった事無いですよ?
しかも光属性の神力譲渡の術は、自分の神力を他人に分け与える術です。
他人の力をさらに他人へ…なんて絶対に術の種類が違いますよね!?
「できるか?」
「無理です。私の神力譲渡の術は、自分の神力を他人に分け与える術なので、種類が違うと思います」
「………」
え、何で私、シキさんから呆れていると思わしき沈黙を受けてるんですか!?
使えないものは使えないんですよ!
そんなに言うなら、自分でやったら良いじゃないですか!
「いや、すまない。誤解を与える言い方だったようだ。魔力譲渡の術はこちらで行う。ゼーレ、お前にはこの魔法陣がどこへ魔力を送っているかを調べてもらいたい」
「え?私は神術使わなくて良いんですか?」
「解放の魔術はお前の担当だ」
もしかしてシキさん、私の心を読んだのでしょうか…。
そして何故かハヤテさんがシキさんの方へ顔を向けて、ジッと見ているのですが、どうしたんですか?
「ハヤテさん、どうしたんですか?」
「ヤ…その…。シキ様って魔力の動きが見えるんじゃなかったのかと思って」
「………」
「あ、ちょっ、ごめんって!バラさない、バラさないから!でも超一流の魔術師は見えるヤツいるって聞いた事あるしこれくらい良いだろ?」
ハヤテさんがいきなり顔色を悪くしてブンブン顔を横に振りましたが、一体シキさん、どんな顔をしていたんですか?
二人とも私に背を向けた状態でマホージンに囚われている為、こちらを向いてくれないと表情が見えません。
無言でハヤテさんに答えていたシキさんですが、ふ、とハヤテさんの言葉に疑問を持ちました。
「あれ?魔力の動きがわかるのなら、どこに魔力が向かっているかもわかるんじゃないですか?」
私に調べさせる必要、無いですよね?
「…動かぬ魔力の流れを辿ったところで意味は無い」
動かない魔力…?
私はシキさんとハヤテさんの状態を、上から下まで、じっくり観察してみます。
…拘束している黒い物体が、初めに見た時よりも微妙に二人の体をせり上がっている気がする事がわかった程度で、魔力に関しては特にわかりません。
「………魔力吸収に抵抗する術を持っている者がそれを行使しないはずが無いだろう。ちなみにハヤテはその聖剣が抵抗しているが故に魔力が奪われていないようだな」
ハヤテさんに関しては、シキさんが顎で示した聖剣を見て、何となく理解できました。
流石聖剣です。勇者をしっかり守っているんですね!
先程の言い方から考えて、シキさんも何らかの抵抗方法を持っている…と。
「ん?って事はゼーレがオレ達に解放の魔術かければOKじゃね?」
「オーケーではない。初めに言った通り、この魔法陣はおそらく拘束と魔力吸収の複合型だ。片方だけの術を使ったところで効き目は無い」
「え、シキ様OKって言葉解んの!?マジで!?」
「古くからの部下が、時々その言葉を使っている」
…何だか二人だけで盛り上がり始めて、私、蚊帳の外な感じですね…。
動けない事以外は二人とも元気そうですし、供給先というものを探すべきでしょう。
ちょっと寂しいとか、ないですよ?二人の邪魔をしないように、と思っただけですよ?
それにしても、供給先というのはどうやって探せば良いのでしょう?
この施設の設計図とかがあれば良いのです、が。
あ。
そうですよ!アイさん!
彼女に今、この“命の泉”に関する資料が無いか、確認してもらっているんでした!
もし資料があれば、それに載っているかもしれません。
それなら今私がやる事は、アイさんと合流できるよう、ここから出る方法を探す事ですね!
「シキさん、ハヤテさん、ちょっと出口探しに行って来ますね」
私がそう口にした瞬間です。
何故か二人が同時にこちらを振り返ってきました。
「ゼーレ、それは……」
「ちょっ、ゼーレ、オレ達見捨てる気!?オレ達モブに見捨てられてゲームオーバーなワケ!?」
「失礼ですね!見捨てるわけ無いじゃないですか。今、アイさんがこの泉についての資料が無いか、グレア村で探してくれてます。なのでアイさんと合流できれば、このマホージンについても解るかもと思ったんですよ!」
私の弁明に雰囲気を和らげる二人。
…私の信用度、とっても、と~っても低くないですか?
それにハヤテさんはともかくシキさんまで、まるで私が居なくなったら困るかのような態度っておかしいですよね?
三日も必要とはいえ、それだけ時間を掛けたら解除できるって言っていたの、私覚えているのですが。
「…そうか。では、この魔法陣がどこへ魔力を送っているかを調べる事と、出口を探す事を平行して行って欲しいのだが」
え、増えましたよ?
私のやる事増えましたよね?
確かにこの三人の中で移動できるのは私だけですが!
「憤っているところすまないのだが、この部屋を良く見てみろ。どこにも扉等は存在していない。…天井の穴も既に塞がっている」
「え、そんなっ!?」
シキさんの言葉に、思わず私は上へ飛び上がります。
落ちて来てから、あまり動いていないはずなので、真上の天井周辺を探せば良いはずなのですが……。
とても高い位置にある天井は、どこに穴があったかはすぐに判ったものの完全に塞がれていました。
押してもびくともしません。
「ゼーレ、ゼーレ!」
私が頑張って天井を押している姿に何を思ったのか、ハヤテさんが声を掛けてきました。
「お前ってパンツ白いのな!」
「ちょと!どこ見てるんですか!?」
「いやいや、ミニスカで男の頭上飛ぶ方が悪いだろ。見られたくねーなら飛ぶなよ」
「飛ばなかったら調べられないじゃないです、か!!」
空気が読めない男子にはお仕置きです!
私はえいっとばかりに、光属性の下級攻撃神術『焦輝』の光の矢をハヤテさんの目の前に飛ばしました。ただの脅しで、本人には当てません。…当たったら最後、光で網膜が焼き切れ、失明するので。
ただし、この攻撃神術は見た目が派手なので、脅しとしても効果は抜群です。
真っ白に輝く矢がハヤテさんの目の前の床に突き刺さり、パンッ!と耳が痛くなる程の大きな音を立てながら光を爆発させて周辺の空間を一瞬とはいえ白い闇に沈めたのです。
「め、目が―――!!」
命中してない人に対しては強い目晦ましになるので、はずしても視覚から情報を得て行動している人に対してなら十分に有効です。
フンッと鼻息も荒く私は床へ降りましたが、少し、少々…いえ、僅かに悪い事をした気がしなくもありません。
何故ならハヤテさんは先程の私の脅しで横に倒れ、ぐちゃり、と音を立てた黒いどろりとした物体に体の側面や顔の一部を囚われてしまったからです。
ひぃっマジでごめんなさいぃい~~、と小さく叫んでいるあたり、多分彼もこの黒い物体の事を気持ち悪く思っている事でしょう。
「ゼーレ」
「何ですか。シキさんも私の下着を見たんですか?」
「……お前の下着なぞ見て何になる。違う。魔力の供給先の事だ」
…。見られるのも嫌ですが、何になる、と全く女子扱いされていない事にも腹が立ちますね。
ですが、見ていない相手に攻撃するのはちょっとどうかと思うので、ぐっと我慢です。
「お前の術のおかげで供給先が判明した。解放の魔術を全力でこの魔法陣に当てろ。それに合わせてこちらも魔力譲渡の魔術を使う」
「え?」
今、不思議な言葉が聞こえましたよ?
そもそも私、これから魔法陣がどこへ魔力を送っているかを調べる事と、出口を探す事をしないといけなかったのではなかったでしょうか…。
「解放の魔術は、この黒い方の魔法陣に全力でぶつけろ。できるな?」
「え、えっと?」
「この魔法陣の供給先は判明した。ならば魔術を使えば解ける。早くしろ」
「―――…!っはい!」
よく解りませんでしたが、解けるならそれで良しです。
考えるのは後にして、先に二人を救出しましょう。
…ハヤテさんはもう少しだけその状態で反省しとけば良いとは思わなくもないですが。
「我が神力よ…、今、光となりて」
行うのは、上級神術です。目を薄く閉じ、集中力を高めて……。
全力、とシキさんは言いました。流石に動けなくなるほど、とは言わない気がするので、術発動後に倒れない程度で、しっかり神力を体の内外から集めます。
シキさんの魔力は?とは心配しません。彼はできると言ったのです。
「闇に縛られし哀れな贄を、陽光の下に解き放たん―――…」
カッと見開くのは、私の目。術がいつでも発動できるようになっている証拠に、私の周囲ではキラキラと眩しく光る粒子が舞い踊ります。
こちら側に軽く上体を捻ったシキさんが、無言で頷きました。
「『滅楔消闇光』!」
「『与賜抜源力』!」
キィンッ
ゴゴォ……ン…
閃光と共に耳の痛くなる高音が鳴り響きました。
少し遅れて、何かが崩れる様な地響きも。
全力でやりすぎたのか、光属性に耐性のある私でも視界が真っ白です。
「シキさん…?ハヤテさん…?」
「ああ、すまない。しばらく待ってくれ。……未だ視界が確保できん」
「ん?でもオレ、動けるぜ!マジか!成功してんじゃね!?」
そして視界が戻ってきて…。
「っ!シキさん、ハヤテさん!二人ともこっちに下がってください!!」
真っ黒のマホージンが消滅していたのが確認できましたが、別の問題が発生していたのです。
光耐性のある私ですら今やっと視界が戻ったくらいです。きっと二人はまだ見えていません。
あの、ぼんやり光っていたマホージンが輝きを失い、中央から人間の左手らしきものを生やしている光景を。
「え、何なに!?」
「ゼーレ、どうなっている」
見えないながらも、私の叫び方に何かを感じ取ったのか、二人はこちらに駆け寄ってくれました。
「人間のものらしき左腕が、マホージンから生えています。あの、今までぼんやりと光っていた方のマホージンからです。黒い方は消えました」
眺めている間にも、不気味な左腕はフラフラと何かを探すように揺れ、パタン、と床を叩きます。
そして今度は。
「…あの魔法陣は封印の役目を持っていたという事か」
赤紫の髪が生えた頭らしきものが少しずつ現れだしたのです。
私の隣では、シキさんが魔砲筒を装備しました。もちろん私は、先程天井を確認した時から落とした剣を持ち直していますよ?
そして全て露わになった顔は、色っぽい雰囲気の女性の顔。
「あらぁ?いきなり美味しそうな男を二人も見つけるなんて…とぉっても幸先いいわねぇ」
そしてずるり、と私に見せつけるかの様な巨乳が、光の消えたマホージンから這い出てきたのです。




