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第14章(4)〜ミカエルvs.ルシフェル

★グリックの施設見取図です。作品理解の参考にどうぞ


下のURLをコピペしてお使い下さい。


http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/00/315a2b8b2939d89b0bd8295eb728100c.jpg



初心者の方へ

IE/インターネットエクスプローラーでのやり方


1)頭にカーソルを持って行き、左クリック押しっ放し、右へ動かし白黒反転させ、“Ctrl”と“C”を同時に押します→これでコピー出来ました。


2)次に、IEのアドレス欄の先頭にカーソルを持って行き、左クリックして、今出ているアドレスを白黒反転させ“Ctrl”と“V”を同時に押します→これで貼り付け出来ました。その後アドレス欄の右側にある、→移動、をクリックします。


3)このページに戻る場合は左上の“アドレス”の上、←戻る、をクリックしてください。



 同じセクター6の作戦室。対象集団Aを見失った即応班の片割れ、G班の生き残り達が捜索を続けていた。この作戦室のある能力者実験棟ももぬけの殻、人っ子一人見えない。 

 彼等の内、一人の軍曹に率いられた4名がアウリとジブ、そしてルシェが出て行った作戦室にゆっくりと近付き、開いたドアから中を覗き見る。迷彩服姿の5人は恐る恐るこの部屋に入ると、直ぐに部屋の中央にある黒いボックスに気付く。

「あれは!」

「待て、動くな!」

 軍曹は、思わず部屋を出ようとした一人を切迫した小声で引き止め、

「爆発物だとしても起爆装置が接触、モーション、ボイス、タイマー、どれか分からん。みんな、そこを動くな」

 数分掛けて、非常にゆっくりとしたジェスチャーで軍曹は自ら黒いボックスに近付き、観察する。

「・・・ビルム79に似ているが・・・違うか・・・ドイ、見てみろ」

 直ぐ後ろに続いた爆発物に詳しい工兵上がりの部下に、

「どうだ?」

「ええ、確かに容器コンテナは七十九式対人指向性爆薬に似てますね。でもワイヤーもなく、センサーも見えません。モーションセンサーらしきものも無い。しかし、スイッチが押され、作動している様子です。爆発物処理班に任せた方がいいですね」

「分かった、とりあえず隔離する、外へ出よう」

 軍曹は部下を先にやって廊下に出ると、廊下側の開閉装置でドアを閉めた。部屋中央のテーブルにこれ見よがしにあった黒いボックスのお陰で、軍曹は天井の点検ハッチがぶる下がっていたのに気付かず、もっとまずい事にドアに接触して仕掛けてあったもう一つの黒いボックスにも気付かなかった。そしてそのボックスでは、ドアが閉り側面に掛かっていた圧力から開放されると、『装置』のスイッチが入る。 

 軍曹達にとって幸運だったのはその装置がとりあえず爆発物ではなかった事だった。その黒いボックスの見た目の変化は、赤いスイッチボタンが内側から発光し、微かにファンが回るような音を発した事だったが、それはテーブルの上にあったボックスが発している音と同じだった。



 セクター2。時折ふらふらと『ゾンビ』化した保安部員が彷徨さまよう他、人影は無い。

 最初の対象集団Aの追撃で、このグリックにおけるオフィス地区の建物には所々に黒い焦げ跡を残す穴や弾痕が見られ、構内の広い道路には乗用車が横転していたり、小型装甲車両が全焼した醜い姿を晒し、未だに燻っている。 

 その脇をミカエルは走り抜けた。黒いTシャツは汗に濡れ、ジーンズに点々と残るのは途中で殺した『ゾンビ』たちの返り血。しかし表情は明るく、笑みさえ浮かべていた。そして、その笑みが大きく広がる時が来た。

― いた。

 全身黒の特務服とスニーカー姿のその女は、セクター2も外周フェンスに近い無人地帯のある2−1地区と2−2地区とに跨る、一般職員と来訪者の駐車場をフェンス方向に歩いていた。二千台は駐車可能の広大な駐車場で、水銀灯の光により今が深夜である事も感じられぬほど明るい。

 駐車場はアスファルトではなく、コンクリート舗装の白い路面。女の黒い出で立ちは遠くからでもよく目立った。ミカエルとの距離はおよそ300メートル。 

 ミカエルは身を屈め、駐車場脇に平行して走る構内道路に横たわる一台の乗用車の影に隠れる。そしてアサルトライフルを横転し潰れた車の車体に乗せて安定させ、視界の開けた駐車場を横切る黒いシミのような女に遠距離狙撃を試みる。 

 スコープ付き狙撃銃が必要な中距離、レーザー測距照準装置も無く、しかも銃は狙撃に不向きな突撃銃。ミカエルはセレクタースイッチを単発に合わせて構え、呼吸を止めると慎重にトリガーを引いたがその瞬間、なんと目を閉じていた。

 彼の頭の中ではその女、ルシェが8倍程度に拡大され、その黒髪に隠された蟀谷こめかみに架空の赤い十字線が引かれていた。狙撃の直後目を開くと、ルシェはまだ立っていたが、今や彼の方を向いている。当った気配は無かった。

― やはりな。

 ミカエルは苦笑し、銃を下げる。彼の狙撃が下手なのではなかった。銃弾は正確に彼女の頭に向ったが、彼女はほんの数センチ頭を逸らし、銃弾はその数センチの差で虚しく飛び去った。

 ミカエルは車の陰からゆっくり立ち上がると、ルシェと同じく遮る物もなにも無い駐車場へ足を踏み入れる。ルシェはその様子を黙って見ていた。

(いたねぇ。ったく、待たされたもんだぜ。え?)

(・・・)

(釣れないよな。ご無沙汰だなぁ、センパイ、オレだよ)

 彼女が微かに眉を潜めている様子が彼には分かる。やがて彼女の『声』が彼の頭に届く。

(ああ)

 彼はおやおや、と首を振ると、

(あれ?リアクション薄いなぁ、一時は肩並べて戦った仲じゃない、先輩)

(・・・昔の事だ)

(まだ5年前の話だよ?先輩。あの頃は人の操り方から壊し方まで色々教えてくれたしさぁ、こちとらあんたの最優秀の弟子だと自負してるんですがねぇ)

 ミカエルは話しながらじわじわと前に進んでいた。意識はルシェから一時も外さない。思考会話を続けながら彼は『罠』の準備をしていたのだ。

(なあ、ルシフェルさん。パレスチナの時の事、覚えてるかな?俺が最初に実戦に出た時の事を。あの時俺はまだ青二才で、あんたは既に有名人、先乗りしてたあんたは挨拶代わりに敵の偵察小隊を全滅させていたっけ。俺はね、炎を吹き上げ乗員の火葬炉となっている偵察装甲車の前を、カッコよくこちらに歩いて来るあんたを阿呆みたいに見てたんだ。人肉が焼ける臭いや立ち上る陽炎の中、スナイパーの銃弾が時折あんたを掠めて行く。さっきみたいにね。決して避ける素振りも見せない、そんなあんたの姿を見て、俺はイカれちまったものさ)

 ミカエルはルシェに間断なく昔話を注ぎ込みながら、彼女のディフェンスを破ろうと、『裏口』から廻り込もうとしていた。 

 彼は今や250メートルほど先に居る実体のルシェを見つめながら、その実彼女の後姿を見つめていた。あと少し。もう少し。無論心に思い浮かべてはいけない、期待すら、してはいけない。

(グアテマラの時は、どうだ?ホンジュラスの大佐が小便ちびった時の話だぜ、覚えてるよね?あいつは傑作だったよな。あんたはマヤ文明か何かのシャーマンを描き出して、一個連隊の勝ち誇った掃討作戦を、小学生の肝試し大会みたいにしちまった。へっぴり腰で村を行く連中の姿ったらなかったよな。あの後、俺が引き受けて―)

― 今だ。

 駐車場の反対側、煌々と輝く水銀灯が付いている鉄塔の真下に女『ゾンビ』が潜んでいた。擲弾発射装置を付けたやや旧式のアサルトライフルを持っていた彼女は、自分がスナイパーになったつもりになり、混乱した頭が動くものを全て攻撃していた。

 そんな時、突然の『啓示』を受けて、女は何故か今まで見ようとしなかった方向にさっと銃口を向ける。すると女の前方80メートルに黒尽くめの女が一人、立っているではないか。女の混乱した頭は更に、その黒尽くめの女が発する『とても嫌な雰囲気』にいきり立ち、直ちに排除しなくてはならない、と思った。 

 あの『敵』は、とても強い。邪悪だ。銃を上げ、しっかりと狙いを付ける。

 今まで撃って来たライフルの5.56mm弾ではなく、40mm径旧タイプの擲弾を黒尽くめの女に向けて発射する。その女は直前に気付いた様子で、駐車場の外に向って突然走り出す。しかし油脂と黄燐が詰まった擲弾は、彼女がまだ数メートル動いただけで炸裂、眩い光と真っ白な煙が炸裂した後に女の体から炎が立ち昇り、やがてその姿が燃えながら崩れる。

― やった!

 その瞬間、ミカエルはまだ勝負が付いていない事を察した。

 先程の女ゾンビが彼に向けても擲弾を発射、ミカエルは辛うじて近くに駐車してあった車の陰へ飛び込み、炸裂した発火性物質のシャワーを避けた。燃え出した車から素早く離れ、爆発寸前に別の車の陰へと廻り込む。

 彼はすかさず反撃に移る。女ゾンビに向けて『深い悲しみ』の感情をぶつけ、女が怯んだ隙に車伝いに移動、今度は時間を掛けてゾンビの無力化を試みる。ものの数秒で女ゾンビは強烈な頭痛と吐き気を受けて悶絶、卒倒した。 

 ミカエルは安全が確保されたと見るや、直ぐにルシェの『遺体』の方を確認する。そこには今だ燃える油脂や白煙を吹き上げる黄燐、そして『遺体』があった。 

 彼はゆっくりと立ち上がり、近付いて行く。突然、赤く燃える車の爆ぜる音が響くが、ミカエルは飛んで来た破片を避けるためにほんの少し身を屈めただけで歩き続ける。駐車場にはもう他に人の気配は無く、グリックの構内に響く銃声や爆発音も、心なしか少なくなっている様だった。

― 案外、あっけないものだった、な・・・

 ミカエルは嫌な臭いを発しながら燻り続ける遺体を前に、それまで油断無く構えていたアサルトライフルの銃口を上げ、肩に担う。

 ルシェの遺体はもう誰なのか見分けが付かず、黒焦げのマネキンのようにも見えた。暫く佇んで、何か考え込んだが、やがて彼にしては珍しく十字を切って指を組み合わせる。そして、悲しげに首を振りつつ踵を返してグリックの奥へと歩み去って行った。


 ルシェは焼夷擲弾が炸裂したわずか50メートルほど先から、ミカエルが爆発跡を見守り、十字を切るのを皮肉な笑みを浮かべて見ていた。その姿は360度隠れるものも無く、無論、ミカエルからも良く見えているはずだった。 

 しかし、彼女は全く落ち着き払って黙ってミカエルの方を見ている。ミカエルも幾度か彼女の方に視線を投げるが、彼女に気付いた様子は全く伺えない。暫くの後ミカエルが去って行くと、彼女の方もゆっくりとフェンス方向へ歩いて行く。先程焼夷擲弾が炸裂した場所には『遺体』などはなく、ただコンクリートに張り付いた油脂が燃えているだけだった。やがて、駐車場の際、フェンスまで芝が続く無人地帯まで来ると、彼女は立ち止まる。 

 すると彼女の直前、10メートルほど前方の芝にそれが現われた。白く棚引く煙。不思議なことに煙なら立ち上るはずが、これは平面のまま渦を巻くようにほぼ真円を描いていた。 

 彼女は特務服のポケットから手袋を取り出し、それを両手につける。そして背負ったナップザックから、自動減速制御機能の付いた確保器を付けたハーネスを取り出し、素早く身に付ける。更にナップザックから小さく巻き取った10ミリのクライミングロープを取り出すと、丁寧に解いて、地面に輪を作って巻いて置くと、煙が水に変わった丸い『池』に一方の端を繰り出す。地面の輪が残り少なくなると、ロープを確保器に通し、その端を持って直ぐ近くに駐車していた乗用車の後部バンパーの下に手をやり、車体にカラビナでロープの端を固定する。これで彼女の準備が完了した。 

 その時、上空から一際大きくプロペラ音がして、武装ヘリが急降下して来る。

「そこの女、動くな!武器が狙っているぞ、動くんじゃない、両手を挙げろ!」

 ヘリからは警告が発せられるが彼女はそちらを見ようともしないで、落ち着いた表情のまま『池』へ近付く。ヘリが機首に2丁つけている20ミリミニガトリング砲を発射準備ヒートアップし、正に彼女に狙いを付けると、

「命令だ、動くな・・・最後の警告だ、動くな・・・発砲する!」

 そしてヘリの射撃手ガナーがトリガーに指を掛け、撃とうとした瞬間。

 ヘリは突然バランスを崩し横滑りすると、駐車場を照らす照明塔に激突し火を噴いた。

 ルシェは、ヘリの爆発により自分の身に危険が及ばない事だけを確認すると、ロープをピンと張ってから『池』の縁に立つ。そして彼女はロープ握ると池の中へ飛び込んで消えた。

 彼女を飲み込んだ池は、ものの一分程で地を這うような霧となり、煙となって消えて行く。後に残ったのは車に付けたロープ、その端は芝の上でぷっつりと切れ、その切り口は鋭いナイフか何かで断ち切ったように見えた。 

 駐車場の際には、取って返し走って来たミカエルが、呆然とヘリの残骸を見つめていた。


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