第8章(後)〜監視者たち
登場人物(その3)
☆“エンジェル”
サリエル/サリー;15歳位のブルーの瞳と金髪のハーフ娘。女子高生に憧れているのか奇妙なギャル語を話す。思考会話を操り相手を卒倒させる術を持つようだ。
ルシフェル/ルシェ;20代中頃に見える、鍛えられた身体を持つ女性。怜悧で戦士として最優秀、能力者としても優れているようだ。
アザゼル/アッジ;10代前半のごく普通の男の子に見える。しかし思考会話を操り、能力もありそうだ。
ラグエル/ラグ;31歳。 元軍人の女性。能力者の取りまとめ役らしいが、思考会話を使えない事から非能力者らしい。プリンス奪回の際、ラミィに無理させた事を後悔する。軍では大尉だった。
カマエル/隊長;38歳。元特殊部隊の隊長。現在はエンジェルの軍事面でのリーダーのようだ。冷静で有能な男。非能力者。軍では中佐だった。
バルディエル/バディ;30歳。彼も特殊部隊で数々の軍功を上げた元エリート軍人。コードネームより軍人時代の階級『曹長』と呼ばれる事を好むセンチメンタルな面もある様子。非能力者。
ザキエル/ザッキ;24歳。スポーツマンを思わせる元軍人の好青年。非能力者。軍では伍長だった。
☆“グリック”
ガブリエル/ジブ;既出
ラファエル;30代後半の男、白衣に身を包み、医師のように見えるが・・・
ウリエル/アウリ;20歳前後の女性、表情に乏しく愛想が無い。能力は高いようだ。軍での階級は中尉。
オカダ;グリックの管理技術部所属の管理官だが・・・
「ボクらは、軍の実験から生まれたんだ。クローン技術と遺伝子操作の中から生み出された能力者の軍事活用プログラムだって授業で聞いたけど、ボクには詳しい事は分からない。とにかく、ボクらにはお母さんもお父さんも居ない。いや、居るんだけど、精子と卵子を人工授精させて出来たのがボクだから、どこの誰かは、知らされていないんだ。養育官の一人が教えてくれたけど、もし、親が判っちゃうといくら極秘の研究だろうと法律上相続とか親権とか難しい事になるんだって。ボクのように作り出された能力者は20人位いたらしいけど、ボクが知ってる限り今生きてるのは10人程だと思う。今は実験は中止というか休止されているらしい。あんな事があったからね。そうでなくてもものすごいお金が掛かって大変だったし、今は日本はアメリカや中国、ソビエトと比較的落ち着いた関係にあるから急いでボクらを『量産化』して『実戦化』しなくてもいいんだって。あの頃軍は『サイ部隊』を作ってボクらを訓練していたんだ。その時『エンジェルの反乱』が起った。あいつ等がボクの仲間をたくさん連れ去って、あいつ等の言う事を聞かなかった仲間は殺されたりした」
すると竹崎が割り込む。
「今から3年前の話だ。『サイ部隊』というのは、能力者を戦力化するために作られた軍の極秘実験隊だ。この部隊のサポートとしてジブたちと一緒に行動していた軍の特殊部隊が、突然反乱を起こした。 その際、軍の警備と交戦し能力者も5名ほど奴らに殺された。そして6名の能力者を拉致同様に連れ去ったのだよ。すまん、ジブ。どうか続けたまえ」
竹崎が促すと、ジブは続ける。
「その時、ボクは体の調子が悪くて入院していたんだ。だからボクは攫われないで済んだ。他には3名が実験で『戦場』に出ていたり、同盟国に研修で行っていたりして助かった。だから今ではボクらはほんの4人になっちゃった。あいつ等と一緒に行った仲間は皆、洗脳されてボクらを敵だと教えられ、こっちを攻撃する機会を狙っているらしいんだ」
ジブは口を閉じるとゆっくりとテーブルから降りる。そしてベッドに腰掛ける彼の横まで来ると、その隣にちょこんと座った。暫くは黙って前を見ていたが、やがて微かに笑みを浮かべ、前を向いたまま話し出す。
「ボクはね、プリンス。先生に感謝しているんだ。あの事件の後、先生は軍からボクたちを引き受けて、ここで普通の生活を送らせてくれているんだよ。先生はね、見てのとおりちょっと変わってるけど、悪い人じゃないよ。ずっとアイ様の面倒も見て来て、今はレイちゃんのお世話もしているよ。ボクはここに来て初めて実験のために苦痛に耐えることもなく、気味も悪がられずに普通にしていられるんだ。先生はとても優しいし、ちょっと悪戯したって怒らない。ボクが具合が悪い時もとても心配して面倒見てくれるし、仲間もみんな自由でいられる。軍にいた時なんか部屋なんか無くて、寝る時は軍警察の拘置房に入れられてたんだよ?脱走しないようにって。今とは大違いだよ。そしてね、プリンスがアイ様やレイちゃんとしあわせに暮らして行ける様にって、いつも言ってるよ。ボクもそうなればいいなって思ってる」
「レイ、というのか、僕の子供は・・・」
彼にはなんとも実感が湧かない。ただ話の中だけに登場する自分の子供。その娘はレイと呼ばれ、この建物かどうかは分からないが、どこか近くで生きている。リヴァイアサンという人ではない者として。
「幾つなんだ?」
これには竹崎が答える。
「レイ、かね?5歳だよ。何度も言うが、会わせて上げられるが貴方次第だ。まだ時間はあるよ。ゆっくりと考えて頂きたい。貴方には、まだまだ奴らの影響力が窺える。貴方は気付いてはいないだろうが、奴らに洗脳されかけていたんだよ。多分ラミエルだと思うが、貴方と感応することによって貴方がこちらを悪として認識するように誘導した。時間は掛かるが、その影響を解くため貴方を軟禁状態に置く事になった。中にはこちらの能力者によって再洗脳すればよい、だとか、最新の精神感応薬の一種によって貴方を一定のコントロール化に置けばよいとか、まあ、色々言う方も多いのだがね。私が責任を持って貴方を説得すると、その、上の方にだね、時間を頂いたのだよ。その辺も考慮して貰いたいが、まずはゆっくりと休んでから考えてみてくれたまえ。長々と済まなかったね。今日は長い一日だった。この辺でお暇するとしよう。タムラ?」
竹崎が声を掛けるとタムラが壁の受話器を取って一言、
「終わった」
と言う。
「では、プリンス。ここでおやすみ、と言うよ。まだ時間は早いが疲れただろう。好きなだけ休んでくれたまえ。さ、タムラ、後は宜しく」
タムラが彼の脇に来て無言で見つめる。彼はゆっくりと立ち上がり、暫く壁際の竹崎とベッドに座ったままのジブを見ていたが、やはり無言でドアへと歩く。タムラが横に並びドアを開けると、タムラと同じ黒服が4人並んでいた。彼は立ち止まるとタムラに正対し、
「一つ質問してもいいか?」
「なんでしょう?」
「この暑苦しい格好も、あの教授の趣味か?」
ドアの中から大きな笑い声が聞こえる。タムラは微かに笑ったが答えは無く、済みませんがこれを、と彼に頭巾状の目隠しをし、軽く彼の腕に触れて廊下の先へと促せた。
部屋の中、残された竹崎とジブは、彼らが去ると顔を見合わせ、頷きあう。笑みを浮かべた竹崎は、
「どうかね、ジブ」
するとジブは真剣な眼差しで頭を振り、
「だめだと思うよ先生。とても熱い壁の様な物があって、それが一番底の方にあるんだけど覗けなかったんだ。覗こうとすると押し戻されるような感じがして、何度やっても無理だった。随分、混乱してるんだけど、どこか怖いような所があって、それと壁とが合わさってとても強い力みたいなのになってる・・・結局僕らの事、信じなかったよ、プリンス」
「だろうな。それがプリンスの力だよ。どんな展開になってもアイを信じる、と言うのがだね」
「アイ様を?」
「その内解るよ、ジブにもね」
「どうせ僕はお子様だから・・・」
「そういう意味ではない。まあいい、ゆっくり、一歩づつだ」
そう言うと、竹崎はジブの肩を軽く押す様にして、部屋を一緒に出て行った。
*
彼はテーブルに頬杖を付いたまま何時間もじっとドアを見つめていた。鉄扉の覗き窓は見ている限り一度も陰ったことは無い。別段様子を伺われても一向に構わない彼なのだが、竹崎らは堂々と覗くような真似はしない、ということなのだろう。
何処かに隠しカメラやマイクがある筈だ、と彼は思っていた。いかにも怪しい壁面の大きな鏡。あれではマジックミラーです、と言わんばかりだ。天井の多過ぎる蛍光灯。何か意味があるはずだが今の所、彼はそういったことに全く興味が持てなかった。
竹崎やジブの語ったこの不気味な世界のことなど、本当はどうでも良かった。確かに今後自分がどうなるのか、アイやまだ見ぬ娘に会えるのか、それは思い悩む。しかし堂々巡りの最後には、彼の中で全く褪せる事がないバイト姿のアイが浮かぶのだ。どうするもこうするもない。彼はただアイに会いたい、単純にそう思っていた。が、実際にはそれを一番恐れる彼があった。
アイは、僕の事をどう思っていたのだろう?そればかりが繰り返し繰り返し思い浮かぶ。そして再び二つの世界に挟まれた彼の現実へと思いは還って行く。そんなことを二日間、この殺風景な部屋で思っていた。
高窓から差し込む光は壁から天井へ這い登り蛍光灯の列に反射して、再び複雑な模様を部屋の中に散りばめる。もう3時間以上も考え込んでいたようだった。彼は更に考える。こちらの世界にも梅雨はあるのだろうか?こちらに来てまだ雨は無い。7月の上旬、あちらでは愚図ついた天気が続いていた。
あの騒動はその後どうなったのだろう?竹崎によると、こちらの秘密はあちらでも少数の政府筋の人間が隠し通しているという。何百年もの間厳重に守られて来た秘密が血生臭い事件ひとつで崩れるとも思われない。ということは、何らかの理由をこじつけてあの事件も無いものとしたか、別の何かの事件としてしまった事だろう。彼の行方不明も闇に葬られたに違いない。まる三日が過ぎようとしているが、そろそろ自分の不在が問題になった頃だろうか?対人関係や家族に対して何かを求めたり何かを与えたり、そういうことを一切行っていない現在の彼にどれだけの期間不在が許されるのだろうか。二日間の無断欠勤、会社は入社3年目の人間、やる気も見せない駄目社員をどの位気にするのだろう?今日は土曜日、週末になると必ず掛かってくる継母からの電話、機械的に元気だと返事をして来たが、これに出ないとどうなのだろうか?実際継母はほっとするのではないだろうか?所詮『ごっこ』だったのだから。後二日、月曜日が過ぎた頃会社で問題となるのだろう。父が上京するかもしれない。
彼はあちらの世界の事を想っても、深い喪失感を感じていない自分を醒めて見つめていた。ふと、彼は思う。この孤独、アイに出会った時も今ほどではなかったが深い孤独であった事には変わりはない。アイや竹崎たちは、この孤独を狙って彼をプリンスとしたのではないだろうか?失踪しても気にならない世界に何の影響も残さない人間として。更には人種的血統的な何かが彼にはあるのかもしれない。ナチスの優等人種の様な何かの理由が。
全ては仕組まれていた。多分芝居掛かった竹崎の描いたシナリオ通りにアイは演じていたのだろう。あの別荘地の洋館など竹崎の臭いがプンプンする。ひょっとしたら、インフルエンザに感染したことすら、奴らの仕組んだ事だったのかも知れない。
操られていた。彼はそう思った。
竹崎に操られ、グリックに操られ、あのエンジェルに操られ、そしてアイに操られて・・・
でも、あの涙はなんだったのだろう?彼は、アイが涙したあの窓際の姿を思い出していた。また、洋館での涙、あれも演技だったのだろうか?あれが偽物であったとは俄かに信じられない事だった。
アイを信じたい。しかし失踪後、子供を生んで彼女は変わってしまったのかもしれない。否、既に彼と会った時、彼を種馬の如く考えていたのかもしれない。それでも・・・
高窓からの日差しが弱くなり、何時の間にか部屋は薄暗くなりかけていた。外気はうだるような暑さになっているはずだが、そういえばこの部屋は空調の音もしないのに心地よい温度に保たれている。それが不思議でもあるが、そもそもこの世界はあちらより気温があまり高くないのかもしれない。そんなことを今になって思う彼だった。
ドアの覗き窓が陰り、ノックの音がする。彼は座って黙ったまま身動ぎしない。やがてドアが開き、タムラが入ってくる。
「ご夕食の用意が出来ました」
タムラはまるで執事の様に慇懃に振舞っている。彼はそのまま黙って座っている。しかしタムラは彼の肩を見つめたまま微動だにしない。5分ほどもそのままでいたが、彼の方が根負けする。
「分かったよ」
立ち上がるとゆっくりドアへ向かう。タムラが僅かに身体を横向け彼を廊下へと通す。外には黒服が4名、これも全く変わらない。一人、髭剃りに失敗したのか青々とした剃り跡に血の筋を付けている。4人が彼を囲むようにする。
「済みませんが、これを」
今までと同じようにタムラが彼に頭巾状の目隠しを差し出す。彼は抵抗せずそれを無頓着に被る。
「では、こちらへ」
タムラが言うと、二人が彼の両側から挟み軽く前へ押し出す。一人が先導し、他の一人とタムラが後ろから付いて行く。
何十台ものカメラによる廊下の映像は、巨大なプラズマパネルに分割されて映し出されている。カメラはごく小さなもので、このために増設され、ほぼ3mに二台、両方向に向け設置されていた。
その映像と共に、やはり多数設置された集音マイクによりリアルタイムの音声が流される。同時に彼の心拍数、呼吸数、瞬きの回数などがデータとして画面隅に表示され、全てが記録されていた。
その部屋は、彼が閉じ込められていた部屋から、エレベーターとは離れる方向に三部屋目、およそ20畳程の大きな部屋だった。部屋には6名の男女がいた。
「対象、エレベーターBに乗ります。今、離れました」
映像によりエレベーター内部まで確認出来ているので、いらぬ実況だったがオペレーターはそういう風に声に出して確認するよう命令されている。
「ルームB外光システム、擬似タイム1733にてストップ、シャットダウンします」
「対象、エレベーターBを降ります。今、廊下へ出ました」
「ルームB、クローズしました。オールクリアです」
「対象、ルームAに入りました」
「護衛班、外部監視2名、廊下に残ります」
「ルームA、供用開始」
「護衛班、内部監視2名、ルームA施錠しました」
オペレーター達が次々と実況する。
「よろしい。本日のオペレーション終了」
「本日のオペレーション終了します、0535」
竹崎は金縁の眼鏡を外すと、眉間を揉みだした。
「教授。あと2日もあれば、だと思いますよ。アウリの意見は聞きましたね?」
「ああ、聞いていたよ、ラファエル。大分ほぐれた様子だね」
「第二段階の終わり、だと思います。体内時計は完全に狂っています。表面上は落ち着いていますが、完全に疑心暗鬼となっており、思考に濁りが見られます。これは一押しで崩れますよ。彼は全く訓練されていない。第三段階を待たずとも傀儡と化すはずです」
竹崎はひょいと眼鏡をかけると、ラファエルをまじまじと見る。
「あのね、ラファエル。私はプリンスを実験動物にした憶えはないよ。そんなに急ぐ必要すらない。それにね、傀儡にする、とも言ってないよ私は」
「では、何をなさっているのです?分かりませんね私には」
ラファエル、と呼ばれた男は三十台の後半に見える年恰好、白衣に身を固め、正に医師の雰囲気を漂わせている。
「まあ、そんなに尖らない事だ。私はね、プリンスを完全に味方にしたいだけさ。完全に味方、ということは一点の曇りもなく、ということだ。プリンスが疑念を僅かでも持ったまま無理強いすることや、いきなり思考コントロール下へ置くことでもない。彼が自分から進んで我々に同調する、そういったことだ。それには時間が掛かる。しかし、その結果は傀儡に倍化する成果だ。そうは思わんかね?」
「しかし教授」
ラファエルが言い掛けると同時にドアの電子錠の開錠音がする。入ってきたのは二十歳前後の女性。軍の迷彩服姿の上下で腕まくりをし、シャツのボタンを二つ外しているが化粧は控えめで、アクセサリーなどはなく派手な所は一切ない。
「やあアウリ、ご苦労様だったね」
竹崎が声を掛けると、アウリと呼ばれた女性は、
「大したことはしていませんが」
にこりともせずに答えると、コンソール前の回転椅子のひとつに足を組んで腰掛ける。
「それにジブが熱を出しているんじゃあ、私しか居ませんから」
「すまんな、午後にはミカエルがやって来る。彼にやってもらうから、君は」
「いいえ先生。彼の手を煩わすまでも無いですわ」
アウリは束ねて丸めた長い黒髪を留めるヘアクリップを外すと、頭を3、4度振って髪を解き、ヘアクリップを胸ポケットに差す。そして背凭れに背を預けると、腕組をしてプラズマパネルに映る彼の姿に目を遣り、そのまま動かなかった。竹崎は苦笑混じりに肩を竦めると、
「さて、管理技術部の諸君、後は頼んだよ。食事の後はくれぐれもゆっくり休ませてやってくれ。予定通り食事後5時間経ったら起こすんだ。その後は、また私から指示する。今日とパターンは変えないつもりではあるが、ね。さ、アウリ。君も休みたまえ。午後またプリンスのモニターを頼むとしたら少し眠った方がいい。ラファエル、君もだよ」
竹崎はドアまで行くと、ふと何かに思い付いたように振り返り、
「ああ、そうそう、オカダ管理官」
「はい?」
コンソールの前に座っていた一人が立ち上がる。
「先ほどプリンスをルームAへ送った護衛チームの一人、ほら何と言ったかな、一番若い彼、巻き毛の背の高い彼だ」
「・・・コウサカ、といいます」
「そうそう、コウサカ君だ。彼に言っておいてくれ。時間変換工作を行う時は生活を対象に合わせるのが肝要だ、とね。プリンスにとっては今、夕方6時ごろだ。身だしなみに気を使うのは良い習慣だが、夕方に髭を剃るのはデート前の男ぐらいだろう。彼が髭を剃ったことによってプリンスに時間のヒントを与えることになった。まあ、プリンスは気付いてはいないようだが、こうしたミスの積み重ねはのちのち致命傷ともなりかねん。タムラ君も気付いた様子だから彼に注意はしただろうが、君からも一つ指導をお願いするよ」
「申し訳ありません。承知しました」
「いや、ありがとう。では、少々休ませてもらうよ。おやすみ、諸君」
竹崎は足早に部屋を出る。間を置かずアウリが椅子から立ち上がると挨拶も無しに出て行く。二人を見送ったラファエルは何か考え込んでいたが、やがて目礼すると部屋を出て行った。
それを見送ったオカダは小さく舌打つと、
「どうもあの連中には慣れんな」
「シッ、『読まれ』ますよ」
オペレーターの一人がモニターを見つめたままやんわりと嗜めるが、オカダは構わず、
「知ってるくせにな、コウサカの名前くらい」
もう一人の男性オペレーターが慰めるように、
「でも、あれがあの先生の真骨頂ですからね、気にしないで行きましょうよ」
「・・・ああ、そうだな、まったく食えん先生だよ」
「あのぅ、外光システムですが・・・」
雰囲気を変えるかのように、女性オペレーターが声を掛ける。
「なんだ」
「夕方時、角度が25度を切ると少々もたつきが見られます。対象が寝ている間に調整したいのですが」
「ああ構わんよ、2時間以内に出来るか?」
「そうですね、0800までには」
「本日の作戦開始は1100頃か。それでいい、やってくれ。お疲れのところ済まんがね」
「了解です、直ぐ掛かります」
オカダは女性オペレーターが出て行くと、残された男性オペレーター二人に、
「管理センターに時間通りだ、と知らせろ。交代は1000だ」
「時間通り、交代は1000。了解」
そして部屋の隅に置かれた簡易ベッドを顎で示すと、
「最初に少し休ませてもらう。そうだな、0800に起こしてくれ。コウサカの奴は後でこってり搾ってやる。何かあったら起こせよ。プリンスが屁をコいてもだ」
「復唱、プリンスが屁をコいても起こします」
一晩中一睡もせずにモニターしていた彼らは暫く笑いが納まらなかった。