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第8章(前)〜リヴァイアサン

 

 選ばれた花婿。この言葉は彼を動揺させるのに十分だった。息を呑んだまま固まってしまった彼に向かって、竹崎は壁を背に相変わらず囁くように語り掛ける。

「『リヴァイアサンの花婿』。この意味が解るかね?これは貴方が高貴な存在になったことを意味する。これから貴方は贅を凝らした暮らしを送る事が出来る。但し、貴方はもう普通の人間と交わる事は出来ない。世間と隔絶し生きて行かねばならない、なぜならリヴァイアサンと関係する、と言うことは古来最も秘密とされ一握りの人間によって受け継がれて来た人類最大の謎、その一部となることだからだ」

 竹崎はもう笑っていなかった。その顔は全くの無表情で、あれほど豊かな表現力でまるで役者のように見えていた彼の目には逆に恐ろしい顔に見えた。

「この秘密を守るため、過去、何十万人もの人間が闇に葬られた筈だ。それは『あちら』の世界がある、という秘密と共に古今東西最も良く守られた秘密で一般では全く知られていない。リヴァイアサンと言う言葉ですら彼女達の事として口にすれば抹殺された時代もあったのだ。そう、リヴァイアサンの存在は一般には知られていない。リヴァイアサンに対しては日本では古来より固有の呼び名が無い。それほどの秘密なのだ。過去から高貴な者のみがその秘密を知り大切に守って来た。では、どうしてそこまで秘密にしなければならなかったのか、分かるかね?」

 竹崎はじっと彼を見つめる。彼は答え様も無く、ただ竹崎を見るだけだ。ジブは膝を抱えて笑顔のまま、タムラはドア横に立ったまま微動だにしない。

「どうやら想像も出来ないようだが、それも無理も無い。私もこの秘密を知った時、笑ってしまったよ。あの頃はまだ若かったせいもあるが、こんな途方も無い話は生まれてこの方聞いた事もないからね。そう、リヴァイアサンは想像を絶する存在だよ」

「アイが、それだと・・・」

「そう、彼女はリヴァイアサンだった。それも飛び切り『長い』。世界史上2、3位くらいではないかな」

「長い?」

「長い。長生きだ、という意味だよ。彼女は幾つに見えたかね?プリンス」

「・・・僕と会った頃は20歳位に見えた。でもリバーサーだと言いましたね・・・」

「そう、貴方と会った頃は推定で24歳だ。推定、と言うのは残り何年生きるのか、リバーサーによって誤差がプラスマイナス2年から5年位あるからね。リバーサーはよく残りの人生が計算出来てしまう、と言われるが、実際は35歳でリバースしても残り40年生きる事も普通にある。だから何歳に見えるかは推定でしかない。リヴァイアサンもリバーサーなので同じことが言える。が、ただのリバーサーではないのは、彼女達がリバースを『4往復』することだ」

「4往復?」

「その通り、必ず4往復と決まっている。何故かは解らないが、古来リヴァイアサンはリバースを4往復行う、と決まっている、そして」

「ちょっと待って下さい、往復って何ですか?」

 話を遮られる事に慣れていないのだろう、竹崎は軽く嫌な顔をした。

「そのままと考えたまえ、プリンス。たとえば40でリバース、年齢が逆行し0歳付近で普通のリバーサーは寿命となる、そうだね?しかし、リヴァイアサンは寿命が尽きると『リヴァイブ』するのだよ。再び0歳児から始まって通常の成長を遂げる、リバースと同じように短くて1日長くて1年ほど昏睡した後にね。これをリバースと区別してリヴァイブと言うわけだ。そして20から50歳の間で再びリバースする。そして0歳でリヴァイブ、とその繰り返しだ。リバースとリヴァイブ一組で『往復』と呼ぶ。アメリカでもCycleと言うから、ひねりは無いが、ストレートな言い方だな。これを4回繰り返す訳だ」

「それではアイは・・・今何往復目なんですか?」

 竹崎は無表情で事も無げに言う。

「言った筈だ、飛び切り『長い』と。4往復目、最後のリバースから20年ほど経った」

「じゃあ、もう何百年も・・・」

 彼はその後を続けられない。竹崎が後を受ける。

「何百年も生きている、その通りだ。彼女の生まれは正徳4年、解るかね?年号はこちらもあちらもほぼ同じ、だがね」

「・・・江戸時代?」

「そうだ。江戸中期、短命だったことで名を残した六代将軍徳川家継の時代だな。江戸時代はこちらもあちらもほとんど歴史に変わりは無い。六代将軍も同じく八歳で亡くなっている。西暦で言うと、1714年、となる」

「じゃ、アイは300歳近い・・・」

「そういうことだ。リヴァイアサンは平均250年ほど生きる。彼女はそれより6、70年長生きな訳だな。少なくとも日本では最も長命なリヴァイアサンとなった。とにかく、彼女は最後のリバースを終え、もう戻りの無いリバース期間に入った。そして、その期間に、リヴァイアサンは後継者を得るためにある行動を起こす」

 竹崎は口を噤むと、暫く彼の顔を凝視する。彼に考えさせるためだ、と彼にも解る。そして話の方向が、彼にもどうやら見えて来ていた。その結果の予測は、彼を今まで以上に不安にする。しかし、彼は何も考えまいとして口を開かなかった。竹崎は微かに眉を上げると、再び話し始めた。

「そもそも普通の人間の3倍から4倍は生きる身だ。これはもう、人間とは呼べないかもしれないな。まあ、化け物扱いは不敬罪だと貴方に言ったかな?ハハ、冗談だが、それに近いものがある。リヴァイアサンは古来より高貴な方々に保護されて来たからね。有史以来天皇家、平家、源氏、北条氏、足利氏、藤原氏と引き継がれ、戦国の世は天皇家が、そして徳川家康が実権を握ると、当時のリヴァイアサン、つまりはアイの母親も徳川将軍家が保護する事となった。そして大政奉還で明治の世となると、再び天皇家の下に置かれる。つまりはアイがそうだ。勿論、類稀なる存在で不老長寿である彼女達を保護下に置くことは、時の権力者にとってはある種のステータスシンボルであったことだろう。しかしだ、彼らが必死になって彼女達を秘密の存在にしたのには、それ以外に重大な理由があるのだよ」

 竹崎は壁から大きな鏡のある壁面に向かい、両手を後ろに組んで、彼に背中を見せながら鏡を見た。 

「これから話すことは、リヴァイアサンの最も重大な秘密だ。ただ長命のシンボルとしての存在なら、何もここまで彼女達が崇め奉られる事も無かったろう。が、彼女達には一つ、特技がある。彼女達は『あちらの世界』への扉を開く事が出来るのだよ」

「扉?」 

「考えても見るがいい、貴方はどうやってあちらの日本から来たのか。どうだね?」

「あの時、そちらのエンプティとか言うグループに僕は拉致され、途中で何かの指示を受けて、どこかで水の中のような所に入り、そして出た所がこちらだった」

「それが扉だな。我々は『ゲート』と呼んでいる。ゲートはほんの4、5分間『あちら』と『こちら』を結ぶ、トンネルのようなものだ。私も何度か潜った事があるが、そう、貴方の言うようにプールへ飛び込むような感覚がある。ゲートは小さなもので直径1m程の円形から、最大一辺10mほどの四角いものまで様々な形の『出入り口』を持ち、それは透明な水のカーテンや薄いビニールの膜のように見える。勿論中は真っ暗で水中のような抵抗感はあるが、空気はあって呼吸は普通に出来る。そしてごく普通のトンネルと同じで『出口』が先に見えている。リヴァイアサンがある条件の下に『願う』と、希望する場所に忽然と現れる。詳しくは彼女達でないと語れないが『入口』と『出口』の場所やその形を想像するのだそうだ。すると両方の世界に入口・出口が出現し、その状態は先程も言ったように4、5分継続する。入口と出口の位置はそれぞれの世界の同じ場所でなくとも良い。希望する場所、と言ったが何処でも良い訳ではないらしく、入口との誤差が大きくとも100km位までだと考えられている。とにかくゲートは時間が過ぎると痕跡も無く消え失せるが、リヴァイアサンが願う限り何度でも再現することが出来る。トンネルの長さはおよそ30m程、が、実際はその長さではない訳だ。 計る術のないものだが、感覚としてその程度の長さを超えると、あちらの世界へ行ける。勿論、あちらからもこちらへ抜ける事が出来るが、一つ注意がある。これは一方通行だと言う事だ。その時にリヴァイアサンが願った方向にのみ人は行くことが出来る。逆送は出来ない。必ずどちらか一方から一方へリヴァイアサンが願った方向に、ということだ」

 竹崎は一気にここまで話すと、彼が話を理解するのを待つかのように暫く押し黙った。そして一分も待っただろうか。彼が黙ったままなのを確認すると、振り返って再び話し出す。

「この意味が分かるかね?ゲートを開く能力が彼女達を至高の存在としたのだ。あちらとこちらを結ぶ鍵、それが彼女達の存在だ。彼女達なくして二つの世界は結びつかない。これが彼女達が権力者達に囲われ極秘とされて来た最大の理由だ」

 再び口を噤むと竹崎は後ろ手に組み、ゆっくりとした歩みで壁沿いの往復を始める。

「リヴァイアサンが権力者に囲われる、その理由は以上だ。そして貴方。貴方はプリンスとしてリヴァイアサンであったアイに選ばれた。そもそもリヴァイアサンがゲートを開く能力を持つのは、生物学的な本能である、と言われている。そう、子孫を残す、という行動だね。生物が子孫繁栄のために様々な苦労をすることは貴方も既知のことと思うが、そう、サカナの鮭の遡上の様に大変な労力と死を賭した行動が生殖行動には付きまとうものだ。何故か人間はそういう類の危険とは縁遠いもの、とされているがこれは人間が食物連鎖の頂点に君臨しているからに他ならない。そして至高の存在で数少ないリヴァイアサンは、これも不思議なことにこちらの世界の異性との行為によっては妊娠することは無いのだよ。それは必ずあちらの世界の異性との間の行為によって得られる。つまりは鮭の遡上のように、あちらの世界へと渡るのだよ、そのためのゲートを開く能力なのだ。それは本能に従って子孫を残すためにのみ行われるもので、そこに感情が入る余地は無い」

 竹崎は意味ありげに立ち止まり彼を眺めたが、もう彼にも分かっていた。分かっただけに、いままで聞いたどんな話よりもショックを受けていた。 

 彼女がどうして彼を選んだのか。それをこの後、このおしゃべりな竹崎が生物学の講義の様に教えるのだろう。彼はこの数年、彼女との想い出が全てに近い状態で生きて来たのだ。彼は聞きたくなかった。

「もう、いいです。分かりました」

 彼の言葉に竹崎は頷き、彼にしては珍しくも真摯な声で話す。

「気持ちは良く分かる。その事については、まあ貴方次第だが、いつか本人に確認するがいい。それはそうと、一つ貴方が忘れている事がある。アイは引退した、と私は言ったね?と言うことは、どうだね?」

「・・・まさか、子供?」

「そのまさか、だよ。今のリヴァイアサンは、そう、アイと貴方の子供だ」

「僕の、子供?」

「いつか会わせてあげられると思うよ、近い将来にね。当然、アイにも、だが。しかし、今は駄目だ。貴方には全てを我々に任せて貰わなくてはならない。エンジェルが接触した貴方は、そのまま信用出来ないのだ。はっきり言おう。あのエンジェルは『テロリスト』だ。反社会で体制破壊を目論んでいる。宗教対立や迫害への抵抗勢力なら理由は分かりやすいが、奴らは本来こちらの軍事組織に属していた者たちだ」

「軍・・・」

「自分達の思うようにならなかった不満分子が軍を脱走、あの組織を立ち上げた。彼らはこのジブのような能力者を誘拐し洗脳、自分達の武器として使っている。彼らが理想とする社会は、能力者やリバーサーが国家を指導・支配し、リヴァイアサンを女王とするユートピアなのさ。そんなことは許されるわけが無いだろう?貴方はエンジェルに『助けられた』と考えている。が、それは間違いだと指摘しておこう。奴らは貴方を『プリンス』として迎えたいだけだ。そうすればアイと共に奴らの『王国』のお飾りになるからな。愚かにも奴らは、貴方がアイと共に王朝の始祖となるべく考えているのだよ」

「しかし、僕は知っている。貴方達は僕を殺してもいいと考えていた」

「ほう、チーム・エンプティの荒くれ者の話を聞いていたのかな?それともエンジェルのラミエルから吹き込まれたか。まあ、そういう指令が最初は出ていた事は否定しないよ。それについては私の管轄外だが、彼らに成り代わってお詫び申し上げる、この通りだ」

 竹崎は彼に正対すると深々と頭を下げ、そのまま十秒ほど動かずに居た。ようやく頭を上げると、再び囁き声で持論を展開する。

「プリンスの存在もこの300年余り無かった事なんだ。リヴァイアサンはあちらの世界の者と結ばれ子を宿す。しかし、それは最後のリバース後でないと許されない。何故だか分かるかね?」

 しかし竹崎は彼の答えを待たずに続ける。

「リヴァイアサンが長期間複数存在してはならないからだ。それはだね、彼女達の往還能力が悪用されたとすれば、世界はますます複雑怪奇なものとなり、それはお互いの世界にとって最悪の結果となりかねないからだよ。複数存在するリヴァイアサンは過去、覇権争いの道具となった事がある。第2次大戦の結果の違いにもアイの往還能力が使用されていた。それ以前の世界が歴史を同じく出来たのは時の権力者達が、複数のリヴァイアサンの存在を出来る限り短い期間としたからだ。そうでなかったとしたら果して、リヴァイアサンは悪用されなかった、と断言出来るだろうか?」

 竹崎はそこで一息付き、ただ見つめるばかりの彼を確認するかの様に見やると、

「まあ、それはそれとして、リヴァイアサンは必ず女の子供を生む。これも不思議なことだが事実だ。そしてその子もリヴァイアサンとして生まれる。だから、リヴァイアサンの寿命が見えた最後の20年余りの間のみ、プリンスを求める行動が許されて来た。そしてだ。目的を遂げリヴァイアサンが帰還し、子供を生んで4、5年経ち、子供がリヴァイアサンとしての能力を示した時、リヴァイアサンは引退し、プリンスがこちらの世界へ迎えられる」

 彼は放心したまま聞いている。自分のことが語られているという実感が湧かない事もあるが、竹崎の囁きで語られるアイの姿が、どんどん化け物じみて来ていたからだ。

「プリンスは必ずこちらの世界へ招かれなくてはならない。何故なら、そのままあちらに存在すれば何かの拍子にリヴァイアサンの秘密があちらに漏れるかもしれない。また、プリンスがあちらの世界に居たままリヴァイアサンがプリンスに本気で恋愛感情を持ったり、またその逆にプリンスがリヴァイアサンに恋慕しリヴァイアサンの秘密に迫られても困る。更に相思相愛の場合、勝手にお互いの世界を行き来されてしまったら、これはもう大変な事だ。貴方は、リヴァイアサンが子を宿した直後からある意味迷惑な存在なのだよ、失礼だがね。あちらで騒ぎになってこちらの世界の秘密が公になっても困る。あちらでもごく少数の人間によって二つの世界という秘密が守られている。あちらにとっても迷惑な話なのだ。だからあの時、貴方が抵抗したら迎えに行っていたあの軍のチームに殺されていたかもしれない。しかしだ。それは軍の理屈、我々はそうは思っていないのだよ」

「我々?」

「申し遅れたね。私の所属する組織は、正式には『幻歳者擁護支援中央委員会』と言うが、この英語表記『ガード・オブ・リバース・セントラル』の頭文字を採って人は『G.R.C ―ジー・アール・シー』又は『GU.RE.C ―グリック』と呼ぶ。これは何処にも属さない、正真正銘首相の直属機関だ。我々グリックには表向きの任務と裏の任務とがある。表はリバーサーの登録、管理とその活用の創出、福利厚生などだ。そして裏としてはリヴァイアサン関連の管理と秘匿だな。プリンス。省庁間の勢力争いというか主導権争いというのは、あちらもそうだろうが、こちらにもある。軍とグリックは必ずしも意見が一致している訳ではないのだよ。今回の件もそうだ。軍の強硬派は、プリンスである貴方を抹殺することでエンジェルの目論見が潰える、などと考えている。私に言わせればそれは大いなる勘違いだがね」

「それをどうやって信じろと。貴方はあの二人を使って僕を騙してここへ連れて来た。そしてコーヒーに薬を入れてこうして拘束しているじゃないか」

 彼としては精一杯論理の盲点を付いたつもりだったが、竹崎には全く利かなかった。

「軍に捕まりたかったかね?その挙句、闇に葬られたかったかね?私は貴方を助けたつもりだったのだがね」

「では、貴方には軍を抑えることが出来るんですか?」

「抑えるも何も、ことリバースとリヴァイアサン関連は軍に発言権は無い。大体、今回の件も軍はグリックの指揮下に行動したに過ぎない。貴方をこちらへ迎えるために派遣したチームは、グリックの行動部隊として陸軍からレンタルされている特殊作戦チームだ。彼らにグリックが出した指令は『何があってもプリンスだけは必ずこちらにお連れしろ』、と言うものだった。が、実際受けていた指令は、『プリンスが抵抗した場合、無理してまで連れ帰る必要は無い』、だった。我々に手足の如くあしらわれるのに我慢がならないプライドのお高い連中が直接裏から指示を変更していたのだよ。貴方の重要度も、そしてリヴァイアサンの意味も解らん連中がね。特にエンジェル関連の失態により、軍がジブのような能力者サイキッカーの管理権をグリックに移譲させられてから、それを恥辱と考える連中が、グリックを逆恨みしているので始末に負えん。とにかく、だ。エンジェルどもに貴方を奪回されそうになる、という失態をあのチームが演じた直後、我々グリックは速やかに貴方と共にこちらへ帰還するようチームに指令を出し直し、そして貴方はこちらへ来た。まあ、直後に逃げ出してしまったがね」

「何の説明も無しにああいう状態で連れて来られたら、誰だってそうしませんかね?」

 彼は皮肉を込めてやり返す。竹崎が苦笑しながら答えようとした、その時だった。

 ブザー音が2回、ドアの脇にある内線電話から聞えた。竹崎は話し出そう、として吸い込んだ息を溜息として吐き出すと、やれやれと言わんばかりにタムラを見る。タムラは直ぐに受話器を取ると無言で聞いていたが、

「聞いてみる」

 と言うと受話器の送話口を押さえて竹崎に、

「部屋の準備が出来たそうですが」

「待たせておけ、直ぐ終わる、そうだな、後10分だ」

「後10分。そのまま待て」

 タムラが受話器を掛けると竹崎は、

「大事なところで邪魔が入った。では話を端折はしょるとするかな。『エンジェル』と名乗るあのテロリスト集団が、ジブの仲間であった能力者を拉致し洗脳に近い状態で武器として使用、リヴァイアサンと貴方を頂点とする能力者の王国を夢見ている事は説明した。プリンス、貴方は彼らにとっては神だ。その神として考えてみたまえ。往還能力のあるリヴァイアサンや能力者達少数の限られた者による一国支配を。これが国の形態として、どれだけの弊害があるかを。その支配者階級である貴方は、頂点が貴方とアイであったのなら、それでよし、とするかね?そんなことはないだろう?貴方はこちらの『歪んだ世界』と違い、平和な議会制民主主義の世界で生まれ、生きて来たのだからね。それはこちらでも同じ事だよ、軍事力が過ぎ、一度は核によって冬の時代を経た我々でさえもね。このような事態はどんな体制であれ許されない事だ。『魔法』の世界が現実に取って代わる事など許される訳が無いだろう?」

「それはそうですが・・・」

「貴方に敬意を払い、貴方や元リヴァイアサンとしてのアイが奴らに利用される事無く、穏便に平和に生きて行く、それを実現する事も我々グリックに与えられた秘密の任務だ。そして、いつか、奴らに拉致された能力者を残らず救い出す事もね。そして我々が貴方に願うのはだね、奴らに惑わされる事なく、こちらの世界で生きる、そう決心して頂きたい、ということだ、プリンス。それが我々グリックが望む事だ」

「ボクは、皆から半分気味悪がられて生きて来たんだ」

 竹崎に割って入って、突然、ジブが語り始める。 

 竹崎の長い話の中で、ずっとテーブルの上に微笑を湛え膝を抱えていた彼が、今は笑みを消し、その円らな薄い瞳を彼に注いでいる。竹崎は一つ二つ、頷くと、ジブの話すに任せた。



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