サンタちゃんとルドルフさん
雪におおわれた深い森の中、俺は一人の少女と森を歩いていた。
この世界はあまり平和ではない。
特にこの森にはモンスターやら山賊やらが潜んでいるものだ。
そうゆう輩を退治するのが、冒険者である俺の日常。
さて、一人旅を続けていたこの俺にどうしてこの少女がついてきているのかという理由だが。
もちろん、彼女がただのか弱い一般人でなく特別な力を持つ存在だからだ。
とはいっても、彼女は魔法使いだとか剣士だとかそういう類ではないという。
その職業は彼女いわく、『サンタクロース』というらしい。
「なぁ、そろそろ飯にしないか?」
「別にいいけど、何食べるの?」
「食べられるものならなんでもいいさ。お前のその魔法の袋から出してくれないか?できればごちそうがいいな。」
「えー?ダメだよ。本来この袋から出すのは、良いことをした人へのプレゼントなんだから。」
彼女が手に持つ不思議な袋。それこそがサンタクロースにとって最も重要なアイテムらしい。
見たところ、ただの真っ白で綺麗な袋にしか見えない代物だが、彼女が扱うと望んだものが出てくるという魔法の袋だ。
俺が中を覗いても手をつっこんでみても何も入っていないというのに、彼女はその袋からありとあらゆるものを取り出すことができる。
望んでいる物、いわゆるプレゼントが袋に入りきらないほどでてくるのだ。まったくもって不思議なアイテムである。
「わかったよ。じゃあ、さっき収穫した果実でいいからそれを頼む。」
「はぁい。」
今度は快く了承してくれた。
この袋、アイテムを出すだけでなく収納できるのが一番の長所ともいえるだろう。
「しっかし、本当にあるのか?空飛び回るソリに、あたりを照らすほど光る赤い鼻のシカに、お手伝いの妖精にー。えっと、あとは何だっけか。」
「良い子悪い子リスト!この袋だってあるんだから、絶対あるはずなの。」
「それはそうかもしれないが。」
こんなとんでもないアイテムがあったのだから、そういったものを持っていたとしても不思議ではないかもしれないが。
いやはや、簡単には信じられない話だ。
一体、サンタクロースっていうのは何者なのだろう。
「この世界に飛んで来た時に、全部どっかに行っちゃうんだもん。最初はどうなるかと思ったよ。ルドルフが袋見つけてくれてて良かったぁ。」
「まったく。女の子一人で旅してきただなんて危なっかしいにもほどがあるぞ。俺がいなかったらどうなってたか。」
それは、彼女との出会いにまでさかのぼる。
山賊に襲われていた彼女を助けたら、以前拾った袋の持ち主だということが判明し、助けたときに負った怪我を袋から出したアイテムで治療してくれたのだ。
「だ、だからこうして命を救ってくれたお礼に旅の手助けをしているんじゃないですか。」
「ついでに、お前の無くし物も探してやってるんだけどな。」
「むぅ。」
ふてくされた態度からしても、本当にまだ幼いなと思わされる。
俺が守ってやらないと、と思ってしまう。
「だが、本当にいいのか?俺との旅なんて、危険だぞ?」
「異世界に行くと決めた時から、危険も苦労も覚悟のうちです!」
「だけど・・・。」
「もういいじゃないですか。この旅は、私達のどちらにとっても好都合なんですから。」
そう、それが一人旅を続けていた俺が彼女と旅をすることを決めた理由だった。
俺は世界の人々の平和を守るために、彼女はこの世界でサンタクロースになるために冒険をしている。
俺は彼女の不思議なアイテムを悪用されないためにも見つけ出したい。そして、それを使えばきっと人々を救うことができるはずだと信じている。
彼女はサンタクロースに必要なアイテムを見つけるためにも、俺のような戦士が必要だ。そして、この世界でサンタクロースになるためにとある大きな目標ももっている。
それこそが同じ目標、いわゆる世界平和だった。
『この世界に平和にならない限り、サンタクロースの舞い降りる聖夜は訪れない!私は、この世界に聖夜を作ってみせる!』
祝辞なんてものがない、この世界の惨状について聞いた彼女はそう言い放った。
それがこの世界に来た、サンタクロースとしての彼女の信条であり。決意だった。
「じゃあ、そろそろ行こっか。ルドルフ。」
「ルドルフさんと呼べ。」
「だって、名前がルドルフなんだもの。ふふふ。」
「何がおかしい」
「ふふふ、本当に、すごいよね。私、すっごい運命を感じてるよ。」
無邪気に笑う彼女は、寒いはずの雪のなかを軽々と進んでいく。
今では笑顔も見ることが少なくなってしまったこの世界で、そんな彼女の楽しそうな姿が、本当にまぶしく見えた。
「早くおいでよルドルフ!次の村までレッツゴー!」