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4.神速の一撃

ほぼ戦闘してます笑

バトルシーンの描写って難しいけどやりがい?があるというか個人的に厨二感が出せるから好きです。

溪谷を去って、暫く歩く。

 すると、俺の聴覚が微かな音を捉えた。それは木々の葉が擦れる音や鳥の囀りという森特有の音色に混じる異質な音。いや、声だ。


 明らかに人間が発している。最初は狩人がいるのかと思った。だが違う、その声は複数の人間が出しているものだと気付いた。狩猟グループが森に入っているとも考えられたが、声が聞こえてくる方向に進み、声が鮮明になっていくうちにその考えは断ち切った。


 あまり好意的な雰囲気の声ではなく、その中に一つだけ女のものが混じっていたからである。

 

 さらに足を進めていくと、声は、はっきりと耳に届くようになった。俺はゆっくりと音を立てないように近づく。

 視線の先に洞窟のような穴が見えた。よく見ると、洞窟と呼ぶ程たいそうなものではなく、小さな洞穴に近い。そこから声は聞こえてくるようだ。

 俺は木の陰に身をひそめ、耳を澄ました。


「大人しくしやがれ‼」

「い、いやぁっ!」

「へへ……こいつぁ、久々に上物だぜ」

「おい早く縛りつけろよ」

「まぁ、そう焦るなって」


 

 やっぱり穏やかなもんじゃねぇな。


 やがて人……異世界人達が姿を現した。

 4人の男に少女が1人。

男は野蛮な雰囲気を醸し出しており、その服装はボロ布を縫い合わせたかのような簡素なものだ。布でマスクのように顔を隠している者もいるが髭を無造作に伸ばし、荒っぽさを隠そうともしない顔立ちはどうみても普通の市民という感じではない。


 ――盗賊の類いか。


 その証拠に彼らの乱雑に詰め込まれた荷物には金や銀の輝きを持つコインが入っていた。何処からか盗んだに違いない。その少女も、だ。

 攫われたであろう少女は赤いローブを纏っている。童話の赤ずきんもこんな感じだろうか。フードのせいで顔はよく見えないが、必死に抵抗しているようだ。

 おそらく、彼らは今からここで下衆なパーティーを始める気なんだろう。


 さて、どうするか。

 あんまり関わりたくはないが、こんな悪行を見逃すわけにもいかない。異世界救済人だってのに目の前の少女一人さえ救えないんじゃ失格ってもんだ。


 ふと、思う。俺は今、何を考えた? 正義感を振りかざしたのか? 笑わせるな。

 ――俺は正義なんて言えることをしてきてないだろ。

 一瞬、自己嫌悪に囚われそうになる。すぐに気を取り直して目の前のことに集中した。過去を閉ざしきれないのは俺の悪い癖だ。


 もう少し近づこうと、俺は息をひそめて歩く。


 ――――パキッ。


 しかし、俺は誤って足元の小枝を踏み抜いてしまう。


 異変に気付いた盗賊が振り向き、俺は見つかってしまった。


 そこから盗賊は俊敏な動きで俺を包囲する。少女は縛りつけたようだ。この距離で《ガンスディーヴァ》を取り出して構えるのは得策ではない。


「何だ、坊主」

「いや偶然通りかかっただけで」


 《ガンスディーヴァ》は収納してあるため盗賊からはただの村人とかに俺は見えるだろう。


「ほう、それにしても風変わりな格好しているじゃねぇか」


 盗賊は怪訝そうに俺を見つめた。「しまった」と思ったが、遅い。俺の格好は高校の体操服のまんまなのである。着慣れているため俺は違和感を覚えなかったが、ここは異世界。向こうにしてみればおかしな格好をしていると怪しまれて当然だ。


「なぁ悪いんだけどよ。持っている物全部置いて、去ってくれねぇか?」


 盗賊のリーダーであろう男が言う。


「お断りだぜ、おっさん」


 男はそれを聞いて豪快に笑った。

「ハッハッハ――いや~そりゃそうだよなぁ。ハハハハハ

 ハァーぁ…………………………残念だ」


 その言葉を皮切りに3人の盗賊はそれぞれ、武器を構えた。

 どうやら平和的な解決は望めないらしい。まぁいいさ。どうせこうなることぐらい覚悟の上だ。武器が視界に入った瞬間、俺は落ち着いて《真眼》を発動させる。《真眼》スキルは実際に「視る」ことをしないと対象物の解析は出来ない。

盗賊の武器は長剣、トマホーク、片手棍だ。魔術での加工や属性の付与はされていない無属性武器。単純な力で戦う種類のものばかりである。

4人目であるリーダー格のおっさんは武器を持たず、腕を組んで状況を眺めているだけだ。自ら手を汚す必要もない相手だ、と考えているのか。


「かかってこい、雑魚共」


 安い挑発。だが数的有利や武器で自信に溢れている相手にはこれが効果的だ。


「なめてんじゃねぇぞクソ餓鬼いいいいい――‼」


 案の定、リーダー格以外の盗賊は一斉に跳びかかってきた。武器も持たない相手を殺すことなど男達にしてみれば簡単なことだ。だがその慢心と挑発への苛立ちが冷静な判断力を欠かせる。

 もう男達はこの瞬間、既に戦術を誤っているのである。



――俺の武術、それは迎撃において真価を発揮する。



 長剣持ちの男がその剣を振り下ろす。長剣を振るう技量に自信があった彼は勝利を確信したはずだ。だが、俺は難なくその斬撃を躱す。そのまま俊敏な機動で男の背後に回り込んだ。男の表情が驚愕に変わったが最後。一瞬の溜めの後、俺は相手の脇腹へと掌底を繰り出す。男は変な呻き声を漏らしながら体勢を崩した。その隙を見逃さず、俺は右脚を蹴り上げる。狙うのは、喉。


「がは……っ」


 クリーンヒット。男は衝撃によって呼吸が出来ず、そのまま地に伏せた。


「よくも!」


 俺の右側からトマホークの攻撃が飛んでくる。上体を反らして回避。斬撃は空を切った。

 攻撃の後には隙が生じる。その刹那を狙って俺は反動を活かしたラリアットで男の顔面を薙ぎ払った。


「ぐがっ…………」


 トマホークを持つ男が吹っ飛ぶ。

俺は少しばかり驚いていた。日本にいた頃、それも幼い時から頻繁に武道の鍛錬に励んでいたため技量にはある程度自信がある。だが俺は特別、筋肉があるわけではない。握力だって少し強いぐらいで特に優秀な部類ではないのだ。

だから俺の学んだ武術は、いわば「柔」。相手の攻撃を受け流し、隙を見出して弱点を突くというものだ。ただ力でねじ伏せる武術とは違い、機動力や反動、相手の力さえ利用し、倒す。特に力任せな相手は格好の餌食だ。


しかしここまで力を出せるとは……やはり「弓兵」の能力が俺の体に備わったおかげだろう。今までの体であってもこれくらいの相手なら問題ないと思うが、それでも段違いに強くなっているがわかる。


「おらぁっ‼」


 先程倒れたはずの長剣持ちの男が背後から組み付いてきた。俺の正面には片手棍を振り上げて迫る3人目の盗賊がいる。


「甘いな」


 俺は一瞬で相手の掴み技を振りほどき、男の腰から「ある物」を抜き取った。

 ナイフだ。

 盗賊は本気で俺を殺しにかかっている。こちらもただ殴って蹴ってでは流石に分が悪い。何より少女を盗賊の魔の手から救うには生温いことはやっていられないのだ。


 ――よし、やれる。

 俺は瞬間的にスイッチを入れ替える。僅かに体内温度が下がった気がした。


「加減は出来ない。悪く思うなよ」


 俺がその言葉を言い終えた直後、鮮血が舞い散った。

 振り抜かれたナイフ刃が、長剣持ちの男の首を掻き切っていた。


 辞世の句すら詠む暇もなく男は崩れ去る。絶命するのは一瞬のうちであった。


「あああああああああ‼」


 餓鬼に仲間を殺され、半狂乱となった男が片手棍を振り回して突進してくる。俺は体勢を低く保ち、素早く左右へと連続で回避。不規則な軌道の打撃ではあるが雑だ。見切れない――なんてことはない。


 フッ、と息を吐き出して俺は男の懐に潜り込む。そのままナイフを振り上げた。光を受けて輝いた刃が半弧を描く。

 男は血飛沫を上げて、こと切れた。


 だが、次の瞬間、背後に殺気を感じた。後ろからトマホークによる斬撃が迫っていたのだ。

 俺は背後にいる男の脚を薙ぐ。バランスを崩された男の斬撃は軌道がブレ、俺を捉えることが出来ない。

 次の刹那、頸動脈への文字通り鋭い一撃が男の命を奪い去った。




「な、なに!? やめてっ」

 

 少女の声。振り向くと、リーダー格の男がいつの間にか少女を捕えて、その頭に銃を突き付けていた。

 

 クソっ、この世界にも銃があったか! フォルムは現代のものと多少ことなるが、リボルバー式のピストルだ。エアガンとかのハッタリではないだろう。


「その手に持っているもんを捨ててもらおうか。妙な真似はするなよ? 貴様もこの嬢ちゃんの頭が吹っ飛ぶとこを見たくはねぇはずだ」



 男が言う。俺はナイフを地に落とした。


「そうだ。そのまま両腕を後ろに回せ」


 言う通りに行う。男は満足そうに笑う。下品な汚い声だ。


「どうだ? 羨ましいか? 年頃の若い娘を攫って犯すのは一度やったらもう抜け出せねぇんだよなぁ。まさにこの世の極楽だ」


 男は下品に笑いながら、少女の胸を衣服の上から無造作に撫でまわす。

 俺は歯噛みした。この男に単純なまでの憎しみを覚えたのである。


「だがお前は俺の仲間を殺しちまった。この極楽に貴様はいらないんだよ」


 男は拳銃を俺に向けた。


 俺はある言葉を己の中で反芻していた。親父が言ってた言葉だ。


『常に状況を見極めろ。もし、攻撃を見切れないなら直感で動け』


 俺は男に気付かれないように腰の収納ポーチへと手をかける。

 試射は出来ない。勝負は一瞬だ。


 ――静寂。


 数秒後に発砲音が轟いた。


 俺は僅かに体を右へ逸らす。通り過ぎる弾丸の風圧が頬を撫でた。

 そしてもう一つ――これは風切り音だ。




 刹那――大気を穿ち、疾走する矢は真っ直ぐに男の額を貫いた。

 

 神速と呼ぶに相応しい早撃ち。収納ポーチより《ガンスディーヴァ》を取り出し、矢を放つまで、たった1秒。


「誤差……2cm、まぁこんなもんか」

 俺は誰にともなく呟いた。

 とりあえずは目論見通りの射撃ができ、よかった。一本だけでも矢を装填しておいたことが功を奏したと言える。おっさんが俺に武器がないと勝手に思い込んでいたのも運が良かった。


 俺は少女の元へ駆け寄る。


「アンタ、怪我はないか?」


「は、はい。助けていただきありがとうございます」


 少女はそう言って、フードを脱ぐ。


 俺は驚愕した。


 ――少女の頭、そこには人間ではあり得ないことに「獣耳」が生えていたのである。

 


次回、「俺、獣耳っ娘に目覚める」

※嘘予告

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