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2.少年は弩を手にする

いざ、異世界へ

最初に、空を見た。


 途切れることのない蒼穹に純白の雲が薄い層を形成し、連なっている。


 俺――鎌ヶ谷狩流の眼下には緑に恵まれた大地が広がっていた。その雄大な自然が織りなす光景は、当然今までの世界――日本なんかじゃお目にかかれないだろう。

 俺は思わず見とれた。


 しかし悠長にしている時間は俺にはなかった。


 

 俺が「出現した」場所に、足場はないからである。



「……って、うわあああああああああっ――――‼」


 これが単なるスカイダイビングなら「ひょ――‼ 俺は自由だああああ‼」とか叫びながら楽しめたはずだ。無論、スカイダイビングには変わりない。

 パラシュートなしでの自由落下!ボッチ☆即死ダイブだけどねっ!


 俺はこれまで感じたことのない風圧と浮遊感を感じつつ、不変たる重力の理に従って空中を落下していく。


 なにが「新しい人生を――」だ。異世界に来た瞬間、空に放り出されるとか最初から詰みじゃねぇか! やっぱアイツ、邪神か何かだろ!


 ろくに呼吸すらままならない状態で絶賛落下中。正直、漏れそう、というか俺自身もうわけがわからない感じであったが意識は手放さず、どうにか地を見据える。


 けっこうな高度から落ちてきているはずだが、時間というのは早いもので、刻一刻として地面……というか木々の生い茂る緑の大地、即ち、森が迫ってきている。



 グッバイ、マイライフ。


 ファ○キュー、神様。



 俺は諦観するように目を閉じた。






 ――――


 ……あれ?


 俺は死んでいなかった。何故か落下が止まっている。


 見ると、木々の少し上に出現した大型の魔法陣が落下を阻止し、衝撃も吸収してくれたようだ。


「いやぁ、すまない。転送地点の設定が空中のままだった」


 声を聴いた。俺の傍らには、いつの間にか『神様』が立っていた。この魔法陣は彼女の仕業らしい。


「ままだった、って……あんな転送地点何に使うんだよ」

「以前、泥沼戦争の続く世界に終止符を打つべく、核弾頭を120程ばら撒いた時に使ったはずだ」


 やっぱ、破壊神だコイツ。


「ともかく助けが間に合って良かった。そうあまり気を悪くするでない。ちゃんと詫びは考えておる」

「じゃあ誠意として俺を上空3000mから飛び降りても死なない体にしてくれ」

「不死身の英雄にでもなるつもりか」

「いや、さっきのマジで怖かったんだよ……」


『神様』はハァー、と溜め息を吐く。


「流石にそこまでは無理であるが、代わりに強力な武具を汝に授けよう」


 そう言ってから、『神様』は何かよくわからない言語で詠唱を始めた。おそらく神言語とかそういう類のものなんだろう。

 暫し、二人の間には詠唱が流れるだけであった。

 だが、それが終わるとたちまち「現象」は起こった。


 尊い黄金の光。

 深淵の如き闇。


 その二つが宙で混ざり、溶け合い、不定形な物質となって暴れる。やがて安定し球体となった光と闇の混合物が「変化」を辿る。それは伸縮と圧縮を繰り返しながら形状を定めていく。

 完成した「それ」は『神様』の手に落ちた。


 ――――弓だ。

 尤も、正確に言い表すなら「」という武器である。


 一般的に知られている名称は「クロスボウ」や「ボウガン」。弓床の先端に弓が交差するように取り付けられた機械弓で、銃のように引き金を引くことで矢が撃ち出される仕組みになっている。


 『神様』はそのクロスボウを俺へと手渡す。



「これが唯一無二の神造兵器。銘は――《ガンスディーヴァ》だ」



 俺は《ガンスディーヴァ》を見つめた。そのフォルムは洗練されており、無駄な作りを感じさせない無骨なものだ。塗装も漆黒の色に統一されたシンプルなデザインが逆に見る者に対して底知れない畏怖を感じさせる。


「これが俺の武器か」

「ああ。弓の威力は言うまでもないが、本体も人の技術で壊せぬ程には頑丈にしてある」

「なんでこのクロスボウを?」


 俺は訊いた。比較的マイナーと思われる種類の武器を選んだのかが疑問だったからである。てっきり、剣とか槍が出てくるものだとばかり思っていた。


「神造兵器は誰でも扱える代物ではない。勿論、ある程度の調整を施しているがそれでも、だ。特にこの連弩の原典と呼ばれるものは『マハーバーラタ』の英雄「アルジュナ」が扱う弓である。殊更、使用者を選ぶ逸品ぞ」


 『神様』は俺の顔を覗き込むようにして言葉を続ける。


「弩、という類の武具、汝の適性が一番高かったのがそれよ。弓や弩は中々の才能があるらしい。まぁ剣や槍は、からっきしであったが…………少年、何の縁を持っている?」


 俺の眉がビクッと震えた。


「中学の時、弓道部だったってだけさ」


 正解であり、不正解。その言葉に偽りがないのは確かなことだ。だがそうじゃないだろ、俺は自分自身に投げかける。返答はない。

当たり前だ。

俺は、「あの時」のことを未だ引き摺っているから。

何故、弓道をやっていたのに適性が一番あったのが純粋な弓ではなく、銃のように扱う機械弓であったのか。

本当のところ、俺はその答えを知っている。


 『神様』は「ほう」と呟いただけだった。何処となく落胆しているというか、つまらなさそうである。俺の答えが肩透かしだったからだろう。俺はただの高校生だしな。期待されても困るってもんだ。少なくとも俺は常にそう思っている。


「リミッターが作用してはいるが、とりあえずは獣とかの対処なら困らないであろう」

「ということは一生、兎とか狼狩って暮らすのもアリ?」

「私の苦労はどうなるのだ……」


 いやまぁ、確かに。しかしここまで『神様』がしたことって俺を燃やして、落として――――やっぱ、異世界救うの辞めようかな。


「本当に頑張ってくれたまえよ。 これでも私はけっこうな力を使って、転生と能力の付与をしたんだから。御利益には感謝するのが真人間というものであろう?」


 転生は頼んだわけじゃないが……ま、いいか。なんだかんだで異世界に行くってのも悪くない。元の世界に未練がないわけでもないが新しい世界も面白そうだし。


 事実は小説より奇なり。


 世界は何でも起こる。それが人生ってもんで、一見、平凡に思える幾多の生涯もこの世の奇蹟で溢れかえっているのかもしれない。


 なら、生を謳歌する。それが一番だ。


「俺なりに、努力はしてみる」


「フッ、汝がそう言うなら期待しておこう。汝の能力は既にインプット済みだ。「ステータスオープン」と頭の中で唱えれば能力を表した一覧表を見ることが出来る。

 それでは、私は戻るぞ。あまり「こちら側」に居続けるのも良くないのでな」


「おいおい、俺はこの世界の事とか何にも知らないぞ。何か役に立つ情報とかないのかよ」


「冒険者も最初は無知な者であろう。

 まぁ、そうだな……私からアドバイスぐらいは授けよう」


 パチン、と彼女が指を鳴らすと魔法陣が消失した。


「えっ」


 仮初めの地表を失った俺は垂直に落ちていく。


「この世界は、一夫多妻制でハーレムも合法的に作り放題らしいぞ」


 どうでもいい……

 そんなことを思いながら、俺は森の中へと吸い込まれていった。




 ♰ ♰ ♰





 これは完全に首が逝った……!


 そう思ったが、何ともなかった。普通なら怪我は免れない。しかし俺の体は強化されているらしく随分と丈夫なものに変貌していた。


 俺は周囲を見回す。一言で感想を述べるなら「緑」だ。生い茂る樹木や草花が辺りを埋め尽くし、そのせいか陽が高々と登っているにも関わらずそこまで明るくはない。キノコのようなものも生えているのが見られた。

近くに人工物らしき物は見当たらないが、幾つかの樹木に刃物で付けたような傷があることから未開の地ではないようである。狩人とかが定期的に訪れたりしているのかもしれない。

 川のせせらぎ、のような音も聞こえた。近くかはわからないが、水源が存在するのだろう。

 

 気付いたが、俺は単に頑丈になっただけでなく、視力や聴力といった感覚器官も強化されているらしい。これなら案外、森を抜けるのも困難ではないかもしれないな。

 山で遭難したらむやみに歩き回るな、と昔に親父から教えられたが確かにその通りだ。この体でなければすぐ力尽きてしまうかもしれない。

 屈強だった親父も病で去年、この世を去った。人は脆い生き物なのだ。


 さて、と。とりあえず状況を確認した俺は『神様』に教えられた、ある機能を使おうと思った。



――ステータス・オープン


 

 視界に文字列が現れる。意識して見る、のではなく、脳内に映像が直接伝えられているような奇妙な感覚だ。

 そのステータス一覧にはこう綴られている。



 カリュウ


 性別:男

 職業:弓兵


 体力:2000


 筋力:1000


 魔力:1500


 魔術:200


 精神力:1000


【スキル】


《真眼》


《弾薬製造》


《収納空間拡張》


《直感》


【技能】

 射撃Lv5


 格闘Lv3


 体術Lv3





 どうなんだ? 

 数値を並べられても基準がわからないので判断しにくい。魔術が他と比べて低いのと、技能が最初からレベルが少し高いことぐらいか。前の世界で鍛えた技術が反映しているのだろうか。


 よし、色々と試してみる必要がありそうだな。

 俺は一歩ずつ歩みを進めた。


次回、悪を討つ

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