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11.竜討伐

異変の元凶とは……

なんかタイトルでネタバレしてる気がしますが気にしない、気にしない。

 

 ――オストルト東部 森林地帯


 風がく。


 何らかの異常事態が差し迫っていることを俺は感知していた。『弓兵』の能力と、俺が幼い頃から鍛え上げてきた戦闘本能にも近い直感がそれを告げている。


「この感じは……ハッ、化け物か」


 強い……少なくとも《ウルフラム》なんかの小型種ではない魔物がいる、と、確信めいた予感を持った。理由としては魔物どころか小動物の一匹さえ辺りにいないからだ。

しかし俺にそう確信させた最もの理由はこの『感覚』である。


得体のしれない冷たい感覚。寒気や冷や汗とも違う。胃の中が底冷えしたような錯覚を覚える。いつだったか、そう、あの時も似た感じだった。

俺が初めて仕事を執り行った時、だ。

とすると、俺もかなり緊張しているのかもしれない。

俺は蘇る記憶を再び封じ込め、意識を辺りへと戻す。


何処かの樹木から落ちた一枚の枯れ葉がユラユラと宙を舞う。風の流れに乗って移動していく。

――が、逆方向から吹いた別の風に押し戻され、地に堕ちた。


 「――――来る」


 空間中に張り巡らした感覚の糸にも反応があった、その方向から何かが迫ってくる。

 ズゥン、ズゥン、と、地鳴りのような重低音を規則的に辺りへと響かせて。


 なるほど、尋常じゃない空気だ。その何かが近づいてくるうちに理解した。これでは小動物なんかは尻尾を巻いて逃げ出すに決まっている。

 元の世界では目にしたこともないであろう存在だということは、この時点で察していた。


 俺の前方に立ち並ぶ木々が、次々と音を立てて倒れていく。

 ついにその姿を化け物はさらした。


「まさか、ドラゴン……だとはな」


 俺の目前には、竜がいた。


 人間の何倍もの体躯、その体は焦げ茶色の甲殻に覆われておりまるで岩石のようだ。首は短く、頭部に生えた二本の角と並んだ鋭い牙は鬼を連想させる。

 強靭な前脚と後脚で地を踏みしめている。翼はない。


 俺は即座に《真眼》を発動させた。


 

 【魔物:竜種 《ガイアドレイク》

 四足歩行の竜。翼は退化しているため飛行は出来ない。甲殻は身を守るために堅く進化し、力強い動きで周囲の敵を圧倒する。

 雑食であり、主な栄養源は小型の魔物であるが草や果実も食する。

 



 俺は視界に表示された文を一読、同時に武器を構える。アイテムポーチから取り出した《ガンスディーヴァ》を握ると銃身の機構が作動し、黒の弦が展開。《弾薬製造》で作り出した矢が自動的につがえられる。

 

「攻撃を開始するッ!」


 気合を込めるように言葉を発してから引き金を引く。まずは様子見だ。撃ち出された矢は《ガイアドレイク》の頭部を直撃したものの、兜のような堅い甲殻のせいで矢が貫通しなかった。

 頭部は堅い部位らしい。ゲームなんかではモンスターの弱点は頭、というのが相場だが、こいつは違うようだ。見ていても堅そうな甲殻だとわかる。この岩石のような体で体当たりでもされたら、ひとたまりもないだろう。


分裂矢キャニスタ、並列装填――同時射撃!」


 同時に放たれたのは3つの矢。その全てが途中で幾つもの矢に変化していく。元の数の何倍にも増えた矢が一斉に《ガイアドレイク》へと襲いかかった。

 《ガイアドレイク》も思わず仰け反る。

 ――が。

 全身に受けた矢は甲殻に刺さりはしているものの、内に秘められた肉を穿つまでには至っていなかった。

 これは困ったな。

俺は冷静に考えを巡らす。相手の竜は巨体ゆえに動きが緩慢で射撃も当てやすい。しかし、身に纏う甲殻の硬度が非常に高いようである。まるで鎧だ。

その巨体から放たれる攻撃は重い。


こちらの攻撃は通用せず、相手の攻撃は一つ一つが必殺の威力。


普通なら詰み、である。


はぁー、と俺は溜め息を一つ吐き出す。こうなってしまえばしょうがない。いきなり「あれ」を決め手に使うのは不本意、というか不安だが……


俺は地を蹴って走る。全速力ではない。あくまで目的は《ガイアドレイク》の移動。つまりは《ガイアドレイク》の動きを誘うことだ。

 俺は周囲を見渡す。木々が生い茂っているため、あまり空は見えず、薄暗い。俺は視線を戻し、《ガイアドレイク》へ肉迫する。途中で動きの軌道を変えていき、竜の周囲を動き続ける。

 円を描くように動き、その動作を止めない。


 ちょこまかと動く俺に苛立ったのだろう、《ガイアドレイク》は先端がハンマーのようになっている尻尾を振り回した。

 一回転、二回転。体を軸にして器用に回る。

 周囲を巨大な棍棒のような尾が薙ぎ払う。大気がそれだけで振動し、樹木が薙ぎ倒せれていった。

 俺はバックステップでそれを躱す。回避するのは造作もないが、風圧が髪を乱暴に揺らしたのを感じて俺はその威力を改めて知った。


 攻撃動作を潜り抜けた俺は、再び《ガイアドレイク》に接近、同時に《ガンスディーヴァ》を構えて発射する。

 たいした効果はない。だが、《ガイアドレイク》の注意は引けた。

 《ガイアドレイク》が頭を振り下ろす。頭突きのような攻撃。

 俺は横っ飛びに回避し難を逃れる。しかし、体勢が崩れてしまった。



 故に、その後に繰り出された尻尾の薙ぎ払いを横っ腹に受けることとなった。


「がっ……は」


 体が宙を舞い、そのまま木の幹に叩き付けられる。

 口から血を吐く。『弓兵』の適性で強化されている体であってもダメージを軽減し切れないらしい。

 節々が痛む。もし、体当たりをくらっていたら生きていなかったかもしれない。


 《ガイアドレイク》がグルル……と低く唸った。そしてゆっくりと、何かの予備動作に移行していく。

 俺は察した。突進のモーションであると。

 確かに、この状態から避けることは難しそうだ。


 俺はヤツの上を見上げる。


 そして、矢を放った。


 一発。しかしそれは《ガイアドレイク》の遥か頭上を通り過ぎていった。

 外した。誰もがそう思うだろう。


 だが、俺は嗤った。



「――頭上注意だ」


『グルオオオオオオオオオオオオッ!?』


 直後、《ガイアドレイク》の背に幾つもの矢が突き刺さった。


「やっぱり、な」


 俺は一つの確信めいた予測を立てて、動いていた。

 こちらの攻撃を弾くほどの甲殻。だが、その重量ゆえにヤツの動きは制限される。必要最低限の挙動を行うためには全身を覆うような甲殻は邪魔なはずなのだ。

 なので、何処かに守りの薄い部位があるはず、と俺は考えた。

 

 目をつけたのは背中だ。地上で生息するなら狙われにくい部位であるため防御の必要性が低いからである。



 そして、俺が放った矢は一種の曲芸。


 《多重拡散射撃――村雨》


 上空で矢を分裂させ、標的へ降らせるという攻撃である。

これを俺は朝の鍛錬の時、練習していたのだ。弓の力や魔力ばかりに頼ってはいられないと考え、《ガンスディーヴァ》で可能な射撃を研究、練習しておいた。

『弓兵』の力もあってか、このような特殊技も可能らしい。まぁ、いきなり本番で正確に当てられるかは不安であったためあまり使いたくはなかったが、結果的に一番効果のある手段を選んだということだ。


 この技を最初から放てれば良かったのだが、木が生い茂っていて上空に矢を飛ばせなかったのだ。

 だからこそ、俺は《ガイアドレイク》の攻撃を誘った。

 竜の攻撃で周囲の樹木を倒して、《村雨》を放つに最適な場を作り上げたのである。


「よし」


 俺は気合を入れ、二発目を撃とうと構える。

 先程の攻撃でかなりダメージを与えられたのか、《ガイアドレイク》は動きを完全に止めていた。

 今なら仕留めきれるはずだ。


 トリガーを引く。


 寸前。


 雷が奔った。

 幾つもの稲妻が《ガイアドレイク》の巨躯を穿ち、甲殻ごと焼いていくではないか。

 

「なんだ……!?」


 蒼き閃光。

 眩い稲光に俺は目を瞑る。


 次に目を開けた時には、もう《ガイアドレイク》は黒焦げた肉塊へと変わり果てていた。


 なにが起きた。

 雷、しかしただの自然現象などではない。


 辺りをゆっくりと、闇が蝕んでいく。いつの間にか太陽は姿を隠し、まるで夜のように暗くなっていった。

 何が起こっているのか理解が追い付かない。だが、俺はすぐに知ることとなる。


 森の異変。その原因である捕食者が《ガイアドレイク》でないこと。

 そして、事態はさらに悪化しているということを。


 俺は雷が放たれたであろう空を見上げた。


 灰色の空に、一匹の竜がいた。


 光すら通さない黒い鱗で全身をくまなく覆った翼竜。


 黒竜はただ、こちらを空から睥睨しているだけだった。

 だが、それだけで俺は感じた。恐ろしい程の寒気だ。

 本能が、人として、生物としての生存本能が「逃げろ」と告げてくる。


 黒竜はゆっくりと、しかし荘厳に、咆哮する。

 大気を震わせ、あらゆる生命に絶望をもたらす声。


 俺は死神を見た気がした。





 


次回――黒き雷鳴

村を陥れる運命。竜と弓兵。

『――神よ嗤え』

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