1. 神との邂逅
新作です。拙い文章ですがまぁ見てってください。
追記 pcで投稿したのは2話からなので、1話だけは文頭が1マス空かない不具合?みたいなのが直せません。ご了承ください
かの世界を救った大英雄ーー彼は一体、何処から来たのか。
人々は「それがわかるのは神ぐらいだろうな」と笑った。
(皇国蔵『史伝記』より一部抜粋)
◆ ◆ ◆
体育、というものは個人的に『面倒な授業ランキングNo1』である。
次いで数学、家庭科。異論は認めない。
「あーだるい……」
体育館の冷たい壁に背を預けながら、俺は誰にともなく呟いた。
高校生とは青春だの何だの世間では言われるが、今のところそういったフラグが建設された試しがない。
あるのは時間を食い潰される、授業という名の,学生なら避けられぬ鎖だ。
授業開始のチャイムとともに生徒らが整列、準備運動などを終えて競技に取り掛かる。
今日の種目はバスケットボールらしい。とりあえず適当にチームを組んで試合をするとのことで、俺も準備を始めた。
ちょっと俺の話をしよう。
俺ーー鎌ケ谷 狩流は普通の男子高校生である。特徴は……わからん。変わった名前だ、とはよく言われるが、さほど気にしたこともない。
部活は安定の帰宅部。部費要らず、遠征試合もなければ面倒な朝練とも無縁な安寧の部活動(非公式)。
中学の頃は弓道部に所属していた時期もあったが、色々あって退部してしまったので結局は無所属という地位を謳歌するのも三年連続である。
教師の合図でミニゲームが始まった。俺のチームは割と運動神経の良いメンツが集まっているせいか序盤からシュートを決めるたりと、良い試合運びをしているようだ。
俺は勿論、遠巻きに集団に合わせて走るだけである。君子危うきに近寄らず。
だがいつまでも無関係的な立ち位置を築いていられるはずもなく、ゴール手前、充分なシュート圏内でボールをパスされた。ふぇぇ……めんどくさいよぉぉ。
フッ、と俺は短く息を吐き出し、ドリブルをしつつ疾走。相手側の守りを崩したところで跳ぶ。
運動は苦手、という訳ではない。一応、武道家である親父の影響もあって昔から体は鍛えている。
そのため使い道の特にない俺の爆発的な瞬発力を以ってすれば容易い……
ん?
爆発……?
違和感を感じたのはスローイングの刹那だ。視界に突如眩い光が溢れ、肌に焼けるような熱を感じる。
「アツっ」などと叫ぶ暇さえないうちに俺の意識は途切れた。
♰ ♰ ♰
おかしい。とにかくおかしいのだ。
今、俺が立っているのは四方を鏡のような壁で囲まれた謎の空間。
〜のような、と言ったのは鏡の中は透き通っているように光を讃えているだけで、そこにあるはずの風景がそれには映っていなかった。
中に誰もいませんよ、状態だ。いやそれは違うか。
「ーー俺は何をすればいい?」
俺は訊いた。
「世界をーー正確に言うならば、とある『異世界』を救ってもらいたい」
『神様』が答える。
神といっても荘厳な雰囲気の老人や、不定形な光の塊とかではない。
少女……というか幼女なのである。
ピンクがかった色彩を持つ浮世離れした髪をサイドポニーで纏め、肌はまるで一度も日焼けしたことがないかのように白く美しい。瞳は碧と黄色のオッドアイだ。
『神様』はフカフカとした豪勢な椅子に腰掛け、細い脚を組んだ。動作に合わせて丈が短めのフリルスカートが揺れる。
み、みえない……
それはさておき、だ。
「わけがわからん」
俺はつい5分前まで現実世界で普通にバスケをしていたのだ。
それがいきなり爆発みたいな衝撃に巻き込まれて気を失い、気がつけばこんなわけのわからない空間にいた、というわけである。そして彼女に出逢った。
事実は小説より奇なり、なんて言うが全くその通りだ。本当に何が起こるかわからないし、人類が崇め敬ってきた神様って存在が実はこんな幼女だったりする。
説明されたことをまとめてみると、どうやら俺は一度死んだようで、この『神様』によって異世界に転生させられるらしい。
それも異世界を救え、なんて面倒な仕事を押し付けられているのだ。
「そう面倒と思うな。それもお前が『異世界救済人』に選ばれたせいなのだからな」
この幼女……俺の思考を読んでいる? 彼女の纏うオーラが明らかに常人のそれではないことからも彼女は本当に『神様』なのだろう。
「異世界救済人? そんなものに立候補した憶えはないんだが……」
「選挙じゃないんだから当たり前だ。『神々の遊戯盤』によって選ばれるのだからな」
そう言って『神様』は宙に掌をかざす。すると、その手に光が集まり、一つの形を作り出す。
黄金に輝くルーレットのような器具。その周りには幾つもの光の輪が回っている。
「これが汝を選んだ。幾多の神々が持つ力を合成し、あらゆる世界の運命すら導き出す破格の玩具が、だ。 汝……狩流と言ったか。 汝は何者だ? 古から継がれる魔術師か? 武道の名家の出身か? それとも軍のエリートだったりするのか?」
「……いや、ただの高校生だけど」
沈黙。
暫しの間、場に静寂が訪れる。
「そんなはずはなかろう。いいか? 救世主に選ばれる者というのは何かしらの才能を持っているはずだ。本当は、汝も人類を代表するような凄い能力を宿していたりするのだろう?」
そんなこと言われてもなぁ。間違ったことは言っていないし。別に伝統ある家とかじゃない。親が武術を習得しているだけで……ただ俺もそうしただけだ
俺の特技なんて強いて言うなら「よく動ける」ぐらいだ。
「はぁ……まぁ、よい。決まったものを今更嘆くなどみっともないことよ。わざわざ体育館ごと吹き飛ばした甲斐がないというものではあるが」
体育館ごと……? ということは。
「あの爆発ってアンタの仕業かよ!
他の生徒たちは無事なのか⁉︎」
「あぁ、問題ない。ちょちょいと事象改変して全員の身体と記憶を修正したからな。出力5%とはいえ久々に《グングニル》を使えて私は満足だぞ」
「満足だぞ、じゃねぇよ! だいたい死なせなくたって単に転送させるとかで俺を呼べなかったの?」
「身体構造の作り変えやらが面倒でなぁ、一旦死んでもらったほうが色々と都合がよかった」
それで体育館ごと生徒巻き込んで爆撃するとか、神じゃなくて悪魔の所業だ。こいつ本当は破壊神とかじゃねぇの?
「ともかく! 異世界救済人に選ばれたからにはやってもらわなければ困る。汝は今から行く場所にとっては救世主なのだ。
ーー世界を頼むぞ」
やれやれ、と俺は溜息を吐く。本当にめんどくさいこと極まりないのだが、こうなったからにはしょうがない。
「了解だ『神様』。と言いたいが異世界を救うんだろ? それなら相応の力とか武器が必要だと思うんだが」
「その点は大丈夫だ。異世界救済人はちゃんと転生完了とともに必要な能力が手に入るよう、こちらで設定してある」
「そうか。サンキューだぜ『神様』」
『神様』は静かに笑って
「大変なのはこれからだ」
と言った。
「さぁーー行くがよい。後ろに扉があるであろう? その『次元の門』から一歩踏み出せば、そこはもう知らない世界だ」
俺は後ろに振り向き、玉座から一歩ずつ離れるように歩んだ。
扉が開かれる。
まるで意識そのものが吸い込まれるような眩い光が俺の体を優しく包み込んでいく。
意識が途切れる寸前、
「新しい人生を楽しむがよいぞ」
と、声が聴こえたような気がした。
◆ ◆ ◆
行ったか。
人間を転生させるのは疲れる。いくら私が『神様』なんて代物だからって、無限の万能機ではないのだ。
神性機関ーー通称『神様』
世界を紡ぐために存在する、機械仕掛けの神性集積体。所謂、神話、信仰などを根底として創られた人形であり、数多の神仏を内包し、一つの人格として機能するシステム。
それが私だ。
だが神の眼を以ってしてもわからないことがあった。
それも、ついさっき。
途方もないほど人間を見てきた私であるが、奴の正体だけは掴めなかった。
ーー鎌ケ谷狩流。
一体、何者だ?
次回ーー異世界で待ち受ける最初の関門‼︎